患者が医師に相談しにくい3つの理由
2019/05/19 00:00:01 |
素朴な疑問 |
コメント:2件
今の医療の中で個人的に気心の知れた医師であればらまだしも、
患者さんが自分の思いのたけを気兼ねなく医師に相談するのは非常に難しい構造があるように思います。
それには大きく3つの理由があります。
まず一つ目は「医師が忙しそうにしているから」です。 生活習慣病を中心に様々な慢性疾患が増え続けて、医療の現場がどこも慢性的な人手不足状態となり、
多くの場合、たくさんの患者さんの診療をこなすために一人当たりに医師がかけられる時間が少なくなっているという問題があります。
あるいはそうしなければ経営が成立しなくなるという保険医療制度が絡んだ問題も複雑に関わっているように思います。
その結果、患者さんは「忙しそうにしている先生に自分のことをじっくり相談するのは悪いから」と、自分の本音を押さえ込んでしまうのです。
あるいは普段からそうした忙しそうな医師達の姿を見ていることで、あるいは世間でのそんなイメージがいつのまにか刷り込まれていることによって、
別に医師が忙しそうにしていなくても、患者さんの方が自ら訴えを引き下げてしまうこともこのパターンの亜型と言えそうです。
二つ目は、「医師からの説明が専門用語が使われ過ぎていてわかりにくい」です。
難しい話を難しく伝えるのは簡単ですが、難しい話をわかりやすく伝えるにはある程度の技術が必要です。
医師にはその技術があまり優れていない人が多いという印象が私にはあります。
その理由は察するに、医療者は医療者どうしのコミュニティだけで世界が完結している場合が多くて、
医療者どうしのコミュニケーションでは、専門用語を使って会話をした方が正確で効率的な情報交換をすることができるため、
どうしても普段の会話から専門用語ばかりを使うことが多くなり、内容を噛み砕く必要に駆られる場面が少ないからです。
それでも患者さんに説明する場面は医師が噛み砕くべき場面であるはずなのですが、
多くの患者さんは医師に対して無条件で上下関係を感じて遠慮がちにしてしまうため、
医師の噛み砕きがたいしたレベルに達していなくとも、患者さんはなんとなくしかわかっていなかったとしても
「詳しいことはよくわからなかったけれど、とにかく先生にお任せしていればいい」という感じで受け入れてしまい、
医師も自らの噛み砕き能力の低さの問題に気付くことなく、それ以上わかりやすく説明しようとする努力をするモチベーションが働かなくなってしまうのです。
とある非医療関係者の方に「医者のプレゼンはほとんどが下手」という意見を聞いたことがありますが、
上記の流れを踏まえれば、それもさもありなんと感じる次第です。
そして3つ目ですが、「そもそも自分の意見を聞いてくれそうな医者がいない」ということです。
医者は自分が専門家だという自負を強く持っている人が多いと私は感じています。
より簡潔に言えば「プライドが高い」わけですが、ここではそのプライドが患者さんとのコミュニケーションを難しくします。
お題目としては「患者中心の医療」だと掲げていても、
実際の行動としては「素人はむやみに判断せずに、専門家たる医師の意見に従っておくべき」と考える医師がほとんどです。
勿論、患者さんが明らかに間違っていることを言っているのだとすれば、それをより適切な方向へ軌道修正するのはプロの仕事としては重要なわけですが、
はなから患者さんの話をまともに聞こうとしないというのでは似て非なる話です。
医療はガイドラインという指針が横行するのが当たり前の世界となりましたから、
多くの医師はこのガイドラインの価値観を自らが勧める治療方針の判断基準とします。
その結果、ガイドライン外の治療を患者さんが希望した際に、それを吟味することなく否定したり、
なぜそのような発想に患者さんが至ったのかについて想いをはせることもなく、相談にたいしてまともに取り合わない行動をとってしまったりする実情があるように思います。
常日頃、医師に相談してもそんな対応を受けるものだから、患者さんの中には「どうせ相談しても無駄」感が無意識下に漂ってしまうのではないでしょうか。
これらの3つの医師に相談しにくい要因を克服するには、医師が「忙しくなさそうで、説明がわかりやすくて、どんな意見も全否定せずに聞いてくれる」ようになるのが一番ですが、
そんな医師が周りにいない場合の次善の策としては、「よき仲介者を見つける」というのがあると思います。
例えば、医師への直接相談が難しければ、看護師さんや事務員さんへワンクッションおいて相談してみるですとか、
介護保険を利用している人であれば担当のケアマネージャーさんに相談してみるですとか、
以前講演を御一緒させて頂いた宮崎県のフリーナース、Mrs.GAGAさんがされている活動もそういう側面があると思いますが、
こうした方々が忙しそうな医師へ時間を確保してもらうよう頼み、患者さんの相談事項の要点をまとめておくことで、
患者さんが医師へ相談する場合のハードルは少し下がるように思います。
しかしながら、三つ目の要因の「そもそも医師がまともに患者の話を聞かない」という所だけは、仲介者がいくら努力してもどうしようもありません。
ですので、医師が患者さんに相談に乗ってもらいやすいと思ってもらえるように進化することに勝る解決策はないのです。
私はそんな医師へ進化できるよう努力を続けたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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医師=神との一般人感覚
特に田舎では。
例えば、限界集落とも言われる村、病院や大型店舗や遊興施設の無い村に、学業優秀な子供がいたとします。
決まってその子は周辺から「是非医者になって、この村に帰ってきて」と懇願されます。
弁護士でも社長でも国会議員でもなく第一に医者なんです。
山間部では、神々に対しての崇高な儀式が根付いており、病気祈祷も真面目に行われています。
「病」からの解放は村民の普遍の願いであり、医者の存在は神の存在に同等です。
だから、神様仏様お医者さまと崇められます。
その世間の認識に胡座をかくか、自分を律していけるか。
その医者個人の、医者に至るまでの生き様が、世間とのギャップの広さとして表れるのでしょうね。
Re: 医師=神との一般人感覚
コメント頂き有難うございます。
> 一般的な感覚からすると、医師=神にほぼほぼに近い存在
> その世間の認識に胡座をかくか、自分を律していけるか。
真摯に受け止めるべき御意見と思います。
確かに医師は無条件で奉られる所があります。
いくら謙虚な医師でも、繰り返し奉られ続ければ、不要なプライドが形成されていくものです。
その奉りにあぐらをかくのはとても簡単です。
しかし安易にその流れに乗らないよう常に謙虚さを忘れない医師でありたいと思います。
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