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尿酸が低くても痛風発作をきたす理由
LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)が低いことと関係があるかもしれないという私の見解についてもう少し詳しく述べてみたいと思います。
LDHという血液検査項目は一般的には細胞破壊を反映する項目と考えられています。
外力や炎症などの理由で細胞が破壊された時に血液中に放出される酵素で逸脱酵素と呼ばれます。
LDHは心臓、肝臓、骨格筋、腎臓など全身の様々な細胞に分布しています。
LDH単独で上昇する場合、身体の中のどこで問題が起こっているのか推定するのは難しいのですが、
例えば一緒に肝臓だけに分布するASTという逸脱酵素が一緒に上昇していれば、肝炎などの存在が示唆されます。
またLDHだけやたらと上昇している場合は、細胞破壊が必要以上に起こっているという事で白血病や悪性リンパ腫など悪性腫瘍の存在を疑うこともあります。
逆にLDHが低い方に関しては一般的には病的意義は少なくスルーされることがほとんどです。異常低値の場合は遺伝性の病態を考えます。
ただし、このLDH低値に関してはオーソモレキュラー医学(分子整合栄養医学)ではナイアシン不足が示唆されると学びます。
ナイアシンというのはビタミンB3とも呼ばれますが、ニコチン酸と、ニコチン酸にアミド結合というもので何かがくっついたものを示すニコチンアミドとを合わせて呼ぶ総称です。
ニコチンアミドの中でもニコチン酸に、アデニンという塩基と二つのリボース基というDNA構成酵素を両脇に結合したピロリン酸という物質とがアミド結合したものをNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)と呼びます。
NADは糖新生の一連の反応を行う際に鍵となる物質で、先日紹介したコリ回路を発動したりしますし、肝臓での解毒反応を動かす際にも使われる物質です。最近江部先生も記事にされていました。
ニコチンと言うとタバコの時の有害物質を想像すると思いますが、それとニコチン酸は別ものです。ただしニコチンを硝酸などで酸化するとニコチン酸に化学変化しますが、人体においてはその変化は起こらないと考えていいと思います。
さて、そんなナイアシンが低いこととLDHが低いことはどう関係しているのでしょうか。
もしもナイアシンがLDHの構成成分という事なのであれば、LDH低値=ナイアシン低値でいいと思いますが、そういう関係性ではないのです。
LDHはピルビン酸から乳酸、もしくは乳酸からピルビン酸への反応を触媒する酵素ですが、
ナイアシンから生み出されるNADが多く存在している時には、乳酸からピルビン酸へ変換する流れが多くなります。
またNADがこの反応も含めた体内での様々な酸化還元反応によって還元されたものをNADHと表記しますが、
NADHが多い状態においては逆にピルビン酸から乳酸への変換が優位となります。
そういう関係性にあるので、「LDHが低ければナイアシンが低い」というよりも、
「LDHが低ければ、ナイアシンをしっかり補充してNADを増やさなければ人並みにLDH反応を起こすことができない」ということなのではないかと私は思います。
つまりLDHが低い人にサプリメントなどでナイアシンを追加する行為は、
もともと火力の弱い焼却炉に薪をたくさんくべて何とか火力を上げようとしている行為に似ているのではないでしょうか。
決して焼却炉自体の火力を上げている行為ではないと私は思います。
さて尿酸が低めなのに痛風発作をきたした患者さんの話に戻ります。
LDHが低ければコリ回路を駆動して糖新生を働かせることがしにくくなります。
他にグルコース-アラニン回路とか、グリセオールや他の糖原性アミノ酸を利用する事もできるので、全然糖新生ができないわけではありませんが、少し不利な状況と言えるでしょう。
そんな糖新生がしにくい状況でこの患者さんのように高炭水化物食から低炭水化物への代謝の急降下を繰り返していればどうでしょうか。
糖新生がしにくい状況は機能性低血糖症のハイリスク状態なので、そうならないようにするため糖新生が行いにくいなりに糖新生機能をフル稼働してこの苦境を乗り切ろうとします。
糖新生の需要が高まればNADの需要が高まります。
NADはナイアシンだけから作られるのではなく、脂肪酸がβ-酸化されてTCA回路がスムーズに回ることによって糖新生が亢進することによってもNADは産生されます。
考えてみれば当然のことです。糖新生は何も食べていない時にこそ働いてしかるべきで、何も食べていない時の代謝は脂質代謝優位だからです。
ここから先は私の推論ですが、
LDHが低い、言わば糖新生が苦手な体質の人が、糖代謝と脂質代謝を激しく行き来する食生活をしていれば、
機能性低血糖症の負荷要素もあいまって糖新生需要が急速に高まってくる可能性があります。
糖新生需要が高まるということはNAD需要が高まるということです。
そしてNADは何かを酸化することで自分が還元される酸化剤です。NADがたくさんあれば別の何かが酸化させられるリスクが高まります。
一方で尿酸は抗酸化物質ですが、もしも尿酸がたくさん産生できる状況であれば、このNADの高需要状態に伴う酸化高リスク状態を回避することができますが、
NADの需要上昇があまりにも急速な場合には尿酸の産生が追い付かないために、
抗酸化作用不十分にて痛風結晶が析出して、炎症が惹起させられる、というストーリーはどうでしょうか。
少し無理のある説明かもしれませんが、
この考察はやせ型以外で糖質制限がうまくいかないケースを考える上で一つの示唆を与えるような気がします。
ただ生化学の部分の理解で間違っている所があるかもしれませんので、
生化学に詳しい方の異論、反論を歓迎したいと思います。
たがしゅう
コメント
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2019-09-07 14:32 編集
Re: ん? 訓練?
コメント頂き有難うございます。
> これは、以前先生が唱えていた、"代謝は急激に変えるものではない" と反対の事を言っているのですよね?
> 訓練すれば糖新生も活性化するということですね?
「代謝は急激に変えるものではない」という見解は今でも変わっておりません。
糖新生が苦手な人も脂質代謝に徐々に慣らしていけば、徐々に糖新生に慣れてくると考えられます。
両者は矛盾する話ではないと私は思います。
2019-09-07 22:06 たがしゅう URL 編集
管理人のみ閲覧できます
2019-09-08 08:47 編集
Re: No title
御指摘頂き有難うございます。
> >NADはナイアシンだけから作られるのではなく、脂肪酸がミトコンドリア内でβ-酸化される際に産生されます。
>
> 本文中の上記の記載は間違っています。
> 脂肪酸がミトコンドリア内でβ酸化されるときには
>
> NAD+ + 2H+ → NADH + H+
>
> の反応が進みます。すなわちNAD+は減少します。
> 産生されるわけではありません。
御指摘の通り間違いですね。
「脂質代謝が優位になると、TCA回路がスムーズに回り糖新生へ進みやすい」という流れを説明する際に間違ってしまったようです。お詫びして訂正させて頂きます。
2019-09-08 09:06 たがしゅう URL 編集