タンパク質の節約作用を勘違いしない
2019/04/03 00:00:01 |
お勉強 |
コメント:6件
「糖質にはタンパク質の分解を防ぐエネルギーの節約作用がある。だから糖質制限をしていても筋肉を減らさないために少量の糖質摂取は必要だ」という意見があります。
これは生理学で学ぶ「エネルギーのタンパク質節約作用」と呼ばれる理論で、「食事にタンパク質以外のエネルギーが十分含まれていると,食事タンパク質が効率よく体に同化される」という考え方のことです。
この考え方を元に述べられた上述の意見なわけですが、元の理論にはタンパク質が分解されないために必要なエネルギー源は糖質でなければならないとは一言も書かれていません。
糖質ではなく脂質由来のエネルギー源であっても、エネルギーが確保されていればタンパク質の分解は起こらないのです。なぜならばエネルギーは足りているからです。
参考までに生理学の大著、ガイトン生理学(原著第11版)には次のように書かれている箇所があります。
ガイトン生理学 原著第11版 大型本 – 2010/8/26
アーサー・C. ガイトン (著), John E. Hall (著), 御手洗 玄洋 (翻訳), 間野 忠明 (翻訳), 小川 徳雄 (翻訳), 永坂 鉄夫 (翻訳), 伊藤 嘉房 (翻訳), & 1 その他
(以下、p915-916より引用)
炭水化物と脂肪は"タンパク質節約物"として働く:
食事に炭水化物と脂肪が豊富に含まれると、体エネルギーのほとんどすべてがこの2つの栄養素から得られ、タンパク質はほとんど用いられない。
そのため、炭水化物と脂肪の両者をタンパク質節約物 protein sparers という。
逆に、飢餓状態で、炭水化物と脂肪が枯渇してしまうと、貯蔵体タンパク質がエネルギー源として急速に消費され、
1日のタンパク質消費量が正常では30~50ℊであるのに対し、時には数百gにもなる。
(引用、ここまで)
つまり糖質を制限しても、脂質がエネルギー源として使われている限りはタンパク質は節約されるということです。
それなのにいつの間にか、糖質を一定量摂取しないとタンパク質が分解されるという話に置き換わってしまっています。これはどうしてなのでしょうか。
それはおそらく、エネルギー産生系としての脂質代謝を全く使わなくて済むほどに現代社会が糖質頻回過剰摂取が常態となってしまったからだと私は考えています。
普通は太っている人であれば、体脂肪が十分に蓄積されていますので、
糖質摂取がゼロになった所で、残ったあまりある脂肪からエネルギーを産生すればいいので、タンパク質は分解しなくても済むはずです。
しかし冒頭のような意見が生まれる背景には、おそらく糖質を制限することによって脂肪と一緒に筋肉もやせてしまうという実例が存在するから「筋肉分解を防ぐには糖質が必要」という話へとつながってしまうのであろうと思われます。
ではなぜ脂肪があるのに筋肉が分解してしまうのかと言いますと、
普段の糖質頻回過剰摂取によって、インスリンも並行して頻回に分泌され、脂肪は分解ではなく常に蓄積に向かうように代謝が回され続けるため、
そんな状態から急に糖質ゼロとなり脂質からエネルギーを生み出すよう言われても、
今までさんざん脂肪分解代謝を使わなくて済んでいた状態からだと急な代謝変化に適応できないからであろうと考えられます。
逆に言えば糖質制限しただけで筋肉がやせてしまうという人は、
それまでの代謝がいかに糖質に依存していたかということの傍証であるように私は思います。
太っている人はまだよいです。少なくとも脂肪蓄積という取り込む側の脂質代謝は確実に回せているわけですから、
逆方向の脂肪分解の脂質代謝も、しばらく使わなかったから錆びついているとは言え、再び回転する見込みは十分にあります。
問題はやせている人です。やせている人で糖質制限をするとヘロヘロになるなどのトラブルに見舞われる事例を時々耳にします。
やせているということは糖質摂取による脂肪蓄積という取り込む側のサイクルさえ回せていないわけですから、
逆方向の脂肪分解の脂質代謝だってなかなか駆動されない可能性が大です。
ですので太っている人よりもやせている人の方が脂質代謝が錆びついている可能性が高いということになります。
従って、冒頭の意見は「脂質代謝が錆びついている人にとって」という枕詞がつけば、当てはまる内容と思いますが、
そうなると、錆びついた脂質代謝を元に戻すにはどうすればいいかという方向へ発想が向かう必要があると思いますが、
「少量の糖質を摂取しなければならない」というのはこの問題の解決から遠ざかる選択肢だと私は思います。
そもそも脂質代謝を錆びつかせたのは、脂質代謝を使わなくて済むようにした糖質頻回過剰摂取なわけですから、
まるでリハビリを行うかの如く、脂質代謝をゆっくり使えるようになるために少しずつ糖質を控えていくという作業が必要になってくると私は思います。
そうして次第に脂質代謝が使えるようになっていけば、
晴れて糖質を制限しなくても筋肉が分解しなくて済む体質が作れるはずです。
この構造は特にやせている人にとって重要で、体質改善のために参考にすべき事項だと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
脂質については、MTCオイルを摂取し始めた時は消化できてない感じがありましたが、次第に普通になり、身体が慣れるまで時間がかかるものだなと思いました。
痩せた人の糖質制限についてのお話は具体的でよく理解ができました。参考ににさせていただきます。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
> 筋力トレーニングでの糖質制限はカタボリックを起こすという人がいます。
正確に言えば「脂質代謝が錆びついている人が糖質制限をしながら筋力トレーニングを起こすとカタボリックを起こす(≒筋肉が分解する)」ということだと思います。
だからこそ糖質摂取文化の中でのボディビル業界は「糖質はある程度摂取すべき」という考えになるのだと私は思います。
また、今は以前の様な体重減も無くなり、更にファスティングを入れても、痩せすぎ傾向も無くなりました(ケトン体は直ぐに上がります)。
私の印象では、寧ろ体型ではなく、インスリンドバドバ傾向の方が、適応に苦慮しいる様に感じられます。
たがしゅう先生、先ほどのコメントは途中でした。こちらの方をお願いします。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
やせ型の人が全員脂質代謝が錆びついているという事ではなくて、あくまでもその傾向が強いという話です。
Mitsukoさんの場合は、やせていても内臓脂肪が蓄積されていて、そこが消費された分体重が減り、しかも脂質代謝も回っていたので筋肉も落ちなかった、というパターンだと思われます。内臓脂肪の有無は目で見てなかなかわからないし、測る機会もないので、糖質制限やってみた後の結果で推測しかありませんが、やせ型の人皆が皆内臓脂肪が十分量あるかどうかはわからないので、糖質制限の実践に際して注意喚起はしておく必要があるかなと思っています。
脂質代謝がうまく回っている人は、ファスティングにも適応しやすいと思います。
もしかして、太っていても痩せていても、この内蔵脂肪が(ある程度?)あるかないか、がポイントかもしれませんね。体脂肪率からは分からないところです。で、ふくよかさんはそれでも相対的に内蔵脂肪もそれなりにある場合が多いですから。痩せ型で両方とも少ない人が難しいのですね。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
> もしかして、太っていても痩せていても、この内蔵脂肪が(ある程度?)あるかないか、がポイントかもしれませんね。
確かに、太っている人でも糖質制限をして真っ先に消えていくのは内臓脂肪です。
その後の皮下脂肪は私もそうですが、糖質制限をしていても必ずしも消えていくとは限りません。
皮下脂肪の有無が問題なのではなく、内臓脂肪が蓄積されているかどうか、もっと言えば、すぐに代謝しうる脂質がそこにあるかどうかというのが、脂質代謝をうまく回すことができるかどうかの鍵を握っている可能性はあると思います。
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