減薬に寄与するのは主体的医療
2018/07/25 00:00:01 |
主体的医療 |
コメント:4件
ポリファーマシーと呼ばれる多剤内服問題があります。
特に高齢者医療や精神医療の現場でこの問題は顕著で、
多剤が複雑に絡み合い多様な副作用を呈することは勿論、飲み切れない残薬があまりにも多数となりその無駄が医療費負担を圧迫している事も社会問題化しています。
患者の立場からすれば、「そもそもそんな事にならないよう医者がきちんと薬の処方をコントロールしてくれ」と思う人達もいらっしゃるかもしれませんが、
逆に医者の立場になって考えてもらうとこの問題の難しさがわかってもらえるのではないかと思います。
今もしあなたが症状に合わせた様々な薬を処方できる権限を持つ医者の立場にあると仮定してみて下さい。 ある患者さんがあなたのもとにやってきます。
この患者さんは様々な症状を訴えます。しかしあなたが使える薬は各症状に対して1種類の薬です。
咳止め、痛み止め、下痢止め、めまい止め、様々ありますが、例えばめまい止めを使って様子をみるとします。
しばらくしてめまいは弱まるも、咳が止まらないと訴え続けます。その訴え方も必死です。
あなたならどうしますか。咳止めを出すでしょうか。
咳止めを出したら今度は腹痛、下痢、頻尿、ふらつき・・・・
いつの間にか多剤になっていき、次第に薬同士の相互作用も複雑さを極めていきます。
どんどん複雑化していく患者の症状に対してあなたはこう思うのです。「この患者さんは精神的な病気なのではないか」と。
何が言いたいのかといいますと、患者が症状を訴えれば訴えるほど良心的な医者は薬で応えようとします。
しかしその薬が西洋薬である限り、根本治療である可能性は乏しく、薬を出す行為はその場しのぎの行為に他なりません。
そして先日述べたように西洋薬には自己治癒力を阻害する側面があります。
こうして何も考えずに医者へ治療を任せる行為は皮肉なことに、
症状を積極的に訴えれば訴えるほど薬漬けへとつながっていく温床となっていってしまうのです。
せめて漢方薬であればまだよい結果が期待できます。複数の症状を一つの処方で対応できることもしばしばありますので。
それに漢方薬がうまくマッチすれば、自己治癒力を引き出し、一定期間漢方薬を飲み続けた所で止めても症状がぶり返さない終薬の方向へ持っていくことも可能です。
ですから漢方薬を用いることはポリファーマシーの解消に一役買ってくれるわけですが、
私が今回言いたいのはそんなことではなく、もしも何か症状がある時に患者が主体性を持っていたらどうだろうかということです。
具体的には例えばめまいがした時に、自分なりのめまいがした理由を考えてみるということです。
例えばめまいをきたす病気の一つ、メニエール病はストレスの関与が示唆されている病気です。
もしも患者がめまいを起こす前に仕事で無理をして身体を酷使する状況が続いたという情報を医者に与えてくれれば、
医者はめまいを抑える薬を出しつつも、その職場環境の問題点を指摘し環境改善について助言をするかもしれません。
医者ならそれを聞き出してくれと思われるかもしれませんが、そもそも仕事のストレスとめまいとは関係ないと患者が思いこんでいたらどうでしょう。
たとえ「医者がめまいを起こす前に何か変わったことはありませんでしたか?」と問いかけても、仕事の状況の話は出てこないかもしれません。
ひょっとしたら「ストレスなどがかかっていませんでしたか?」と尋ねたとしても、自分で考えることを放棄している患者であれば仕事のことは関係ないと思ってしまうかもしれません。
原因について医師と一緒に考えるという姿勢を持っていれば薬を使わない方向へ持っていくことも不可能ではなくなりますが、
そうした主体性を持っていなければ、本当の原因がわからなくなる可能性が高くなります。なぜならば患者本人にしかわからない情報は多々あるからです。
だからもし患者のあなたが少しでも薬の数を減らしてほしいと願うなら、
病気のことを全部医師任せにするのではなく、ともに病気の原因について考える姿勢を持つことです。
そうするだけで、世の中の医療はよりよいものに変わり、
不要な薬が出される機会も減るのではないかと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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求めよ、さらば与えられん
ポリファーマシーの話ではないですが、自分が本気で助かりたいと思わなければ、誰も助けることは出来ないんだな、ということを、先日の水害を見て感じました。
以前にも同様の被害があり、ハザードマップにも載っていて、ニュースや天気予報などでも注意を呼びかけ、各種警報が出たにもかかわらず、避難をしようとしない人をどうやったら助けることができるのでしょう。勿論、避難が困難な高齢の方もいらっしゃるわけですが、そういう方の非難をどうするかは、地域や自治体が事前に考えておくべきだと思います。そうでなければ、ハザードマップも特別警報も絵に描いた餅ですね。
自分の命は自分で守る。この意識がなければ、医療の様々な問題も解決はできないと思います。
Re: 求めよ、さらば与えられん
コメント頂き有難うございます。
世界が変わらないのは変わらない世界のせいではなく、私が変わりたくないからなのかもしれません。
対岸の問題に見えることが突き詰めれば自分の問題に帰結することをしばしば経験します。医療に限らず、問題意識は自分と関連づけて考えていきたいものですね。
No title
主体性の発揮には「知識」が必須だと思います。
「知識」がなければ、
考える事も面倒、人任せにする方が楽。
「知識」があれば、
自ら考え、人任せにはしたくない。
私たちは、自分自身のためにも、
「知識」を持つ努力が必要だと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 主体性の発揮には「知識」が必須だと思います。
大事な視点だと思います。
何事も「素人だからわからない」のではなく、「知識を得ようとする苦労から逃げている」という側面があるのではないでしょうか。
ヒトは楽な環境が与えられれば、楽な方へと逃げる生き物だと思います。そうしたくないのならば適切な人為を加える必要があると私は思います。
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