消化管と筋肉と肝臓との関係
2018/03/22 00:00:01 |
お勉強 |
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ちょっと複雑な話が続いてしまいますが、
消化管→筋肉→肝臓
の流れを考えさせられるもう一つの例を紹介したいと思います。
肝臓が障害される一表現型として肝性脳症と呼ばれる病態があります。
肝臓の大きな役割の一つは「解毒」なのですが、この働きが不十分になる事によって毒素が身体の中を巡り、
興奮、抑うつ、昏睡などの精神神経症状をきたす病態のことを「肝性脳症」と言います。
実はこの肝性脳症の治療の一つとして挙げられているのが、筋肉を増強させる働きを持つとされるBCAAです。
なぜ肝臓の治療に筋肉の働きを高める物質が使われているのでしょうか。 この事も筋肉の働きが衰えると肝臓の働きが衰えるという流れを一つ示しているように私には思えるのです。
そもそも肝性脳症の時にたまる毒素というのは様々な物質が複合的に関わっていると言われていますが、
最も代表的な毒素としてアンモニアが挙げられています。
なおアンモニアだけが高くても肝性脳症は起こらない事は動物実験で確かめられているので、あくまでもアンモニアは肝性脳症時にいろいろたまる毒素の中の一つです。
アンモニアの化学式はNH3で、窒素(N)が含まれていますが、
タンパク質も構造上、窒素を必ず含むので、タンパク質の代謝の過程でアンモニアが必ず発生します。
このままではアンモニアが溜まってしまう状況を何とかするために、人体は「尿素サイクル」という代謝回路を備えています。この回路を備えているのが肝臓です。
この回路は簡単に言うと有毒なアンモニアを無毒な尿素に変換する代謝を行います。
「サイクル(回路)」と名付けられている理由について、詳細な化学反応式は省きますが、
アンモニア解毒の最終段階の尿素が精製する所で一緒に作られるオルニチンが、再び新たなアンモニアを解毒するために再利用されるのに用いられる所に由来します。
そのため尿素サイクルのことを別名オルニチン回路とも呼ばれますし、発見した生化学者の名前を冠してクレブス回路とも呼ばれます。
肝臓がきちんと働き尿素サイクルが機能している限り、アンモニアが体内に必要以上に蓄積されるという事はないという事になります。
ちなみに尿素サイクルがきちんと働いていると、糖新生の材料となるフマル酸も供給されます。
さて、肝臓の機能が低下すれば、この尿素サイクルが働かなくなり、アンモニアを代表とする毒性物質が溜まってしまう事が起こり得ますが、
それの治療になぜBCAAが有効なのでしょうか。
実はこの尿路サイクルを回すのに重要な位置を占めているアミノ酸としてグルタミン酸があります。
BCAAはバリン、ロイシン、イソロイシンの3種のアミノ酸の総称ですが、これらは分枝鎖アミノ酸アミノ基転移酵素(BCAT)などの酵素により触媒されグルタミン酸の生成に関わっているのです。
グルタミン酸は先日学んだグルコース・アラニン回路でも重要な役割を持っていましたね。
平たく言えばBCAAが十分にあれば、尿素サイクルが十分に回って毒素が溜まりにくくなるという事になるでしょうか。
ちなみに以前紹介した肉を食べると体調が悪くなるという症例の原因は尿路サイクル異常症でした。
ただ前述のようにタンパク質、引いてはアミノ酸そのものの代謝でもアンモニアは産生されてしまいますので、
BCAAが毒素の除去に役立つかどうかは、タンパク質の負荷量や尿素サイクルの働きがどれだけ生きているかという要素にも影響される事になります。
例えば、尿素サイクルの働きが完全に停止してしまうような劇症肝炎ではBCAAは効きません。
その場合は、血漿交換療法などの毒素強制除去を中心とした治療や、ステロイドパルス療法などの炎症を強制的に抑える治療法が一般的には用いられる事になります。
逆に言えば肝臓のやられ方がまだ軽い段階であれば、BCAAによって尿素サイクルを再活性化する事ができるという事になります。
筋肉量が少ない人はおのずとBCAAも低下状態にある事が想像されますので、
筋肉量が十分にある事は、肝臓の健康状態を高める行為とも連動するということも考えやすいかもしれません。
しかしながら筋肉が十分にあれば肝性脳症にならないかと言えばそういうわけではありません。
摂取した食物の影響で脂肪肝→肝炎→肝硬変の流れで肝性脳症を呈するパターンもありえます。これは肥満型に多く見られるケースだと思います。
つまりやせ型体質の人には、
消化管(消化吸収機能低下)→筋肉(同化不全)→肝臓(肝機能低下)
の流れがありますが、
肥満型体質の人の場合は、
消化管(消化吸収過剰)→肝臓(同化過剰による機能低下)
の流れがあるように思います。
即ち、筋肉が十分量にあっても肝臓がやられているというケースは、
消化管の働きは保たれているという事の裏返しなのではないかと思います。
だから肥満の人の方がやせの人よりも断食をスムーズに実行できるのではないかと私は考える次第です。
さらに言えば、肥満であれば筋肉が皆あるかと言えばそういう事でもありません。
肥満だけれど筋肉量が少ないというサルコペニア肥満と呼ばれる状態もあります。
私流に言えば過剰適応から消耗疲弊へと移行している段階と言えるかもしれません。
消化管、筋肉、肝臓の関係はなかなか複雑です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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