糖質とドーパミンと衝動性
2013/12/30 00:01:00 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:5件
shin1さんから興味深い記事をご紹介頂きました。
ストーカー加害者の告白 ~心の闇と対策~
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3446_all.html
ストーカー行為の心理について加害者への取材を通じて特集された記事です。
その中に『衝動的』という言葉がありました。
糖質制限の理論を知った私はこの言葉に一つ思うところがありました。
我々はパーキンソン病という病気をよく診る機会があります。
実はこのパーキンソン病の合併症の中に「衝動制御障害(DDS)」というものがあります。 そもそもパーキンソン病という病気を簡単に説明しますと、
一言で言えば、「脳での神経伝達物質の一つであるドーパミンを作る細胞が徐々に死滅していってしまう病気」です。
その細胞が死滅していく原因がわかっていないのですが、ひとつ『神経変性』という現象が関わっていることが示されています。
レヴィ小体という名前の異常蛋白がドーパミンを産生する神経細胞に蓄積されていくことが,細胞の減少に大きな影響を与えていると言われています.
このメカニズムによって症状が出る病気を「レヴィ小体病」とまとめて言いますが,簡単に言うとその中で運動機能を中心にやられていくのが「パーキンソン病」,認知機能を中心にやられていくのが「レヴィ小体型認知症」です.
ちなみに「パーキンソン病」と「レヴィ小体型認知症」は起源が一緒なのですが,後者は薬剤過敏性という特徴がある(例:風邪薬が効きすぎて眠りこんでしまう,など)ので,治療上はっきりと区別することが望ましいです.
さて,パーキンソン病はドーパミンが少なくなっていく病気なので,治療の基本は「ドーパミンを補充すること」です.
一番基本となる薬は「レボドパ(=L-dopa)」という薬です.レボドパはドーパミンの前駆物質ですが,ドーパミンのままだと分子量が大きすぎて脳血液関門というシステムのせいで薬としては脳には入れないので,より小さい前駆物質の状態で脳の中に入れ,脳の中で酵素によってドーパミンへ変換されることによってドーパミンを補充します.
レボドパの副作用としては吐き気、嘔吐、食欲不振、などの消化器症状、めまい、起立性低血圧、不整脈などの循環器症状、興奮、幻覚、妄想、抑うつ、不眠などの精神症状、眠気などがあります.
そしてドーパミンによる精神系の過剰刺激によって抑制がきかない病的な精神状態に陥ることも知られています。
具体的には病的賭博、買い物依存、性行動亢進、過食、爆発的攻撃行動などをきたす場合があります.これを「衝動制御障害(DDS:Dopamine Dysregulation Syndrome)と言います.一般的に若年者に多く、特に独身だとこちらから疑って聞こうとしても病状把握困難で治療も難しい傾向にあります.
ところで糖質を摂取してもドーパミンが産生されます。ドーパミン神経は報酬系とも言われ,この回路が回ることによってヒトは快感を得ます.この事が糖質の中毒性の形成に一役買っているというわけです。
さて,話は冒頭のニュースに戻ります.
元ストーカーの犯行当時の心情告白の中に出てきた「衝動的」という言葉,もしかしたらこれは糖質の過剰摂取によってドーパミンの副作用が出た状態なのかもしれないと私は思うのです.
糖質の反応性は人によって異なります.糖質をとると眠たくなる人もいれば,気分が高揚する人もいます.その違いは一重に体質の差(遺伝的背景の違い)によってもたらされると考えています.
そして世の中はすでに糖質まみれです.食事について何も意識せずに生活していたらまず間違いなく高糖質の食事になります.そこで糖質をとることによって衝動性が出やすい体質の若い人がいたとしたらどうでしょう.
ストーカーをはじめとした犯罪に関与していく可能性も否定できないのではないでしょうか.
もしかしたらこの記事の加害者がもしも糖質制限をしていたら,あるいはもしも世の中の食事が低糖質が主体であったなら「衝動性」を覚えなくて済んだかもしれません.一瞬の衝動性が加害者と被害者の両方の人生を狂わせてしまいます.
その衝動性が糖質によって引き起こされているのだとすれば,「食べたい人だけ食べればいい」では済まされない世界もあるということになります.
因果関係の証明は難しいでしょうが,糖質の有害性はこういうところにも存在しています.
そう考えると世の中に糖質制限の考えを広めていくことは,ひいては犯罪の抑制にもつながっていく可能性をも秘めていると思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
糖質についての社会的な深みと広がり
Re: 糖質についての社会的な深みと広がり
コメント頂き有難うございます.
> 糖質制限をする事で、児童虐待等も減らせる可能性がありますね!
理論的には可能性はあると思いますが,社会に広めるとなるとハードルはまだまだ高いですね.
管理人のみ閲覧できます
No title
児童虐待と言えば、反社会性人格の持ち主とされる連続殺人犯などに幼少期十分に親の愛情を受けていない傾向があるとも言われてますね。育児放棄で子供の時期に普通の食事を用意されず、安価な菓子パンやスナック菓子のような糖質しか食べさせてもらわなかったら脳にも明らかな悪影響が出そうですね。
まあそこまでいかなくても性格や体型は遺伝とされてたのが、むしろ食習慣の方が大きいとなるかもしれませんね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> 反社会性人格の持ち主とされる連続殺人犯などに幼少期十分に親の愛情を受けていない傾向があるとも言われてますね。育児放棄で子供の時期に普通の食事を用意されず、安価な菓子パンやスナック菓子のような糖質しか食べさせてもらわなかったら脳にも明らかな悪影響が出そうですね。
御指摘のように親の教育という環境要因も大いに関与していると思います.
悪い環境は悪い遺伝子を発現させます.そして悪い食生活(高糖質食)がその事に拍車をかけます.
しかし,たとえどうしようもない環境があったとしても,食生活は変えようと思えば変えられます.その重要性を皆もっと知るべきだと思います.
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