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どんなに良い薬と言われても

category - 糖尿病
2014/ 01/ 13
                 
「SGLT2阻害薬」という糖尿病の新しい薬があります。

今年からこのSGLT2阻害薬が製薬会社6社から立て続けに世に出されるそうです。

今までにない全く新しい機序の薬でかつ安全性が高いということで注目されていますが、

私は新薬に際しては基本的に非常に慎重な姿勢をとるようにしています。

歴史を振り返ってみても、新薬を使い始めて当初想定していなかったトラブルが出てくるということは多々あるからです。

薬に頼る人は多いですが、そもそもヒトに備わった複雑なシステムを薬で変更するということは、

多かれ少なかれリスクを伴うことであるという事を我々はもっと認識すべきだと思います。

今日はこの「SGLT2阻害薬」について考えてみます。
            

まず、グルコース(血糖)が細胞の中へ取り込まれるためには、糖輸送担体という蛋白質が必要です。

細胞膜が脂質での二重膜構造になっているため、水に溶けるグルコースは脂で守られた細胞膜を通過することができないからです。

その糖輸送担体の中には「GLUT(glucose transporter:促通拡散型糖輸送担体)」と「SGLT(sodium glucose co-transporter:Na共役能動輸送性糖輸送担体)」の2種類が知られています。

GLUTは細胞の外でグルコースの濃度が高い時に細胞の中へグルコースを取り込みますが、

SGLTはNa-Kポンプという装置でナトリウムと一緒にグルコースを取り込みます。エネルギーを使って濃度差に関係なく取り込むので、例えるならトイレの汲み取り機のようなものです。

そしてナトリウムと水は基本的にセットで移動しますので、SGLTで糖を取り込む際にはナトリウムと水も一緒についてくるということになります。これは糖質の摂りすぎでむくみをきたす一つの理由です。

少し脱線しますが、実はこのシステムは脱水の治療に応用されています。

すなわち、水分がカラカラの時にはただ普通に水を飲むよりも、適量の塩分と糖分を一緒に補給した方が効率的に水分が吸収されるということです。

これをドリンクにしたものが「ORS(Oral Rehydration Solution:経口補水液)」といい、”飲む点滴”と称されています。

話を戻しますが、GLUTとSGLTには様々なタイプがあり、それぞれGLUTはGLUT1~GLUT12まで、SGLTはSGLT1~SGLT6まである事が現時点でわかっています。

さらにSGLTの中では、その働きが特によくわかっているのはSGLT1とSGLT2です。

SGLT1はほとんどが腸粘膜に存在し、少し腎臓、心臓、気管などにあります。

腸と言えば、栄養の吸収と併せて「水分の吸収」という大きな役割を持っている臓器ですので、SGLT1はその中心的な役割を果たしていると言えるでしょう、

一方のSGLT2は腎臓、特に近位尿細管という部位にのみ存在しています。SGLT1と60%ほど構造が似ています。

通常グルコースは容易に外へ排出されないように腎臓から尿が作られ外に出て行くところの途中(すなわち近医尿細管)で再吸収され、基本的には尿中にはグルコースが漏れないシステムになっています。その役割を司っているのがSGLT2というわけです。

しかし糖尿病患者では血糖値が高くなり、尿中にもグルコースがどんどん押し寄せてきます。身体はSGLT2をフル稼働してグルコースを再吸収しようとしますが、やがて追いつかなくなり尿糖として出て行くようになるわけです。

「SGLT2阻害剤」はこのシステムを逆手にとって、尿中へあえてグルコースをもらさせることによって血糖値を上げないようにするという薬です。

よい糖尿病治療薬の条件としては

「早期から厳格に血糖コントロールできる」
「低血糖を起こさない」
「肥満・高インスリン血症をきたさない」

という3条件が言われていますが、

SGLT2はその3条件を満たすということで注目をされています。

また尿中へ糖を出すことで血糖値を上げさせないのでインスリン分泌も押さえ脂肪分解も促すことが判っています。



このように見ていくと「SGLT2阻害剤」、そんなに怖がらずに使えばいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、注意すべき事はあります。

例えば最初に述べたように、SGLTの糖取り込みはナトリウムとともに動くシステムですので、

ナトリウムと一緒に動く水分も一緒に尿中へ排泄されるということで、脱水の副作用を起こす可能性が指摘されています。

ただ、そんな事にならないように人体には他の水分取り込みシステム(抗利尿ホルモン、アルドステロンなど)もちゃんと備わっているので、そのまますぐ脱水ということにはなりませんが、注意は必要です。

それからSGLT2とSGLT1は構造が似ているので、SGLT2を阻害し続けることで代償的にSGLT1の働きが高まるということも指摘されています(Abdul-Ghani MA, Defronzo RA, Norton L. Novel Hypothesis to Explain Why SGLT2 Inhibitors Inhibit Only 30–50% of Filtered Glucose Load in Humans
Diabetes October 2013 vol. 62 no. 10 3324-3328)。

SGLT1は腎臓にもありますので、折角SGLT2阻害でグルコースを尿で外へ出しても、長く使えば今度はSGLT1が頑張って尿糖を再吸収してしまうため、結果的に血糖値を下げる効果は弱まってしまうのではないかという懸念もあります。



そのような状況を俯瞰し、「SGLT2阻害剤」を使うべきか否かは慎重に判断していく必要があるわけです。

もう一つSGLT2阻害剤の使用に私が乗り気でないのは、それに代わる他の方法があるからです。

先に紹介した3条件、

「早期から厳格に血糖コントロールできる」
「低血糖を起こさない」
「肥満・高インスリン血症をきたさない」

これはまさに糖質制限のメリットそのものです。

しかも糖質制限はもともと身体に備わったシステムへなんら操作を加えることなく3条件を満たします。

人間本来の治る力を極力邪魔しないという事は常に心がけておくべき事です。

どんな薬物療法であれ、必ず副作用というものがあるわけですから、

その意味で、糖質制限に勝る薬物療法は存在しないと私は思います。


たがしゅう

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コメント

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新薬のテスト期間
たがしゅう先生、こんにちは。

昨年5月、たまたま見つけた糖尿病の新薬について、あるサイトで質問しました(https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/44399/Default.aspx)。
下の方にある<コメントを見る>をクリックすると、私の質問と回答が読めます。

その回答によると
『今回の臨床第3相(P3)試験の条件に合致する2型糖尿病患者さんに経口投与を開始してから24週後の結果を、192例集計・分析したものが今回の結果になります。武田薬品によると、このP3試験は2011年9月から12年9月まで行ったとのことでした。』
とのことです。

医療素人の私から見ると、いかに第3フェーズとは言え、わずか13ヶ月の『人体実験』はいかにも「短かい」と思われます。

14ヶ月目以降に何か副作用などが見つかったらどうするのか?などど思ってしまいます。

今後も、新しい機序の新薬は次々と開発されるでしょう。いずれにせよ、「薬」の使用を前提とした治療には危険が伴う、という認識は忘れない様にしたいものです。
この薬には注目していました
たがしゅう先生、こんにちは。
この薬には少し注目していました。

たとえば今日はカレーうどん食べたいとかお寿司が食べたいとか言うときに臨時に一粒飲んで食後高血糖を防ぐということができるといいと思っていました。

しかしながら糖が尿として出るので感覚として膀胱に糖がたまるのでそこに糖が大好きな細菌もたまるかなとも思っていました。

>それからSGLT2とSGLT1は構造が似ているので
>SGLT2を阻害し続けることで代償的にSGLT1の働
>きが高まるということも指摘されています

こういう発想は素人にはできないですね。でもいわれてみるとその可能性は少なくないような気がします。

私の主治医も採用するかどうかはしばらく様子を見るとおっしゃっていました。

糖質を控えればこの薬はおっしゃるように必要ないですね~

Re: 新薬のテスト期間
saty さん

 コメント頂き有難うございます。

> 今後も、新しい機序の新薬は次々と開発されるでしょう。いずれにせよ、「薬」の使用を前提とした治療には危険が伴う、という認識は忘れない様にしたいものです。

 本当にその通りですね。

 世の中は薬に依存しすぎており、「食事・運動が基本」という言葉が形骸化してしまっています。

 糖質制限を通じて食の重要性を再認識し、それでもどうしてもうまくいかない場合に薬を(しかもできれば一時的に)使うというスタンスにすべきだと私は考えています。

 2013年10月24日(木)の本ブログ記事
 「薬に頼る国民性」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-66.html
 もご参照下さい。
Re: この薬には注目していました
クロワッサン さん

 コメント頂き有難うございます。

 SGLT2阻害剤は尿中に糖を強制排泄させることで高血糖状態を解除する、いわば「擬似糖質制限」させる薬とも言えると思います。

 実際、SGLT2阻害剤を使って脂肪燃焼したりケトン体が上昇したりもするようです。

 従って、SGLT2阻害剤の安全性が確認されることは糖質制限の安全性が証明される事にもつながる可能性があります(その事を学会中枢は絶対に認めないでしょうけど)。

 しかし、あくまで「擬似」は「擬似」です。

 記事で述べたような

>それからSGLT2とSGLT1は構造が似ているので
>SGLT2を阻害し続けることで代償的にSGLT1の働
>きが高まるということも指摘されています


 という真の糖質制限では起こりえない現象も「擬似」であれば起こりえます。

 やはり薬に頼らずに済むに越したことはないのです。
SGLT2阻害薬の副作用懸念
SGLT2阻害薬、まだ具体的なデータは少ないので意見を申し上げるのは時期早尚ですが 作用機序から考えていくつかの懸念を持っています

糖尿病で骨粗鬆症の発症率が高いのは 尿中に大量のカルシウム(マグネシウムも)が排出されるからというのはご存知でしょうか?
カルシウム排出の原因は 糖によって尿が高浸透圧になっているからです。
この薬も原尿中の糖とナトリウムの再吸収を阻害することから、尿への糖とナトリウムの排泄が増え尿の浸透圧が高くなります
その結果、カルシウムやマグネシウム カリウムなどの有用ミネラルの再吸収が妨げられ尿中排泄が増えるのではないでしょうか?

尿中排泄されるカルシウムとマグネシウムなどは日頃あまり測定されていないので この副作用に気づく人は少ないと思われます。
可能性としては 尿管結石や腎結石にもつながるのではないでしょうか?

やはりおおもとの治療=糖質制限食の有用性を普及させたいものです。
Re: SGLT2阻害薬の副作用懸念
TrueLife 先生

 貴重な御意見を頂き有難うございます。

> この薬も原尿中の糖とナトリウムの再吸収を阻害することから、尿への糖とナトリウムの排泄が増え尿の浸透圧が高くなります
> その結果、カルシウムやマグネシウム カリウムなどの有用ミネラルの再吸収が妨げられ尿中排泄が増えるのではないでしょうか?


 この視点には私は気がついておりませんでした。教えて頂いて有難うございます。

 やはり新薬では自分の考えが及ばない副作用も起こりうるわけで、使用に際しては慎重であるべきですね。
No title
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!