膵液分泌のメカニズムから見えること

2014/01/26 00:01:00 | 読者の方からの御投稿 | コメント:9件

先日膵炎についての記事を書きましたが,

☆ acco ☆ さんより次のような御意見を頂きました.

素人考えなのですが・・・

たんぱく質・脂質の摂取
→コレシストキニン分泌
→膵液・胆汁の分泌
って流れを
回避させたいのかと・・・(・vv・)

脂質は
胃での滞留時間が長いと
考えられているのも
理由のひとつかも知れません。

酵素補充療法に関しては
消化を助ける事も重要ですが
コレシストキニンの分泌を抑えて
痛みを緩和する目的が大きいと思います。

慢性膵炎に関しては
ある程度
症状が進行してしまうまでは
脂質が痛みを誘発するかも???

なんて
思ったりしました (`・ω・´)∩ 


今日はこの膵炎の問題についてもう少し深く考えてみたいと思います. 私の手持ちの生理学教科書である「標準生理学(第5版)」によると,

食事によって分泌される膵液の80%は「腸相」において起こるようです.

「腸相」というのは胃酸の混ざった食事内容物が十二指腸に送られる時期の事で,主にアミノ酸と脂肪酸の化学的刺激によって消化管ホルモンが分泌され膵液が分泌されます.

膵液を分泌する消化管ホルモンには「ガストリン」「セクレチン」と「コレシストキニン」などがあります.いずれも分泌刺激にはアミノ酸,脂肪酸が関わっています.

一方でセクレチンに関して言えば,分泌を刺激するのはアミノ酸,脂肪酸だけでなく他にも重要な要素があります.

それは酸です.pH4.5以下になるとセクレチンの分泌が増加し,pH3.0でその量が最大になるようです.

しかしセクレチンが分泌されると連動して胃酸の分泌も抑制されるので,通常の食事ではpHが3.5~4.0以下に下がることはありません.

しかし実際にはpH3.0の時に出るくらいの量のセクレチンが分泌されているようで,そのもう一つの理由が胃壁への物理的刺激です.

食物が胃に輸送された際の物理的刺激が迷走神経反射,局所反射などの神経性因子を介して膵液が分泌されるというメカニズムがあります.

以上,「①アミノ酸,脂肪酸を主とした化学的刺激」,「②食物の酸性度」,「③胃壁への物理的刺激」が主な膵液分泌させる要因だということになります.

そう考えると,高糖質・低脂質低蛋白食にしていれば①の要素がなくなるので,☆ acco ☆ さんの御指摘のようにコレシストキニンをはじめ,膵液分泌に関わる消化管ホルモンへの刺激を少なくできる可能性があります.

ただもう一つ考えないといけないことに,胃の滞留時間の問題があります.

一般的に胃の滞留時間に同書で調べてみると,これがなんと記載がないのです.

一方,インターネットをみると糖質2~3時間,蛋白質4~5時間,脂質7~8時間と書かれていたり,糖分、炭水化物に比べるとタンパク質は、胃の滞留時間が2倍長く、脂質は胃の運動を抑制して、最も長く滞留すると書かれていたりします.しかしその情報の出所は明らかではありません.

ところが夏井先生のサイトにて胃の滞留時間が長いのは炭水化物であるということを,食べたものを吐いた物の内容を調べるという極めて直接的な方法で示しています.

私は明らかに後者の方が信頼がおけると思います.

もう一つ糖質制限をすると即座に逆流性食道炎が改善する,という現象があることを聞いた事がありますが,

この事も糖質が胃の滞留時間が長いと仮定すれば説明がつきます.

糖質を食べれば長く胃に留まり続けるために胃酸を分泌し続けることになり,そのため胃酸が逆流しやすい状況が生まれますが,

脂質やたんぱく質であれば速やかに消化され,胃酸の分泌時間が短くなるからです.

そう考えると,せっかく①の影響を少なくした高糖質・低脂質低蛋白食は,②③で十分に膵液分泌が促されてしまう可能性があるのです.

膵液だけに関して言えば「①>②③」の糖質制限食がよいか,「①<②③」の高糖質食がよいか,①と②③のバランスの問題になるかと思いますが,どっちが膵液の分泌を抑えられるのか私にはわかりません.

ただ言えることはコレシストキニンの分泌を防いでも食事によって膵液は出てしまうこと,膵炎活動期に膵液が出てしまえば自己消化のメカニズムによって腹痛をきたしてしまう,ということです.

そして現在の膵炎治療では,少なくとも慢性膵炎において一概に低脂質食にする必要性はなくなっているということに注目すべきです.従来の治療体系が少しずつ見直されてきているのではないかと思います.


ここまで見てきて,一つ思うことがあります.

食べものの消化に大きく関わる膵液の分泌を刺激するのは,あくまでアミノ酸や脂肪酸であり,糖質ではありませんでした.

またセクレチンによって分泌が刺激され,コレシストキニンによって胆嚢収取させられ十二指腸へと分泌される胆汁ですが,胆汁の中に含まれる胆汁酸の主な役割は,脂肪酸の吸収を助けることです.ここにも糖質の関わりはありません.

一方の糖質はと言えば,唾液と膵液の中に含まれるアミラーゼがこれを分解しますが,胃では直接分解されません.あとはアミラーゼで分解されたものが小腸で吸収されるのを待つだけです.

こうしてみると膵臓における糖質の関わりはあまりにも少ない印象です.

そのメカニズムを考えると,三大栄養素などとは言われますが,

やはりヒトの基本的なエネルギー源は脂質とタンパク質であり,糖質ではなかったのだろうという事を思わされます.

糖質の消化システムはおそらく旧型エンジンの名残として残っているだけなのでしょう.主たるエネルギー源にしては分解システムがあまりに脆弱なように思えます.

一方で膵臓のわずか5%しかない内分泌機能に糖質が与える影響(インスリン分泌)は甚大なわけなので,

糖質の摂取が人体にとっていかに不自然かつ臨時の事態かということが

こういうところからもうかがえます.


たがしゅう
関連記事

コメント

管理人のみ閲覧できます

2014/01/26(日) 00:46:15 | | #
このコメントは管理人のみ閲覧できます

2014/01/26(日) 05:06:33 | URL | すず。 #zP5wrhHQ
おはようございまっす!(^^)


昨日は、糖質制限オフの勉強会?に行ってきました。

感じたことは、ブログに(^^)

Re: 本

2014/01/26(日) 08:05:18 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
すず。 さん

 コメント頂き有難うございます。ブログ読ませて頂きます。

糖反射

2014/01/26(日) 12:08:09 | URL | ワンクロ #fqvcbsVg
スーパー糖質制限歴2年半の内科開業医です。
食物が胃に入ると、胃は15秒に1回くらいの周期で食物を腸に送り出す蠕動運動を始めるそうです。
ところが、砂糖水を飲ませると胃の動きはピタリと停止してしまうそうです。
東京大学は、この現象を糖反射と名付けたそうです。
糖反射でグーグル検索して"砂糖という薬物5"というサイトを覗くとわかりやすく説明されています。

Re: 糖反射

2014/01/26(日) 15:17:09 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ワンクロ 先生

 貴重な情報を頂き有難うございます.

 「糖反射」という現象,興味深いですね.

 糖質の胃での滞留時間が長い理由の一つなのでしょうね.

記事UPありがとうございますぅ (*´∀人)♪

2014/01/26(日) 17:40:01 | URL | ☆ acco ☆ #JUGsyThY
少し解離があるので
ヘンな記述だったらごめんなさい。

まず
炭水化物の胃での滞留時間ですが
これは
食物繊維の量や
加工・調理による形状によるので
「一概には言えない」と
acco的には考えます。

ジュースなどの液体は
すんなり胃を通過するでしょうし
粉ものなんかも
比較的スムーズかも知れません。
一方
玄米や麺などは
よ~~く 噛まないと
時間が掛かりそうです。

「高糖質」と一口に言っても
炭水化物なら何でも良い訳じゃなく
繊維が少なめで
多少咀嚼が雑でも
胃を通過できそうなモノを
選ぶ必要があると思います。

それから
糖質の最終的な消化は
小腸微絨毛(膜消化)だと思われ。

ちょっかい出してばっかで
ホントごめんなさぁい (*´・x・`)ゞ

Re: 記事UPありがとうございますぅ (*´∀人)♪

2014/01/26(日) 18:07:42 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
☆ acco ☆ さん

 率直な御意見を頂き有難うございます.

> ジュースなどの液体は
> すんなり胃を通過するでしょうし
> 粉ものなんかも
> 比較的スムーズかも知れません。


 一見そう思えますが,本日ワンクロ先生にコメント頂いた「糖反射」が起こるとなれば事情は変わってくるかもしれません.

> 糖質の最終的な消化は
> 小腸微絨毛(膜消化)だと思われ。


 すみません.そこは記事の趣旨をシンプルに伝えるためにあえて割愛しておりました….

 あくまで私の考えた事ですので,参考程度にして頂ければ幸甚です.

糖反射

2014/01/26(日) 20:37:11 | URL | 松尾 #lhZ53oGg
糖反射について、ちょっと検索してみました。

「糖反射」
順天堂大学総長、有山登
http://plaza.rakuten.co.jp/hukohitomi/diary/200911180001/
=============================
http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/24214105.html

基礎と臨牀 2(3)

品川商事


本タイトル等は最新号による;出版者の変更あり;[ ]-

「国立国会図書館のデジタル化資料(雑誌)」より

[目次]
【綜說】日本脳炎 Japanese B encephalitsの血淸学的診断法 / 松本稔 / p63
一新殺精子剤 / 松本寛
山口哲 / p68
ペニシリン療法の白血球に及ぼす影響に就て / 石塚昌敬 / p70
腸チフス患者の唾液内排菌と凝集素の消長 / 靑木亮
矢ヶ崎芳太郞 / p76
眼疾患のペニシリン局処療法に就て / 長谷川俊明 / p80
【抄錄】 / p87
ジフテリア明礬トキソイドの功罪 / 長野泰一 / p93
糖攝取時の胃の運動「糖反射」に就いて / 有山登 / p94
ストレプトマイシンの局所適用 / 細谷省吾
今村晋 / p95
【後記】 / 安藤 / p96

「国立国会図書館のデジタル化資料(雑誌)」より


Re: 糖反射

2014/01/26(日) 21:46:32 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
松尾 さん

 貴重な情報を頂き有難うございます.

> 基礎と臨牀 2(3)
> 糖攝取時の胃の運動「糖反射」に就いて / 有山登 / p94


 1949年の資料のようですね.そのような以前から「糖反射」の存在が知られていたとは,初めて知りました.

 なぜこのような重要な事実が教科書的に取り上げられていなかったのか,不思議ですね.

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する