代謝の乱高下がもたらす弊害
2018/03/26 00:00:01 |
普段の診療より |
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先日30代男性の患者さんが約1週間前に右足の親指に痛風発作をきたしたとのことで、
痛風再発予防のための内科管理を勧められて私のところを受診されました。
この方は昨今の炭水化物抜きダイエットのブームを受けて、
夜の食事で炭水化物を食べないように気をつけているという、いわゆるプチ糖質制限の実践者でした。
それ以外の食事はと言うと、朝は欠食で、昼は炭水化物を普通にあるいは多めに食べているとおっしゃっていました。
そんな中、痛風で問題となる尿酸の値は7.0mg/dLという数値で、
基準値は2.0-7.0mg/dLとされていますので、ギリギリ正常範囲の人が痛風発作を起こしたということになります。 一般的には、尿酸値が7.0mg/dL以上になると、
尿酸の析出という現象が起こり始め、足の親指のような微小関節内に尿酸結晶がたまり、
これが炎症の誘発源となって痛風発作が起こるとされています。
外傷などの明らかな誘因なく、突然右足の親指が赤く腫れ激痛が走った場合はかなり高い確率で「痛風発作」と考えてよいと思います。
ただ理論上で7.0mg/dL以上で痛風発作が起こると言っても、
本当にギリギリ7.0mg/dLのところでで痛風発作を起こすという所には若干違和感を感じます。
はたしてこういう患者さんには尿酸を下げる薬を処方すればそれで解決なのでしょうか。
実は私は痛風予防のため尿酸値を何が何でも7.0mg/dL以下に下げるべしという治療方針に対しては懐疑的に思っています。
その大きな理由のひとつとして、私が以前8日間の断食にチャレンジした時、尿酸値が最大14.0mg/dLにまで上昇したにも関わらず痛風発作は一切起こさなかったということがあります。
断食をやめると速やかに元に戻ったので一過性だったとはいえ、規格外の尿酸の高さに痛風発作を起こしても良さそうなものですが、
起こさなかったということは、尿酸析出のしやすさ以上に何らかの防御因子が働いていたために痛風発作に至らなかったという可能性が考えられます。
推測ですが、そこにはケトン体の抗炎症作用が保護的に働いた可能性がまず一つ考えられます。
ただ一方で以前、厳格なケトン食実践中に痛風発作を繰り返すという人を診ていた経験も私にはありますので、
ケトン体だけでは痛風発作の防御因子として不十分だと思います。
さて世間的には尿酸を上昇させる因子として原材料のプリン体が有名ですが、
「糖質制限実践下であればプリン体の摂取制限は不要」との私の見解は、以前にも当ブログで紹介しました。
江部先生のブログにも鹿児島大学元内科教授納光弘先生の見解で、
尿酸値を上昇させる要因として最も重要なのはストレスで、
次いで肥満、大量の飲酒、激しい運動、プリン体の摂りすぎだということが紹介されていたと思います。ここでもプリン体の多寡は大分優先順位が低いです。
ではこの患者さんでストレスはどうなのかと聞いてみましたが、
「ないことはないが、今までと特別変わった事はない」とのことです。
となると、無自覚のストレスの可能性までは否定できないものの、ストレスだけで説明するのは無理がありそうです。
またこの患者さんは太ってもいませんし、お酒は全く飲みません。激しい運動も特にされていません。
即ち考えられる尿酸上昇因子が何もなく、それなのに痛風発作を起こしているということになります。どういうわけなのでしょうか。
考えられる可能性として、あくまでも仮説ですが、この患者さんの食事パターンが関係あるかもしれません。
というのは朝は欠食、これは脂質代謝を強力に駆動する食事パターンです。
昼は炭水化物たっぷり食で、これは糖代謝を強力に駆動する食事パターンです。
そうかと思えば今度は糖質制限で再び脂質代謝優位に代謝が揺さぶられます。
このように代謝システムの乱高下とも言える状況がストレス源となり、そのストレスに伴う炎症が尿酸低値でも痛風発作をきたしうる代謝環境をもたらしているのかもしれません。
プチ糖質制限指導は気楽ですが、もし仮説が正しければ場合によっては考えものかもしれません。
私はこの患者さんに2食ともきちんと糖質制限をするか、
もしくは3食緩やかな糖質制限くらいのどちらか楽な方の食事パターンにしてみるよう提案しました。
ちなみにこの患者さんのLDHは110mg/dLとかなり低値でした。
このことも関係がありそうですが、長くなるので次の機会に回したいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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