どちらを信じるか
2014/01/18 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:10件
日常診療で糖質制限指導をしていると、
様々な困難にぶち当たります。
糖質制限はエネルギーのメイン利用を糖質代謝から脂質代謝に切り替えるという本質的な体質変更を試みる行為なので、
基本的には禁忌に当たらなければ万人に何らかの改善効果をもたらしうる方法だと考えています。
その糖質制限指導を常識の壁が邪魔をするというのはこれまでも述べてきた通りですが、
まれに糖質制限をきちんと実行しているにも関わらず、全く効果がないという方がおられます。
この度時を近くしてそのような二人の患者さんと出会いました。 一人目は70代の男性、肥満のある方です。
いつものように糖質制限の理論を説明し、減量に取り組んでもらいました。
しかし、ごはん、パン、麺類、イモ類、お菓子、ジュースをすべてやめていると言われるにも関わらず、一向にやせません。
そこで、盲点と思われた果物の取りすぎについても追加指導を行いました。
ところが、それから2ヶ月経過しましたが、それでも一向に変わりません。
この方が標準体重であるならいざ知らず、明らかな肥満がある人については糖質制限を行えば原理的にまずやせるはずです。しかしこの患者さんでは事実そうなっていません。
二人目は80代のやせ型女性です.
脳の中の視床という場所に対称性にできた病変の精査で入院されました.
悪性腫瘍やプリオン病など様々な疾患を除外しましたが,残念ながら確定診断がつかず注意深く外来で経過を見ていくことになりました.
この方には治療の一つの選択肢としてケトン食を提案して,実際にやって頂きました.
やせ型の方が糖質制限する場合には注意が必要なので,体重が減少しないように特に摂取量をしっかりと確保することを強調し実践してもらいました.
しかしその通りにやったと患者さんは言われますが,実際にはその後体重が徐々に減っていく経過を辿っています.
はたして,こういう時に私はどう考えればよいのでしょうか。
私は、糖質制限の基礎理論はかなり固まっていると考えています.
「三大栄養素のうち、血糖値を上昇させるのは糖質のみ。脂質、タンパク質は血糖を上げない」
「血糖値が上がるとインスリンが分泌される」
「インスリンは余剰な血糖を脂肪に変換することで血糖値を下げている」
「糖質を控え,インスリンが出なければ新たに脂肪が蓄積されにくくなる」
「糖質をとらないことを受けて,血糖の代わりに脂肪が燃焼してケトン体が産生される」
「さらに血糖値の維持のために肝臓で糖新生が働き,消費エネルギーが増加,太りにくくなる」
「ケトン食実践時には摂取カロリー(摂取量)の多い少ないが体重増加に直結しやすい」
こうした事実を踏まえれば上述の二人の経過は明らかに矛盾するものです.
この時に科学的な事実の方を信じるのか,患者さんの言葉の方を信じるのか,私にとっては悩ましい問題です.
仮に科学的事実の方が正しいととらえるなら,患者さんの言葉を疑わなければなりませんが,
人体にはブラックボックスがあります.すなわち体質差の部分ですが,この点を考慮すれば患者さんの言う通り本当にうまくいっていないということもありうるかもしれません.
問題はそれを私が客観的に確認できないという点です.当然,24時間私が患者さんの食事内容をチェックするわけにはいきませんので,外来のわずかな時間で患者さんへ問診することでしか患者さんの食生活を推定するしかありません.
もしもその場で患者さんが正しい情報を言わなかったら(意図的にせよ,そうでないにせよ),私の判断がミスリーディング(誤誘導)されることになります.
一方で患者さんの食生活を100%知りえるのは,患者さん自身です.
そういう意味でも,こうした食事療法は医師(他人)主導ではなく,患者(自分)主導であるべきだと私は思うのです.
自分主導であれば自分の食事療法をどう行っても自己責任になり訴訟問題はなくなります.
またうまくいかなかった場合も自分の食生活を自己分析できます.
それを100%の食事内容を知りえない他人に,正しい方向へ軌道修正させるというのはある意味難しい作業です.
理想論ばかりを語っていても仕方がありませんが,
今はただ,目の前に起こっている事実を先入観を持ちすぎることなくとらえ,
なぜそうなっているかを考え続けたいと思います.
とりあえず上記の患者さんには食事日誌をつけて頂き,
次回の診察の際に隠れ糖質をとってしまっていないか確認する作戦をとることにしました.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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男性、肥満のある方
単純な質問です。
「男性、肥満のある方」の血糖値、HbA1c等の状態で判断出来ませんか?
Re: 男性、肥満のある方
コメント頂き有難うございます。
> 「男性、肥満のある方」の血糖値、HbA1c等の状態で判断出来ませんか?
この方の血糖値は120mg/dL, HbA1c 6.1%(NGESP)でした。
しかし実際には血糖値, HbA1cが正常でも明らかな肥満という人は結構いるので、それだけを以て糖質制限ができているとは断言しにくいのです。
嘘
一般人の私がおもうことは、うそつき という人間もいるんです。
先生は、まじめな方と。〔過去ブログ拝見)ちょち、ちがうけど、血圧の薬の会社nバルチズフオーマでしたっけ?データ改ざんして。。。っていう
オオウソツキ達の人間もいるんです。
。。。。はずがない!ってよく、おもうけど、
一般人の私がおもうには、患者は嘘をついてる。(^^)
私の質問と推測・・・
また、1日の摂取カロリーは、どのくらいですか?
半年以上、糖質制限をきちんとして痩せないとすると、倹約遺伝子の持ち主 で、カロリー過多ではないかと推測するのですが・・・
● 二人目の80代のやせ型女性
消化器系の異常はありませんか?
栄養分の吸収が良くないのでは?
年齢が、70歳以上の方や女性は、
『人体にはブラックボックスがあります.すなわち体質差の部分』
があるかもしれませんね・・
実際に患者さんを目の前にすると、評論家的なことは言ってられないと思いますが・・
理論どおりにいかないというのは、医師という職業の大きなストレスの原因ですね。
江部先生や、TrueLife先生も、そういう患者さんを診てきた経験がおありだと言っていました。カルピンチョ先生も、ブログでたびたび取り上げていますが、10年20年という時間、「科学・栄養学の進歩」が必要なのでしょうか?
Re: 嘘
コメント頂き有難うございます。
> 一般人の私がおもうには、患者は嘘をついてる。(^^)
もしも治療が患者主導になればそういう悩みもなくなりますよね。
医師には患者が嘘をついているかどうか判別できませんが、患者自身にはわかっていますからね。ただ嘘でなく勘違いや、やり方が間違っている場合は軌道修正してあげる必要があると思っています。
Re: 私の質問と推測・・・
コメント頂き有難うございます。
> 一人目の70代の男性は、トータルで、何ヶ月間、糖質制限しているのでしょう?
6ヶ月程度です。
> また、1日の摂取カロリーは、どのくらいですか?
> 半年以上、糖質制限をきちんとして痩せないとすると、倹約遺伝子の持ち主で、カロリー過多ではないかと推測するのですが・・・
カロリー計算は指導しておりませんので、正確な総カロリーはわかりません。
しかし食べている内容から考えると、明らかに摂取カロリー不足です。
一人目の方のある日の食生活
朝:牛乳のみ
昼:油揚げ、味噌汁、野菜の煮たもの
夕:野菜炒め
※間食はしていない、果物も食べていない
本当にそんな食生活を続けているのならば栄養失調も心配するくらいのレベルですので、倹約遺伝子の可能性も低いと思っています。
> ● 二人目の80代のやせ型女性
> 消化器系の異常はありませんか?
> 栄養分の吸収が良くないのでは?
入院で胃カメラも含めて精査していますので、少なくとも器質的な異常はありません。
機能的な異常はあるのかもしれません。
> ブログでたびたび取り上げていますが、10年20年という時間、「科学・栄養学の進歩」が必要なのでしょうか?
私も、糖質制限理論を踏まえた新しい栄養学の構築が必要であると考えます。
画像で記録してもらうのは?
昔、大学院生に実験指導していてたときに
「先生の言ったとおりにやったのにうまくいきませんでした。」
というのを何人かから言われました。
みんなもちろん、医学部卒業して医師免許も持ってる子たちでしたが。
そこで、じゃあ、もう一度確認してみようと言って張り付いて実験させました。
すると、言ったとおりにやってないことがボロボロ出てきます。
「これ、僕が言ったとおりにやってないよね?」
と言ったら、帰ってくる答えはこんな感じでした。
「そんなことが重要なんだとは思いませんでした。」
「それが重要ならもっと強調してほしかったです。」
仮にも医師免許を取るまでに論理的な学習をしているあの子たちにしてそれです。
ですから、たがしゅう先生のおっしゃることを患者さんが曲解して、違うことをやっている可能性はあります。
一つお勧めなのは、食べるものの画像をきちんととっていただくこと、それを記録していただくことです。
できれば家族に協力してもらうのがいいですけどね、娘さんや奥さんに撮影してもらうとか。
晩御飯だけでもいいです。
意図的に糖質を食べているのを隠されていた場合には、アップされないという問題はどうしようもありませんが、毎日、晩御飯だけでも家族に画像を撮影されたらプチ糖質制限はせざるを得なくなりますから、効果が出てきて、なんてことも期待できるかと。
Re: 画像で記録してもらうのは?
御助言頂き有難うございます。
なるほど、大学院生でそのような結果であるのなら、いわんや患者さんをや、という感じかもしれませんね。
写真撮影、今度提案してみます。
思い込み 誤解 勘違い
私の仕事で、お客様にお心づけを届けるために、地元デパートで商品券を包んでもらって買ってくるというのがあります。
サービスカウンターで「のし書きはお歳暮で、送り主は××株式会社。500円券を10枚でお願いします。」と言うと、500円券を10枚で包んでくれる場合と、500円券1枚を包んだものを10個作ってくれる場合とがあるので、すごく気をつけています。
デパートの店員さんの思い込みと、こちらの思い込みで、予想外のことになったこともあって。
日本語は難しいなと思って、言葉に気をつけています。
患者さんの思い込みってあるんじゃないでしょうか?ご飯はダメだけど、チャーハンやオムライスにすればいいんだな、なんてことが。笑い話みたいですけども。
Re: 思い込み 誤解 勘違い
コメント頂き有難うございます。
> 患者さんの思い込みってあるんじゃないでしょうか?ご飯はダメだけど、チャーハンやオムライスにすればいいんだな、なんてことが。笑い話みたいですけども。
なるほど、そういう思い込みもあるかもしれませんね。次回の食事記録をみてその辺りも検証してみようと思います。
エリスさんの御経験、大変参考になります。いつも有難うございます。
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