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鈴木功先生の理論を考察する~論理的欠点の視点から~

category - 糖質制限でうまくいかない
2019/ 08/ 23
                 
前回に引き続き、鹿児島の鈴木功先生の糖質制限に関わる理論について考えてみます。

鈴木先生の「糖質制限はよくない」とする理論の根拠は次のようなものでした。

・糖質制限をすると食物繊維、特に水溶性食物繊維の摂取量が圧倒的に不足する
・水溶性食物繊維が不足すれば腸内細菌からの短鎖脂肪酸の産生が減少するのでL細胞からのGLP-1分泌が少なくなる
・つまり糖質制限実践者はGLP-1の基礎分泌が低下した状態にある
・GLP-1が少なくなれば、血糖上昇作用のあるグルカゴンの分泌を抑制できなくなり持続血糖上昇をきたすようになる
・従って糖質制限を続けることによって糖尿病は悪化する。


本日はこの理論の穴について考察してみたいと思います。
            

まず糖質制限をすると食物繊維が不足するという点に関してですが、

糖質制限推進の先駆者、江部康二先生は「糖質制限食では、野菜、海藻、キノコ、大豆製品などから食物繊維を摂取でき、特に水溶性食物繊維はアボカド、オクラ、こんにゃく、納豆などに多く含まれています。」と語っておられます。

ただ、その点は糖質を制限した代わりに何を食べているかによって人により変わってくる所ではないかと思います。食べ方によっては鈴木先生が言うように食物繊維が不足することは十分ありうると思います。

かく言う私も基本的には1日1食スタイルで唐揚げ、焼肉、刺身、豆腐、レタス、キャベツなどが比較的多く食べる食品になりますが、

正確に測定したわけではありませんが、おそらく食物繊維が不足している食事パターンなのではないかと思います。それは自分の体調をみながらあくまでも自己責任で行っている行動です。

さて、糖質制限中に食物繊維が低下するということが起こり得るとして、

そうすると実際に腸内細菌からの短鎖脂肪酸の産生が低下してしまうのでしょうか。

はっきり言ってそれはわかりません。低下するのかもしれないし、低下しないのかもしれない。なぜならば腸内細菌には多様性がありますし、短鎖脂肪酸を測定したからといって、それが腸内細菌由来なのか自分の細胞由来なのかは判別することはできないからです。

ただ糖質制限中のエネルギー源として脂肪から作られるケトン体が重要だということはよく知られていると思います。このケトン体はインスリン値が十分低い時に肝臓や腎臓などの細胞で産生されています。

そのケトン体というのは総称で、アセト酢酸、アセトン、βヒドロキシ酪酸という3つの化学物質のことを指しています。

実はβヒドロキシ酪酸というのは短鎖脂肪酸の一つです。即ち、「糖質制限していて仮に食物繊維不足で腸内細菌からの短鎖脂肪酸が不足していたとしても、自分の身体から十分量の短鎖脂肪酸は供給され続ける」ということです。

なぜ短鎖脂肪酸に注目されるのかと言えば、大腸の唯一のエネルギー源が短鎖脂肪酸だということが生理学的にわかっているからだと思います。

大腸には鈴木先生理論で注目されているGLP-1という物質を産生するL細胞も存在します。大腸に短鎖脂肪酸が届かなければ、GLP-1の産生もできないどころか大腸自体が壊死に陥る可能性さえあります。

ところが実際には腸内細菌から短鎖脂肪酸が産生されなくとも、血液中のβヒドロキシ酪酸という自前の短鎖脂肪酸によって大腸は生き延びることができます。

その根拠はすでに江部先生のブログで紹介されていましたが、

食道がんの切除時に、取り去られた食道の代わりに大腸の一部を取り出してつないで再建する術式があるそうなのですが、

食道の代わりにつながれた大腸では腸内細菌はあれど食塊と腸内細菌が接する時間はごくわずかであり、腸内細菌が短鎖脂肪酸を産生するためのエサをもらえるチャンスはほとんどありません。

それでもつながれた大腸は壊死することなくその後も生き続けています。それは血中のβヒドロキシ酪酸という自前の短鎖脂肪酸がエネルギーを送っている証拠だというのです。

しかもそうした人はまず間違いなく糖質制限状態ではないでしょうから、大腸が生き延びるための短鎖脂肪酸の必要量はごく少量でよさそうだということも推測されます。

あとは長時間絶食時に大腸が死なないということも大腸生存のために腸内細菌からの短鎖脂肪酸が必須でないことの傍証になると思います。


この時点で鈴木先生の理論は大分崩れてきますが、「糖質制限実践者はGLP-1の基礎分泌が低下する」に関してはどうでしょうか。

GLP-1は確かに糖尿病の業界では注目されている物質で、GLP-1の分泌を人為的に刺激する「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれる薬もあって、

この薬は低血糖を起こすリスクが低く、食欲を抑える作用もあり肥満も解消するということで、比較的高価で現時点では注射製剤しかないという難点はありますが、臨床の場では血糖コントロールに際し重宝されて使われています。

ただ一方でGLP-1の血中濃度は少なくとも一般臨床レベルでは測定することはできません。測定されるのはあくまでも研究レベルです。

従って、糖質制限実践者において実際にGLP-1がどうなるかを確認したデータはまだ存在しないのではないかと思います。

ただ本当に糖質制限でGLP-1が低下するかが疑わしくなるデータはあります。実は2型糖尿病患者の血中GLP-1とGIPの血中濃度は健常者と同等であるという研究結果があるのです(Knop FK et al., Diabetologia. 2007; 50: 797-805.)。

糖質制限でGLP-1が低下してグルカゴン過剰となって糖尿病に至るというのが鈴木先生の論理でしたので、実際に2型糖尿病の患者でGLP-1が低下しているわけではないという事になれば、

そもそもGLP-1が本当に低下しているかどうかも怪しくなってきます。低下していなくても糖尿病の発生に至っているわけですから。

逆に言えば健常者と2型糖尿病患者でGLP-1の血中濃度に大差がないのなら、「水溶性食物繊維の炭水化物をしっかり食べることでGLP-1が増えて糖尿病が改善する」というのも大分怪しい話です。

何はともあれこのGLP-1に関する話はあくまでも仮説レベルであって、少なくとも現時点で断定的に語ることはできないのではないでしょうか。

せめて糖質制限実践者のGLP-1が測定できて、なおかつそれが糖質摂取者と比べて低下している事が示されてはじめて世に問えるのではないかと私は思います。

そして百歩譲って糖質制限実践者にGLP-1低下があったとして、GLP-1を増加させるという治療アプローチには限界があると私は感じています。

それはGLP-1受容体作動薬がもたらしている治療インパクトの強さが、薬剤的糖質制限とも呼ばれるSGLT2阻害薬のそれに比べて弱いということがあります。

SGLT2阻害薬の大規模臨床試験は心血管疾患予防効果について、他の糖尿病治療薬がプラセボに比して「非劣勢」を示す中、「優越性」を示したという事で話題になりました。

一方のGLP-1受容体作動薬の大規模臨床試験の結果も、これを機に総ざらいしてみたのですが、確かに部分的に「優越性」が示されている所もあるのですが、

その恩恵が心血管疾患がすでにある患者や心血管疾患発症リスクの高い患者に限定されていたり、薬よっては腎症は抑制されるけど網膜症が悪化していたりと、すっきりとしない内容です。

勿論、食事でGLP-1を増やすアプローチと薬でGLP-1を増やすアプローチは、糖質制限とSGLT2阻害薬が同じではないのと同様に一緒くたにして語れない所ではありますが、

少なくとも糖質を制限する方向性に比べると、GLP-1を増やす方向性のメリットは安定しないという事は言えると思います。

そもそもGLP-1という物質は半減期が1~2分と非常に短い物質です。必要なときにピュッと分泌され、DPP4という酵素により分解されすぐにまた元通りになるような物質です。

おそらく古代の人類にとってたまにありつける木の実や原種の果実などの糖質主体の食品を食べた時にだけ必要最小限にインスリンが作動するように構築されたシステムであろうことが推定されます。

それなのにそのGLP-1が持続的に分泌され続けるような状況を人為的に作り出すことが、一時的には良くても次第に人体に負担をかけていくということは感覚的にも理解できるように思います。


最後に私にも実際に認められたグルカゴンの過剰分泌状態が糖尿病へとつながるか、という点についてです。

これが今回の考察で私が一番頭を悩ませた部分です。グルカゴンについては単に血糖を上げる存在ではなく様々な生理作用があると言われていますが、いまだ全容つかみ切れずといった所ではないかと思います。

ただ確かに糖尿病患者がグルカゴンが過剰分泌状態にあるという事は一般的に実証されていることです。

一方で私は糖尿病ではありませんがグルカゴン過剰分泌状態です。はたして私は今後糖尿病へと進展していくということになるのでしょうか。

世界中の研究者が取り組むこのグルカゴン問題に対して僭越ですが、

次回はこの問題を私なりに熟考してみたいと思います。


たがしゅう

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鈴木医師の理論について
鈴木医師は糖質制限で糖尿病が悪化する理由として下記の機序をあげています。

(1)糖質制限食による食物繊維不足で腸内細菌が不活性
(2)腸内細菌により産生されつ短鎖脂肪酸不足により腸管上皮細胞不活性
(3)腸管上皮細胞で産生される金属トランスポーター不足
(4)トランスポーター不足によりマグネシウム取り込み不足
(5)マグネシウム不足によるインスリン抵抗性悪化
と言う機序があります。

※(5)についてはネットで検索すれば多数ヒットしますし、江部先生もおっしゃっていますが事実のようです。

確かに、糖質制限でこむら返りの頻発など、マグネシウム不足が疑われる状況はよく聞きますし、私もなります。野菜なども糖質制限前よりはるかに多く摂取していますが、さらにマグネシウムサプリ(400mg/日)を摂取しないと解消しません。この事実(n=1ですが)から、上記機序の内、(4)までは、そうかなとも思います。

しかし、(5)については、マグネシウム不足によるインスリン抵抗性が一過性のものか不可逆的なものか現時点で私にはわかりません。
もし、インスリン抵抗性が悪化するとしても(一過性なら)、糖質制限で食後高血糖、高インスリン血症は回避していますから、糖尿病が悪化、発症などはないと考えられます。

糖質制限している人がいきなりブドウ糖負荷試験を受けて数値が悪く出るケースはブログなどでよく見かけます。そういう人に限ってブログに書き込むので悪くなった(と勘違いする)ケースだけが目につきます。もともと糖質制限をしようと言う方たちなので、それなりに意識が高いため、数値(あくまでも病態ではなく)が良くならなかったら非常に気になるのだと思います。

したがって、鈴木医師が薦めるような食物繊維(を含む大麦などの炭水化物)摂取の為なら食後血糖値200を容認するようなメソッドはそのままでは受け入れがたいです。鈴木医師のメソッドで良くなることがあるとしても、そんなに短期間で糖尿病が良くなるとも思えませんので、それまでの間、年単位で食後高血糖を繰り返せばどうなるかは目に見えています。

食後血糖値を上げずに食物繊維(特に水溶性)を摂取する方法、腸内環境をよくする方法を考えていただえれば良いのになぜ、そうならないのかと思ってしまいます。

どの方法も全てが良いわけでも悪いわけでもないと思いますので、良いとこどりで考えたいと思います。


余談ですが、本日の「金スマ」は長友選手推奨(山田医師監修?)の「ファットアダプト」だそうです。
耐糖能を改善するには?
たがしゅう先生、こんにちは。いつも洞察の深い記事をありがとうございます。でも、今回は少し反論と鈴木先生の擁護をさせてください。記事の中で、たがしゅう先生は、糖質制限を実践している人が健康な状態から糖尿病に移行したり、長期間の糖質制限実践者の糖尿病が悪化した前例はないと断言されています。僕もこれは事実だと思います。

ところで、糖質制限派にとって不都合な真実もあります。それは、肥満型の人が減量によってインスリン抵抗性を取り戻す場合を除けば、2型糖尿病の人が糖質制限をどれだけやろうと、耐糖能を改善させた前例はないということです。もちろん糖尿病の合併症は改善されます。でも糖質制限をいくらやっても耐糖能がもとに戻ることはないのです。つまり、糖質制限は対症療法に過ぎず、2型糖尿病の根本治療ではないということです。

鈴木先生の糖質制限派に対する批判もここにあると思います。糖尿病の新しい研究がどんどん出ているのに、糖質制限派は、耐糖能異常の根本原因については探ろうともせず、ただ対症療法である糖質制限をオウムのように繰り返しているだけだということです。

鈴木先生の主張は、稙田先生の糖尿病はグルカゴンの反乱だったを根拠にしています。僕も読ませて頂きましたが、これまで耐糖能の良し悪しは大抵、インスリン分泌能とインスリン抵抗性で説明されてきましたが、実は、インスリンだけでなくグルカゴンに加え、この二つの分泌を制御する腸内ホルモンであるGLP-1とGIPのバランスによって決まる機序が示されていて、暗雲にひとすじの光が射し込むように感じました。もちろんソマトスタチンへの記述も多数ありました。

鈴木先生はこの研究に基づいて、2型糖尿病の根本治療を提案されているのであり、対症療法に過ぎない糖質制限ばかりを繰り返す糖質制限派とは一線を画していると思います。

以上、もし不適切な表現がありましたらお許しください。これからも、たがしゅう先生の論理的かつ哲学的な論考を楽しみにしています。
ジョーさんへ
ジョーさん、初めまして

根本治療ではない糖質制限ですが、根本治療に成功したメソッドがないのも事実です。あれば、みんなそれを実践すればよいことになり、こんな議論はいらないことになります。私は、糖質制限をそれまでのつなぎだと思っています。歯がゆい部分ではありますが。

「2型糖尿病の人が糖質制限をどれだけやろうと、耐糖能を改善させた前例はない」
これは、膵β細胞が死んでしまえば再生しないと言う、現状での医学的事実と一致しています。筋トレで耐糖能を見かけ上改善する方法はあると思いますが、これも根本治療(膵β細胞再生)ではないと思っています。

膵β細胞は、最終分化状態にあり、そのような状態の細胞はそれ以上、細胞分裂しないと言う事実があります。
しかし、稙田先生の「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」によると
膵β細胞は、糖毒刺激により脱分化し、再び分裂する際にα細胞に分化し、グルカゴン過剰になると言う点が鍵ではないかと気になるところです。
要するに糖毒刺激を与えた状態ではせっかく脱分化してもα細胞になってしまう。これをβ細胞に分化させる方法を考える事が出来ればいいのですが、いかがでしょう。
Re: 鈴木医師の理論について
西村 典彦 さん

 コメント頂き有難うございます。
 情報の補足を頂き感謝申し上げます。

 (1)(2)はすでに反論済なので省略します。

> (3)腸管上皮細胞で産生される金属トランスポーター不足
> (4)トランスポーター不足によりマグネシウム取り込み不足
> (5)マグネシウム不足によるインスリン抵抗性悪化


 まずトランスポーター(輸送体)というのは生体恒常性維持に関わるミネラルの出し入れを行う膜タンパク質です。
 私の認識ではトランスポーターはその輸送効率が変動することはあれど、一定の数が決まっていて増えたり減ったりするものではないと思っています。そして大腸(腸管上皮細胞)に十分なエネルギーが供給されていれば、もともと持っている数のトランスポーターが正常に機能するはずです。

 またミネラルに関しましてはこのトランスポーターが外部環境に応じて対象のミネラルが少ない時は多めに取り込んで、多い時は少なめに取り込むといった形で絶妙に調整されています。
 たとえば、私が1週間断食に挑戦した時もミネラルは水分に入っているもの以外一切補給しておりませんが、1週間後マグネシウムをはじめ血中ミネラルの数値は正常範囲に保持されていました。

 要するに身体が正常に機能している限り、摂取量が少ないからといってすぐさま不足に陥るような単純な構造にはなっていないのです。

 逆に言えば補充しないと正常のマグネシウムが保てない場合は、何らかの原因でトランスポーターの機能が故障していると考えられます。加齢や酸化ストレス、タンパク質の糖化などの要因が考えられますが、そうなると意識的に補充していく必要性は出てくるのではないかと思いますし、逆に過剰摂取にならないよう注意していく必要性も出てきます。

 こむら返りに関しては確かにマグネシウム補充の有用性が臨床的にも確認されていると思いますが、本質的な原因は血流障害にあると私は考えています。運動中に起こりやすいのも一過性に筋肉や神経への血流が急増し、マグネシウム/カルシウムの需要が一気に高まってしまうが為に筋肉の収縮がスムーズに行われなくなることで起こると考えられます。

 2014年7月28日(月)の本ブログ記事
 「こむら返り熟考」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-348.html
 も御参照下さい。

 そして「マグネシウム不足がインスリン抵抗性につながる」とのことですが、上記を踏まえマグネシウム不足が起こるトランスポーター故障状態はすでに酸化ストレスやタンパク質の糖化がすでにある程度蓄積されている状態が示唆されますので、マグネシウム不足は原因というよりもいくつかある結果の一つを見ている可能性があると私は思います。
Re: 耐糖能を改善するには?
ジョー さん

 コメント頂き有難うございます。

> 2型糖尿病の人が糖質制限をどれだけやろうと、耐糖能を改善させた前例はない。

 耐糖能を改善させるというのは糖質を摂取しても血糖値が上がらない状態を作るという事だと思いますが、
 その点に関しては糖質制限実践者とそうでない人達との間で認識の違いがあり、そのことが両者の意見がかみ合わなくなる大きな要因だと思っています。大事なことなので後ほど本記事の方でまとめさせて頂きたいと思います。

 書籍「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」は私も興味を惹かれて購入済ではあるのですが、忙しくてまだ読めておりません。また引越しの最中どこに行ったかわからなくなってしまってもいます。いずれ読もうとは思いますが、いつになるかわかりません。宜しければ要点だけでも御教示頂ければ意見を述べさせて頂けるのではないかと思います。
α細胞からβ細胞への転換・再生の可能性
西村様

ご返信ありがとうございます。
>これをβ細胞に分化させる方法を考える事が出来ればいいのですが、いかがでしょう。

まさにその通りですね。8章5節にも以下の記述があります。

最近 、 β細胞が高度に消失した状態では 、 α細胞の一部が β細胞に分化 ・転換する現象が観察され 、注目されています 。すなわち増生した α細胞の中にグルカゴンとインスリンの両方の顆粒を持った細胞が現れるのです 。 T h o r e lら ( 2 0 1 0 )は 、 β細胞をほぼ完全に破壊したマウスをインスリン注射で飼育していくと 、しだいに β細胞が増加していき 、 6か月後にはインスリンを中止しても生存可能になりました 。 1 0か月後には 、前値の 1 0 %まで β細胞が再生されていたのです 。そしてこの β細胞は α細胞から転換したことが証明されました 。このように膵島内のホルモン産生細胞はある条件下では α → β細胞 (稀には δ → β細胞 )へ 、その形質が転換し得ることが明らかになってきたのです 。

また、その少し前には、この記述もあります。

さて U n g e r教授らの動物 (グルカゴン受容体欠損マウス )では 、膵島の α細胞が増加 (過形成 )を起こすことが特徴です

つまり、これまでの知見では、β細胞が疲弊すると耐糖能が悪化し、一度疲弊したβ細胞は元には戻らないと考えられていたと思います。ところが、マウスの実験ではありますが、実は、耐糖能の悪化は、α細胞の増加、過形成によるグルカゴンの暴走が原因であって、この暴走を止めることで、α細胞を再びβ細胞へと転換、再生しうる可能性をこの本(糖尿病はグルカゴンの反乱だった)は示していると思います。

まさに夢のような理論ではありますが、是非、糖質制限推進派にも、このような理論に耳を傾けて頂き、徹底的に議論してくださることを祈ってやみません。
Re: α細胞からβ細胞への転換・再生の可能性
ジョー さん

 書籍の要所を御紹介頂き有難うございます。大変参考になります。

> β細胞が高度に消失した状態では 、 α細胞の一部が β細胞に分化 ・転換する現象が観察される
> β細胞をほぼ完全に破壊したマウスをインスリン注射で飼育していくと 、しだいに β細胞が増加していく。
> グルカゴン受容体欠損マウスでは 、膵島の α細胞が増加 (過形成 )を起こす


 ここまでが事実だと思います。

> 耐糖能の悪化は、α細胞の増加、過形成によるグルカゴンの暴走が原因である
> グルカゴンの暴走を止めることで、α細胞は再びβ細胞へと転換、再生しうる


 これらは解釈だと思います。
 勿論そういう見方もできるとは思いますが、「暴走」と表現されているグルカゴンの過剰分泌状態には、実は何らかの困難を克服しようとする別の意義があるのではないかと私は考えています。

 私は自分自身のデータも含め、後日その辺りについてのグルカゴンの目的に関する私の考察を記事にできればと思います。
膵臓では何が起こっているのか?
たがしゅう先生

お忙しい中ご返信をどうもありがとうございます。

先生の仰られるように、ひとくちに耐糖能の改善と言っても、人によって状況は全く違うので議論が噛み合わないのは当然ですね。

僕が、糖質制限によって耐糖能が改善した前例はないと言う時、想定しているのは、40代以上の生活習慣病が気になりだした、糖尿病予備群の方々ですね。つまり、空腹時の血糖値は正常だが、食後の血糖値を測ってみたら爆上がりしているのに驚き、糖質制限を始めたという方々です。

糖尿病予備群とは、確実に1gの糖質が血糖値を3mg/dl程度上昇させる状態と僕は考えています。そして一度こうなってしまうと、どんなに運動をしても、どんなに食べ方を工夫しても、どんなに糖質制限をしても、若い頃のように、糖質1gあたりの血糖値の上昇を1mg/dl程度に抑えることはできないし、そのような状態に二度と戻ることはできないということです。

糖質制限によって耐糖能が改善した前例はないと言ったのは、上記のような状況を想定しています。

「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」については、事実としては、すでに知られているものばかりのようですが、インスリンの発見以来、変わることのなかった糖尿病への理解と治療が大きく変わる可能性を秘めていると思います。糖尿病の治療は、カロリー制限から糖質制限へと大きく変わりました。そして、この本は、糖質制限を超えた新しい治療の可能性を指し示していると思います。

最後に、余談ですが、血糖値の実測の動画を毎日のようにアップされているYouTubeチャンネルがあります。先生もご覧になったことがあるかも知れませんが、これらの動画を見るたびに、血糖値の上昇がどのようなメカニズムになっているかは、未知の部分があまりにも多いと考えさせられます。
https://youtu.be/s0dVL9-hUK8

それでは、次回の記事を楽しみにしています。
Re: α細胞からβ細胞への転換・再生の可能性
たがしゅう先生、ジョーさん、西村さん、こんばんは。

すでにご存じのことと思いますが、すい臓のランゲルハンス島に占めるα細胞、β細胞、δ細胞の割合は以下の通りです。

α細胞=約15%
β細胞=約80%
δ細胞=約5%

α細胞とδ細胞がβ細胞に形質転換できても、圧倒的に多いβ細胞を補完するのは難しいのではないでしょうか。
ミスターT さんへ
ミスターT さん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

α、δからβへの形質転換では、糖尿病の治癒的な効果はほぼないと思います。α、δ細胞の量の問題もありますが、形質転換はβ細胞がほとんどなくなっている状態でしか起こらないと言う事ですし、形質転換もどれほどの割合で起こっているのか定かではありません。想像するにそう言うことが確認できたと言うれべるであり、その延長線上にβ細胞の再生による糖尿病の治癒はないと考えています。

私が期待するのはβ細胞そのものの「脱分化」(未分化なα細胞、β細胞の前駆細胞の状態に戻った細胞)からβ細胞に分化させる方法を見つける事だと思います。なぜ、糖毒刺激によって脱分化したβ細胞は、その後、β細胞に分化せず、α細胞にだけ分化するのか。ここが鍵だと思っています。

きっと、α細胞がまだ不足していると体の中で判断されているのではないでしょうか。グルカゴンを増やしてもっと血糖値をあげないといけないという判断がされているように思います。インスリン抵抗性によって「糖が使えない状態」が何らかのシグナルとなり、α細胞を増やす方に傾いているのではないかと想像しています。

ここまで書いて、ふと気づきましたが、
もしかしたら、筋トレでインスリン抵抗性を改善することは、β細胞への分化を促進することになるかもしれないと、頭をよぎっています。
どう、思われますか?
Re: ミスターT さんへ
西村さん、こんにちは。
返信ありがとうございます。

>もしかしたら、筋トレでインスリン抵抗性を改善することは、β細胞への分化を促進することになるかもしれないと、頭をよぎっています。

筋トレで血糖コントロールが良くなるのは、以下の2点ではないかと思います。

1.運動の刺激でインスリンなしでもGLUT4を発現させられる。
2.筋トレで、筋グリコーゲンを消費することで、筋グリコーゲンの貯蔵庫に空き容量ができ、血糖を取り込みやすくなる。

もちろん、肥満が原因でインスリン抵抗性が高まっているのなら、筋トレで痩せればインスリン抵抗性は改善するはずです。

でも、アルツハイマーのようにインスリンシグナル経路に不具合が生じているインスリン抵抗性だと、肥満の解消で改善するのかどうかはわからないと思います。

筋トレでも、糖質制限でも、カロリー制限でも、有酸素運動でも、痩せることで、肥満が原因のインスリン抵抗性を改善できれば、血糖コントロールが良くなり、β細胞への負担も減るのではないでしょうか。そうすると、疲れていたβ細胞も正常に働き出すのだと思います。

インスリン抵抗性が改善して、インスリンの分泌量が増えるのは、β細胞が元氣になったということではないでしょうか。
Re: ミスターT さんへ
ミスターT さん コメントありがとうございます。

ミスターT さんのおっしゃっていることは正論でそれはそれで正しいと思いますし、理解していますが、先ほどの投稿はβ細胞の脱分化と再分化の観点からの私なりの仮説です。

通常、最終分化状態にある細胞はそれ以上分化しない(=分化しないものは分裂しない)のが現在の医学、生物学であり、それを根拠に最終分化状態にある膵β細胞にダメージのある糖尿病は、細胞の再生がなく、完治しないとされています。

しかし、最終分化状態にある膵β細胞は「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」によると
(1)β細胞は糖毒刺激により、脱分化する。→ 再び分化(分裂)できる状態(前駆細胞)になる。ちょっと違いますが、イメージ的には刺激でスタップ細胞(万能細胞)になるのと似ています。そのための刺激が糖毒であると言う事です。
(2)脱分化した細胞は、その後の再分化によりα細胞にもβ細胞にもなれるはずですが、糖尿病の場合は、α細胞に再分化する。
と言う事のようです。

では、α細胞になるか、β細胞になるかは何をシグナルにして決まるのかと言う事になるのですが、何らかのシグナルでα細胞が足らない(=糖が足らない)と判断され、増えるのではないか、それはインスリン抵抗性等で糖の利用効率が落ちているため、もっと糖が必要と判断された結果ではないかと考えると、筋トレなどで糖の利用効率を上げることで、α細胞ではなくβ細胞に再分化させることができるのではないかと考えた次第です。
例えば、高血圧は必要があって(動脈硬化などで血流が悪い状態で抹消に血流を届けるため)血圧をあげているのであって、高血糖も高血糖自体が病態ではなく、必要があって血糖値をあげているのだと言う解釈の下での私の仮説です。したがって、糖尿病の本当の病態はインスリン抵抗性であり、β細胞などの障害は、インスリン抵抗性による高血糖で傷ついたためであり、それ自体合併症ではないかとも考えています。
あくまでも素人の仮説ですから、まったく根拠はありませんが、個人的には何となく納得できるような気がしています。
Re: Re: ミスターT さんへ
西村典彦 さん
ミスター T さん
ジョー さん

 コメント頂き有難うございます。

 書籍『糖尿病はグルカゴンの反乱だった』をまだ読めていない状態で恐縮ですが、
 皆さんのお話を聞いていて私が思った事をまとめてみます。

 ジョーさんに教えて頂いた「α細胞の一部がβ細胞に分化 ・転換する現象」は、おそらく遺伝子操作でβ細胞を完全に死滅させるという究極的な状態でかつ膵臓全体(α細胞)の中では少ない割合のβ細胞増加でした。
 α細胞とβ細胞は発生学的には同じ内分泌系前駆細胞を起源に持ちますので、幼若なマウスであればα細胞と思われる細胞の中にβ細胞の遺伝子的特徴を残した不完全なα細胞が全体の中の少数に混ざっている可能性があり、それが究極的にβ細胞の必要性が求められるβ細胞ノックアウト状態においてはエピジェネティックな機序を通じてその少数の不完全α細胞をβ細胞へ変換させる現象をもたらしたことが考えられます。

 なので人間の、しかも成人のα細胞とβ細胞に分化しきったケースにおいては同じ状況が当てはまるかどうかわかりませんし、同じ現象を起こせるにしてもβ細胞をノックアウトさせることに匹敵するほど究極的な刺激を人為的に与える必要があります。
 従って西村さんのおっしゃる筋トレくらいの刺激では不完全α細胞がβ細胞化するとは私は考えにくいですし、β細胞化できたとしても少数で糖尿病克服にはほど遠いですし、ミスターTさんのおっしゃるように筋トレによってインスリン抵抗性を改善させることのメリットは脱分化というよりも分化しきって数の決まったβ細胞の量よりも質を改善させることが基本となるのではないかと思います。

 ちなみに日常的に筋トレをしている人はグルカゴン過剰分泌状態にあるのではないかと私は予想しています。理由は後日グルカゴンの考察の記事の時に語りたいと思います。
Re: ミスターT さんへ
たがしゅう先生、西村さん、こんばんは。
返信ありがとうございます。

>(1)β細胞は糖毒刺激により、脱分化する。→ 再び分化(分裂)できる状態(前駆細胞)になる。

西村さんがおっしゃる上記の内容は、β細胞が脱分化した段階では、α細胞にもなれるし、β細胞にもなれるということですね。

そして、インスリン抵抗性で糖利用の効率が落ちている状態では、糖が足りないと判断してα細胞になるということですね。

確かに納得のいく説明だと思います。

ただ、アジア人に多いインスリン抵抗性を経由せずにインスリン分泌が低下するタイプの2型糖尿病が、なぜ起こるのかという疑問が出てきます。

また、グルカゴンが分泌されると末梢組織での糖利用が抑制されるので、β細胞がα細胞に再分化してグルカゴン分泌を増やすと、ますます血糖を処理しにくい状況を作り出すのではないかと思います。
β細胞はα細胞へ再分化するか
ミスターT さん

コメント頂き有難うございます。

内分泌系前駆細胞→β細胞(分化)
内分泌系前駆細胞→α細胞(分化)
β細胞→内分泌系前駆細胞(脱分化)→α細胞(再分化)

インスリン抵抗性は「インスリンがたくさん出てるのにインスリンの作用が発揮できない状態」なので、β細胞への分化需要が非常に高い状況にあります。その時点では未熟な前駆細胞がα細胞へ分化する可能性は低いと思います。

インスリン分泌能低下のパターンはインスリン抵抗性を経由していないように見えて実は経由しているけど、β細胞が刺激され過ぎて細胞機能が不可逆的に低下するステージが比較的早めに起こってしまう人達ではないかと私は思っています。つまり違う病態のように見えて実は病態の流れは共通しているということです。

だからインスリン抵抗性であろうと、インスリン分泌低下型であろうと、β細胞のα細胞化は日常生活の中ではそうそう起こらないというのが私の意見です。
Re: β細胞はα細胞へ再分化するか
たがしゅう先生、こんばんは。
返信ありがとうございます。

>インスリン分泌能低下のパターンはインスリン抵抗性を経由していないように見えて実は経由しているけど、β細胞が刺激され過ぎて細胞機能が不可逆的に低下するステージが比較的早めに起こってしまう人達ではないかと私は思っています。

このような可能性もあり得るんですね。

痩せているから大丈夫と思っていても、実はインスリン抵抗性が惹き起こされていて、知らない間にβ細胞に大きな負担がかかっているかもしれないと考えると、日頃からインスリン分泌が少なくなるような生活をしておく方が無難ですね。
Re:β細胞はα細胞へ再分化するか
たがしゅう先生へ
少し捕捉させてください。

インスリン抵抗性は「インスリンがたくさん出てるのにインスリンの作用が発揮できない状態」なので、β細胞への分化需要が非常に高い状況にあります。その時点では未熟な前駆細胞がα細胞へ分化する可能性は低いと思います。

とのことですが、正常人ではそうですが、「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」によると、糖尿病の場合はそれが、反対にα細胞に分化すると言う事です。それこそが、「グルカゴンの反乱」と称する所以です。
そこで私が考えたのは、異常を来したらそれまでのルールが反転してしまうような複雑な機序は考えにくい。もっと単純な機序によって制御されているはずであると考え、インスリン抵抗性そのもの(受容体からのシグナル)ではなく、糖の利用効率が落ちているのだから、エネルギー不足が生じ、糖がもっと必要、それが何らかのシグナルになっているのではないかと考えた次第です。具体的なシグナルが何なのかは私にはわかりませんし、そのようなシグナルの存在が確認されているのかも知らないので、単なる仮説です。
Re:β細胞はα細胞へ再分化するか
西村典彦 さん

私はまだその本について読めていないので、これ以上のコメントは差し控えさせて頂きます。