パターナリズムからの真の脱却
2018/05/02 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:5件
ひと昔前のインターネットが存在していなかった時代は、
医師と患者の間にはとてつもない医療情報の格差がありました。
例えば自分の病気について知りたくても、今のようにスマホやパソコンで気軽に検索することができるはずもなく、
それこそ図書館に行って専門書にアプローチするくらいしか自分の病気に対する正確な情報を得る手段はなかったのではないでしょうか。
ましてや今やネットにあふれる病気についてわかりやすく解説しているような情報に触れる機会などまるでなかったであろうと想像されます。
そのような状況の中では、医師と患者との間に絶対的な情報の非対称性があるという事になります。 その結果、何が起こるかと言えば、患者は医師の言うことを信じるしかない状況が生まれます。
これを父親に従うしかない子供のような状況になぞらえて、「パターナリズム(父権主義)」と呼んだりします。
この状況を悪く言えば、患者はいつでも医師に騙される素地があるということになると思います。なぜなら手持ちの医療情報が医師に比べて圧倒的に少ないからです。
そしてパターナリズムは医師に対しての患者が絶対服従するという構造を生みます。
しかも不思議なことにそのような関係にあるにも関わらず、患者は医師を感謝し敬うという関係性が生まれます。
なぜならば医師は善意のもとに患者のために最善を尽くしているという事が大前提となっているからです。
しかし医師も所詮は人間、間違うことだってあるし、聖人君子のような存在ではないという事は、
わかる人には少しずつ伝わってきているであろうと思います。
情報化社会と呼ばれるようになって久しいですが、
インターネットが発達して医師でなくとも容易に医療情報を入手できるような時代になって、
このパターナリズム構造はどうなったかと言えば、医療情報の格差が少し埋まったおかげで少しは薄まったように思えるかもしれません。
しかし情報格差は小さくなったにも関わらず、文化としてパターナリズムは強固に残存しているのではないかというのが私の持つ印象です。
医療格差があった時代は確かに患者は医師に従うしかほとんど選択の余地はなかったかもしれません。
しかし今は患者自身が自分次第で自分の健康を守ることができるようにするための基本的な土台は整ったと私は思っています。
つまり必ずしも医師の言うことを聞かずとも、主体的に自分の健康を自分で守る判断をすることができる時代の到来です。
しかしそのためにはまず第一に患者自身の意識が変わる必要があります。
それに二段目以降の土台はまだできているとは言い難い状況です。
つまり患者の自己判断を医師が応援できる医療体制の整備です。
現在の病院・クリニックは患者がどこを受診するかまでは自由ですが、
そこから先は基本的に医師の判断を勧められ、それを行うように説得させられるという流れがほとんどで、
とても主体的な医療を展開するには程遠いシステムです。
従って、患者の主体的な判断をサポートすることができる医療機関とそのシステムを整備する事が、
私達糖質制限推進派医師に求められる潜在的ニーズなのではないかと私は考える次第です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
反対のことで、悩んだことがあります。
褥瘡治療について、私は除圧対策をすることを
まず第一の方針とし、
つぎに、創部は開放性湿潤療法を選択しました。
ところが、その患者さんは、一向に治らないキズに対し、
前の病院では、〇〇という軟膏を使ってくれた。
ここでは、そういうのを使わないから、治らないのだと、
主張します。
私は「だから、車いすでの座り方とか、ベッドでの寝方とか、そっちのほうが、問題あるからでしょう?」
という、ことばを喉もとでぐっと飲み込みました。
何か月も通院してくれたので、いつも説得を試みましたが、だめでした。
話の仕方が悪かったのかもしれませんね。
患者を怒らせても、けんかをしても、いいことはないので、
結局は、別の病院を紹介しました。
そこで、患者さんの言う通り、何かの軟膏を処方したところで、
きっと一進一退を繰り返し、褥瘡は治ることがないと思います。
そういう状態で、外来診療に時間を費やすのは、
あまり生産的ではないです。
最近では、当院での治療を経験をした施設や、グループハウスのいくつかは、
主治医の紹介先ではなく、私のところに直接来てくれるようになってます。
結局は実績を作って、それが少しずつ広がるのが、新しい治療法が浸透してゆく流れなのかと思ってます。
糖質制限は私の診療内容には直接には、関与していませんが、
でも、地味に、地味に、院内に(稀に患者さんに)伝えています。
少しずつ理解者が増えていくのは楽しいものです。
管理人のみ閲覧できます
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
自己主張、思い込みの強い患者さん、おられますね。
私も時々見かけますが、厳しいようですが、そういう患者さんに対してはたとえどれだけ病状が悪化しようとも、「残念ながら縁がなかった」と思うようにしています。
御指摘のようにそのような患者さんに説得を試みた所で無駄な時間となる事は私も少ない経験の中から感じています。
しかも、自分が説得する事が相手にとってのさらなるストレスとなりうるので、その状況では患者さんが希望する通りの治療を施すことがせめてもの「Do No Harm」だと私は思います。勿論、真の「Do No Harm」ではないことは百も承知ですが、ダメージを最小限にする手段はそれしかないのではないかと考える次第です。
> 少しずつ理解者が増えていくのは楽しいものです。
それでも今世で縁のある人達との交流を深め、新しい医療の在り方への道筋を作っていきたいですね。
Re: 誤診
コメント頂き有難うございます。
一般の方々には信じられないかもしれませんが、医療の世界で実は誤診は溢れています。
そもそも診断というのは恣意的な概念であって、あいまいな部分を多分に含んでいます。例えば、100人の医師がある患者を診て、100人とも一つの診断名を言い当てるという状況は珍しいです。診断とはあくまでも暫定的な判断で、状況により移ろう要素があるという事を知っているか否かでこのニュースの受け止め方は随分変わります。
本質的な問題は、そんな診断というものに思考を縛られて不要な薬を投与し続けているという医師の「木を見て森を見ず」的な発想、そして何も考えずにその医師の指導に従い、そのくせ人生を奪われたと表現する患者の被害者意識、双方にあると私は考えます。
No title
誤診について良くわかりました。
やはり患者自身が主体的になるということの重要性ですね。良くしてくれる先生に申し訳ない、とか言ってないでもっと正しい診断に近づくように症状を細かく訴えたり処方された薬の副作用かなと思うこともちゃんと報告して本当に良くしてもらうことが大事ですよね。それは医師にとっても良いことですよね。
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