糖質への渇望感を抑える方法の個人差
2018/03/06 00:10:01 |
素朴な疑問 |
コメント:4件
前回に引き続き、鈴木功先生の本の「糖質制限継続のデメリット」と題する部分をさらに読み進めてみますと、
「糖質制限は糖質中毒からの離脱には良いが、糖質制限をしている限り糖質依存はなくならない」との記載が出てきます。
依存と中毒は混同されがちな言葉ですが、依存とは「やめられない心」、中毒は「許容量を超えた状態」を指します。
はたして鈴木先生の真意はどういう所にあるのでしょうか。
魔法のスープ ボーンブロスでやせる 間ファスダイエット ― 食べない時間が体をリセット! 単行本(ソフトカバー) – 2018/2/2
鈴木 功 (著), 鈴木 睦美 (その他)
(以下、p51-52より引用)
糖質依存状態から脱し、糖質をとっても少しのインスリンで血糖値の上昇を抑えられ、
安定した状態にすることができれば、インスリンのレベルが下がるのでグルカゴンが働きやすくなります。
そして食事の間隔が少しあけば脂質代謝に切りかわり、強い飢餓感なく空腹状態でも活動できるようになります。
この状態になるためには生理的インスリン抵抗性を起こさない程度の糖質をある程度はとる必要があるのです。
糖質制限とは糖質中毒から離脱するための一つの非常に効果的な方法論です。
この間に使われなくなっていた脂質代謝が再び活性化されることで、さまざまなメリットを生むのです。
その初期の効果のすばらしさから、糖質制限の継続自体を目的化してしまいがちですが、
以上の理由から一般の人が過度の糖質制限を継続するメリットはほとんどないのではないかと考えています。
糖質制限をしている限り、糖質依存はなくならないようです。
体には、その人に見合った量の糖質をとることが必要です。
それを血糖値が上がらない甘味料をとることで埋め合わせようとしても、体への渇望感はなくなりません。
毎回の食事で必要とする量の糖質はとることで、糖質への渇望感はなくなります。
間食しないようにするのではなく、間食する必要がなくなるのです。
ちゃんとした食事ができていて、インスリン抵抗性が正常化していれば、
たまに食後のデザートまで食べても、そのあとも大量に食べ続けてしまうようなことはなくなるはずです。
(引用、ここまで)
引用文以外の本文を読み進めていくとわかりますが、
鈴木先生はインスリンとグルカゴンのバランスを重要視されています。
高インスリン状態が身体を太らせる方向に向かわせ、低インスリン状態は身体をやせさせる方向へと向かわせますが、
その低インスリン状態においては同時にグルカゴンが分泌されやすくなり、
このグルカゴンは脂肪を燃やし、筋肉の分解を防ぐダイエットの味方だと鈴木先生は評しておられます。
グルカゴンに関しては以前ササミ負荷試験を肥満体質の私とやせ体質の友人とで比較した時に、
やせ体質の友人の方で私より多くのグルカゴンが分泌されている事が確認できたので「ダイエットの味方」という表現にここでは矛盾はないように思われます。
一方で糖尿病の人は一般に「高グルカゴン血症」の状態にあるという事がわかってきており、
今までインスリンの観点だけで語られがちであった糖尿病の病態に新しい視点を与えるという意味で「グルカゴン・ルネッサンス」などと表現されることがあります。
糖尿病治療のためにグルカゴンをいかにブロックするかという事で、DPP4阻害薬のグルカゴン分泌抑制作用が注目されていたりするので、
グルカゴンが高いという事は必ずしも歓迎すべき状況ではありません。やはり重要なのはインスリンとのバランスなのでしょう。
糖質制限食でもタンパク質を十分に摂取していればインスリンとグルカゴンの同時分泌が起こるので、
食べ続けていればいつもインスリンにさらされ続けることになり、グルカゴンが効きにくくなると同時にインスリン抵抗性が生まれ
ホルモンのバランスは1日を通じて高インスリン状態に傾いてしまう、とのことで、
だからその状態を解除するために食べない時間が必要だという理由で、鈴木先生は間欠的なファスティングを勧められています。
その点に関しては私も異論はなく、高インスリン状態を解除するための人為的な方法としてファスティング(断食)は利用できると思います。
ただ同時に鈴木先生は糖質依存を作らないために少量のインスリンで済む程度の糖質は摂取すべきだという主張を展開されていますが、ここに議論の余地があると思います。
一般に依存症の治療は依存物質から離れる事が唯一の方法だと考えられている側面があると思います。
アルコール依存症には断酒会の存在が有効な治療手段となりますし、覚醒剤、ギャンブル、SEX依存などもすべて攪乱刺激から離れる事が治療の基本です。
そう考えると糖質依存を治療する場合も、糖質を摂取しない事が基本になると考えるのが妥当ではないでしょうか。
最近私はチートデイなるものを敢行し、久しぶりの大量糖質摂取をあえて行ってみることがありましたが、
その後、今まであんなに欲しいと思わなかった糖質を再び欲するようになり、しばらくそのパターンが続いてしまったという事を経験しました。
しかしその後かなり太ってしまったため、それではいかんという事で気持ちを奮い立たせて再び糖質制限状態に戻したら糖質への渇望感は消えました。
従って、少なくとも私の体感では糖質への渇望感をもたらしているのは糖質摂取です。
鈴木先生の場合は少量で良質の糖質摂取であれば、過食につながるような糖質への渇望感が起こらないという事だと思いますが、
その辺りいつ中毒へと移行するとも限らない糖質を摂りながら、糖質への渇望感を生まないギリギリのラインで糖質量をハンドリングしていくのは、
運動なども組み合わせながら行わないといけない結構難しい作業なのではないかと私は感じてしまいます。
もっと言えば、やせ型体質の人は脂質代謝に適応しにくいので、糖代謝への依存度が高い状況にあります。
そうすると少量の糖代謝を回しつつ、錆びついた脂質代謝を回していった方が結果的に全体の代謝がよく周り体調がよくなるという事はありえると思っています。
あるいは快を重視する「BOOCS理論」においては、身体に悪影響があるとされるものでも、本人が心地よいと思う行為を制限しないという原則があります。
そうすればたとえ有害な物質であっても、身体本来の調整機能が発揮されて有害な物質を摂り過ぎなくて済むような感覚になるというのですが、
鈴木先生が少量の糖質摂取で糖質への渇望感が抑えられているのは、実はBOOCS理論の原則を守っているからなのかもしれないとも思います。
いずれにしてもこの辺りは個々の実例を大事にしながら、
臨機応変な解釈が求められるところではないかと思っています。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
私は糖質制限を始めてまだ5ヶ月程度ですが、開始半月後に「もうちょっとやれそう」と感じてスーパー糖質制限に、最近一ヶ月ほどはほとんどケトン食に近い状況です。
その間、やはりといいますか同居ではない家族や親族、近い知人などにはなかなか理解されず^^;
私が「我慢している」ことを前提としているようです。
実際、かつては羊羹まるごと一本食いなど普通にやっていたのですが、現在は我慢ではなく本当に欲していません(少なくともそう自覚しています)。
糖質は必須栄養素ではない上に本人の知覚として欲求がない状況でもある程度”必要”なのでしょうか、という疑問が湧きますね。
当該書籍に私は目を通していませんが、たがしゅう先生が日頃仰るように、自分の感覚を確認しながら続けていこうと思っています。
糖質を”制限”しているつもりはなくて、むしろ”過剰”を避けているだけだと思っています。
意志の弱い私には「適量のコントロール」よりも避ける・断つ方がずっと簡単で継続しやすいです。
欲しくないのに日常周囲に溢れているのはほんとに困ります(笑)
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 糖質は必須栄養素ではない上に本人の知覚として欲求がない状況でもある程度”必要”なのでしょうか、という疑問
ごもっともです。
体感に従えば摂らなくてよいですし、理論に従えば摂るべき、という悩ましい話になります。
それならば私は体感に従います。事実を視て、解釈を疑うのが私の基本姿勢だからです。
2016年9月27日(火)の本ブログ記事
「やわらかい心で世界を捉える」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-732.html
も御参照下さい。
No title
少量でも糖質を取り入れると満足感があり間食しないですみます。糖質制限、人それぞれやり方を考える必要があるのでしょうね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 少量でも糖質を取り入れると満足感があり間食しないですみます。
ココアさんの場合は鈴木先生の方式でうまく行っているようですね。
ココアさんはやせ型の女性でいらっしゃいますでしょうか。
やせ型女性ではもともとストレス耐性が低い分、糖質摂取での代理ストレス反応に頼る傾向がありますが、
そのような少量の糖質摂取でバランスが取れている場合は大きな問題はないと思います。自己嫌悪を感じる必要もないと思います。
無理に体質を変えようとせず、ありのままの体質を受け入れ、「快」を重視して身体を大事に使う感覚が重要と私は思います。
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