あえて減薬を勧めない時
2018/05/11 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:2件
私は西洋薬全般に対して、その本質は結局のところ対症療法であって、
何一つ病気を治せていないということに糖質制限を通じて気付き、以来積極的減薬推奨派のスタンスをとっています。
減薬をするかどうかの意思は本人に委ねるのが基本です。
なぜならば本人が希望していない減薬を行うと、たとえ理論的には良いことだとしても本人のストレスになるおそれがあるからです。
しかしながら、私は過去に本人が減薬を希望していたにも関わらず、減薬がうまくいかなかった失敗を経験しています。
またこれまでにポリファーマシーと呼ばれる10剤、20剤処方されている状態の減薬についても積極的に取り組んでいた時もありました。
しかし経験上、理論的には良くなる方へ行くはずの減薬であっても、必ずしもうまくいかないという症例に稀でなく出会いました。 それらの経験から推察するに、長く薬を飲んでいる人達は、
良くも悪くも薬を飲んでいる状態に対しての代謝適応が起こったのではないかと最近考えるようになってきました。
例えば、スタチンについてです。
スタチンはこれまでにも当ブログで取り上げてきましたように、
「コレステロール動脈硬化犯人説」という間違った考えの下に、その有害性が認識されにくい環境にあります。
端的に言えば、スタチンはミトコンドリア機能阻害薬なので、
スタチンを止めることでエネルギー産生効率が高まり、理論的には体調は良くなる方にシフトしていくはずです。
ところが長期でスタチンを内服している人は、スタチンでコレステロール産生経路が弱まった状態に合わせて、
それ以外の代謝経路が複雑に調整される事によって、恒常性の維持に働いていた部分があるのではないでしょうか。
言い換えれば、「スタチンでコレステロール産生が弱まった状態でちょうど良く全身の機能が働くように身体が適応した」、ということです。
そういう状態の人にスタチンを止めるように促せば、
確かにコレステロール産生は高まり、細胞膜、神経の髄鞘、各種ホルモンなど重要物質の構成材料は出そろうようになりますが、
それを有効活用する代謝の使用は随分久しぶりに使うことになるため、急激な代謝変更に適応しきれずにそこに材料があってもエネルギーを利用できない状況に追い込まれ、
結果的にスタチンを止めることによって体調が悪くなるという出来事へとつながってしまうのではないかと私は考えるようになりました。
これは長年糖質摂取続けて、幸か不幸か糖質摂取状態に適応したという人が、
急激な糖質制限を実行して逆に体調不良となったというケースと共通構造を持っているように思います。
この場合、スタチンを止める事がかえって、身体が頑張って何とか安定させた代謝環境を崩すことになってしまうので、
無理にスタチンを止めるより、そのままスタチンを飲み続けていた方がDo No Harmに近いという状況が生まれます。
しかしだからと言ってスタチンが良いものかと言われたら、そういうわけではないはずです。
糖質制限で体調を崩したやせ型体質の人が糖質摂取で体調が改善したはよいが、
そのまま糖質を摂取し続けるべきかどうかという疑問に対しても同じ事が当てはまるのではないかと私は考える次第です。
人間は良くも悪くも慣れる生き物です。
それは薬の内服によって起こるミクロな代謝変化においても例外ではないと思います。
たとえ糖質制限や減薬が理論的に良いことであったとしても、
長年糖質や薬にさらされて代謝適応が起こってしまっている人に対しては、
よほど本人に止めたいという希望がない限りは、不本意ではありますが、そのままの流れで様子をみるようにしています。
よかれと思って行う指導が、逆効果になるケースはこういうところにもあるのだと考えさせられます。
逆に自分本来の姿を取り戻したい強い意欲があったとしても、
長年薬を飲み続けて自分と向き合うことから逃れ続けてきた人はその期間が長ければ長いほど、
減薬の道は苦難を極めるという事を覚悟しておく必要があるのかもしれません。
それは他人の一医師が促せるような軽い覚悟ではないであろうと、
減薬により苦しむ人達を見ていて私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
>人間は良くも悪くも慣れる生き物です。
>スタチンでコレステロール産生が弱まった状態でちょうど良く全身の機能が働くように身体が適応した。
体がスタチンに、なんとか適応できた後で、
スタチンを減薬すると、不具合が起こる。
「だから、スタチン飲まなきゃね。」
皮肉な展開ですね。
「何か変」だけど「正当化」
世の中、この様な展開が多いのでしょうね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
そもそもスタチン減薬で調子を崩す代謝環境になったのは、
長年何も考えずに言われるがままスタチンを飲み続けてきたことに起因するというのに、
その事実を脇において「スタチンを飲むべき」と自己正当化している状況というのが、
いかにこじれている状況かということが客観的に見ればよくわかるのではないかと思います。
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