理由がわからなくても追及し続ける
2018/03/30 00:00:01 |
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先日、NHKスペシャル「人体」についての私の感想を述べましたが、
今その「人体」の特別展が東京は上野にある国立科学博物館で開催されています。
先日ちょうど東京に出かける用事があったので、足を延ばしてその特別展を観覧してきました。
15世紀に活躍したレオナルド=ダ=ヴィンチの天才的な頭脳と観察眼を元にした詳細な解剖研究を元に一気に医学の発展スピードが早まったことの紹介を皮切りに、
脳、筋肉、心臓、骨、神経、呼吸器、消化器など様々な臓器の展示や、
それぞれの臓器の魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類間での比較や発生学についてなど、汎動物学的な観点からもいろいろな解説があったり、
さらには展示の後半には8Kテレビでの鮮明な顕微鏡画像や、今後人体を解明するための鍵であり壁として立ちはだかるエピジェネティクスについて語られるコーナーもあったりして大変に興味をそそられました。 私にとって改めていろいろと勉強になることはありましたが、本日はそのうちの一つを紹介したいと思います。
それは私が専門とする脳領域の話です。
脳はニューロンと呼ばれる神経細胞が無数につながりあってネットワークを構成し、
しかもニューロンどうしは接続しているのではなく、シナプスと呼ばれる空間を空けた状態でつながっており、
シナプスの間は神経伝達物質と呼ばれる物質を放出して、次のニューロンへと情報が伝わる構造が常識とされています。
こうした臓器のミクロの構造を見るためには通常、臓器の一部を切りとり薄い切片にして固定液につけた後、様々な染色液を使って色をつけて顕微鏡で観察するという手法が取られますが、
実はニューロンは透明でかつ脳の中で非常に細い形をしており、普通に染めるとニューロン以外の細胞がほとんど染まってしまうために他の細胞が邪魔して全然見えません。
それゆえ19世紀の時代までは、まだそのニューロンの構造そのものが知られていませんでした。
そんな中、神経だけを特異的に染める方法を編み出したのが、イタリアの外科医であり科学者のカミッロ・ゴルジ (1843-1926)氏でした。
どのようなきっかけでその着想を得たのかは不明ですが、ゴルジ氏はを二クロム酸カリウムと硝酸銀に浸して染色するという方法で神経細胞だけを染め、世界で初めて神経細胞の姿を可視化することに成功したのです。
その功績からこの神経細胞の染色法はゴルジ染色と呼ばれています。
ただゴルジ氏本人は神経と神経が直接接続しているという網状説を唱えており、現在の理解のようにニューロンのシナプス間隙の存在を初めて証明したのは、
そのゴルジ染色を利用して研究したスペインの神経解剖学者のサンティアゴ・ラモン・イ・カハール (1852-1934) 氏だったそうです。
ちなみにこのゴルジ染色、なぜ神経だけを特異的に染色させることができるのかという理由はいまだに解明されていないそうです。
理由がわからないのに真実を導き出したゴルジ氏の天才性には驚かされるばかりです。
さて、この話を聞いて私が思ったのは、ミクロの世界でそれほど描出困難な構造があったのだとすれば、
はたして人体の細胞をすべて見つけ切れていると断言できるのだろうかということです。
言い換えれば、まだ染色に成功していない未発見の神経細胞はないのだろうかと思うのです。
というのは、東洋医学の世界には、漢方薬と並んでもう一つの柱である鍼灸という治療方法があります。
鍼灸の世界では経絡と呼ばれる現代の一般的な解剖学では説明しがたい何らかの経路の存在が治療に用いられ実際に成果をあげています。
以前、漢方の源流、中医学の大家の先生に経絡とは一体何なのかをと尋ねたところ、「経絡とは見えない神経だ」という回答を得たことがあります。
経絡の理論に従えば、例えば指に鍼を指したら、腰の痛みが取れたということが現実に起こるのです。私も実際にその様子を見学したことがあります。
ということは、もしかしたら経絡は怪しい話でも何でもなくて、
単純に今の医学がそれを同定することができていないだけという可能性があることを、
ゴルジ染色の話を聞いて、ふと考えさせられた次第です。
自分の常識にないものを一概に否定せず、
わからないからと言ってすぐに諦めるのではなく、
ゴルジ氏のように真実を追求し続ける心を持っていたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
間質と経絡との関連、面白い発想ですね。
ついつい神経のようなコード状の組織の存在を想像してしまいますが、その可能性がないとも言い切れません。
妥当性はともかく、まだまだ人体にはわかっていない事が多いというスタンスで考えることは大事だと私は思います。
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