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科学的事実を利用した論理展開

category - 偉人に学ぶ
2019/ 10/ 21
                 
私が夏井先生の書籍でいつもすごいと尊敬しているのは、科学というものの使い方の上手さです。

今の医学界では科学的根拠を重視すると言葉では言っておきながら、実際は科学という名の統計学で語られていることが多いです。

あるいは実験動物のデータで人間の現象が推測されていたり、科学としての確からしさは不安定と言わざるを得ない手法ばかりです。

しかし夏井先生の科学の使い方は一味違います。なるべく揺るがし難い科学的事実を組み合わせて、説得力のある仮説を導くやり方なのです。

今回の書籍の中では、例えば熱傷が創感染を起こす原因を考察し導き出す以下のくだりでそのすごさを感じることができます。
            

(以下、p51-53より引用)

熱傷創感染した症例を分析していくと、次の2つの共通点があることに気が付いた。

・創感染は深い2度熱傷にのみ発症し、浅い2度熱傷ではほとんど発症しない。
・受傷から何日か経ってから発症する例が多い。

これらが鍵を握っていることは確かだが、当時はこれが何を意味しているのから皆目見当がつかなかった。

手掛かりはあるのに、それが何を意味しているのかがわからないのだ。

この頃、湿潤療法をしていた医者たちが、掲示板に寄せた熱傷創感染についての意見は、次の2つであった。

・消毒せずに創面を密封したから、細菌が増殖した。
・熱傷は、他の皮膚外傷より感染しやすい何かの要素がある。


まず、創面を消毒せずに覆ったから感染した、というのは考えにくかった。

それ以前の「熱傷以外の外傷」を湿潤治療していた時代には、消毒をしていない広範囲な挫創でも、創感染は滅多に起きていなかったからだ。

そして何より、消毒しても創面は無菌になっていないし、細菌数は一時的に減るだけなのだ。

では、2点目の「熱傷特有の感染しやすい要素」だとすると、熱傷とそれ以外の皮膚外傷では何が違っているのだろうか。違いは次の2つだろう。

・受傷原因(熱傷の原因は熱エネルギー、それ以外の外傷は皮膚に加わる物理的外力)
・水疱の有無(熱傷は水疱を作るが、裂傷や挫創では水疱はできない)


最初の「受傷原因(=熱エネルギー)が感染を起こしている」というのはナンセンスだ。

熱傷患者は例外なく受傷直後に患部を流水で冷却していて、

この時点で熱湯などの熱源は患部から完全に除去されているからだ。

つまり、熱エネルギーによる組織損傷は直ちにストップしているはずだ。

それなのに受傷から何日か経ってから創感染が起きているのだ。

よって「熱による損傷なので感染しやすい」という仮説は誤りとなる。

残るは「水疱があるから感染しやすい」説だけとなる。

(引用、ここまで)



おわかりでしょうか。非常に論理的に仮説を検証するプロセスが組み立てられているということに。

まず一つは夏井先生は現場で起こっている事実をよく観察して、そこから得られる共通点を導き出しています。

そのような事実重視型思考で得られた共通点をヒントに隙のない論理を組み立てていきます。

「熱傷で感染し、熱傷以外の外傷で感染しないのなら、熱傷ならではの要因に感染が起因している可能性が高い」という論理は反論の仕様がないのではないでしょうか。

勿論、例えば感染した例だけに加わった熱傷以外に起因する共通要因が偶然ふりかかっていたという可能性もゼロではないわけですが、

常識的にはその偶発因子がたまたま共通する可能性より確実に存在する熱傷に起因する要因が関わっている可能性の方が高いです。

こうした論理展開に夏井先生はいわゆるエビデンス、即ち医学論文の結果を一切用いておりません。

用いるのは物理学や、細菌学、生理学などの基礎医学の知識で明らかに確からしいことを利用しているのです。

それによって他の湿潤療法を行う医師達が「消毒せずに密封したから感染した」という説に矛盾があることも見事に論破しています。

逆に言えば湿潤療法を取り入れた医師達は、夏井先生の治療法を真似することはできても、夏井先生の考え方までは真似しきれていないということになるかもしれません。

結果、引用文の最後では「水疱があるから感染しやすい」という結論に至っていますが、

ここから先もなぜ水疱があると感染しやすいのかについて論理的に考えを詰めていき、

これもまた読んで頂くとわかるのですが、反論の余地がないほどの論理展開で、「水疱があると感染しやすい理由」を高い説得力で説明することに成功し、

さらにはその仮説を証明するために熱傷の水疱を除去することで、実際に熱傷感染を激減させるということで実証にも成功しています。

もっと言えば、それでも熱傷創感染を起こしたごく少数例の原因がどこにあるかということに関しても考察を加える手の入れようです。

とにかく論理的に整合性がとれることを第一におき、納得ができないことはとことん突き詰めて考える夏井先生の姿勢に私達が本当に学ぶべき本質があるように私は感じます。


たがしゅう
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