なぜ悪化したのかを考える
2018/04/05 00:00:01 |
失敗学 |
コメント:6件
週刊新潮の糖質制限批判記事はまだまだ続きます。
続いてはアンチエイジングで有名なY'sサイエンスクリニック広尾の統括院長、日比野佐和子先生が述べられたについて内容です。
日比野先生と言えば、実年齢47歳とは思えない美貌の持ち主で、テレビにも多数出演もなさっておりアンチエイジングドクターとして説得力のある容姿をされています。
そんな日比野先生ですが、30代の頃に糖質制限をした結果、一過性脳虚血発作を起こしたとの経験をお持ちで、
どうやらその実体験を元に糖質制限を否定しておられるようです。
同様の記事を別のネットニュースでも読んだこともありますが、
今回は週刊新潮の記事を引用して検証してみたいと思います。 週刊新潮 2018年 4/5 号 [雑誌] 雑誌 – 2018/3/29
(以下、p129より引用)
糖質制限で老化が進む。それを我が身で"体験"した医師がいる。
「Y'sサイエンスクリニック広尾」の日比野佐和子統括院長だ。
「糖質制限に挑んだのは30代の頃で、3年の間、糖質は総カロリーの約10%しか摂取しませんでした。
始めると次第にシワが目立つようになり、ホウレイ線もくっきり出てきた。
知り合いの美容整形の医師から、ヒアルロン酸注入のモデルを頼まれたくらいで、当時はなんて失礼な!と思いましたが、じわじわと老化が進んでいたのでしょうね」
日比野統括院長の体験談はこれで終わりではない。
「ある朝起きたら、右手と右足がマヒして動かない。力が入らないんです。それで調べてみたら、一過性脳虚血発作で、脳梗塞になる寸前の状態でした」
(引用、ここまで)
これだけだと情報が少ないので私の考察も大分推測が多くなってしまいますが、
あくまでも糖質制限推進派の神経内科医の一見解ということで御理解頂ければと思います。
まず、糖質が摂取カロリー約10%ならかなりしっかりした糖質制限をされているということになるので、
全体として十分な摂取エネルギーが確保できれていれば、しかも3年も続けていればケトン体代謝へ移行するはずです。
しかし実際にはケトン体が利用できているとは到底思えない経過をたどっていますので、考えられる可能性は大きく三つです。
一つは女性でダイエットを意識するが余り、総エネルギーが十分に確保できていなかったという可能性です。いわゆるカロリー制限と糖質制限を一緒にやってしまうというよくある糖質制限での失敗例です。
二つ目は女性で筋肉量が少なく糖新生能が低く、急激な代謝変化に適応することができずケトン体代謝がうまく利用できなかったという可能性です。
ただこれらの二つの可能性は、不完全な糖質制限とは言え、それらを3年間も続けて来られたというのであれば、さすがに代謝適応できそうなものですが、
実際には適応されず最終的に一過性脳虚血発作まで発症するに至っておられます。
そこで三つ目、糖質制限に取り組んだはいいが、反動で時々糖質を摂取してしまっていたという可能性です。
勿論食べている内容は書かれていませんし、摂取カロリー10%というのも自己申告なので情報が不確か過ぎて断定的なことは到底言えるはずもありませんが、
もし糖質制限をやっているのに肌の老化がどんどん進むというのであれば、私の中でそれ以外の可能性が思いつきません。
つまり時々糖質を摂取してしまうが故に、いつまで経ってもケトン体代謝に適応せず、しかし一方で間欠的に糖質制限に取り組んでしまっているのだとすれば、
言わば、糖質主体の従来型断食を頻回に繰り返してやつれていってしまっているのと似たような状況だと思われます。
要するにケトン代謝に適応していないのに急に糖質制限するのも、急にカロリー制限するのも代謝がついて行けずにエネルギーをうまく利用できないということです。
糖代謝のまま断食に移行すれば、初日に急激な体重減少が起こりますが、その減少分の大半は水分です。
そうすると急激な脱水へともつながりうる現象なので、それが極まれば血管の狭い所に一時的な血流不足をきたし、
専門的な表現で言えば、血行力学的機序により一過性脳虚血発作をきたした、という流れをイメージすることができます。
ただ30代という若さで、確たる基礎疾患もない方で、
一過性脳虚血発作をきたすということに関しては正直言って違和感があります。
30代で一過性脳虚血発作をきたす人はないわけではないですが、頻度としてはレアケースです。
例えば、もやもや病とか血管炎症候群とか脳動静脈奇形とか抗リン脂質抗体症候群などがあれば起こりやすく、
あるいはピル(経口避妊薬)を常用している人などでも血液凝固が亢進するために起こりやすくなります。
テレビで活躍して元気そうな日比野先生にそういう状況があるのかどうかわかりませんが、あまり想像がつきません。
右手足の一過性麻痺があって、脳画像で異常を示さない場合は、一過性脳虚血発作と診断されることが多いとは思いますが、
実際には画像で証拠がとれる病気ではないので、「おそらく一過性脳虚血発作だったのではないか」という域を出ないと思いますし、
状況的に考えれば、もしかしたら別の原因で右手足の麻痺をきたしたという可能性も否定はできないように思います。
例えば、筋肉量の少ない人は糖新生能不十分で夜間血糖値が低血糖気味で推移することがありますが、
ケトン代謝に適応できていればケトン体が利用できるので何も問題はありませんが、時々糖質摂取し糖代謝優位になっていれば、
急な糖質制限や急な断食で低血糖症状を呈する可能性が否定できません。
そして低血糖はすべての脳卒中を模倣しうるので、一過性の右手足の麻痺が起こる可能性もあるのです。
以上の考察は少ない情報から私の想像で埋め合わせた妄想に過ぎませんが、
そう考えれば、糖質制限で老化が進行した理由、ダイエットには成功した理由、一過性脳虚血発作と思われる右片麻痺をきたした理由がつながるように思えるのです。
勿論、不確かな情報から不確かな推論を行っても、得られた結論も不確かなので、これ以上は掘り下げずにおこうと思います。
ただ、私が日比野先生に一つ言いたいことがあります。
幸か不幸か日比野先生は糖質制限を行って体調が悪くなったという貴重な経験をなされたのです。
医師として行うべきことは、その経験をもって糖質制限を批判することではなく、
なぜ糖質制限で体調が悪くなったのかを考えることなのではないでしょうか。
そこに必ず患者さんを救うヒントがあるはずだと私は考えます。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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今朝の先生の記事を読んでいて、巷で今話題の中間人について考えました。恐らくですが、中間人とは、普段は糖質摂取、でその糖質が少ないインスリンと筋肉でしっかり代謝されれば自然とケトン体(といっても極少量)が生まれ空腹時はケトン体を利用できる、という両刀遣い?なようです。その極少量のケトン体が発生し利用?することをもって中間人と言えるのかは疑問ですが、殆どの人の代謝は、ブドウ糖メインか脂質メインかのどちらかであり、その代謝のハンドルは、たがしゅう先生が常日頃仰るように急に切れる、変えられるものではないように思いました。間欠的ファスティングもブドウ糖代謝メインの人が、極たまに行うのはメリットもあるでしょうが、脂質代謝が錆びついていれば長時間、長期は危険ですね。
私は糖質制限して長年のアレルギー、花粉症からスッキリとサヨナラでき、髪も薄くなることもなくむしろ増えた?肌はツヤツヤです。以前、低糖質スイーツの講習会に行った時に感じたのは、参加者の方々の肌の色艶の良い事でした。今回のお話は、脂質代謝が働いてしっかり食べられていれば、むしろ糖質制限は全く問題ないのだと、セイゲニストの1人は感じました。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
> 中間人とは、普段は糖質摂取、でその糖質が少ないインスリンと筋肉でしっかり代謝されれば自然とケトン体(といっても極少量)が生まれ空腹時はケトン体を利用できる、という両刀遣い?なようです。
糖代謝と脂質代謝を両方スムーズに使えるようになる、という発想自体は悪くないと思いますが、
胎児の時点で高ケトン血症なのであれば、脂質代謝をメインで生きていくのがリーズナブルだと私は考えます。
それに加えて糖代謝をスムーズに使うというのであれば、普段から多めの糖質に慣らすというのではなく、野生の運動を意識して筋肉を発達させていくアプローチの方がより自然の流れに沿うと思います。なぜならば農耕開始後からでないと行えないような高糖質食の頻回摂取が理想的なアプローチだとは私には思えないからです。
間欠的ファスティングに関しては、非ファスティング期の摂取する食事が自然の構造を保った糖質(炭水化物)であれば、腸内細菌のパターンによっては適応できる場合もあると考えていますが、基本は糖質制限に慣らしておく方が急激な代謝ハンドルを切らなくて済むので安全にファスティングを施行できると思います。ただし、なかなか脂質代謝に移行できないタイプの人は一つの選択肢として考えてもよいとは思います。
No title
たがしゅう先生もご存知だと思います。
糖質制限推進派の深作秀春先生の御著書
「視力を失わない生き方」の内容を思い出しました。
「日本の眼科の大間違い」についてです。
ある精神科の医師がテレビで提唱し始めたらしい
「眼球の体操」なるものに、大変驚かれたそうです。
デタラメな運動療法で、この運動のおかげで、
網膜剥離になる方が続出したそうです。
また、日本では「眼の運動」に関する一般向けの本が
多く出版され、またけっこう売れているという現実。
インチキ情報を書いて印税を得ている著者の、
その裏で、インチキ情報を真に受け、被害者続出。
「世も末」と表現されていました。
日比野先生も、その様な本を多く出版されています。
お医者様である前に、人としてどうなのかなと疑問に思います。
忖度
いつも面白い記事をありがとうございます。
日比野先生ですが、
https://croissant-online.jp/news/51293/
などを読むと、明らかに今でも糖質制限(スタンダード)しているようですが、本音はどこなんでしょうね。
そして、様々なダイエットに失敗した末に辿り着いたのはストレスマネジメントのように読めますが、結局、体調不良の原因はストレスだったのではないかなと感じました。
無責任な批判記事で「やらず嫌い」になる人が出る事は本当に不幸なことです。批判記事の多くは、編集者への忖度なのでしょうけど残念ですね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
私も深作先生のその御指摘は存じております。
以前東京の講演会で直接その辺りのお話を伺い機会にも恵まれました。
自然重視で考えると眼鏡を使わずに眼球周囲筋を鍛える生活するのはアリかと思って以前眼鏡不使用作戦というのを実行したことがありますが、これは根気が続かず私にとっては効果なしでしたし、やっていて目が疲れました。
2017年8月3日(木)の本ブログ記事
「眼鏡不使用作戦」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1049.html
も御参照下さい。
眼球体操とはその試みをさらに人為的に強化するような行為だと思います。ここにおいても自分の身体からのメッセージにきちんと従っていれば行き過ぎることはないはずですが、妄信して疲れ目などのメッセージを無視して行い続ければ支障をきたすことは容易に予想がつきます。近視を治そうとして網膜剥離になるのでは本末転倒です。
ここに関して私の場合は、幼少期の糖質過剰摂取により長軸方向へ成長しすぎた眼球の不可逆的な変化としてある程度受け入れて生きていくしかなく、残念ながら眼球体操の類でよくなることではないと考えています。
Re: 忖度
コメント頂き有難うございます。
日比野先生の食生活に関しては、御自身が書かれたダイエット本が最近出版されていましたので、
明日以降、そこから引用してもう少し私なりに検証してみたいと思います。
ですが御指摘のように完全に糖質制限していないわけではなく、実質的に緩やかな糖質制限~食べる順番療法的なことは続けていらっしゃるようですね。
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