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量の問題と質の問題

category - 素朴な疑問
2018/ 02/ 20
                 
Low T3症候群の原因が「摂取エネルギー不足」と語られるきらいがありますが、

それは厳密な意味で正しいと言えるのかという疑問について本日は取り上げたいと思います。

エネルギーと言えば、生化学を勉強している人であれば、ATP(アデノシン三リン酸)という物質を思い浮かべると思います。

ATPが分解されADP(アデノシン二リン酸)とP(リン)へと変わった際に生まれるエネルギーが様々な生命活動に利用され、

しかもそれはすぐになくなる物質なので溜めておく事ができず、生物の中ではATPの分解と合成が絶えず繰り返されているというのがエネルギーにまつわる共通認識ではないかと思います。

すなわち摂取エネルギー不足とは、細胞レベルで言えば「ATP不足」という事になりますが、

Low T3症候群を呈する時、必ずしもATPが足りていない状態となっているでしょうか?
            

そこで真っ先に思いつくのは絶食状態です。

絶食と言えば、これ以上ない摂取エネルギー不足状態だと一見思えますが、ATPの観点で言えば必ずしもそうとは言えません。

なぜならば絶食にすると最低限の脂肪がある状況であれば、脂質代謝の方が活発となり、

これ以上ないほどケトン体が上昇し、ケトン体がATPの供給源となるからです。

ケトン体がどのくらいの量のATPを生み出すのかという正確な数値は実はよくわからないのですが、

若干議論の余地があるとは言えカロリーの観点でみても、糖質1gからは4kcal、脂質1gからは9kcalのエネルギーが生み出されるとの定説もありますし、

少なくともグルコースよりは効率的にATPを生み出すことができる物質なのではないかと思われます。

そんなATPを効率的に生み出せるはずのケトン体が山ほど産生される絶食状態は、本当に細胞レベルでのエネルギー不足と言えるのでしょうか。

ここでもう一つの疑問は、「ATPがあったとしてもそれが本当に使える状態なのか?」ということです。

ケトン体の中のβ-ヒドロキシ酪酸がアセト酢酸へ変換され、アセト酢酸がアセトアセチルCoAに変わり、

アセトアセチルCoAがアセチルCoAに変わって、TCAサイクルに入り電子伝達系へと伝わり、最終的にATP産生へとつながるという流れがありますが、

こうした一連の反応を進めるのに、ビタミンやミネラルはその補助的な役割を果たすという事になります。

絶食をするとATPはあるけれど、ビタミンやミネラルが足りないから回路を回せずにエネルギーを取り出せないという理屈はどうでしょうか。

しかしながらビタミン・ミネラルは数日絶食すると直ちに枯渇し、ATPを産生するための代謝回路が動かせなくなるのかと言えばそういうわけではありません。

その点は、私自身の幾度かの絶食実験で確認済です。少なくとも7日間までの絶食ではビタミン、ミネラルは額面通りには枯渇していきません。

枯渇しないということはTCAサイクルや電子伝達系が動いてビタミン・ミネラルが消えていっているわけではないということで、

何らかの恒常性維持システムのおかげでビタミン、ミネラルは絶食の状況下においても一定の値に保持されているものと考えられます。

でも私の絶食実験で検査値はLow T3症候群を呈していましたので、

ビタミン・ミネラルの枯渇でエネルギーが取り出せないからLow T3症候群になるとも言えないと思います。


ATPも存分にある、代謝を回すための最低限のビタミン・ミネラルもある、

だけれどエネルギーが使えないという状況は起こり得るのでしょうか。

ここでもう一つ考えたいのは、断食をしてトラブルに見舞われる人と見舞われない人との違いです。

私はこのブログで何度か強調していますが、いかに絶食が良いと言っても、急激な代謝ハンドルを切るのはよろしくありません。

人体には糖代謝と脂質代謝の大きく二つのエネルギー産生システムがあり、

絶食状態というのは究極の脂質代謝賦活刺激です。普段糖代謝に慣らされている人がいきなり断食を実行してしまうと、

普段ほとんど利用していなかった錆びきった脂質代謝をいきなり回そうにも回せなくて、低血糖を中心としたトラブルに見舞われやすいという事に警鐘を鳴らしています。

ということはそこにエネルギーがあっても、エネルギーを使うためのビタミン・ミネラルが存在していても、

使い慣れていない代謝のせいでエネルギーがうまく使えない状況というのがありえるのではないかということです。

いわば数値や絶対量では現れてこない見えない質の問題です。

従って、Low T3症候群の際に語られるエネルギー不足というのは、

エネルギーの絶対量が足りないという状態というよりは、「エネルギー利用の機能不全」という方が適切なのではないかと私は考えます。

勿論絶対的にエネルギーが足りない状態でもエネルギー利用の不全状態というのは起こりますけれど、

絶対的なATP不足の方でそれが起こるとすれば、それはもう死という事を意味しているように思うので、

多くの場合は、「そこにエネルギーはあるけれど使えない」「そこにあるエネルギーをうまく使いこなせない」といった状態を表しているのではないかと思います。

そういう時に検査値がLow T3症候群を呈するという風に考えた場合に、

糖質の再摂取や、脂質・タンパク質の増量というどちらでもLow T3症候群が解消する理由は納得がいきます。

前者は糖代謝の方が使い慣れている人であれば脂質・タンパク質を増やすよりもエネルギーを利用しやすいでしょうし、

後者なら脂質代謝の方が使い慣れている人であれば糖質再接種に比べてエネルギーを利用しやすいことでしょう。


Low T3症候群が厳密な摂取エネルギー不足を表していないのではないかと思うもう一つの根拠として、

ステロイドの過剰投与でもLow T3症候群は起こる、ということがあります。

これは仮にエネルギーの状態が適正な人であったとしても、ステロイド過剰投与さえすればLow T3症候群は呈するということを意味しますので、

この場合、摂取エネルギー不足でLow T3症候群が起こるという仮説に矛盾が生じる事になります。

しかしエネルギー利用の機能不全でLow T3症候群が起こるという仮説にすれば、この現象にも説明がつきます。

なぜならばステロイドは糖代謝亢進の方向に強制的に働きかけ、

その代謝亢進に材料の供給が追い付かなければ、エネルギーの代謝回転はよくてもうまくエネルギーを取りだせないという状況は起こりうるからです。

そしてそのステロイド過剰投与のせいでLow T3症候群が起こるという現象は、

ストレスのせいでLow T3症候群が起こるという話にもとつながります。ストレスはステロイドホルモンの分泌を促進するからです。

原因は何にせよ、生きていくために必要なエネルギーを生み出すためのシステムに量的・質的な異常があり歪みが生じている状態を広い意味でストレスがかかっていると呼ぶならば、

ストレスによってLow T3症候群が起こるという表現の方が汎用的なのではないかと思います。

勿論、繰り返しになりますが、ストレスがかかっている事自体が悪いわけではありません。

むしろストレスは人生をよりよくするためのステップであったり刺激剤であったりする側面もあるわけです。

大事なことはストレスを避けることではなく、ストレスを上手にマネジメントすることです。

そのための方法を糖質制限だけにこだわる必要はないと私は思っています。


たがしゅう

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