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DOHaD仮説と変え難い体質

category - 素朴な疑問
2018/ 02/ 18
                 
ここしばらくの記事での考察を積み重ねてきて、

ストレスが加わり続ける事によって起こる(1)警告期→(2)抵抗期→(3)疲憊期という一連の病的反応プロセスに対して、

肥満体質は見た目が悪い一方でストレスに対して抵抗しやすく、うまくマネジメントできないと過剰適応病態に発展しやすいということ、

やせ体質は見た目は良い一方でストレスに対して抵抗しにくく、うまくマネジメントできないと消耗疲弊病態に発展しやすいということ、


そのような構図がある事が私の頭の中で浮かび上がってきました。

一方でこの体質というものはなかなか変え難く、人生における運命共同体のようにも思える存在です。

糖質制限により比較的大きな代謝変化を身体にもたらしたはずの私でも、糖質制限による減量効果は一定効果に留まり依然として肥満体質のままです。
            

同様にやせ体質の方が糖質制限を始めて肥満体質に切り替わったという話は聞いたことがありません。

唯一の例外は、抗生物質の乱用によって起こる偽膜性腸炎が重症化したやせ型の患者が糞便移植療法を通じて肥満体質に切り替わったという症例報告です。

このことから、腸内環境が体質というものに深く関わっている事が示唆されると同時に、

多少のことでは腸内細菌の大きな変化はもたらされないという腸内細菌叢の安定性、ひいては体質の固定性についても見通す事ができます。

そんな体質の形成に関して、DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)と呼ばれる仮説が今注目されています。

月刊糖尿病2017年7月号
2017年6月20日発売
A4変型判/112頁
価格:本体2,700円+税
ISBNコード:978-4-287-82097-1
全ページカラー印刷
特集●糖尿病の「体質」:発症する人としない人の違いはなにか?
企画編集/安田和基
Ⅳ.「体質」の解明の展望とその発展
3.DOHaD説からみた糖尿病の体質/福岡秀興


DOHaDの適切な訳語がないためそのまま「ドーハッド」と呼ばれたりしていますが、

「健康や疾病の素因は、受精から妊娠を経過し出生後の数年間というきわめて早い段階に形成される」という説のことをDOHaD仮説といいます。

上に紹介した参考書籍の中のDOHaDについての記事を読みますと、DOHaD仮説の妥当性はかなり確かめられてきているようです。

ただ、このDOHaDにまつわっては糖質制限界でちょっとした誤解が見られています。

当ブログでもよく紹介する千葉県の産婦人科医、宗田哲男先生が世に発表された「胎児期の高ケトン体血症の普遍性」についての論文に対し、

2014年2月にとある糖尿病内科医より反論の投稿が寄せられました。

編集者への手紙 Letters to the Editor
妊娠糖尿病女性への糖質制限食について
谷川敬一郎
〔糖尿病57(7):528,2014〕


(以下、引用)

従来より糖尿病妊婦の児では精神遅滞,行動の異常が指摘されてきた.

Rizzoらは妊娠後期にβ-ヒドロキシ酪酸が高値であった母体が出産した児のIQが低いことを明らかにした

ケトン体が胎児の脳の発育や神経細胞の成熟に及ぼす影響については全く知られていない.

今後の課題として,糖質制限食で妊娠を継続して出産した児のフォローアップを行い,児や将来のさらなる予後を検討することも重要であろう.

また極端な糖質制限食では低カロリー食となって,児の飢餓がGluckmanらが提唱するDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)をひきおこす可能性もある.

(引用、ここまで)



引用文の中で紹介されているRizzoらの論文というのは、

1991年に発表された「母体の高ケトン血症が出生児の知能検査の低得点と相関する」ということを、

計223名の母親を①糖尿病合併妊娠グループ(89名)、母親妊妊娠糖尿病(99名)、正常耐糖能妊娠(35名)の3グループに分けて、

妊娠中期(2nd trimester)、妊娠後期(3rd trimester)の2点でHbA1c、ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)などの糖・脂質代謝マーカーを測定し、

その後生まれた時が2歳になった時と、3~5歳になった時にそれぞれ専用の知能検査を実施して、統計学的検証を行ったというものです。

ちなみに①の糖尿病合併妊娠は妊娠した時にすでに糖尿病が存在している状態、②の妊娠糖尿病は妊娠の影響で妊娠中のみ糖尿病と同じような代謝となる状態の事を言います。

それで問題のケトン体値は、妊娠中期の結果で①は0.18±0.13mmol/L、②は0.15±0.07mmol/L、③は0.10±0.05mmol/Lとなっており、①と③のグループ間でp<0.05の有意差があるとしています。

また妊娠後期の結果では①は0.18±0.13mmol/L、②は0.17±0.08mmol/L、③は0.14±0.05mmol/Lとなっており、こちらは各グループ間で群間有意差なしです。

しかし、ここで糖質通常摂取状態におけるβ-ヒドロキシ酪酸の一般的な基準値は0.07mmol/L未満程度とされていますので、

どのグループも基準値をちょっと超えているくらいの範囲の中にいるという事がわかります。

スーパー糖質制限実践者のβ-ヒドロキシ酪酸値が平均的には0.2~1.2mmol/L程度で推移する事を考えれば、

どれも似たり寄ったりのどんぐりの背比べ的な数値なのに、統計学的に解析すれば有意差と呼ばれる差が出ている所に驚かされます。

小さな変化を大きく見せることができるのが統計学という皮肉を実感を持って感じることができるデータです。

そんな微々たる差を示したケトン体値と出生後児童の知能検査の結果とを、これまた統計学的に解析したら、

妊娠後期の高ケトン血症などの脂質代謝異常と、知能検査結果に負の相関が見られたとするのが、Rizzoらの論文の概要になります。


さて、このRizzo論文の妥当性に関してですが、

ある意味真実をついているところがあると私は思っています。

原著論文を見るとこの論文での採血は一晩絶食後に行われているということなので、ケトン体が上がりやすい状況ではありますが、

そうしていても0.07mmol/L未満に収まるのが健常な糖質通常摂取者のケトン体値ですので、

論文の妊婦さん達は糖質通常摂取状態にも関わらず、ケトン体が上がり始めている状況ということになります。

ケトン体はどんな時に上がるかと言えば、糖だけでは全身活動のためのエネルギーがまかなえない時です。

糖質制限実践者なら脂質代謝に適応しているのでケトン体を存分に利用することができて問題ないですが、

日常的な糖質摂取のため、脂質代謝が錆びついている状況でケトン体が上昇したところでうまく利用することができず、いわゆるケトアシドーシスに陥ってしまいます。

絶食気味の状況で糖も使いにくい、さりとてケトン体も使いなれていない、

これは実質的な母親の低栄養状態です。

だから、Rizzo論文が実質的に示しているのは、「ケトン体が高いと出生児の知能が下がる」のではなく、

「グルコースもケトン体も利用しにくい低栄養状態になると出生時の知能が下がる」という、

冒頭のDOHaD仮説をきちんと支持するデータとなっているのではないかと私は考えます。

そんな糖質通常摂取状態でさえも、胎児や新生児のケトン体値は高値に保たれることは、宗田先生らの研究が証明して下さり、

母親が自分を犠牲にしてでもこどもを守ろうとしている様子を伺い知ることができますが、

未測定ですがおそらくケトン体が高いRizzo論文での児童の知能が下がるというデータが本当に正しいのだとすれば、

児童の知能を左右するのはますますケトン体値の多寡ではなく母体の栄養状態、

つまり、ケトン体値という数値だけでは決して見えてこない母体のグルコース又はケトン体から得られるエネルギーの利用状況の方であり、

まさに妊娠期周辺の母体の状態が出生児の健康素因を規定する DOHaD仮説を支持する結果へとつながるのではないかと思います。


脇道の話が長くなってしまいましたが、

体質を決めるDOHaD仮説がもしも正しくて、それが一旦形成されるとなかなか変えられないというものであれば、

私達は体質を無理に変えようとせずに、ありのままで生きていく方が、

ストレスマネジメントとしてもよいのかもしれません。


たがしゅう
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