基礎医学も進化する
2013/12/28 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:2件
年末大掃除の時期です.
先日,うちの病院でも大掃除が行われました.
ある場所の棚を掃除していると,非常に古い本がたくさん出てきました.
先輩の先生と棚の整理のために捨てる本と残す本を選別していたところ,
「ハーパー生化学(原著22版)」という本が出てきました.
江部先生のブログでも紹介されている有名な生化学の教科書です.
ただし平成3年出版のかなり古い版のものでした.
でも私はこの本を持っていなかったので,「これも捨てよう」と言う先輩の先生を制して「捨てるくらいなら私にください」と申し出てラッキーにも頂けることになりました.
少し変わったクリスマスプレゼントと解釈して,ちょいと読んでみることにしました. 一番興味があるのはケトン体に関する記述です.
江部先生のブログでは,ハーパー生化学を引用し,
「脳はブドウ糖だけでなくケトン体を利用します。日常生活では心筋・骨格筋など多くの体細胞は、脂肪酸・ケトン体を主エネルギー源としている)のに対して、脳・網膜・生殖腺胚上皮・角膜・水晶体はブドウ糖を利用しています。」
と紹介されています.
ただし,江部先生が紹介されているのは新しいハーパーで原著第27版のものです.
でも生化学というのは,解剖学,生理学などと並んで基礎医学と呼ばれる分野です.
基礎的な部分は時間が経ってもそうは変わらないだろうと考えて,同じような記載を探してみました.
すると脳のケトン体利用に関しては,
「(飢餓状態では)脳も適応して酸化されるグルコースの約半分をケトン体で代用するようになる」
と書かれています.少しニュアンスが違う気がします.
すなわちこの20年の間にハーパー生化学の中でケトン体に対するとらえ方が変わったということになります.
また,糖質の必要性に関しては,
「ケトーシス,および筋タンパク質の喪失を予防するために,糖質の1日摂取量は最低でも50~100gにすることが推奨されているが,バランスのとれた食物は,エネルギー必要量とのかねあいで摂取しなければならない脂肪の量を減らすため,糖質含量をもっと多くすべきである」
と高糖質食寄りの記載が書かれていました.
つまり生化学の分野でさえも,誤った常識によって実際の現象を捻じ曲げて解釈させられてしまう現象が起こっているということになります.
生理学・生化学的な事実はあくまで,
「糖質は必須栄養素ではない」
「脳はブドウ糖の代わりにケトン体を利用できる」
「ブドウ糖は脂質,タンパク質を材料に糖新生によって作られる」
であり,それを教科書にどう記載するかは生化学者の解釈が入ってくるので,読み解く際には十分に注意しなければなりません.
いずれにしても,基礎医学の分野も結構変わっていくものなのだということがわかったのは,今回新たな収穫でした.
ちょっと高いけど,やっぱり新しいハーパー買わなきゃだめかもですね.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
今分かっていることのベストを
ですから私でも通用しているのです。
でも医師は違いますよね。
何が事実なのか、絶えず追い求めていく、
そしてそのときの最良の医療を提供する。
たがしゅう先生とのご縁を有難いと思います。
近々やって来るであろう、孫にも良いご縁が付くよう、祈るばかりです。
(ってか、三男が結婚したばかりですが、、、)
Re: 今分かっていることのベストを
コメントを頂き有難うございます.
> 何が事実なのか、絶えず追い求めていく、
> そしてそのときの最良の医療を提供する。
そうです.それこそが医師の基本姿勢だと思います.
勉強することをやめた医師は医師ではないと思っています.
> たがしゅう先生とのご縁を有難いと思います。
こちらこそです.
私もライフワーク光野さんとの出会いを大切にしたいと思います.
これからもどうか宜しくお願い申し上げます.
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