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情報の羅列では何もわからない

category - よくないと思うこと
2019/ 10/ 12
                 
先日、かごしまビジネス読書会という会に参加させて頂き、

かのソフトバンク孫正義社長にプレゼン能力の高さを買われ、Yahoo!アカデミアの学長を任されたという伊藤洋一さんの著書「1分で話せ!」の続編、「0秒で動け」という本を読む機会に恵まれました。



0秒で動け 「わかってはいるけど動けない」人のための 単行本 – 2019/8/22
伊藤羊一 (著)


この本の中で次のような文章が書かれていて私の目を引きました。
            

(以下、p25-27より引用)

たとえば社内会議で、A案とB案に意見がまっぷたつに分かれたとします。

「きみの意見は?」

こんなふうに上司から聞かれたら、あなたはどのように答えますか?

[Ⅰ]
A案は、知名度アップにつながる可能性がありますし、売り上げも上がるかもしれません。
しかし予算オーバーする危険があります。B案は、予算内のプランです。これまで当社の商品を買ってくれているお客様にも喜ばれるのではないでしょうか。

[Ⅱ]
A案がいいと思います。
当社の商品はリピーターの固定ファンに支えられていますが、市場シェアは下降しています。
ここで思いきって、これまで当社商品を知らなかった層にも認知を広げるべきです。

さて、どちらが物事が早く進みそうでしょうか?

Ⅰは、質問に対して回答しているようで、実は何の意見も言っていません。

要するにA案がいいのか、B案がいいと思うかという結論がないのです。

実際には、こうした形で、「賢そうだけど、何も言っていない意見(らしきもの)」が出てくるケースは、非常に多いです。

一方で、Ⅱは、少なくとも「A案がいいと思う」という自分の結論は相手に伝わります。

そうすると相手は、それに賛成とか反対とか、もう少し説明が聞きたい、という意見や感想を持つでしょう。そして議論は進みます。

(引用、ここまで)



この引用文での主張の趣旨は、「不完全でも構わないから自分の意見を言って立ち位置を明確にすれば、それをたたき台にして議論は発展していく」という所にあると思います。

逆に言えば、立ち位置があやふやだとそこから先に話は進んでいかないという事を意味しています。

そういう意味でくれぐれも賢そうだけど何も意見を言っていないようなことにはならないようにしたいものです。


話は変わって、最近予定より大幅に遅れて発表されたという「糖尿病診療ガイドライン2019」というのを眺めてみました。

「3.食事療法」の章には例えば次のような事が書かれていました。

(以下、「糖尿病診療ガイドライン2019」より「3.食事療法」の章より一部抜粋)

(前略)

総エネルギー摂取量の管理を図り、これに運動を加味することによって体重を減少させる生活習慣の介入が2型糖尿病の予防と管理に有用であることは、耐糖能異常(impaired glucose tolerance: IGT)からの糖尿病発症の抑制、糖尿病おける臨床パラメーターの改善効果として検証されている。

(中略)

一方、介入は通常食事と運動の双方に対してなされることから、食事介入のみの効果を抽出することは、しばしば難しい。

(中略)

一方、食事あるいは運動の介入の一方のみでは認められず、双方が同時になされなければならないとする報告もある。

(中略)

これらの生活介入が実際に患者の生命予後にどのように影響するか、特に心血管疾患の発症率や死亡率を改善しうるかどうかについては、これを支持する十分な証拠は得られていない。

(中略)

したがって、糖尿病の食事療法の実践には、早くから指導スキルに富んだ管理栄養士がかかわることが推奨される。

食事指導を有効とする因子を分析すると、罹病期間が短いほど有効であり、薬物療法、特にインスリン療法を実施中の患者、併発症のある患者では血糖コントロール目標を達成するという観点からすれば必ずしも十分な効果が得られるとは限らない。

(中略)

食事療法を実践するにあたって、エネルギー産生栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)のバランスは個々の病態に合わせ、高血糖のみならず、あらゆる側面からその妥当性が検証されなければならない。

(中略)

しかし各栄養素についての推定必要量の規定はあっても、相互の関係に基づく適正比率を定めるあめの十分なエビデンスには乏しい。

(中略)

炭水化物の摂取量と糖尿病の発症率との関係を検討した例は少なく、両者の関係は明らかではない。

(中略)

これらのメタ解析を解釈する上での問題点として、対象とする研究によって炭水化物摂取量(低炭水化物食の定義)が異なっていること、観察機関がまちまちで、他の栄養素、エネルギー摂取量の補正ができていないことなどが指摘されている。

(以下、省略。引用、ここまで)




私は今回の糖尿病診療ガイドライン2019を最初に読んだときは、とにかくわかりにくくて何とも言えない違和感を感じていましたが、

冒頭の「0秒で動け」の引用文を読んだ時に、その違和感の正体をつかむことができました。

要するに今回のガイドライン、「賢そうなことをたくさん言っているけど、結局何も意見を言っていない」内容になっているのです。

なぜそんなことになっているのかと言えば、全ての文章が基本的に医学論文(文献)に依拠しているからです。

世の中には様々な立場から様々な結論の医学論文が無数に存在しますので、しかもそれぞれに大なり小なりバイアスがかかり、加えて医学論文(特に疫学論文)は構造的に不完全性が高いので、

すべての文章を医学論文に依拠してしまうと結局どっちつかずの結論になってしまうというのはある意味当然です。

そういう意味では2013年時点での日本糖尿病学会が発表した「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」の方がまだ立場が明確でした。何しろ「極端な糖質制限は勧められない」ですから。

おそらく当時、医学論文に依拠して発言するという姿勢よりも、糖質制限に対する湧き出る反発心の要素の方が大きかったためになせる業であったのかもしれません。

しかし今回の「糖尿病診療ガイドライン2019」ではその2013年当時の主張さえぼやけてしまい、結局日本糖尿病学会が何を言おうとしているのかが非常にわかりにくい内容となっています。

それが科学的根拠に基づく医学(EBM)の名の下に、なるべく医学論文に依拠する形にこだわった結果だとすれば、またこだわった結果、議論が紛糾して世に出るのが遅れたのだとするならば、

議論がまとまらないのはある意味で当然の話だし、公開は遅れるべくして遅れたようにも思えます。なぜならば、すべての意見を採用しようとして一定の結論が導けなくなってしまったからです。

こうしたことはすべて、「医学論文で導かれた結論は真である」という前提に立って物事が進んでいる過ちによると私は考えます。

多くの医師は論文を読み込む際に「批判的吟味」の姿勢を教わった歴があるはずですが、

実際には権威ある有名医学雑誌の大規模疫学研究や種々の研究をとりまとめたメタ解析の結果が盲目的に取り入れられてしまっているのが現状だと思います。


もしも私が糖尿病診療ガイドラインを書いてよいのであれば、おそらく次のように記載するでしょう。

「糖尿病の食事療法の基本は糖質制限におくべきだと思います。

なぜならば糖質は三大栄養素の中で直接血糖値を上昇させる唯一の栄養素です。

また近年グルコーススパイク(血糖値スパイク)に伴う酸化ストレスの蓄積が様々な病気の温床になる事が明らかにされています。

さらには糖質制限を実践すると他の食事療法とは比べ物にならないほど速やかに血糖値が改善し、血糖値のみならず血圧や脂質など種々のデータが改善したり、

片頭痛や逆流性食道炎、不眠やアレルギーなど様々な症状が改善する様子も稀ならず報告されています。

論理的にも整合性のあるこの方法を基本におき、もしもこの治療法で症状や数値が悪化する場合に、そうした症例を集め分析しその原因を改めて検討する必要があります。」


そうすれば立ち位置は明確だし、仮にもしこのたたき台が間違っていたとしても、

そこからさらに議論は進み、治療は発展を遂げていくのではないかと考える次第です。


たがしゅう

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コメント

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ガイドラインは学会の保身の結果、ガイドラインではなくなった
2019年版のガイドライン、3章食事療法だけ読みましたが、どうしても今まで絶対としてきたエネルギー比率を頭から否定するような事は出来なかったようで、2013年以来の数字を掲げ、しかし、「総エネルギー摂取の管理は体重の管理とほぼ同等」とか「総エネルギー摂取量の個別化」さらには安定同位体を用いた二重標識水法では「実体重当たり約35kcal/日」と言う数字が掲げられ、一体、ガイドラインとしての結論が何だか分からない(と言うより結論がない)、もはやガイドラインとしての体をなさず、「いろんな意見があって、よくわからないので皆さんで考えてください」と言っているように思えます。日本糖尿病学会は少なくとも現時点で食事療法については責任を放棄したのでしょうか。

「Q3-5 炭水化物の摂取量は糖尿病の管理にどう影響するか?」
では、
「炭水化物摂取量と糖尿病の発症リスク、党脳病の管理状態との関係性は確認されていない」と言うに至っては、では何が影響しているのか、正常人が糖尿病を発症する事にも、糖尿人が糖尿病をコントロールすることにも炭水化物は関係ないという事でしょうか。では、炭水化物60%の根拠はどこに行ってしまったのでしょう。関係なければどんぶり飯食べ放題ですけど、どうとらえればよいのでしょうか。

日本糖尿病学会としては、食事療法の憲法的存在であるエネルギー比率が崩れる(その上に成り立っているものが総崩れになる)のを恐れた結果、もはやガイドラインとして用をなさないものを出版してしまったように見えました。少なくとも私には。
ガイドラインの印象
学会が、管理栄養士を失業させないようにする機関と成り下がっているように見えます。古い根拠のない知識で資格をとった人たちに180度異なる勉強をさせなくても済むように
Re: ガイドラインは学会の保身の結果、ガイドラインではなくなった
西村典彦 さん

 コメント頂き有難うございます。

> ガイドラインとしての結論が何だか分からない(と言うより結論がない)、もはやガイドラインとしての体をなさず、「いろんな意見があって、よくわからないので皆さんで考えてください」と言っているように思えます。

 私も概ね同様の感想を持っています。
 一言で言えば、「とりあえず差し障りのないことばかりを言っている」という感じです。
 勿論、ガイドラインはあくまでも目安で強制力があってはならないのですが、
 それにしても結局どうすればよいのかが極めてわかりにくい内容となっていると思います。

 学会が認めれば糖質制限の流れも変わっていくはずだと、学会の変化を期待している人もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながらその期待は今後も打ち砕かれ続けると私は予想します。それは誰が悪いということではなく、そういう構造だから仕方がないのです。

 であればやるべきことは学会の変化を待つことではなく、今自分にできることをやり続けることあるのみです。
Re: ガイドラインの印象
通りすがり さん

 コメント頂き有難うございます。

 何せ今までと真逆と言っていいほどの方針転換です。御指摘のように今までのこととの整合性を合わせるためにも、学会が全面的に糖質制限を認める日はやって来ないと私は思っています。
今後 学会はどうするのでしょうね
先生のこの記事を 私のブログで引用させていただきました.

https://shiranenozorba.com/2019_10_24_what-a-stupid-guideline/

記載内容は,ほぼ先生の記事をトレースしたものにすぎませんが,今後 学会はどうしていくのでしょうか.
針の孔から外をのぞくような,限定された条件下での「エビデンス」では,いつまでたっても指針はえられないでしょう.

年明けには 第23回 日本病態栄養学会がありますから,その様子を見て今後を予想したいと思っています. またこの改訂ガイドラインを受けて,来年3月の 管理栄養士国家試験の出題がどう影響されるのかも,多少興味があります.

Re: 今後 学会はどうするのでしょうね
しらねのぞるば さん

コメント頂き有難うございます。
また当ブログ記事をご紹介頂き感謝申し上げます。

学会は構造上これからも変わることはないだろうと私は考えています。
可能な限りお茶を濁し続けるだろうし、可能な限り無難な発言に終始するだろうと思われます。

しかし現場の医師達が本質に気づいてどんどん変わっていくでしょうから、
それが多数派となり、もはやお茶を濁しきれなくなった時に学会がどういう行動をとるのかについては少しだけ興味がございます。

いずれにしても学会がどういうスタンスをとろうと、私は私がよいと思う行動をとり続けるのみです。