1週間断食後のたがしゅうの腸内フローラ変化
2019/06/27 00:00:01 |
人体実験 |
コメント:10件
前回に引き続き、自宅でできる腸内フローラ検査キット「Mykinso Pro」の使用体験について書きます。
今回は前回予告しましたように、糖質制限実践者が1週間断食したらどう腸内細菌が変化するのかということを調べる実験した結果をお示ししたいと思います。
まずは条件の確認ですが、被験者は私たがしゅう、7年来のスーパー糖質制限実践者です。
2019年3月9日時点で1日1~2食のスーパー糖質制限食習慣である状況で腸内フローラの状態を一度チェックしています。
今回は2019年3月31日~4月6日の1週間、水分摂取しか許可しない1週間の断食を実施、最終日の4月6日に同様の方法で腸内フローラを調べました。 ちなみに1週間断食した状態だと便が出ないので、最終日の夕方にほんのちょっとだけ食べました。なぜならばここで食べ過ぎると過去に下痢することは過去に経験済だからです。
このタイミングで採便に失敗すると1週間の断食が水の泡になってしまうため、慎重に復食しました。その結果、無事にコロンとした良い感じの排便を確認しました。
さて注目の結果は以下のようになります。前回の結果と照らし合わせて御参照下さい。
「あなたの腸内フローラ判定」:D判定(ややバランスが悪い)
「多様性指標」:B(前回A)
「短鎖脂肪酸指標」:E(前回C)
「口腔常在菌指標」:E(前回A)
「腸管免疫指標」:C(前回A)
・バクテロイデーテス門(人間の腸内で多数派を占めることが多い腸管免疫に関与する菌群)
→32.66%(前回26.97%)(平均集団40.25%)
・ファーミキューテス門(善玉菌として知られる乳酸菌や悪玉菌として知られるウェルシュ菌など多様な菌群)
→36.33%(前回67.7%)(平均集団46.44%)
・アクチノバクテリア門(善玉菌として有名なビフィズス菌が含まれる菌群)
→4.92%(前回2.08%)(平均集団5.69%)
・プロピオバクテリア門(大腸菌、ピロリ菌、カンピロバクター属などが所属する菌群)
→22.28%(前回2.59%)(平均集団6.54%)
・フソバクテリア門(大腸がん発症リスクと関連するとされる「フソバクテリウム属」が含まれる菌群)
→3.55%(前回0.15%)(平均集団0.72%)
・シネルギステス門、レンティスファエラ門、その他(保有している人は非常に少ない菌群)
→0.26%(前回0.51%)(平均集団0.36%)
FB比(太りやすさの指標):1.11(前回2.51)(全体の基準値0.55-2.1)
全体としては1週間断食をすることでMykinso Proの評価としては悪い方向へと変化している印象です。
特に短鎖脂肪酸指標と口腔常在菌指標の評価がガタ落ちですが、前者は細胞のケトン体産生具合と逆相関している可能性があり、絶食によるケトン体急上昇状況ではある意味仕方のない変化である可能性があります。
口腔常在菌指標は何をもってE判定なのかといいますと、炎症性腸疾患や大腸癌の患者で多く認められるガンマプロテオバクテリア綱の種類が増えていることなどによるそうです。
ただ1週間断食したからといって炎症性腸疾患で認められるような下痢・腹痛・血便などの症状が認められたわけではありませんし、先ほども述べましたようにむしろきれいでコロンとした便が出ています。
腸内細菌の種類と炎症性腸疾患との関連は様々な研究結果で言われているのかもしれませんが、
「炎症性腸疾患で多く認められる腸内細菌がいる」≠「炎症性腸疾患である」ということは成立するのではないかと私は思います。
ましてや1週間断食していきなり大腸癌ができるとも到底思えません。今回の腸内細菌の変化を受けて私の大腸画像検査おすすめ度は前回のおすすめ度「低」からおすすめ度「中」へと上がっておりました。
これもまたこの菌がいることが必ずしも大腸癌があることを示すとは限らないということの逆証明になったのではないかと思います。
それから腸内フローラのバランスとしては断食前はほとんどいなかったプロピオバクテリア門とフソバクテリア門が急上昇しており、逆にファーミキューテス門の割合がかなり減少しています。
前者は食事からの栄養がなくても生きられる腸内細菌、言い換えれば絶食によって生じる血中のケトン体をエネルギー源にして生存しやすい腸内細菌だと言えるかもしれません。
ただしこのレポートでは腸内細菌の絶対量がどうなったかまでは示されません。それもそのはず検体はあくまでも便のごく一部です。
従ってみているのはあくまでも腸内細菌のバランス変化です。それにしても食事を与えたときと与えない時とで活躍する菌が変わってくるというのは面白い所かもしれません。
かと思えば、太りやすさを示すFB比は絶対固定的な数値なのかと思いきや、1週間断食によって見事に改善しています。
ファーミキューテス門が減り、バクテロイデーテス門が増えるという腸内細菌変化が起こったためでしょう。
ところがそれに伴い私の太りやすさは実感を持って変わったかと言いますと、断食後に十分体重増加しないよう注意して食べていたにも関わらずものの数日で断食前の体重に戻ってしまいました。
そういう意味では太りやすさの数値変化と実際の現象は相関していないということも言えそうです。
とはいえ、相関していないのは断食という急激な腸内細菌環境変化刺激を加えた状況に限った話であり、
普通に同じ食事パターンを摂っている場合は、十分に相関しているという可能性は否定はできません。
ですがあくまでも相関関係、これらは因果関係とはなり得ないということは今回の実験結果からも言えるのではないかと思います。
少なくとも太りやすさの理由を腸内細菌の側面だけで説明するのは困難と考えざるを得ません。
最後に、今回の腸内フローラ事件でわかった事をまとめておきましょう。
・バランスの偏った糖質制限を続けていても腸内細菌の多様性が高い状況を作ることは可能である
・腸内細菌から推測する疾患予測、太りやすさの指標は、あくまでも疫学研究から導かれた相関関係に基づくものというだけのものであり、断食刺激により容易に変化しうる
・断食により増加する腸内細菌と減少する腸内細菌とのパターンがある
・腸内フローラの結果から得られる食事の改善アドバイスはあくまでも参考程度。実際には自分の身体で試し検証するしかない。
なお、もとのスーパー糖質制限食に戻すと元の腸内フローラに戻るのかどうかは未確認ですが、できれば確認してみたいところです。お金はかかってしまいますけれど・・・(^-^;。
ちなみに腸内フローラを改善するための食事アドバイスの概念に補菌食材(プロバイオティクス)と育菌食材(プレバイオティクス)という概念があります。
腸内細菌を変える事自体は至難の業ですが、補菌食材と育菌食材をコンスタントに摂取し続けていれば、その摂取期間中だけは腸内細菌を変更させることに成功できると言われています。ただし本当にそうなのかどうかは未確認です。こちらもできれば確認したい所ですが、何度か検査しないと確認が難しそうです・・・。
それからプレボテラ属菌に対するバクテロイデス属菌の割合「PB比」が高い人だと、高FP食(高食物繊維・高タンパク食)をするとダイエット効果が高いと言われているそうで、私はそのPB比が高いのですが、
実際にレポートの中で勧められる食材は「果物」「納豆」です。「納豆」はまだしも「果物」は糖質制限的にはかなりNGの食材なので、ちょっと実験するのも難しそうです。
以上、私の腸内フローラ実験シリーズでした。
皆様も一度は御自分の腸内フローラを確かめてみられてはいかがでしょうか。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ケトン食とバクテロイデス属
また下記海外論文はケトン食によるバクテロイデス属増加と小児てんかん患者の発作抑制の相関、さらにマウス実験での腸内細菌叢と脳の関連で発作抑制効果や抗炎症効果などバクテロイデス属増加によるメリットを示しています。
https://lifeapps.io/nutrition/does-a-ketogenic-diet-change-our-microbiome/
では逆に高炭水化物食で増えるプレボテラ属ですが、近年の多くの研究で糖尿病、リウマチ、間接炎症等に関連していることが解っています。https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4274/
どうも一般に栄養士や医師がよく言う「良い腸内環境のため炭水化物を含むバランスのいい食事を取りましょう」とはプレボテラ属を増やし、バクテロイデス属を減らす食事に他ならないかも知れませんね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
Re: ケトン食とバクテロイデス属
コメント及び情報を頂き有難うございます。
腸内細菌の変化は原因なのか結果なのか、それともそのどちらも何か、なかなかわかりにくい所です。
ケトン食の効果もバクテロイデス属が増えたから効果が出たという事より、高ケトン環境をたまたまバクテロイデスが好んだというだけのことかもしれませんし。
今回の私の実験では、少なくとも腸内細菌の変化が原因で全てが決まってしまうという程のインパクトはないという事はわかったように思います。
No title
因果関係は不明で、先生の仰る通りと思います。先の海外論文では「ケトン食で増える菌を抗生物質で抑えたマウスでは発作抑制効果が消えた」とありますので何らかの相互作用の可能性はありますが、結論的にはケトン食効果のマーカーにはなりえるです。ちなみに欧米の先進的フィットネス界ではバクテロイデスがケトジェニックダイエット成功のマーカーとしてもとらえられています。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> ちなみに欧米の先進的フィットネス界ではバクテロイデスがケトジェニックダイエット成功のマーカーとしてもとらえられています。
なるほど、確かに私のバクテロイデスの割合は低いですし、
太りやすさを表すFB比もバクテロイデスが低ければ低いほど、値が大きくなる数値です。
一方で私の1週間断食後にバクテロイデスの割合は増加していますが、それでもまだ平均集団に比べて低い数値です。
確かに私のデータから考えても「バクテロイデスがケトジェニックダイエット成功のマーカー」という説、今のところ矛盾ないようですね。今後も追加検証できればと思います。
野生動物ではよくある絶食状態
絶食により消化管に入ってくる食事量が激減すれば、そこの生態系が大きく影響を受けるだろうと予想していたので、それほど驚いた結果ではありませんでした。
冬籠りするクマの夏季・冬季の微生物叢解析をされた論文を読んだのですが、絶食による微生物叢の変化は似たような傾向が現れるという印象を受けました。
以前、先生も冬眠について言及されていましたが、クマは冬籠り中、体温もさほど低下せず、飲まず食わずに加えて糞尿の排泄を行わず、さらにメスはその間に出産・授乳して仔グマを育てます。
そういった動物の生態などを参考に、自然界だとありふれた絶食状況を、飽食環境に逆らって意識的に作り出し、富栄養化している消化管内環境と過栄養状態に傾いているエネルギー代謝をグイっと揺り戻すやり方が、制限食療法や絶食療法などで、それが自然界の流れに逆らわないイイ感じの食養生なのかもしれません。
一方、昨今のガーデニング・家庭菜園ブームで広く知られるようになりましたが、水や肥料を極力抑えて育てる永田農法もまた、西式甲田療法などと類似点が多い印象を受けます。
動物も植物も、通説では厳しいと考えられる栄養制限をしたときの変化は、共通する部分がずいぶんあるのかもしれないと考えるようになりました。
【参考文献】
Felix Sommer, et al. “The Gut Microbiota Modulates Energy Metabolism in the Hibernating Brown Bear Ursus arctos.” Cell Rep. 14(7), 1655-1661, (2016). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26854221
Re: 野生動物ではよくある絶食状態
コメント及び情報を頂き有難うございます。
御提示の論文、是非読んでみたいです。
また生存を困難にする刺激が潜在能力を引き出すという構造が動物だけでなく植物にも共通する話だと思うと大変興味深いです。
永田農法、ですか。是非とも勉強してみたいと思います。
フルーツトマト(高糖度トマト)
糖質制限派の先生は、たとえ野菜でも“甘い”と聞くと、なるべく避けるようにしているのかもしれませんが、小売店の野菜コーナーで“フルーツトマト”をみかけたことがあると思います。先の漫画で紹介されていたのも、これです。
高糖度トマトは特別な品種のトマトではなく、かれこれ30年以上前より市場に出始めた”桃太郎”という品種で、育て方が違うだけです。
成人男性の握りこぶし大くらいあるふつうの桃太郎トマトと、一口大の饅頭くらいのフルーツトマト、ぜひ食べ比べてみてください。
Re: フルーツトマト(高糖度トマト)
コメント頂き有難うございます。
あえて過酷な条件を与えて植物の潜在能力を引き出す永田農法によって作られた作物がどのような味がするのかは大変興味があります。私は糖質制限を実践しつつも、状況に応じて臨機応変に対応する姿勢ですので、「フルーツトマト」、是非一度食べてみたいと思います。
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