正しい解釈へ導く事実重視型思考
2018/09/29 00:00:01 |
糖質制限でうまくいかない |
コメント:6件
糖質制限でうまくいかない人がいるという事実から、
糖質制限はよくないと考える人達が中心となって開催された件の講演会において、
招かれた私が何を話したかということについてもお話ししておきたいと思います。
私は私自身が物事を考える時に誤った方向へ進まないようにするために普段から心がけていることについてお話をしました。
それは一言で言えば、「事実重視型思考」というものです。
今ここに、健康長寿を成し遂げている100歳の女性がいるとします。 この女性が健康長寿でいられる理由を、ある人は「伝統的な和食のおかげ」と思うかもしれません。
また私のような糖質制限推進派の医師がみれば、「きっと糖質の摂取量が控えめだから健康長寿になれたのだろう」と思うかもしれません。
一方で「野菜をしっかり摂ったから」と思う人もいるでしょうし、
食事は関係なしで「日々ストレスをためずに自分のやりたいように生きてきたからだ」という人もいても不思議ではありません。
このように見る人の立場やものの考え方によって、一つの事象に対して様々な解釈が生み出されることになります。
ところが、「100歳で健康長寿を達成した女性がいる」というのは、動かしがたいたった一つの事実です。
解釈はいかように変える事ができても、事実はどうひっくりかえっても一つしかありません。
私はこの一つひとつの事実を思考のランドマーク(目印)にして、
たくさんある事実すべてに対して矛盾のない解釈を探していくことが、より正しい解釈となるのではないかと考えています。
確かに糖質制限で調子を崩す人がいるというのは紛れもない事実です。
しかしだからといって「糖質制限はよくない」と解釈してしまうと、世の中にたくさんおられる「糖質制限でよくなった人たちがいる」という事実に適合しません。
しかも糖質制限で調子を崩す人は全体の中で少数派で、やせ型、非筋肉質、女性、消化吸収障害といった特徴を示すことが多いときています。
そういった事実に注目すれば、「糖質制限で調子を崩す人にはストレスが加わっている」という解釈を導くことができます。その理由はこのシリーズで繰り返し述べてきている通りです。
そう考えれば、多数派で糖質制限でよくなるという事実、少数派で糖質制限で調子を崩す人がいるという事実、両方に適合するわけで、
どの事実をとってみても矛盾を生じないような解釈を探すことが、間違いを少なくする秘訣だと思うわけです。
ところが世の中でみられる事象が、事実なのか解釈なのかはしばしば混同されます。
例えば、講演会の中では「膵臓β細胞の維持、増殖には甲状腺ホルモンT3の働きが不可欠」という内容が論文付で紹介されていました。
はたしてこれは事実でしょうか、解釈でしょうか。
多くの人はこれを科学的に検証済の事実だと思うかもしれません。
しかしその元論文(J Biol Chem. 2010 Aug 6;285(32):24477-86.)を実際に読んでみますと、こんな風に書かれています。
「ラットにおいて甲状腺ホルモン受容体α(TRα)を刺激することはβ細胞の複製や増殖に決定的な役割を持つという仮説をこの実験結果は示している」
TRαというのはブログ読者のきよすクリニックの先生に教えて頂いたレフェトフ症候群について紹介した時に出てきましたが、
α型とβ型、ふたつの甲状腺ホルモン受容体のうちの片割れということであって、何も甲状腺ホルモンT3でなければ刺激できないというわけではありません。
ではどこからT3というのが出てきたのかと言いますと、この実験でラットのβ細胞を刺激するために用いた甲状腺ホルモンがたまたまT3であったというだけの話で、
T4だとβ細胞を刺激できないとはどこにも書いていませんし、T4でもTRαは普通に刺激できます。
もっと言えば、甲状腺ホルモンは全身の代謝回転を高めるホルモンです。β細胞に限らず様々な細胞の複製・増殖に関わっていてしかるべきホルモンです。
要するに「膵臓β細胞の維持、増殖には甲状腺ホルモンT3の働きが不可欠」というのは事実ではなく、演者の解釈だということです。
論文を示されたら事実だと思ってしまう人も多いかもしれません。
しかし結果そのものが研究者の解釈であることも多いですし、
それを誰かが引用すればさらに引用者の解釈が挟まるために、二重の意味で事実とはずれてきます。
論文に書かれていることの何が事実で、何が解釈なのかという点については十分に注意する必要があります。
いずれにしても私は事実重視型思考を進めていった結果、
現時点で「糖質制限はよい」という結論に至っています。
勿論、これが絶対的に正しいというものはないということだけは、
頭の隅においておく必要はあると思っています。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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白米とちょっとのおかずさえあれば食事の体裁を成している、という環境で育ちました。米はタダ同然で手に入り、お寺で貰った米菓子やジュースが常に家の中に溢れています。
朝食は茶碗一杯の白米とそれを食べるための味海苔や漬物、塩辛。
昼食は学校の食堂や売店でおにぎりまたはサンドイッチ、麺類。
夕飯でようやくご飯に一皿の肉料理がついてくる。
今にして思えば明らかにたんぱく質不足ですが、成長期にそんな食生活をしていてさえ、普通の社会生活を送れる大人になるのだから、人体はうまくできていると思います。
しかし、その代償として、糖質制限に必要な一部の生体システムが犠牲になったように思えてなりません。
様々な健康診断では異常なしで通ってきましたが、気胸を発症したり、たまに頭痛やめまい、吐き気などの体調不良を催したりと、健康とは言い難い体質です。
現在はごはんは茶碗半分程度、その分たんぱく質と脂質を昔の倍以上摂るようになりました。
一番の変化としては、冬場の手荒れが著しく改善し、ひび割れやあかぎれと無縁になりました。
素手のまま食器洗いをし、ワセリンも塗らなくなったにも関わらず、です。
以前の食生活と比べれば糖質制限になってはいますが、糖質制限している、という意識はありません。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
> 様々な健康診断では異常なしで通ってきましたが、気胸を発症したり、たまに頭痛やめまい、吐き気などの体調不良を催したりと、健康とは言い難い体質です。
科学やデータを重視した現在の健康診断、ひいては西洋医学中心医療の弊害だと思います。
現代の検査技術で検出できない異常を、現代医学は健康であると判定してしまいますが、
実際にはそうではないことはゆこさんの実体験が物語っていると思います。
そうした健康課題も「体調をバロメータ」にすることで向き合うことができます。
そしてその原因を自分の中に求めることが重要です。その結果、糖質を摂取することで体調の改善が得られたのであればそれはそれでよいことだと思います。あとはその状態を自分がどのように解釈するか、です。
糖質制限の理論はあくまでも参考とし、体調をバロメータとして最も体調のよくなる到達点を探し、自分のこれまでの事実に合致する解釈を見つけ出すのがよいと思います。それさえできていれば必ずしも糖質制限をしているという意識は必要ないと私は思います。
No title
しかし、その主張は「体調が改善した人は糖質制限をしていない」と言う事を証明する必要が有ります。
論理学で言うXOR(Exclusive OR)対偶です。
対偶については、たがしゅう先生が以前のブログ記事で取り上げられていた様な気がします。
対偶について考慮しない糖質制限批判が多数見受けられるます。
対偶について考慮する=事実重視型思考なのだと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 対偶について考慮する=事実重視型思考なのだと思います。
そうですね。
対偶が正しいということは隙をつく所がないということです。
事実とは隙のないものだと思います。
2018年1月15日(月)の本ブログ記事
「物事の裏側から考える」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1221.html
も御参照下さい。
甲状腺ホルモンとβ細胞
"This result suggests that T3 is required for β-cell proliferation or replication. "
とあり、私も「膵臓β細胞の維持、増殖には甲状腺ホルモンT3の働きが不可欠」という点には同意します。
しかし、この論文には糖質制限がβ細胞の維持、増殖を阻害するという論点はなく、純粋に甲状腺ホルモンのβ細胞に対する作用とそのシグナル伝達経路についての研究です。
・甲状腺機能亢進症では耐糖能異常(高血糖)を、
・甲状腺機能低下症では低血糖を、
きたすことが知られていますが、これは代謝が亢進(甲状腺機能亢進症)あるいは低下(甲状腺機能低下症)した結果として起こることです。
もし甲状腺ホルモンが少ない状態ではβ細胞の維持、増殖が阻害されることの寄与率が高ければ、甲状腺機能低下症では耐糖能異常をきたすはずですが、実際には低血糖をきたします。
逆に甲状腺ホルモンが多い場合にはβ細胞の維持、増殖が促進されるのであれば、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では耐糖能は改善するはずです。
甲状腺ホルモンでβ細胞機能が活性化されると同時にカテコールアミン系も活性化されるわけで、甲状腺ホルモンが活動性を高める作用を有する結果に過ぎません。
逆に甲状腺ホルモンが少ない場合にはβ細胞が活性化されないのと同時にカテコールアミンも活性化されないため、活動性が低下、血糖値も低下します。
糖質制限による低T3症候群においては、糖質エネルギーの供給が少ない状態にもかかわらず脂肪エネルギーが供給されないためにエネルギー不足となった結果、省エネモード、β細胞においては待機モードになっていると考えるのが妥当と思います。
糖質制限をしても脂肪エネルギーが供給できている人にとっては、低T3症候群にはならず、糖質が入ってこないためβ細胞もフル回転する必要がなく、耐糖能が低下したように見えるのではないでしょうか。
======================
原発性甲状腺機能低下症の発症により頻発する低血糖発作をきたした1型糖尿病の1例
〔糖尿病 57(4):242~248,2014〕
「考察:甲状腺機能低下症においては,甲状腺ホルモン欠乏により腸管での糖吸収が遅延することや,肝における糖新生能が低下することが知られており,健常時と比較して空腹時血糖が 10~24 %低下することが報告されている.
======================
Re: 甲状腺ホルモンとβ細胞
コメント頂き有難うございます。
> 糖質制限による低T3症候群においては、糖質エネルギーの供給が少ない状態にもかかわらず脂肪エネルギーが供給されないためにエネルギー不足となった結果、省エネモード、β細胞においては待機モードになっていると考えるのが妥当と思います。
なるほど。本来の甲状腺機能低下症であれば低血糖となるところが高血糖を呈しているということは、低T3症候群はやはり真の甲状腺機能低下症ではなく、あくまでも節約モードに付随して起こっている血糖上昇であり、β細胞の一時休止状態だということですね。
一方で脂質エネルギーの絶対量不足だけではなく、ストレスや体質、その他を原因とした消化吸収障害を背景に量は足りていても、それを適切に消化・吸収・利用しきれないために結果的にエネルギー不足→節約モードとなるという、機能低下に伴うキャパオーバーの可能性も頭に入れておく必要があると思います。そういう人はエネルギー量を増やすアプローチがかえって負担になる可能性があるので、いかに消化吸収障害を改善させるかに注力する必要があると私は思います。
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