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認知的不協和をどう解消するか

category - 読者の方からの御投稿
2019/ 02/ 16
                 
ブログ読者のジェームズ中野さんから、先日の記事「糖質制限反対派が抱えているかもしれない苦しみ」について

次のようなコメントを頂きました。皆様ならどうお考えになられますでしょうか。

(以下、コメント引用)

今回先生が取り上げられた設定はやや特殊な感じがいたします。私が今考えていることを書かせていただきます。

            

(その1) 約100床ほどがある個人病院に勤務している管理栄養士Aさん。

糖尿病患者が多数入院する中で日本糖尿病学会推奨のカロリー制限食を毎日患者さんに提供していました。

ところがある日ふとしたことにAさんは糖質制限について知る機会がありました。

すっかりハマってしまい自分の食生活も糖質制限。もちろん糖尿病患者にも糖質制限食を提供したい、と心から思いました

ところが管理栄養士の立場であっても医師の了解もなく独自にメニューを変更することができず院長先生に自分の訴えを聞いていただくことになりました。

院長曰く「私自身日本糖尿病学会認定医なので糖質制限はまかりならぬ。従来通りのカロリー制限でやってください。」と言われてしまいました。

管理栄養士Aさんが糖質制限をしたいと思ってもこの病院では患者さんに最善の食事療法を提供できないと言う結果になりました。

Aさんは自分を押し殺してカロリー制限食を糖尿病患者に今も提供しています


(その2)大学病院に勤務する内科医Bさん、糖尿病患者が多く入院するその大学病院でふとしたことから糖質制限を知ることになりました。

カロリー制限より糖質制限の方が良いのではないかと思い内科医長や内科部長に自分の考えを打ち明けました。

彼ら曰く当病院内科の方針に不満があるのならばいつ辞めてもらってもいい、との返答。

家庭もあるためおいそれと辞めることもできず、自分の意思を押し殺して日本糖尿病学会の指針に沿った治療を引き続き実行する。


上記その1、その2 のような事例はひょっとすればたくさんあるかもしれませんね。彼らも組織の一員です。

開業医ならともかく家族もちならば自分の考えを通す事はなかなか難しいですね。

つまり管理栄養士や医師の個人レベルでは糖質制限食がオーケーであっても医療レベルではそれが不可能と言う事は多々あるように思います。

つまりこの私たちが住む社会は、金儲けにもならない事は好意的に取り上げてもらえないと言うことです。薬が必要で、注射が必要で入院が必要で…。などです。

ところが糖質制限食は、薬も注射も入院もおおざっぱに言うと不必要になってきますね。つまりそこには何の医療費もかからないと言うことにつながっていきますね。

それが病院経営や製薬会社、などには言いようもない恐怖につながっていくと思います。

そういう部分において、糖質制限をこの世に広めてはならないと言う何かしらの思惑があるようにも感じられます。

以上が今のこの日本を取り巻く現状のように思います。たがしゅう先生はどうお考えですか?

(コメント引用、ここまで)



ジェームズ中野さんが紹介して下さった2つの事例は、確かに私が紹介した重鎮の苦しみよりも頻度が多いものだと思います。

「2:6:2の法則」と呼ばれる法則があって、世の中のあらゆる集団は2割の変化を好むグループ、2割の変化を嫌うグループ、6割のそのどちらでもなく、どちらにも変わりうるグループにおおよそ分かれるとする考え方があります。

私が紹介した重鎮の例は2割の変化を嫌うグループに相当し、ジェームス中野さんが挙げた内科医と管理栄養士の例はおそらく6割の範疇に入るのではないかと思います。

なぜならば、少なくとも個人の中では変化することに成功しているからです。

しかし管理栄養士のケースでは2割の変化を嫌う院長の方針にそぐわずに、内科医のケースでは2割の変化を嫌う医長や部長の理解を得られずに、

いずれも個人の中での変化を受け入れつつも、変化しきることを断念するような選択をしてしまっています。

両者にとって鍵となっているのは組織というものの存在です。

先程私は、世の中のあらゆる集団が「2:6:2」に分かれると言いましたが、

組織全体についても同じことが言えるのです。その組織が変化を好む2割なのか、変化を嫌う2割なのか、それともどちらでもない6割なのか、によって個人の運命は左右されるということです。

運よく2割の変化を好む組織に所属していれば、管理栄養士のケースでも内科医のケースでも完全にうまく変化しきることができていたのでしょうが、

多くの場合、組織は2割+6割の8割に該当します。そう簡単に変化を許容されることはありません。

ましてや今までのやり方で不都合を感じていない、もしくは不都合に気づいておらずうまく回っていると認識している組織ではなおの事変わるのは難しいと思います。

昔ながらの組織であればあるほど起こりがちなことです。昔ながらということはある程度今までの試行錯誤の末に行き着いた自分達なりのやり方というのが多くの場合固定しきってしまっているからです。


さて、そうした変わらない組織の中に所属していて、変わるきっかけにたまたま遭遇した二人に再び焦点を合わせましょう。

彼らは悪いとわかっていることを実行し、自分の本心をだまし続け、罪悪感を抱えながら日々の業務に携わっているのでしょうか。

きっとそんな意識ではないであろうというのが私の意見です。

自分の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態のことを「認知的不協和」といい、これはものすごく不快な状態と考えられています。

その認知的不協和を解消するために人は速やかに何らかの行動をとったり、自身の考え方を変えたりすることを欲します。

2人の例の場合の解消行動として考えられるのは、

「カロリー制限でもうまくいく人はいるのだから絶対的に悪いことをしているわけではない」
「ベテランの先生には長年の経験があるのだから、カロリー制限でうまくいかなくても薬で上手に調整されるに違いない」
「きっと糖質制限でも合わない人がいるのだから、自分が合うからといって意地になって他人に勧める必要はないのかもしれない」

という感じでしょうか。そんな風に何とか認知的不協和を解消して、日々の業務を続けているのではないかと思います。

誤解してほしくないのは、私はそれでいいと思っているわけではありません。

私であればそんな小手先の解消行動では自分の認知的不協和を解消することはできません。

けれどそうなっても不思議ではないのが多くの組織に所属する個人であり、これが厳然たる事実だということです。

私もはじめて糖質制限に出会った時に2人の例と同じような状況に置かれたわけですが、

私がとった認知的不協和を解消するための行動は、

①組織内で上司や同僚の反感を買いながらも、患者へ正しいと思う情報提供し続ける
②次第に組織内での居心地の悪さや、組織内で伝えることの限界を感じ、組織を変更
③組織を変更して同様の試みを続けるも、やはり次第に限界を感じるようになり、組織を離脱


という感じです。自分が組織の中でのどのポジションにいるかということでも変わってくるとは思いますが、私の場合はこうでした。

たぶん私は糖質制限に関しては変化を好む2割のグループに属しているので、

おそらく8割の確率で組織に所属するのはそぐわない人間だったということなのでしょう。

組織を離れて自分で独立するというのはある意味で定められた道であったように思えます。

中途半端な緩やかな糖質制限は別として、組織の中で十分な糖質制限を実践し続けるのは至難の業です。

変化を好む組織も2割存在する計算になりますが、どういうわけか糖質制限に関してはそうした組織は2割に全く満たない印象を持ちます。

だから糖質制限推進派医師はほとんどが開業医、もしくは勤務医としてはトップの権限を持つ医師となっているのはそういう理由からだと思います。


まとめますと、糖質制限を理解しながらそれを患者に勧められていない医療者は、

何らかの利益に駆られていたり、何らかの黒い思惑の元にそう行動しているわけではなく、

自分の中で生じる認知的不協和に何とか折り合いをつけて日々の業務にいそしんでいるのではないかというのが私の考えです。


たがしゅう
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コメント

非公開コメント
        

いつも興味深い記事をありがとうございます。

ジェームズ中野さんが紹介して下さった事例は、
日常的に数多くあり、高確率で直面する、
「糖質制限ジレンマあるある」だと思います。

数多くある、このジレンマ、諸悪の根源は、
厚生労働省が、科学的根拠もなく作成した、
「食事バランスガイド」にあると思います。
生活習慣病の病院食も「栄養バランスガイド」が
大きな漬物石になっています。


厚生労働省は、医学の発展に応じて、
このバランスガイドを見直さないのでしょうか。
厚生労働省が動く「きっかけ」って、
糖質制限推進派の医師や研究者などの活動なのでしょう。
今は、その働きかけ途中の時期なのでしょう。
だからジレンマが多いのでしょうね。

西洋医学的に「各所に向き合い、とりあえずその場しのぎ」
東洋医学的に「根本(厚生省)に向かい大改善」

西洋医学的に、少しずつ前進しながら、
東洋医学的に、根本改善していくと信じています。
糖質制限推進派の力次第で、早く改善されると信じています。
Re: タイトルなし
Etsuko さん
 
 コメント頂き有難うございます。

> 厚生労働省は、医学の発展に応じて、
> このバランスガイドを見直さないのでしょうか。


 既存構造の中核にあればあるほど、変化を嫌う2割のグループに属する傾向があります。
 私も幾度となく心打ち砕かれてきましたが、正論が通じず、いかなる理由を持ってしても変わらないのがこの2割の特徴です。
 おそらく国や厚生労働省もそのグループに属しているのではないかと私は思います。

 でも2割だと思っていたものが実は6割のグループで、絶対に動かないと思っていた山がふとした瞬間に動くこともあります。
 私達にできるのは粛々と自分達が自分達の立場でできることを推し進めていくこと以外にないのではないかと私は考える次第です。
アウフヘーベン
>私であればそんな小手先の解消行動では自分の認知的不協和を解消することはできません。<

先生と同じ考え方の医療従事者は結構たくさんいるのではないでしょうか?自分の人生をちゃらんぽらんに生きず真剣に考えて今日1日を生きている人はたくさんいると思います。

それでもなおかつ組織に入っていると自分自身を押し殺してその組織の大きな流れの中に身をまかせないといけないと言う事は多々あると思います。正しく美空ひばりさんの「川の流れのように」ですね。今ある現状をなんとか変革したいと思いもするのですが、自分1人の力ではどうにもならない現実もあるわけです。

人生は苦悩の連続だと思っています。

>まとめますと、糖質制限を理解しながらそれを患者に勧められていない医療者は、

何らかの利益に駆られていたり、何らかの黒い思惑の元にそう行動しているわけではなく、

自分の中で生じる認知的不協和に何とか折り合いをつけて日々の業務にいそしんでいるのではないかというのが私の考えです。<

たがしゅう先生のお考えは理解できます。

過去を追うな、未来を願うな、今日一日をただ生きよ。
とは、お釈迦様のお言葉です。
私自身は、このお言葉に何度救われたことでしょうか。
Re: アウフヘーベン
ジェームズ中野 さん

 コメント頂き有難うございます。

> 今ある現状をなんとか変革したいと思いもするのですが、自分1人の力ではどうにもならない現実もあるわけです。

 そう思います。私自身もまだ道半ばですし、思い通りにならない環境の中である程度自分の中で折り合いをつけながら日々生きています。理想的なことができているかと言えば程遠い状況です。

 少なくとも変化を好む2割と中間層の6割、合わせて8割の皆さんはきっと、それぞれの立場や環境の中で苦悩しながら、それでも自分の中で折り合いをつけられるように試行錯誤を繰り返しているのではないでしょうか。広い目でみれば、私もみんなも同じようなものだと思います。