漢方薬は見えない代謝を整える

2018/06/11 00:00:01 | 漢方のこと | コメント:2件

2018年6月9日(土)-10日(日)の二日間、

大阪国際会議場で行われました第69回日本東洋医学会学術総会に参加して参りました。

漢方や鍼灸など東洋医学に興味がある医療関係者が一堂に会するおそらく国内最大規模の学会です。

もともと漢方に興味を持つ人は西洋医学一辺倒の現代医療に疑問を持つことに始まり、

必ずしもエビデンスの有無に捉われることなく、自分の頭で考えて行動する人が多いので、

斬新な発想での治療アプローチを知ることができたり、新たに考えるきっかけを与えられたりするのでいつも大変参考になります。 そういう柔軟性の高い人達の集まりなので、

糖質制限に対する反応はこれいかにと思いまして、

今回は「糖質制限理論から東洋医学的食養生を再考する」と題しまして、

糖質制限に関する小さな発表にチャレンジして参りました。

とは言え、7分間と時間の限られた短い発表でしたので、特に目新しいことをしゃべったわけではなく、

経験的に導かれて来た東洋医学的な食養生の方法論に、

生理学的、分子生物学的に科学的根拠が明確となり再現性の高い食事療法である糖質制限の理論を組み合わせれば、

きっと食養生の質はさらに向上すると思うという私見を主張するに留めました。

しかしこの発表に対する聴衆の集まり具合はいまいちで、正直言って私の手応えはありませんでした。

常識にとらわれない思考の割合が高いはずの東洋医学会でこんな調子なのであれば、

学会という場所で糖質制限を広めていくことがいかに難しいことであるかを改めて痛感させられます。

やはり一つの方法にこだわることなく、様々な方法、様々な場所でチャンネルを増やして活動していくことの重要性を感じる次第です。


さて、一方で漢方薬というものについて改めて考えさせられる出来事もありました。

今回の会頭(大会長)である大阪医科大学健康科学クリニック教授・所長の後山尚久先生の、

「漢方医〜癒し人」と題した会頭講演の中で、温経湯(うんけいとう)という漢方薬が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という病気に有効であった、というお話がありました。

PCOSは糖質制限をよく勉強している人は知っていると思いますが、糖質制限で良くなる病気の一つです。

詳細は不明ですが、もしも糖質頻回過剰摂取がPCOSの病態の根本に関わっているのだとすれば、

漢方薬は根本原因を放置したまま患者さんの状態を改善することができている、ということになると思います。

PCOSだといまいちピンと来ないかもしれませんが、糖尿病で同じことを考えればこの事の不思議さがよりわかると思います。

つまり糖質頻回過剰摂取しているにも関わらず、漢方薬を加えることで血糖コントロールが良くなっているようなものです。

糖質量は漢方使用前後でほぼ一緒(むしろ漢方薬に含まれる少量の糖質の分だけ使用後の方がむしろ多め)にも関わらず、

漢方薬使用後の方が病態が改善するとは、一体身体の中で何が起こっているというのでしょうか。

おそらくはどこかしらの代謝を漢方薬が部分的に動かしている可能性が高いと思います。

PCOSであればLH(黄体ホルモン)を中心に女性ホルモン関連代謝システムを、

糖尿病であればインスリン感受性を中心に糖代謝システムがそのターゲットとなっているのではないでしょうか。

同じ糖質量を摂取しても症状が出る人と出ない人とで差が出るのは、それら代謝システムの働き具合の違いだと思いますし、

見方を変えれば、漢方薬は生活習慣を改善しなくても病気を治すポテンシャルを持つ薬ということになり、なかなか凄いわけですが、

とは言え薬を止めれば程度の差こそあれどいずれまた逆戻り、そういう意味では漢方薬も対症療法の域を出ません。

そうなのですが、この話は目に見えない代謝システムの存在を私達に教えてくれているように思います。

糖質制限やオーソモレキュラーでは栄養の物質的な側面ばかりに目が行きがちですが、

実際には生物には機能があり、それは目に見えないものであるということ、

またいくら物質的に充足されていても、機能が衰えていれば真の回復とは言えないのだということ、

そして目に見えないシステムの故障に対処する方法の一つとして漢方薬があるということを考えさせられました。

他にもストレスマネジメントを中心に、目に見えないシステムを整える方法は数あると思いますが、

ともあれ目に見えないものも治療ターゲットとして含めて、

最終的に患者さんの体調が良くなる方へ導くのが私達の仕事だと感じた次第です。


たがしゅう
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コメント

No title

2018/06/17(日) 14:17:13 | URL | ココア #-
長い間、不眠症でした。マイスリーやデパスは翌日までダルさが残ります。
全く別な症状で、八味地黄丸とそけいかっけつとうを処方してもらって飲んだら、不眠が解消され今までに経験のないほど良く眠れるようになりました。

不眠解消を目的で飲んだ漢方ではないのに不思議です。漢方の選び方は難しいですね、効能に書いてある以外にも効くんですから。

Re: No title

2018/06/17(日) 19:31:31 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ココア さん

 コメント頂き有難うございます。
 自分の状態とマッチする漢方薬と出会えてよかったですね。

 漢方薬は「〇〇を治す薬」として理解するとしばしば見誤り、漢方薬の可能性を狭めることにもつながってしまいます。
 病気を治すのではなく、状態を治すのが漢方薬の仕事なので、例えば不眠を治そうとして痛みや排便も一緒に治るという事は臨床でしばしば観察される現象です。

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