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既存の文化的価値観と情報の伝達性
1903年に営業を開始したこちらの駅は当初有人駅で昔は大層賑わっていたこともあったそうですが、
時代の流れの中で1984年に無人化される運びとなったとのことです。
しかし2003年、開駅100周年を記念して、元駅員さん達が有志で企画した記念祝賀会が大盛況となり、
それをきっかけに観光名所となり、特急列車「はやとの風」が停まるようになり鉄道ファンを中心に注目を集めるようになった歴史があるそうです。
その嘉例川駅に土日・祝日だけ営業をしているお弁当屋さんが出す駅弁がおいしいと友人から聞き、行ってみたことがあります。
それは「森の弁当やまだ屋」という小さなお弁当屋さんです。
家族3人で営んでおられ、特急列車「はやとの風」の停車時刻午前10時30分頃に合わせて『百年の旅物語かれい川』という駅弁を販売されています。
繁忙を避けるためか事前予約は不可の早い者勝ち、売り切れ御免で1個1080円で売られていて、
内容物は概ね竹の子ご飯(たけのこ、しいたけ、さやえんどう)、春巻き、なます(大根、人参)、コロッケ、田楽(なす、かぼちゃ)、がね(天ぷらの一種で、さつま芋と人参、ニラ、生姜が入った鹿児島の代表的な郷土料理)で構成されているお弁当です。
内容は糖質制限的にNGのものが多いですが、味は確かで県内外問わず人気が高く、
JR九州主催の「九州の駅弁ランキング」では、2004年(平成16年)度で4位になり、2009年(平成21年)度まで3年連続で第1位に輝くほどの実績があります。
私が初めてこのお弁当を食べたのは、まだ糖質制限を知らない約10年前に後期研修医として鹿児島に来ていた頃のことです。
噂に違わず味はおいしくて、その希少性もあいまって噛み締めて味わった記憶があります。
今回嘉例川駅に再び訪れる機会があり、
現在は糖質制限実践者ではありますが、あの頃の思い出がなつかしく、久しぶりにその駅弁を食べてみることにしました。
健康面での問題があれば別ですが、時と場合に応じて糖質摂取を許容するスタンスは、
複雑に入り組んだ社会の中で生み出された文化的なものと共存する上で大事なことであるように最近私は感じてきています。
さて、久しぶりに食べてみてその味を思い出しながら、今改めてこのお弁当屋さんの存在について考えてみました。
予約ができないというシステムは商品を売りたいお弁当屋さんにとっては一見不利に働くようにみえます。
しかし実際はいつ行ってもお弁当屋さんは大盛況、今回私が行った時もお弁当が飛ぶように売れている状況でした。
何につけても予約するのが当たり前となったこの時代に、
なぜこのお弁当屋さんがうまくいっているのかという点について、ビジネスを行う上でのヒントがあるように思います。
一つの理由は言うまでもなく味のおいしさ、即ち「商品の価値」です。
もう一つは「希少性」、そこでしか買えないというレア感が客の購買欲をそそります。
つまり、確かなサービスを提供していれば、レアな存在であったとしても、客は不便を押してでもサービスを受けに来るということです。
医療の世界で圧倒的にマイノリティである糖質制限医療においても、基本的に当てはまる構造ではないかと思います。
ただし忘れてはならないポイントがもう一つあります。そしてそれがお弁当屋さんと糖質制限医療との間の最大の相違点です。
それは「情報の伝達性」です。
「口コミでの伝わりやすさ」とも言い換えることができます。
良いサービスを提供していれば、必ず口コミはついてくるはずです。その点ではお弁当屋さんも糖質制限医療も一致しているのですが、
その情報が既存の文化とマッチしているかどうかで、その情報の伝達性には大きな差が出てくるのではないかと思います。
とても美味しいお弁当がレアな場所で売られているという状況であれば、
ほぼ全ての国民にとって何の障壁もなく受け入れられる情報となり、
その情報は国内でスムーズに伝達されていくことでしょう。
しかし糖質制限医療の場合は、たとえどれだけ素晴らしいサービスを提供していたとしても、
お米は主食だとか、薬中心の医療だとか、既存の文化的価値観とそぐわない側面があるがゆえに、
それが障壁となり情報の受け取り手をある程度選ぶことになり、結果的に情報はスムーズに伝わらないということになってしまいます。
それでも現代ではインターネットが発達しましたので、
情報の伝わりにくさを情報を伝える範囲を拡大することでカバーできる側面がありますので、
宣伝の仕方次第でこの問題は克服しうるのではないかと私は考えています。
その一方で、よりよく伝えるためには、既存の文化的価値観との共存の発想、
一定の妥協点を模索することも、何かを広めようという際には大切な視点だと私は思います。
もう一つ、お弁当屋さんから学ぶことがあります。
それは「少数精鋭は一致団結しやすい」ということです。
集団の規模が大きくなればなるほど、集団の方向性に異を唱える人が出る確率が高くなってきます。
一家3人で営んでいるからこそ全員が迷いなく全身全霊でサービスを提供することができる側面があるのではないでしょうか。
このお弁当屋さんがもしも大企業化したら、きっとこれだけの盛況さは無くなっていくだろうと私は推察します。
以上のことから、私がこれから糖質制限を広めていくためにどのように振る舞うべきなのか、
大きな指針が得られたのではないかと私は思っています。
たがしゅう
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