7日間絶食時の詳しい血液検査データの解釈

2019/05/26 00:00:01 | 断食レポート | コメント:8件

前回は7日間断食後の血液検査データを御覧頂きました。

過去にも5日間断食の血液データを載せた事がありますが、その続きとして見ても面白いと思います。

私にとっては既知のデータも多いですが、今回はかなり詳しい所までデータを取ることができたので、

はじめて気が付くことも多かったように思います。本日はこの7日間断食後のデータを見て私が感じたことを、

ざっくばらんに語ってみたいと思います。 まず今回も尿酸、LDL-コレステロール、ケトン体は著しく急上昇です。

食べてないのにLDLコレステロールが上昇すると、こういう所からも食事とコレステロール上昇が相関していないことが見て取れると思います。

このLDL上昇で動脈硬化リスクのイメージが結びつく方もおられるかもしれませんが、中性脂肪が正常下でのLDLコレステロールは質の良いものだと言われています。

ただ今回、LDLの上昇の具合は、5日間断食の時に比べて緩やかなものとなっています。

LDLコレステロールは炎症の現場に動員されるコレステロールです。今回炎症反応(CRP)が微増していますが、その修復のために消費されたということなのかもしれません。

いずれにしても、いつも断食した時に尿酸、LDLコレステロール、ケトン体の3者は他よりその上昇具合が際立っているので、

代謝変更、あるいはエピジェネティクスでの環境適応のために中心的な役割を果たしている可能性があるのではないかなどと妄想しております。

あとは気が付いた事としては、レニン、アルドステロン、ノルアドレナリンといったストレス反応系のホルモンが上昇傾向にあります。またドーパミンも基準内ではありますが、5日間断食時と比べて上昇傾向なので同様の意義があると思われますが、

7日間絶食という強力なストレスに何とか頑張って適応しようとしている身体の努力を垣間見ることができます。

HVA(ホモバニール酸)はドーパミンの最終代謝産物なので、ドーパミンが上昇した事と連動している現象です。

エリスロポエチンは貧血や低気圧時に産生刺激される造血因子ですが、これが低いというのはどういう意義があるのでしょうか。
そんなものを使わなくても十分に血液は供給できているので、無駄なエネルギーを消費しないための身体の工夫でしょうか。

長時間絶食しているにも関わらず、蛋白質、ビタミン、ミネラルは減少しないどころか、亜鉛、銅、ビタミンB12などの一部の物質は上昇さえしています。

ただ今回5日間断食の時と違って、ビタミンAのみは基準値を下回る数値となりました。

同じ脂溶性ビタミンのビタミンEもよくみると5日間断食の時と比べてより低い値を示しています。

一方で水溶性ビタミンのビタミンB12が逆に上昇しているのは、体内にプールされたビタミンB12の貯蔵庫より引き出された可能性があるわけですが、

脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンとで長期間絶食時の維持のされ方に違いがあるということなのでしょうか。

そして今回新しく分かったこととして39種のアミノ酸分析についてですが、

下がっているアミノ酸、上がっているアミノ酸が所々にありますが、トータルのアミノ酸は7日間断食にも関わらず無事に維持されているというのと、

その中でも分枝鎖アミノ酸や必須アミノ酸などの重要なアミノ酸がとりわけ多めに維持されている所に注目です。

さらにフィッシャー比という数値が高値を示していますが、これは分枝鎖アミノ酸と芳香族アミノ酸の比をとったもので、肝硬変や劇症肝炎などではこの数値が下がると言われています。

すなわち肝臓の機能が低下すると、なぜかは不明ですが、芳香族アミノ酸が増加し、分枝鎖アミノ酸が減少するという現象が起こる、すなわちフィッシャー比が低下するというのです。

分枝鎖アミノ酸は筋肉の合成に関わるというだけではなく、肝臓のエネルギー源になったり、アンモニアの解毒にも役立つということで、

肝性脳症の治療にも使われてたり、筋肉の分解を防いだりする目的で投与されるのですが、

そのフィッシャー比が高いということは筋肉の分解が起こらない方向や脳がクリアになる方向へ代謝がシフトしている可能性が示唆されます。

断食が72時間を超えると心身が研ぎ澄まされた感覚を覚えることがあるのですが、その実体験にも通じるようにも思えましたし、

脂質代謝を十分に利用することができていれば、身体の蛋白質は容易に分解されないし、ビタミンやミネラルも簡単に欠乏しないことを改めて実感することができました。

逆に言えば糖質制限で筋肉がどんどんやせていくという人は全然脂質代謝が使えていない可能性が高いことにもなると思います。

それは大きくみれば、単純に脂質エネルギー摂取不足か、もしくは慢性持続性ストレスに伴う糖代謝過剰運転状態での脂質代謝回転不良の二つが主な原因となるのであろうと推察されます。

とはいえ、脂溶性ビタミンの減少傾向については油断できないので、なぜそうなるのか今後考察を深められればと思っています。

ざっと感想を述べて参りましたが、本当はもっとじっくり検証したいデータも目白押しです。

皆さんも何かお気づきの点がおありでしたら、是非コメントをお寄せ頂ければと思います。

引き続き自分のデータをじっくりと見つめ、また気付きがあればシェアさせて頂きます。


たがしゅう
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コメント

中性脂肪/HDL-コレステロール比

2019/05/27(月) 09:40:36 | URL | 名無し #-
貴重な人体対実験ご苦労様です。
とても興味深く読ませていただきました。

 血液データについてですが、私が気になったのは★HDL-コレステロール(mg/dL) 41 (基準値40-86mg/dL)★で基準値以内ですが、それにしてもぎりぎりの低値だと思います。

 これは、たがしゅう先生の血管状態が★HDL-コレステロールの出番が少ない⇒良好な状態★という解釈でよろしいでしょうか?

 しかし、★中性脂肪(mg/dL) 122 (基準値33-149mg/dL)★となっており、★中性脂肪/HDL-コレステロール比=122/41=2.9756★となります。

 ところで、"ドクターシミズのひとりごと":「中性脂肪/HDLコレステロール比と酸化ストレス( http://promea2014.com/blog/?p=4537 )」によれば、★中性脂肪/HDL比は1.3以下が理想的であると考えています。2以上になっている人はすでに体の中で酸化ストレスがかなり増加しているかもしれません。★と有りますが、たがしゅう先生はどの様に解釈なされるでしょうか?

 今回の血液データにおける★中性脂肪/HDL-コレステロール比★は、断食による一時的な結果という事でしょうか?

Re: 中性脂肪/HDL-コレステロール比

2019/05/27(月) 12:53:14 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
名無し さん

 コメント頂き有難うございます。

> たがしゅう先生の血管状態が★HDL-コレステロールの出番が少ない⇒良好な状態★という解釈でよろしいでしょうか?

 これは正直言ってよくわかりません。わからないことは私は「保留」としています。
 ただ言えることとしては、私のHDLコレステロールは糖質制限実践前も後も40前後でほとんど変化がないということです。

> 「★中性脂肪/HDL比は1.3以下が理想的であると考えています。2以上になっている人はすでに体の中で酸化ストレスがかなり増加しているかもしれません。」
> たがしゅう先生はどの様に解釈なされるでしょうか?


 私は糖質制限を実践していてもある程度の肥満が残存するタイプの体質の人間ですので、
 肥満に伴う慢性炎症のため酸化ストレスが生み出され続けている可能性はあると思います。その炎症修復のためにLDL産生増加でバランスを取っているという見方も可能です。ただし、中性脂肪/HDL-C比についても糖質摂取者においてのデータなので、こちらもはっきりとしたことはわかりません。

非常に興味深いデータです

2019/05/27(月) 20:47:11 | URL | ドクターシミズ #L8AeYI2M
たがしゅう先生
いつも興味深いデータの提供ありがとうございます。

他の方も指摘されているように、やはりHDLはかなり低いですね?5日間断食のときは50以上になっているので、それよりも低いというのはなぜでしょうかね?中性脂肪も5日間のときよりもかなり高めです。
中性脂肪は断食なので、カイロミクロンは皆無でしょうからVLDLのTGです。体のエネルギー源のほとんどは脂肪から得られるはずなので、中性脂肪は消費され、低値を示してもおかしくないはずです。ケトン体が大量にできたために、もしかしたら、中性脂肪さえあまり消費されなくなったのでしょうかね?
非常に面白いです。

また、1.5AGがかなり低めだと思います。12ということはおおよその食後血糖値が180に近い値です。しかし、今回は断食です。7日間も断食すると1.5AGもじわじわと低下するのでしょうか?

更に、フェリチンが大きく上昇しています。CRP微増で炎症が起きているとの解釈ですが、これくらいの炎症でフェリチンがこんなに上がるとは思えません。絶食により肝臓、筋肉などの様々な細胞が分解したと考えた方が良いのかもしれません。
でも、これだけのケトン体ができていれば、抗炎症作用が強く発揮されてもよさそうですが、CRPさえ違う意味を持つ可能性もありますね?

まだまだ人体は分からないことが多いですね?また、貴重なデータがあれば教えていただけると幸いです。

Re: 非常に興味深いデータです

2019/05/27(月) 21:20:04 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ドクターシミズ 先生

 コメント頂き有難うございます。

> HDLはかなり低いですね?
> 中性脂肪も5日間のときよりもかなり高めです。
> ケトン体が大量にできたために、もしかしたら、中性脂肪さえあまり消費されなくなったのでしょうかね?


 関係あるかどうかわかりませんが、
 2013年に8日間の断食にチャレンジした時のケトン体の最高値は6日目の8156μmol/L(3-ヒドロキシ酪酸値)です。
 今回の7日目の3-ヒドロ酪酸値の7626μmol/Lよりも高い数値です。

 想像ですが、以前よりも自分の中でケトン体をエネルギーとして用いる効率性が高まったのではないかと、その結果同じ断食期間でもケトン体が消費されやすくなり、血中に残るケトン体が少なくなりやすくなったのではないかと想像しています。
 ただその流れで行けば、先生も御指摘のように中性脂肪もより低値になっていそうなものなんですけどね。正直言ってわかりません。

> 7日間も断食すると1.5AGもじわじわと低下するのでしょうか?

 1,5AGの低下は通常は、グルコースと構造が類似しているため尿細管でのグルコース再吸収を競合阻害することから、尿糖陽性の反映、ひいては食後高血糖の上昇を反映する所見だと思いますが、断食の場合はその原則の例外で、単純に食事性の1,5AGが吸収されないことで低下するというケースです。これについては以前江部先生が解説なさっていました。

 2008年4月14日(月)のドクター江部の糖尿病徒然日記ブログ記事
 「糖質制限食と1,5AG」
 http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-390.html
 も御参照下さい。

> フェリチンが大きく上昇しています。
> 絶食により肝臓、筋肉などの様々な細胞が分解したと考えた方が良いのかもしれません。
> CRPさえ違う意味を持つ可能性もありますね?


 今回は特別な運動もせずにいつも通りに時間を過ごしたのですけどもね。
 身体の中で何かを打破しようと起こった炎症なのかもしれませんが、こちらも現時点ではっきりとしたことは私もわかりません。

 今後も引き続き考え続けたいと思います。

No title

2019/05/28(火) 17:42:23 | URL | Etsuko #-
いつも興味深い記事をありがとうございます。
この度も、身体を張った実験大変お疲れ様でした。

血液データって詳細な項目が沢山あるのですね。
まず驚きました。

血液データの変化を見ると、断食が、
ヒトの代謝に変化を起こす事が良く分かります。

ヒトの身体は謎だらけ。

その様な変化を起こす理由の一例として、
断食による腸内フローラの変化を考えてしまいます。
断食の期間に比例して激変するのでしょうね。
先生の以前のブログ記事にも挙げられた
「食べない人たち」の腸内細菌も注目です。
細菌の働きは無視できない影響だと思います。

少し話がずれますが、先生の動画を拝見しました。
【1分で解説!】シャンプーはしない方がいい

私もお湯シャンです。
顔の肌も同様の考え方で、皮脂を摂り過ぎず、
人口水分、油分は使わず、保湿は自分の皮脂です。
8年以上このスタイルですがトラブル無しです。
細菌との共存のおかげだと思っています。

正常な皮膚のバリア機能のためには、
表皮ブドウ球菌など細菌の共存が必須です。
人体は、人間と細菌の共有物だと思います。

断食が、細菌にも影響し、
共有物である人体に大きな変化をもたらすのは
疑いのない真実だと思います。

Re: No title

2019/05/28(火) 18:22:43 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

 断食による腸内フローラの変化に御興味をお持ちのようですね。
 実は近々興味深いデータを出せるかもしれません。どうぞお楽しみに。

> 先生の動画を拝見しました。
> 【1分で解説!】シャンプーはしない方がいい


 動画を御覧頂き有難うございます。
 目下YouTubeでいろいろと試行錯誤中です。

 糖質制限もシャンプーレスも自然重視型、不自然なものを除去するという点で共通していると思います。

2019/05/28(火) 23:06:17 | URL | #-
ブログ拝見させていただいています。

フェリチンについて考察してみました。
フェリチンは肝細胞などを中心に全身に存在するとのことですが、

今回の断食で飢餓を察知した体が
エネルギー代謝を効率化するために

全身の細胞のミトコンドリアを賦活、増殖させようと血液中に
フェリチンを放出した(肝細胞等から)、という可能性はありますでしょうか

医学の知識のない素人なので見当外れならすみません。

Re: タイトルなし

2019/05/29(水) 01:51:42 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
> エネルギー代謝を効率化するために
> 全身の細胞のミトコンドリアを賦活、増殖させようと血液中に
> フェリチンを放出した(肝細胞等から)、という可能性はありますでしょうか


 コメント頂き有難うございます。

 可能性は否定できないと思います。
 というのも絶食を解除すれば、フェリチンは低下していきます。

 一般的にはフェリチン=貯蔵鉄と評価されるので、絶食を解除すればフェリチンが増えないとおかしいですが、その前提から考え直す必要があるかもしれません。貴重なご意見に感謝申し上げます。

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