常識外れの減薬
2018/12/05 00:00:01 |
素朴な疑問 |
コメント:2件
脳神経変性疾患研究会に参加して感じたもう一つのことについて書きます。
結局、高齢者診療で大事なことは、患者に合わせた薬の最適量をいかに見分けることができるかという所だと私は思っています。
こう言うと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、問題は常識にとらわれない少なさまで減薬することができるかどうか、です。
ごく少量のウインタミンでも長く使えばやっぱり副作用が出るという実例報告を聞いていた時にも思いましたが、
その時は例えばウインタミン4mgで最適だとしても、時間が経てばさらに老化に伴って細胞機能が不可逆的に低下していき、
いつのまにかウインタミン2mgが最適量になっていて、4mgだと副作用が出るという状況になっていても不思議ではありません。 もっと言えばどれだけ少量であろうとフルアゴニストはフルアゴニストです。長く使えば耐性もできるし依存状態も形成されることでしょう。
それだと減薬を意識しない標準的治療に比べればまだましではありますが、本質的には同じ治療を施していることになるのではないでしょうか。
だからフルアゴニストを使うのは基本的には緊急避難的に使うべきであって、全体の代謝調整はパーシャルアゴニスト的な薬を使うべきというのが私の考えです。
だから私は漢方薬をよく使うわけですが、前回記事でも述べた一部のフルアゴニスト的な漢方薬を使用する時の副作用リスクを減らすべく、
私は高齢者に対して漢方薬を長く飲ませる場合には、標準的な1日3回内服ではなく、1日1回とか2回内服へ減らす方法を心がけています。
ただ本当は上述の私の考え方に基づけば、回数よりも用量を減らす方が筋なのだと思いますが、
保険で使う漢方薬の場合は、保険で定められた1回量がすでにパッケージされているため、最初から用量を減らす処方がしにくい状況があるのです。
それでもパッケージから取り出す漢方薬の量を1/2や1/3にしたりすればよいのだから、用量の減薬は不可能ではないのですが、
指示の煩雑さや投与量の正確性が担保できないことなどから回数の減量のみに甘んじてしまっているのが今の私の現状です。
今回の会の先生方の一連の症例報告を聞いていて、
ルールに縛られずにいかに常識はずれの少なさに挑戦できるかという、一歩踏み出す勇気が大切だと感じた次第です。
最近保険診療のルールが自由な発想を阻害しているということを痛感します。
高齢者の生理機能は加齢と共に確実に低下していくのだから、
老化が止められない限りは有効受容体の減少に合わせて段階的に減薬していくのは必然のはずです。
しかし保険診療のルールが医師の裁量による減薬を常用量のせいぜい半分程度までに無意識下で制限しているように私には思えます。
それに関連してレヴィ小体型認知症で有名な薬剤過敏性ですが、
これも以前にも考察したように、神経変性に伴う細胞における有効受容体数の不可逆的な減少が背景にあると思うので、
何もレヴィ小体型認知症に限らず、神経変性が進行すればどの病気でも起こりうる現象で、
もっと言えば高齢者全体で観察されてもおかしくない現象なので、薬剤過敏性=レヴィ小体型認知症という短絡思考に陥ってはなりませんし、
そのような状況では少なくなった有効受容体数に合わせて十分に減薬することが必要だと考える次第です。
近年、認知症を起こす患者の背景には幼少期からの発達障害がある点も注目されていますがら
この発達障害にも薬剤過敏性が観察されます。ただしこの場合は若いということもあり、その病態は有効受容体数の不可逆的な減少ではおそらくありません。
おそらくはストレス過多などやる過剰適応反応に伴う有効受容体の機能的な可逆的機能低下だろうと私は考えています。
若い頃から受容体がオーバーヒートしやすいから、それが何十年も繰り返されていれば発達障害でない人に比べて有効受容体が不可逆に機能低下しやすいのではないかと、
そう考えれば発達障害と認知症の関連性についても納得がいくように私には思えます。
ということは若き発達障害の患者さんの薬物過敏性に対しては、ただ薬を減薬するというだけでは不十分ということになるでしょう。
オーバーヒートした機能を冷ますための何らかの緊急避難的な処置は必要でしょうし、
そもそも機能をオーバーヒートさせないようにストレスマネジメント指導をすることも大切なことだと私は思います。
そのようなことを考えさせられた有意義な会でした。
ちなみに会の後半には、中坂先生が司会となり発表された先生方が前に並び、自由に意見交換をするディスカッションタイムがありました。
事前の打ち合わせはなかったようで、その場で中坂先生の質問にフロアの参加者もいろいろ意見を述べていくスタイルでしたが、
どの先生も流石豊富な経験を元になるほどと思わされるコメントを次々と繰り出され、ライブ感もあって非常に刺激的でためになりました。
そんな中、私も中坂先生から質問されたのですが、とっさのことで頭がうまくまとまらず、残念ながら気の利いたことは何も言えませんでした。
私はじっくり考えるのが性に合うタイプのようです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
今後可能であれば九州でも同じ研究会を実施できないか検討したいと思います。
先生がここに書いているとおりで、フルアゴニストの薬剤を複数同時処方というのはたとえ少量投与でもコントロールがまず不可能ではないかと考えます。
それはどんな名医でも脳内の神経伝達物質の推移は見えないからです。当たり前の事ですが。
今やリブレで血糖変動が見える糖尿病の世界とは大きく違うところではないでしょうか?
あと抗精神病薬も抗認知症薬も効果の判定が難しいです、糖尿病のように数値になっていないので、医者や患者の主観的な感覚で「効いた」と言ってるのは科学的とは言えない気がします。
認知症の薬物治療??などほとんどのケースはしょせんプラセボ効果なのではないかと最近は思っていますが、先生はいかがでしょうか?
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
また大変有意義な会を立ち上げて頂き心より感謝申し上げます。
> 認知症の薬物治療??などほとんどのケースはしょせんプラセボ効果なのではないかと最近は思っていますが、先生はいかがでしょうか?
そうですね。
これだけ抗精神病薬、抗認知症薬、そして抗パーキンソン病薬による深刻な副作用問題が、減薬することで明らかになってきたわけですので、薬効というものは確かに存在するわけですが、確かにプラセボ効果の大きさは私も注目しているところです。
改善した例というのも薬効そのもので良くなったのではなく、実はプラセボ効果により複雑な代謝システムを再活性化させている可能性は充分にあると思います。というのも量を増やせばあれだけ無秩序な状態を作るような薬剤です。少量であろうとその延長線上にはあの無秩序状態があるような薬の薬効が複雑な代謝システムを秩序立てることができるのかと言われたら甚だ疑問です。
もしかしたら根本的に薬物療法そのものの意義を抜本的に考え直した方が良いのかもしれません。その意味で、私は糖質制限とともにストレスマネジメントを重要視しております。
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