ストレスをマネジメントできずに起こってくること
2018/02/13 00:00:01 |
ストレスマネジメント |
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ストレス学説を最初に唱えたハンス・セリエ(1907-1982)という生理学者がいます。
彼はストレスの元であるストレッサーに曝された際に身体がその有害性に適応しようとする一連の生化学的反応のことを「汎適応症候群」と名付けました。
そしてセリエ博士は、汎適応症候群には3つの段階がある事を示しました。

(※図はこちらのサイトより引用させて頂きました。)
各段階の名称は (1) 警告反応期,(2) 抵抗期,(3) 疲憊 (ひはい) 期、となっています。 まず (1) 警告反応期ですが、
全身の防御力が動員され、例えば副腎皮質からストレスホルモンが分泌され、分泌顆粒が減少する時期です。
先日来話題にしている、症状を伴うLow T3症候群はこの警告反応期に位置しているのではないかと思います。
つまり、今ストレスが結構かかっているからオーバーヒートしないように身体があえて脱力などの症状を発して身体を休ませようとする反応です。
誤解のないようにしてもらいたいのは、「Low T3症候群=警告反応」ではなく、
実際には警告反応より前段階の「検査値はT3低値を呈しているけれど体調は悪くない」という「適応反応」という段階があります。
この段階であれば、むしろ身体は精巧なシステムを使ってうまくストレスマネジメント出来ているということになります。
T3低下以外にも、コルチゾール、コレステロール、尿酸などの上昇や交感神経系の活性化など、様々なメカニズムが同時に動員されてうまく適応が起こっているものと思われます。
従って体調が良い場合のLow T3症候群は治療不要です。なぜならば甲状腺機能は充分に発揮されている状態だからです。
この辺りがLow T3症候群に甲状腺ホルモンを補充しても効果がない理由となっています。
間違ってもfree T3低値だけを見て、糖質制限を止めるべきなどという指導をしてはいけません。それは病気を見て病人を診ない態度に他ならないからです。
一方、脱力を呈しながらLow T3症候群を呈するという場合は、身体が警告反応を発しているということになりますので、
今までのやり方を見直して、もしそれが糖質制限を始めてからなり始めたことならば、糖質制限を緩めるということは検討すべきだと思います。
これはやせ型体質の人に起こりやすい現象だということは経験的にわかっています。
やせ型の場合、糖代謝への依存度が高く、ケトン体利用下手、オートファジー利用下手の側面がありますので、
長年の糖質過剰生活で錆びついた脂質代謝、タンパク質代謝はゆっくりとメンテナンスしていく必要があると私は思っています。
そのままリスキーな糖質主体生活でうまく糖質量をハンドリングしていく生き方もありと言えばありですが、
その糖代謝依存度の高さがどこまで先天的でどこからが後天的なのかは誰にもわからないところがあります。
しかし例えば生まれつきアルコールに弱い人が、無理のない範囲で飲酒を繰り返していくことでだんだんアルコールに強くなっていくのと同じように、
ヒトは先天的な欠点があったとしても、エピジェネティクスなどのメカニズムで適応することができる潜在能力は持ち合わせているように思います。
胎児期にヒトが高ケトン体にさらされている初期状態のことを考えれば、
糖代謝をメインに使うべきなのか、サブに使うべきなのか、
自ずと答えは定まってくるように私は思います。
さて警告反応に従わずにそのままストレスを処理し切れない状態が続いたら、
(2) 抵抗期、に入ることになります。この時期には今までのシステムでは身体がストレスに対抗し切れないということで、
ホルモン合成能を今まで以上に増加させ、副腎皮質からのストレスホルモン分泌顆粒をかえって増加させている時期です。
これは私の言葉で言えば「過剰適応」、すなわち身体の機能がオーバーヒートしている状態です。
言い換えれば私が糖質制限が効きにくいと感じるような振戦、耳鳴り、不安症などの症候群です。
緊張すれば手が震えるのは、誰にとっても起こりうる正常のストレス反応ですが、
緊張もしていないのに手が震えてしまう本態性振戦やパーキンソン病の振戦型などの病態は正常のストレス反応機構がオーバーヒートしてしまっている状態です。
この段階だと火種を減らすだけでは不十分で、消火器のような強力な火消しツールを使うことも一つの選択肢となってきます。
一旦強制的に火を消した後に、根本的な火種の確認とそれによって焼けただれた火事の現場に対して、
時間をかけて復興対処していくような治療が必要だと思います。
具体的に言えば、一旦症状を抑える西洋薬を必要最小限短期的に使用しつつ、
糖質制限+ストレスマネジメントを指導していく治療アプローチになると思います。
最後にそのオーバーヒート状態になっても対処することなく、エンジンを空回りさせ続けて起こってくるのが、
(3) 疲憊 (ひはい) 期、です。文字通り疲労困憊、ストレスホルモンの分泌顆粒が不可逆的に減少してしまう時期になります。
これは私の言葉で言えば、「消耗疲弊」です。
この時期は終末期になると薬が反応するために必要な細胞機能が低下しているので、
どんな薬を投与しても全く効かない手応えを感じてしまうことも少なくありません。
この時期の治療としては、既に現場は焼け野原となってしまっているので、
少なくとも積極的な消火活動は不要です。小火のような火種が残っていれば、その大きさに合わせた必要最小限の投薬を行います。
この辺りはコウノメソッドに代表される認知症治療領域の薬剤のごく少量投与を基本とする考え方とフィットします。
あるいはもう一つの治療発想として弱った細胞機能でも反応しうるマイルドな自然物質を利用するというものがあります。
例えば漢方薬の真武湯や人参養栄湯など弱った人に使う薬を利用したり、
まだ勉強中ですが、ホメオパシーも同様の発想で使える可能性を私は感じています。
そしてそもそもこの焼け野原の原因を作った糖質過剰とストレスに対する対処も意識します。
しかしながらこんな状態になるまでストレスに対処できなかったのだから、
今更ストレスマネジメントしようとしても難しい状況が多いだろうと正直思います。
糖質についてももはやそれを止めることの方がかえってストレスとなるこじれ具合の場合もあります。
そうなれば糖質制限+ストレスマネジメントを諦めて、あとは前述の治療選択肢を駆使しながらDo No Harmで人生を着地させていくことに全力を注ぐべきなのかもしれません。
それでもこのセリエ博士の提唱した汎適応症候群の全期に渡って、
糖質制限+ストレスマネジメントが治療の基本となると私は考える次第です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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