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何が医療を不合理化しているのか

category - 素朴な疑問
2019/ 10/ 20
                 
私は2005年、自身が医師免許を取得して研修医として働き始めた頃より、

夏井先生の「新しい創傷治療」のサイトを定期的に見るようになっていきました。

今回の夏井先生の新刊、「患者よ、医者から逃げろ その手術、本当に必要ですか?」では、

私がまだ夏井先生の存在を知らない2004年以前の時代に何があったかということも書かれていて、

夏井先生ファンの自分としてはそういう意味でも楽しめる内容でした。

その中で非常に興味深い歴史が過去にあったことに気づきました。
            

(以下、p31-33より引用)

湿潤療法の事実上の全国デビューは、2002年4月に長崎市で開催された日本形成外科学会のランチョンセミナーだった。

(中略)

私は講演する会場に行ってびっくりした。

講演開始までまだ10分以上あるのに、全国各大学の錚々たる教授たちがほとんど勢揃いしていて、しかも前方の席に陣取っているではないか。

一般的にランチョンセミナーに教授が参加することはないし(教授にはメーカーが料亭などの食事を用意しているから)、

席も後方から埋まるのが普通だ(後ろでないと落ち着いて弁当が食えないから)。

それなのに、私の講演会場では、メーカーが準備した弁当は早々となくなっているのに、

会場の両脇通路と後方通路は立見で立錐の余地もない(実際、会場に入れなかった先生方が多数いたと聞いている)。

主催のメーカーも「こんなランチョンセミナーは見たことも聞いたこともない」と驚いていた。

異例づくめのセミナーだが、講演自体は時間ピッタリに終了し、10分間の質疑応答を残すのみとなった。

一番最初に挙手したのは、最前列中央に陣取っていた舌鋒鋭いことで知られる某教授だった。

正直言って、一番質問してほしくない苦手な教授である。

その教授が開口一番、「噂には聞いていたが、これほどすごい治療とは思わなかった。度肝を抜かれた。治療の革命だ」と言ったのだ。

この教授が他人の発表を褒めたことに多くの参加者が驚いたはずだ。

その後も著明教授たちの発言が続いたが、「傷を乾燥させてはいけないことは知識としては知っていたが、具体的な方法を教えてもらい勉強になった」

「これほど体系的に治療した報告は、海外の論文にも学会発表にもない。世界初で間違いないと思う」と絶賛モード一色で、湿潤療法に対する反対意見は一つも出なかった

(引用、ここまで)



この話を聞いて私は大変意外に感じました。

湿潤療法はその圧倒的な治療効果にも関わらず、従来の常識から外れた治療法であることから、

正当に評価されず、迫害を受け続けてきた治療法だという認識があったからです。

なんと湿潤療法の黎明期、湿潤療法はその筋の専門家達から正しく評価され、その価値を認められていたというのです。

言ってみれば、これこそが正常な反応であると私には思えます。その反応はきちんと起こっていたのです。

ところが、そのすぐ後には次のような文章が書かれています。

(以下、p34-36より引用)

熱傷(ヤケド)は、他の皮膚外傷(裂傷、擦過傷、挫創など)に比べると、別格扱い・格上扱いである。

(中略)

熱傷は特殊な外傷として医学会で認知されている

「特別視すべき/されるべき」理由には、次のようなものがある。

・広範囲熱傷は病態が複雑で重症化しやすい。
・重篤な合併症を起こすことが少なくない。
・熱傷は受傷面積が他の外傷より桁違いに広いため、処置には多くの人手と時間が必要となり、専用の人員を備えた特殊な専門機関でないと治療が難しい。


このような理由から、熱傷治療には高度な専門知識が必要となり、

学会を作って治療について討論したり研究したりする必要が生じ、そうした専門知識を持つ医者を、学会は専門医として認めるわけだ。

(中略)

知り合いの形成外科医(外傷の湿潤治療はしていた)に、雑談の席で私が

「熱傷も実に簡単に治っているし、広範囲熱傷でも外来通院で治療できている」と話したところ、

途端に顔色が変わり、烈火の如く怒り出し、激昂したのだ。

熱傷をすりむき傷と同等に扱ったことが、熱傷治療をライフワークとする彼の逆鱗に触れたのだろう。

彼にとって熱傷とは、神聖にして侵すべからざる高貴な外傷であり、

すりむき傷などの取るに足りない下世話な外傷と同列に扱われたことに激昂したのだろう。

2019年上半期に大ヒットした映画のセリフ風に言えば、

「すりむき傷になどそこらへんの草でも食わせておけ!」という感覚なのだろう。

(引用、ここまで)



つまり湿潤療法が正しく受け入れられたのは熱傷以外の外傷であって、

医学会で特別視されていた熱傷は、その圧倒的な治療効果を示されているにも関わらず、

全く受け入れられないどころか強く拒絶されるという真逆の反応が引き起こされているということだと思います。

ということは湿潤療法は治療効果が高すぎるから医学の主流に受け入れられないという話ではないということになると思います。

何が湿潤療法の受け入れを困難にしているのでしょうか。

それは「熱傷は特別」という価値観になると思います。

逆に言えば、「熱傷は特別」だと思っていない医師にとっては湿潤療法を否定する理由はありません。

そして、誰が一番「熱傷は特別」と思っているかと言われたら、やはり熱傷学会やその専門医ということになるのではないでしょうか。

次に外傷治療にプライドを持つ外科医達、即ち日本の熱傷医療の中心に近い人物であればあるほど湿潤療法に反発するという構図になることが理解できます。

この話は糖尿病専門医ほど糖質制限が受け入れられない、という話と構造が非常によく似ています。

その意識が不合理な標準治療を通して結果的に患者を地獄へといざなっているのだとすれば、

そんなプライドはくそくらえだと私は思います。

しかし一方でそのプライドが何よりも変えがたい存在でもある、ということもあるのです。

何が医療を不合理化しているのか、そして私達がどう行動すべきなのか、

それを知るための大きなヒントを与えてくれる一節なのではないかと私は感じた次第です。


たがしゅう
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コメント

非公開コメント
        

その分野の専門の医師が、専門分野の医学進歩を妨げていると言う現実。

どうもこれに尽きるような感じがしましたね。

過去に江部先生は、糖尿病専門医など要らないとブログで書かれていました。ただ食事指導するだけと…。

この国の多くの医者は、金満体質?
Re: タイトルなし
ジェームズ中野 さん

 コメント頂き有難うございます。

 そのような行為が善意の下に行われているという点に問題の根深さがあると思っています。
 自覚のない悪行が最も残酷となりえると考える次第です。