難病を起こす体質と増悪因子
2013/12/22 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:6件
先日の当直で出会った患者さんの話です.
70代女性で,意識不明の重体で救急搬送されました.
この方のこれまでの病歴ですが,
40代の頃より関節リウマチを,50代の頃よりパーキンソン病を,
60代より気管支喘息,発作性心房細動,慢性心不全を合併するようになり,
徐々に歩きが悪くなり,60代後半からはほぼ寝たきりの状態となっているような方でした.
また長年ステロイドという薬を飲んでいる背景もあって,皮膚が全体的に薄く,あちこち痛んでいる状態でした.
さらに肥満とむくみを認めましたが,血液検査をすると蛋白質が非常に少なくなっている状況もありました.
そしてこの度の意識不明となった原因を調べたところ,重症の脳梗塞があることがわかったのです. この患者さんのこれまでを振り返って,実に考えさせられるところがあります.
例えば,厚生省リウマチ研究班調査によれば、日本全国の関節リウマチ患者は50~100万人で、有病率は全人口の0.5~1.0%だと言われています.
またパーキンソン病はの有病率は人口10万人あたり100~150人,すなわち0.1~0.5%と推定されており,加齢とともに増加傾向にあることが示されています.
両者ともメカニズムに関しては解明されつつも,根本的な原因がわかっていない病気ですが,
そうした次々と治療困難な珍しい病気が積み重なっている状況,これは果たして偶然なのでしょうか.
さらには気管支喘息,発作性心房細動,慢性心不全が重なってきている状況,そして投薬を受けつつも徐々に悪くなっていくこの方の歴史,
この状況を俯瞰でみて私は次のように考えます.
「もしかしたらこの方の病気には糖質が深く関わっているのではないだろうか」
まず,関節リウマチは自己免疫疾患と言われています.
「免疫」というのは本来ばい菌やウイルスなどの外敵から身を守るために身体に備わった防御システムですが,
何らかの原因で免疫の誤作動が起こり,本来攻撃しないはずの自分の組織を間違って攻撃してしまうのが「自己免疫疾患」です.関節リウマチの場合は,その攻撃する対象が身体の「関節」だということなのです.
私は糖質の過剰摂取に伴う酸化ストレスの増加が,とある遺伝的な体質を持っている方にとっては免疫の誤作動を起こす原因になるかもしれないという可能性を考えています.
というのは,究極の糖質制限である「絶食療法」により,難病指定されている自己免疫疾患「潰瘍性大腸炎」が治ったという事が書かれている以下のような本がありました.
絶食療法でなぜ自己免疫疾患である潰瘍性大腸炎が治るのか,この詳しいメカニズムについてははっきりとは書かれていませんが,
そのような患者さんが実際に存在するということは紛れもない事実です.
ただ,絶食療法期間中には好転反応と呼ばれる現象が起こりうることが言われています.この現象はもしかしたら「遺伝子の発現パターンが変わる事」ではないかと私は考えています.
絶食により糖質を究極まで制限して酸化ストレスを最小にすること,そしてその期間中に好転反応が起こること,この二つの条件が重なれば自己免疫疾患を治癒に持っていく事ができるのではないかと,そう思うのです.
逆に言えば,免疫誤作動を起こす遺伝的体質がそのままだと,酸化ストレスを受け続ける糖質摂取を続けている以上は自己免疫は治まらず,病気は難治のまま進行していってしまうのではないかと思います.
そう考えると,この方にはステロイドという免疫を抑える薬が長年投与され続けていますが,免疫を乱す増悪因子である糖質過剰摂取による酸化ストレスが放置されているので,一時的にはよくても長期的にはよくなっていくはずがありません.
さらにパーキンソン病も糖質を制限することが有効である可能性についても過去記事で触れた通りです.
以上の事を踏まえますと,もしかしたらこの方はもともと関節リウマチとパーキンソン病を起こしうる遺伝的体質を持っていた,それが糖質過剰摂取に伴う酸化ストレスを繰り返すことによって顕在化したのかもしれないというストーリーが思い浮かびます.
そして免疫の誤作動はアレルギー疾患である気管支喘息の合併を産み出し,さらに酸化ストレスを繰り返し続けることで心血管への動脈硬化は着実に進行い,心臓が弱り慢性心不全をきたし,さらには発作性心房細動という不整脈を誘発し,最終的には脳の血管を詰めて脳梗塞に至ったのではないかと思うのです.
この仮説が正しければ,一番は遺伝的な体質があることがこの方の治療を難しくしている大きな要因だと言えますが.
逆に考えればどのような遺伝的体質があろうと糖質を制限する食事療法を行えば,それによる悪影響を少なくすることができるのではないかと私は思います.
さてこの方について考えることはもう一つありますが,その話は次回に回すことにします.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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Re: 3-ヒドロキシ酪酸
いつも有難うございます。
その論文、私も読み注目しておりました。Yamamoto_ma さんの考えに同意します。
初めまして
夏井先生から傷を消毒しない、糖質制限、シャンプーレスなど次々と実行に移し、良さを自分の体で実感し、今やたがじゅう先生までたどり着き、今日初めてコメントまで入れるという積極性というか、図々しさを持つ来年55歳になるおばちゃんです。
今日のブログにありました自己免疫疾患から、難病、そしてステロイドの服用p、まさに私です。
元々は、20歳の時、実家の農作業を手伝い後、ひどい筋肉痛だと思っていたらなんと急性リウマチ熱というものにかかっていました。発熱、関節痛、やがて歩けなくなり入院、おそらくステロイドの点滴治療だったのでしょう。劇的に良くなりましたが、一年生の終わりの春休みだった看護学校の教師から、リウマチは、ちゃんと治さないとダメだから休学しなさいと言われ、休学しました。
そして休学中に、リウマチはよくなりましたが、子宮筋腫、原因不明の腹痛で一年間に3度の入院をしました。
結局、看護婦になる体力がないのかと思い、途中で断念しました。
高校まで運動部で鍛えていた体に自信もなくし、結婚も子どもを産むことも諦めていた時期もありました。
ところが、人生とはわからないものです。無事に結婚もでき、4人の子宝にも恵まれ、傍目にはまあまあ順調くらいにはうつっていたかもしれません。ところが
またまた不幸が襲ってきました。丁度、更年期に差し掛かってきた頃です。家族の病気や怪我も引き金かもしれませんが、肝機能に異常が出てきました。何ヶ所も病院にかかっても、原因不明とか、気にしすぎとか、医者に見分けるだけの技量がありませんでした。
何年か経ってやっと、自己免疫性肝炎と診断されたのは、3年前です。かなり病気も悪化していて、このままでは10年持たないとまで言われました。
認知症の義父の面倒をみていたので、入院はできませんでしたので、ステロイド剤を飲みました。もちろん今も飲んでいます。
ステロイドが多いと副作用が気になると言ったら、今はイムランという薬も飲んでいます。イムランは高いのです。
周りは、私がこんな難病だなんてわかりません。なぜなら、糖質制限(それも、かなり適当な)をしてから、体も心も変わって疲れないのです。里山歩きも人並みにできますし、疲れも残りません。もちろん、仕事も普通にしています。
随分自己紹介と前置きが長くなりました。私がたがじゅう先生におねがいしたいのは、良い事や役に立つ事は、どんどん発信して行って欲しいという事です。
実は、私の妹夫婦も神経内科と腎臓専門の医師です。ですから、医師が凄い人とは少しも思っていません。ごめんなさいね。どんなに勉強ができても自分で考えて行動することができなくてはダメだと思うのです。
今、変わるべき人は変わって、本当に人にお財布に優しい医療人になって欲しいのです。
私が、自分の体で試しながら、ステロイドを減らすことができたら嬉しいです。
これからも、世の中に吹く悪い風に流されない医療人になって下さい。
Re: 初めまして
はじめまして.貴重なご経験を教えて頂き有難うございます.
これまでの大変な病歴,お察し申し上げます.しかし糖質制限を始められて体調改善よかったですね.
> 何ヶ所も病院にかかっても、原因不明とか、気にしすぎとか、医者に見分けるだけの技量がありませんでした。医師が凄い人とは少しも思っていません。ごめんなさいね。どんなに勉強ができても自分で考えて行動することができなくてはダメだと思うのです。
同感です.悲しいかな,これが今の医療の現状だと思います.
確かに医師にはいわゆる勉強ができる人が多いですが,そういう人ほどプライドが高く柔軟な考えをすることができないように思います.
> 良い事や役に立つ事は、どんどん発信して行って欲しいという事です。
> これからも、世の中に吹く悪い風に流されない医療人になって下さい。
肝に銘じます.激励のお言葉,誠に有難うございます.
はじめまして たがしゅう先生
自分は41歳2型糖尿人の愛知県在住のヒロと申します。
ウェゲナー肉芽腫症という難治性血管炎を2006年から治療開始して、ステロイド剤、免疫抑制剤を2009年まで服用してました。
10月に特定検診HBAIC12.2発覚し、糖質制限を10月20日から始めて2ヶ月経過したところです。
糖質制限してからウェゲナー肉芽腫症の症状と思われる、鼻出血、手足の痛み、舌炎等の症状が緩和されてきました。
炭水化物は大好きで、炭水化物が糖質であるとすら知りませんでした。だから甘いものは控えても炭水化物は控えたことなかったです。
体重は糖質制限で76KG前後です。数KG減りました。BMI24です。
糖質制限して体調が変わってきてる気がします。今日朝の空腹時血糖は150とまだまだ先はありそうですが、そのうち糖尿病コントロールとともにウェゲナー肉芽腫症も冬眠してくれそうな気がしております。
ただ左目の白内障が悩みで手術検討してます。
年末年始お忙しいと思いますが、お体ご自愛下さい。応援してます。
Re: はじめまして たがしゅう先生
はじめまして.いつも御覧頂き有難うございます.
また貴重な経験を教えて頂き有難うございます.ウェゲナー肉芽腫症にも糖質制限が有効なのですね.私にとっても新しい発見です.
やはり自己免疫性疾患全般にも糖質制限は有効であるように思います.高血糖とともに症状の抑え込みができることを祈っております.これからも宜しくお願いします.
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