「サイコパス」について学ぶ
2019/01/25 16:15:00 |
おすすめ本 |
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最近、興味深いような、恐ろしいような複雑な気持ちになった本を読みました。
まんがでわかる 隣のサイコパス 単行本(ソフトカバー) – 2018/2/2
名越康文 (監修)
猟奇的殺人や反社会性に関わるイメージの多い「サイコパス」という言葉ですが、
実は医学用語としては「サイコパス」という言葉は一般的には用いられません。
「サイコパス」とは、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使用されている心理学用語で、
サイコパシー(psychopathy 精神病質)を有する人、つまり精神病質者を指しています。 医学用語ではサイコパスを含むより広い概念である「反社会性パーソナリティ障害」との診断名が用いられ、
「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き」という精神医学領域で標準的に用いられる診断基準において、「反社会性パーソナリティ障害」には次のような特徴があるとされています。
①法律にかなって規範に従うことができない、逮捕に値する行動
②自己の利益のために人をだます
③衝動的で計画性がない
④けんかや暴力を伴う易刺激性(ささいなことをきっかけに不機嫌な態度で周囲に反応しやすい状態のこと)
⑤自分や他人の安全を考えることができない
⑥責任感がない
⑦良心の呵責がない
こうしてみると、なるべく関わり合いたくない印象の要素ばかりですが、
実は「サイコパス」と呼ばれる人の中には、必ずしもこうした特徴がすべて当てはまるというわけではなく、
①~➆の項目が部分的に当てはまりながら、かつ社会にはうまく適応できているという「向社会性サイコパス」と呼ばれる人も実は結構いるということ、
つまりあなたの身近にもサイコパスは潜んでいるかもしれないと、それをマンガでわかりやすく紹介する、というのがこの本の趣旨でした。
不完全なサイコパスの人達は、確かに社会に溶け込んではいて犯罪を犯すこともありませんが、
社会生活の中で様々な人間関係のトラブルを起こすことがあるということが示されています。
そうした人達に共通する特徴が「良心と共感性の欠如」だといいます。
相手への共感能力が低い、という点では発達障害の中の自閉症スペクトラム障害と呼ばれる状態と近いものがありますが、
良心が欠如しているという点がサイコパスとの大きな違いです。
要するにサイコパスは相手への共感能力が低く、良心が欠如しているがゆえに、
一方で高い知性を持ち合わせている場合に、巧みな話術や演技、プレゼン能力によって、狡猾に他人の心を掌握し、
他人を利用するだけ利用して、使えないと判断したら容赦なく切り捨てる、それに対して良心の呵責に全くさいなまれない、というような性質を持っている人だということです。
私は発達障害は病気ではなく、個性だと捉え、そう呼ばれる人達の個性を受け止められない社会に問題があるという意見を持っていますが、
サイコパスも脳における一定の先天性、すなわちある程度生まれつきの部分があることがわかっていますので、
サイコパスも発達障害と同様に個性と捉えるのが一貫性があることになります。
しかしサイコパスの場合は良心が欠如しているという話になれば、
それを受け入れられない社会が悪いという主張は展開しにくいように思います。
しかも高い知性で持って、犯罪を犯さない程度に社会の中でうまく立ち振る舞われた日には、
何かトラブルを起こしたとしても法律で裁かれることもなく、その良心のない有能者と私達はともに社会生活を行っていく必要があるわけです。
実に何というか、やるせない気持ちになる話です。
なぜならば私は医療に携わる者として、患者の苦しみへの共感こそがその原動力であり、
人に良心なくして医療へ携わることなどできないと感じてしまうからです。
でもそうした気持ちを意に介することなく、人の良心を踏みにじったり、利用したり、潰しにかかる人は確実に存在します。
こうした人が発達障害と同様に人の個性としてこれからも一定の確率で生まれてくるとするならば、
すべての人を救うために医療を志すといった崇高な理念はどこまで行っても理想論なのかもしれません。
ただ私がこの話から得る教訓があるとすれば、
世の中には自分と合わない人は必ず存在するということ、
全ての人が自分の意見に共感してくれるということなどあり得ないのだから、
自分は自分が正しいと思う道を、時に反発され、時に自分を顧みながら、
ただ愚直に突き進んでいくより他にない、ということかもしれません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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