基本を理解し、特殊へも適応する
2019/04/06 00:00:01 |
読者の方からの御投稿 |
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ブログ読者のきよすクリニック 先生から、
前回記事の「タンパク質の節約作用を勘違いしない」について貴重な御意見を頂きましたので、
今回はその意見を参考に、さらにこの件に関して思考を深めてみたいと思います。
(以下、頂いたコメントより一部引用)
まず、ケトン体エネルギー代謝がメインになった人では、糖質をほぼ摂取しなくても筋肉量が維持できることは置いておきます。
厚生労働省の資料によれば(89ページ)、
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042630.pdf
「2─1─3.エネルギーのたんぱく質節約作用
たんぱく質利用効率は、たんぱく質、アミノ酸、総窒素の摂取量により変化する。また、窒素化
合物以外の栄養素の摂取量によりたんぱく質代謝は影響を受ける。エネルギー摂取量のたんぱく質
代謝に対する効果は、エネルギーのたんぱく質節約作用として古くから知られている 2)。エネルギ
ー不足はたんぱく質利用効率を低下させ、逆にエネルギー摂取が増すと窒素出納は改善される 3)。
これにはインスリン分泌の増加によるたんぱく質合成の促進、分解の抑制が寄与している。」
とあります。
たんぱく質にもインスリン分泌作用がありますが、糖質摂取によるインスリン分泌量よりは少ないため、ボディビルやトレーニングなど、筋肉を大きくする目的であれば、糖質を摂取したほうが、たんぱく質の合成という点では有利かもしれません。
一方、日常生活に必要な筋肉をつける程度の筋肉運動、すなわちボディビルなど筋肉を大きくすることを目的とした以外では、筋肉のグリコーゲン補充は肝臓や(最大40%の)腎臓での糖新生でまかなえるでしょうから、ケトン食やスーパー糖質制限食など、低糖質にするメリットが上回る場合や糖質摂取によるインスリン分泌→たぱく合成促進のメリットが上回る場合などケースバイケースになりそうです。
慢性腎不全の低たんぱく食療法では、
・腎機能低下による腎でのインスリン分解能・糖新生低下により、血糖はあまり上昇しない、
・低たんぱく食により、糸球体ろ過圧が低下する、
・低たんぱく食により、窒素負荷による高窒素血症が解除される、
・低たんぱく食により尿細管のオートファジーが誘導される、
ことで、高糖質食のデメリットより低たんぱく食のメリットが上回る。
オートファジーは、
・カロリー不足(制限)
・インスリンシグナル低減
・アミノ酸不足
により導入されますが、ボディビルや筋トレなどの場合は、長寿や健康より筋肉を増やすことそのものが目的のため、オートファジーは問題とならない、ということになると思います。
(コメント引用、ここまで)
非常に興味深いコメントです。きよすクリニック先生は出浦先生方式のタンパク質0.5g/kg/日以下の慢性腎不全に対する徹底した低タンパク食について造詣が深い先生です。この件については以前もブログ記事にしたことがあります。
さていくつか論点があると思いますが、
まずは「エネルギーがタンパク質を節約する本質的な要因はインスリン分泌の増加がないことにある」というところです。
前記事で私は糖質でエネルギーが不足していても、脂質でエネルギーが補われていればタンパク質の分解は節約される」ということを指摘しましたが、
その節約はインスリンの過剰分泌が起こっていなかったというのが本質的な要因だという御意見だと思います。
それはその通りだと私は思いますが、御指摘頂いているようにタンパク質摂取でもインスリン分泌は刺激されます。
ただタンパク質摂取の場合は、インスリンと同時にグルカゴンが分泌刺激されるため、膵臓のβ細胞機能が正常なら血糖値には反映されないだけで確かにインスリンは分泌されます。
では糖質制限食であってもタンパク質はしっかり摂取するわけですから、いくらケトン体エネルギーがあってもインスリンが分泌されるためにタンパク質の節約作用が起こらないのではないかという疑問が出てきます。
これに関しては、事実重視型思考を発動しますが、糖質制限実践者からの筋肉量は落ちないという事実が様々な方から報告されていますので、
糖質制限食ではタンパク質の分解は起こらないというのが事実としてあるということになります。
そうなると私の仮説ですが、おそらくタンパク質によるインスリン分泌量は、身体の中でインスリン分泌過多としてはカウントされないのではないかと思います。
つまり平常状態なので、インスリンが分泌されることによる抑制効果は起こっていないと、だからこそケトン体も上昇するのだと考えることができます。
次に「筋肉量増加を目的とするならば糖質摂取した方が有利で、オートファジーは問題とならない」についてですが、
これは私もその通りだと思います。筋肉量を増加させるためにはインスリンを分泌させ、その同化作用を存分に発揮させる環境を作ることが目的に適うでしょう。
そしてその目的のためであればオートファジーを働かせる必要はありません。
オートファジーはあくまでも現状維持、恒常性維持のためのシステムですから、筋肉を増やすことで現状を変えようとしている人にとっては無用の長物です。
ただ筋肉増量目的の糖質摂取は、そのメリットと引き換えに高インスリン血症のリスクを抱え込むことにはなると思います。
増大した筋肉量で消費されるだけのちょうどいい糖質量であればよいですが、なかなかそのちょうどいい所は体感的によくわからないのではないかと思います。個人差もあるでしょうしトライ&エラーの世界です。
そうなると時には多すぎる糖質摂取で高インスリン血症の害を受けることもあるでしょうし、
筋肉増量を成し遂げるための運動量が過負荷となって酸化ストレスを生み出すリスクもあるでしょう。
それに育った筋肉を維持するには一般的な日常生活を続けるだけではダメで、一定の筋肉負荷をかけ続ける生活習慣を維持したいと思う限り続けていく必要がありますので、
そうした筋肉負荷をかけ続けるリスクと常に向かい合うということになります。
それにも増すほどのモチベーションややりがい、ポジティブな思考を手に入れられる人であればよいですが、
そこがうまくコントロールできない人は運動は筋肉がつくかもしれないけれど、一定のリスクを伴う行為だと私は考えています。
また糖質を摂取してインスリン過剰分泌のシステムを利用して筋肉量を増加させることは、一種のドーピングのようなものだとも考えています。
筋肉量が増加するメリットと引き換えに限られた能力を一点集中的に用いるために長寿という視点からは遠ざかってしまう可能性があると思っています。
もっと平たく言えば、「マッチョの人は長生きできるのか」という疑問です。これについてはまだ信頼できる資料に辿り着けていないので、もし情報をお持ちの方がいらっしゃればシェアして頂けると有難いです。
ともあれ、まとめると「筋肉量増加のためには糖質摂取が有利だが、それが長寿につながるかどうかは定かではない」ということになります。
最後に、「慢性腎不全の低タンパク療法では高糖質のデメリットより低タンパクのメリットが上回る」という点に関してですが、
これに関しても私は同意見です。
あまり知られていませんが、実は腎臓でも肝臓ほど多くはないものの糖新生が行われています。
腎不全の方においては糖新生能力が弱いのと、インスリン分解能が弱まり、インスリンが本来以上に効きすぎて低血糖のリスクが高まるという点において、
対症療法的ではあるものの、若干糖質が入っていた方が好調を維持できる可能性は確かにあります。
で、その糖質摂取による血糖上昇及びそれに伴うインスリン分泌が人体が過剰とみなさない程度においては、
この状況において非常に重要となるオートファジー、即ちタンパク質の分解・再利用システムが維持されて、
なおかつ積極的な低タンパク療法によって腎臓への負荷を減らすことができて、糖質のデメリットよりも低タンパク質のメリットが上回る状況を作ることができます。
オートファジーが稼働できる状況ならケトン体利用も大丈夫なので、その糖質摂取量がケトン体産生を抑制しないレベルであれば、なおよいとは考えますが、
そういうことを考えますと、ニュアンス的には慢性腎不全の食事としては中糖質+低タンパク質のイメージでいくのが一番安定的なのかもしれません。
この場合はタンパク質を節約させる栄養素は糖質と脂質の両方を上手にバランスよく使っていうイメージです。
逆に言えば脂質だけを利用する状況にすると適応できないのは、それだけ過去に糖質に依存してきたが故の名残りとも言えるかもしれません。
長く糖質頻回過剰摂取を繰り返してきたが故に、今さら脂質代謝中心のシステムでやっていくには代謝が錆びついてしまっているということです。
いずれにしても、こうした特殊状況への考慮はその都度必要だとは思いますが、
安定的に長寿を目指せる現時点で最も妥当な食事法はやはり、糖質制限+高脂質・高蛋白質が基本だと私は考える次第です。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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