食べても食べても太らない理由
2018/05/10 00:00:01 |
漢方のこと |
コメント:7件
ゴールデンウィーク中に大規模な断捨離を敢行していましたが、
どうしても捨てるのに未練を感じてしまう資料を見直している中、
昔出た漢方の勉強会で興味深い資料を発見しました。
それは日本東洋医学会の第43回中四国支部総会高知大会の時の要旨集でして、
講演内容のランチョンセミナーで発表された漢方医療頼クリニックの頼建守先生の御講演内容が私の目を引きました。
「多飲過食(間食)と月経の不調」
頼建守(漢方医療 頼クリニック 東京医科歯科大学老年病内科非常勤講師・臨床准教授)
(要旨集より引用)
(前略)
排卵がある女性の月経周期においては経血期、卵胞期、黄体期と3つの時期に大きく分けられる。
体温の変動を視点に入れてみると、月経開始から排卵までの経血期・卵胞期は低温、排卵後から次の月経までの黄体期は高温である。
PMS(月経前症候群)は高温期に起こる身体の不調に対し、月経困難症は低温期に起こる不調である。
両者は、西洋医学の観点では違う病気であるが、実際互いに連動し合っており、近年は両者を訴える患者が多くなっている。
「中庸」の概念に立脚した陰陽論から女性の月経周期をみると、健康な場合であれば「気=陽」と「血=陰」は互いにバランスをとろうとして体内を巡る。
一方が多くなると他方は相対的に少ないので、つり合いの良い「中庸」状態に保とうとして両者は常に消長しながら動いている。
経血期に血(陰血)が排出されることによって、卵胞期は相対的に「血」の少ない状態から始まるが、
適度に摂食すると「血」が徐々に補われてゆく、と同時に「熱」も少しずつ形成されていく。
つまり、黄体期に入ったところはすでに「血」が十分に補充されている状態なので、
バランスの良い「中庸」状態にもってゆくために、黄体期には「気」を補いながら整えていかなければならないと考えられる。
ところが、過食や度をこした間食は「血」と「熱」の過剰形成をもたらし、
特に甘いものや炭水化物の過剰摂取は「脾胃;いわゆる消化器系」に「裏熱」を、また「瘀血」や「瘀熱」の病態を招く。
卵胞期の後半にすでに「瘀血」「血熱」や「瘀熱」の病態になってしまうと、今度黄体期にさらに高いハードルの「中庸」状態に到達させなければならない。
したがって高いレベルの「気・血」バランスに維持するために、どうしても食べざるを得なくなり、
傷寒論の記載にある「瘀熱⇒消穀善飢」という状態に発展してしまう。
(引用、ここまで)
私はやせ型女性に多い糖質制限にまつわるトラブルに注目している所がありますが、
そういう方へ消化管を休ませて消化吸収能を高める目的でプチ断食をアドバイスする事があるのですが、
すでにやせている人にとってそれ以上やせる事は恐怖であって、少しでも痩せないようにこまめに間食をしていたり、
薬やサプリンメントで消化吸収能を高めるような工夫をしたりという、言わば「プラスの発想」で改善に取り組んでいるという人がほとんどです。
そういう方へ真逆のアプローチとなるプチ断食などという「マイナスの発想」を勧めても容易には受け入れがたいのかもしれません。
またやせているのだから食べ物を増やすのが当然、という想いもあるかもしれません。
そういう方へ今回の引用文は、「なぜ頻回食が良くないのか」という疑問について、一定の答えを与える内容となっているのではないかと思います。
ただ東洋医学独特の表現も多いので、私なりにかみ砕いて解釈してみようと思います。
まず、「気」「血」についてここでは大胆に「自律神経系の働き」「循環動態の状態」と解釈します。
月経により経血が排出され次の排卵が起こるまでに時期は一時的に循環血漿量が低くなっている状況です。
その時期に摂食して造血機能の働きを栄養で下支えすれば、循環血漿量が増加し、循環動態が安定してきます。この状況を東洋医学的に「血が補われていく」と表現します。
それと同時に「熱も形成される」とありますが、これは栄養の消化吸収に際して生じる食事誘発熱産生の熱エネルギーだと解釈することができます。
そういう一旦下がった状態から再び中庸へ、すなわちバランスのとれた健康な状態へと戻していくというプロセスがあるため、その時期は比較的低体温を示しているということです。
ところが、ここで頻食にしてしまうと循環血漿や食事誘発熱産生の過剰形成により、
循環動態が悪くなった「瘀血」、熱がうまくはばききれずに局所にこもった「瘀熱」と呼ばれる状態に移行してしまいます。
特に甘いものや炭水化物でそうなるという所がまた興味深いですが、
おそらくそれには消化管の動きを鈍くする糖反射や大量の糖質、炭水化物を消化するには人体の消化酵素が間に合っていない状況などが関与しているものと思われます。
このような状況が続くことによって、消化管の局所の循環動態が悪くなったり、熱がこもるような状況は消化管の炎症という形であらわされます。
もしかしたら原因不明の下痢や便秘、あるいは潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患のメカニズムにこの辺りが関わっている可能性もあるかもしれません。
そして炎症は消化吸収能を低下させるので、さらに食べ物を消化吸収することができない悪循環へと陥ります。
一方で食べ過ぎた状態で排卵から月経までの2週間の黄体期を迎えるとどうなってしまうのでしょうか。
この時期は妊娠を成立させようとするためにただでさえ循環は活発化し、熱産生も高まっている状況で、それが故に黄体期は比較的高体温を呈します。
それなのに、「瘀血」「瘀熱」の病態がさらに加わっていると、循環改善、熱冷ましのために自律神経系が活発に働きます。それを「気を補う」と東洋医学的に表現されています。
つまりうまく太れないからと言って過食を続ければ続けるほど、自律神経には負担がかかり次第にオーバーヒートしてしまうリスクがあるということです。
そして最後の「消穀善飢」というのは、食欲が旺盛で、食べてもすぐに空腹を感じてしまうという状態の事を指します。
食べても食べてもやせてしまう人は、食べ方が悪いとか、食べる量が足りないと考えがちですが
この一連の流れを考えた場合に、食べる事がむしろ増悪因子になっているという事が理解できるのではないでしょうか。
特に女性の場合は月経周期を加味すれば、
例えば月経後から2週の時期にはしっかりと食べ、さりとて食べ過ぎになりすぎないよう気をつけながら、
その次の2週間で月経がはじまるまでの時間は食事量をむしろセーブするという工夫も、
食べても食べても痩せ続けてしまうという状態の解消に役立つかもしれません。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
プチ断食や少食したことあるのですが、栄養は結局入ってこないので一瞬良くなったようにみえても、結局のところ老化現象起きたような気もします。タンパクは必要なのではないでしょうか?
押してもだめなら・・・
私の家内はBMI15.7の超痩せ型で、それも歳を重ねるごとに体重が減っていっていたので、悩んでおりました。
それでも4年前に糖質制限を始め、現在は朝夕の2食、そして月1回の不食(絶食)をしていますが、体重は逆に増加に転じています。
痩せている人が食事を減らすことは、相当勇気のいることだとは思いますが、「押してもだめなら、引いてみな」の格言通り、試してみなければわからないことは沢山ありますね。
痩せて困っている人の参考になればと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 回数を増やすと痩せやすくなるということですかね。。
それは一概には言い切れません。
食事吸収効率の個人差や腸内細菌の多様性の問題も絡んできますので、
消化吸収機能が保たれていて脂肪細胞に貯蓄の予備能、もしくは脂肪細胞にまだ分裂の余地が残されている人の場合は、
食べたら食べただけ太るという状況が起こり得ると思います。
しかし消化吸収機能が低下している人が同じ発想で太るために食べ続けるとかえって悪循環に陥ってしまう、という話です。
> プチ断食や少食したことあるのですが、栄養は結局入ってこないので一瞬良くなったようにみえても、結局のところ老化現象起きたような気もします。タンパクは必要なのではないでしょうか?
プチ断食や少食の最大の目的は代謝の正常化です。
多食により乱れた代謝がプチ断食によって整えば、その後食べる時にはより消化吸収がしやすくなっているはずです。
その時におもむろにタンパク質中心の食事をしっかり摂ればよいと思います。
その際、どのくらい食べるのが適当なのかについては、自分の体調が教えてくれると思います。
Re: 押してもだめなら・・・
コメント頂き有難うございます。
やせ型の方が食事回数を減らすことで体重の増加をもたらした実例ですね。
本人が納得して行わないとストレスとなるため、私の指導でうまくいかない事も多いので貴重な御報告と思います。
皆さんが奥様のように考えられれば、やせ型体質の人の健康の助けになるのではないかと私は考えています。
消穀善飢のこと
胃の消化作用を水穀の精微(後天の気)の摂取と考える中国医学では、穀=食物全般 という理解が一般的なので、消穀とは旧来の解釈でいうと食物の消化活動になると思います。
ただし、消穀善飢という病態を意味する用語における穀とは穀物であり、糖質制限を実行する現代人としては、もう少し踏み込んで穀物に代表される糖質と解釈してみたいところです。
糖尿病の病態として、喉の渇きによる多飲や津液消耗のことを消渇として中国医学は認識していたものの、主たる犯人が穀物=糖質であるということを特定出来なかったため、食べすぎが糖尿病の原因というぼんやりとした解釈で、有効な治療法が提示出来ていなかったように思います。
中国医学の糖尿病に関する治療法を読んでいると、インスリンによる血糖値のコントロールは西洋医学のほうが優れているという説明がしばしば登場することも、このことを裏付ける証拠と言えるかもしれません。
この点、今回の先生の東洋医学会での発表のテーマとも重なりますが、中国医学と西洋医学の欠点と長所を理解したうえで、病気ひいては健康を考えていく必要があると思います。学会については、残念ながら参加は出来ませんが、二千年前の糖質制限に興味を持っていただける方が一人でも増えればと、期待しております。
Re: 消穀善飢のこと
コメント頂き有難うございます。
> 主たる犯人が穀物=糖質であるということを特定出来なかったため、食べすぎが糖尿病の原因というぼんやりとした解釈で、有効な治療法が提示出来ていなかったように思います。
そんな中でも賢人は「辟穀」という概念に2000年以上前に到達していますね。
そこに糖質制限の理論が組合わされば、真犯人は穀物ではなく、穀物の中の糖質の多さにあったというように、ぼんやりとした概念が明確になっていくように思います。
東洋医学的視点で全体を捉え、西洋医学的視点で詳細を検討するという使い方が、医学における望ましい東西融合の在り方であるのかもしれません。一般的な東西融合医学は、あくまでも西洋医学中心でオプション的に東洋医学を用いる発想の方が主流となってしまっているように思えて残念です。
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