コレステロールとストレスの関係
2018/02/12 00:00:01 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:8件
ブログ読者の方より匿名で御質問を頂きました。
「コレステロールの上昇とストレスって関係あるんですか?」
というものですが、これについてはストレス学の書籍などを読んでみても直接言及しているものは私の知る限りありません。
しかしこんな時もあきらめずに自分の知っている知識と経験を元に、自分の頭で考えてみたいと思います。
結論から言えば「正常な身体機能を有する状況ではストレスに伴いコレステロールは上昇する」と私は考えます。
ただしそれは悪いことではなく、Low T3症候群と同様、身体の適応反応だと私は考えています。 すなわち、コレステロールが上昇している状態は、ストレスがかかり過ぎている状況を何とか終息させようと身体が今まさに頑張っている最中だということです。
言い方を変えれば、コレステロール上昇はストレス亢進の原因ではなく結果とも言えます。その根拠について私見を述べたいと思います。
まず身体にストレスがかかると自律神経系を介してストレスホルモンの分泌が刺激され、その代表格がコルチゾールです。
コルチゾールの意図はオーバーヒートしかけている身体を元に戻そうとする所にあるというのは以前の記事でも考察しました。
そんな意図があるコルチゾールをさらに増やしたければ、材料を補充するのが一番です。
そしてコルチゾールの原材料はコレステロールです。従ってストレスがかかればコレステロールが上昇するというわけです。
このようにある物質が増加した際に、その上流の物質までもさらに増加するよう働きかける調整システムの事をポジティブフィードバックと呼びます。
ポジティブフィードバックはその機能の必要性が高い時に起こって然るべきです。
なぜならば、必要物質とは言え物質が増え続ける現象は、恒常性の維持から考えれば逆行しているからです。よほど必要だからこそこのシステムが発動するのでしょう。
一般には例えば排卵誘発の際に卵巣からのエストロゲンが増え、それが刺激になって上流の下垂体の黄体化ホルモンの分泌も刺激されるような状況(LHサージ)にポジティブフィードバックという言葉が使われますが、
私はこのコルチゾール上昇がコレステロール上昇をもたらす現象も一種のポジティブフィードバックではないかと考えています。
またLow T3症候群の観点から考えれば、
甲状腺ホルモンが作用しすぎれば、末梢組織でのコレステロール利用が高まりコレステロールが下がります。
しかしあまりその状況が強くなれば頻脈、下痢、発熱など制御困難な状態に人体が脅かされてしまうため、
身体はそのストレスフルな状態を回避するためにここでもコルチゾールが作用して、T4からT3への変換効率を弱めて甲状腺の働きを緩めます。
緩めた結果、甲状腺ホルモンの働きによるコレステロール低下作用も弱まって、結果的にコレステロールは余った状態となります。
よってストレスがコレステロール上昇をもたらすという説明もできます。
したがって、コレステロールが上昇すること自体は単なる適応反応で、全く怖がる必要はありません。むしろ身体に感謝してもよいくらいだと私は思います。
ただ、見方を変えれば、これは今まさに身体にストレスがかかっている事を教えてくれている身体からのメッセージなわけですから、
この警告を無視してストレスの原因を取り去る努力を怠ってしまえば、次第に過剰適応となり、ひいてはコルチゾールが出せなくなる副腎疲労状態へとつながるおそれはあると思います。
例えば、私の絶食実験の時もコレステロールは大層上昇しました。
しかし絶食を解除すればコレステロールは元の状態に速やかに戻りました。
こんなに早くコレステロール値が変化するということを私はこの時初めて知りました。何事もやってみないと分からないことはあるものです。
ただ大切なことはこの時体調がどうか、ということです。
誤解してはいけないのは、コレステロール上昇やLow T3症候群という数値があったらすぐにストレスに対処せよということではありません。
コレステロール上昇やLow T3症候群を呈していても、体調が悪くなければそれは身体がストレス環境に見事に適応してくれているということなのです。
絶食療法に取り組んでいる際に体調不良を感じたら再摂食するべきですが、体調不良を感じていなければ代謝環境の変化に身体が精巧なシステムで立派に適応してくれているのだから、
そのまま体調に注意しながら前に進んでみてもよいという判断になると私は思います。
例えば、おそらく初めて断食にトライする人は、その急激な代謝変化についていけず体調を崩す人が多いことと思います。
それでも糖質制限ベースで絶食にトライすれば、通常食から一気に断食する急激な代謝変化に比べればマイルドですから、比較的トラブルは起こりにくいと私は考えています。
古来からの断食道場でのノウハウもその辺りの危険が経験的に分かっていたからこそ、準備食とか回復食という徐々に代謝を変化させていく工夫の文化が発展してきたものと思われます。
この辺り数値絶対主義に陥ってしまうと本末転倒です。
おそらく断食をすれば、どんな人でも十中八九コレステロールは上昇します。
しかしその時「コレステロール上昇=ストレス亢進=続けてはダメ」と単純に解釈してしまっていれば、断食自体がダメという話になってしまいます。
それでは数々の断食によって難病を克服された事例の現実を無視する話になりかねません。
話が少しずれてしまいましたが、ストレスとコレステロールの関連はそういう事だと思っています。
逆にストレスがかかり、コレステロール上昇やLow T3症候群といった適応反応が起こり、
その適応反応で処理しきれずに何らかの体調不良を感じ始めた状況があったとして、
ストレスフルな環境のせいで、体調不良という身体からのメッセージを聴く事を怠り、そのまま無理をし続けてしまえば、
準甲状腺機能亢進状態や交感神経過緊張状態を彷彿とさせる糖質制限に不応性の過剰適応状態へと突入しかねません。
だからもっとも大事なバロメータはコレステロールでもfree T3でもなく、
自分の体調だと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
副腎疲労については最近よく話題になります。アメリカの女性専用ケトパレオクリニックの運営者は(特に糖質量を注意しなければならない人を除き)、ローカーボで疲労感が出た時には、カーボアップして副腎を休めようと提唱しています。しかし疲労感が出る状況を作らないように常時から少しカーボアップした方が良いとも言えますね?
実は最近私は自分が摂取エネルギーが不足した時に交感神経過緊張状態に近くなり、睡眠障害がおこることに気付きました。睡眠障害が出るとさすがにわかりますが、そこまで行かない時は気分も高揚してパワフルな感じですから体調は問題ないと感じます。しかしその裏で副腎を疲労させていた可能性はありませんか?
先生が説明される断食のような特別なイベントではなく、常時糖質制限することで、コレステロールが上昇する人(私も)が多いですが、こう言う人は体調は良いけれど、実はコルチゾール上昇している懸念がある、やはりコレステロール値が高すぎる(300mg以上とか)のは下げる方が良いと言う方向になりますでしょうか。
Re: No title
御質問頂き有難うございます。
> 睡眠障害が出るとさすがにわかりますが、そこまで行かない時は気分も高揚してパワフルな感じですから体調は問題ないと感じます。しかしその裏で副腎を疲労させていた可能性はありませんか?
パワフルで体調が良いのなら続けて良し、睡眠障害が出るのなら見直す、
そういうことを繰り返していくことで、自分の中でちょうど良い食事・生活パターンができてくるのではないかと思います。
副腎疲労という言葉のネガティブなイメージに捉われ、コルチゾールが上昇すれば副腎が疲労してしまうんじゃないかと考えられてしまっているようですね。その不安そのものがまずひとつのストレッサーとなっていると思います。
コルチゾールが上昇することは、Low T3症候群、コレステロールの上昇と合わせてストレスに対する適応反応です。私達が知らないだけで普通の人でも実はコルチゾールは私達の生活ストレスに合わせて上昇したり低下したりして変動してくれています。
だからコルチゾールの数値やコレステロールの数値だけでどうこう思わない方がよいと私は思います。どうこう思うこと自体がストレスとなって余分にストレス適応反応が駆動されてしまいます。本当に疲労しているかどうかを教えてくれるのは数値よりも体調だと私は考える次第です。
No title
コレステロールについて知れば知るほど、
コレステロールに感謝です。
注意すべきコレステロールは、
マクロファージに「異物だ!」と勘違いされるほど、
変化したコレステロールのみだと思います。
「異物だ!」と勘違いされるのは、
酸化、糖化、中性脂肪過多による小粒化
コレステロールが本来の姿であれば、
誤認逮捕されることもありません。
>むしろ身体に感謝してもよいくらいだと私は思います。
ストレスホルモンであるコルチゾールの材料として、せっせとコレステロールを増産。
本当に良く出来ているなと思います。
どんなストレスにも対応できるよう、
ストレスのコントロールや、
悪い生活習慣で、コレステロールを異物化しない事が、
大切だと思いました。
No title
しかしすべての人に体調さえよければ、はいかがでしょうか。知り合いの52歳の男性が体調が悪くなったので、病院に行ったけれど手遅れ、体調悪化を自覚してわずか2ヶ月で亡くなってしまわれました。たぶん体の感受性が鈍くなっていて、自覚できなかったと思うのです。こういうことがあると普通の人は体調だけ信じていて良いのだろうかと不安になってしまうのです。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
検診で心の在り方が調べられるわけではありませんからね。
検診結果はあくまで参考に、それによって心が乱されるようなことがないようにしていきたいものですね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> コレステロールが本来の姿であれば、
> 誤認逮捕されることもありません。
その通りです。
血液検査で大事なことはなぜそのような数値になるのかを考えることだと思います。
いたずらに結果を怖がるのではなく、自分の生活習慣を見直すきっかけとして利用する分には検診もあながち悪くないと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> しかしすべての人に体調さえよければ、はいかがでしょうか。知り合いの52歳の男性が体調が悪くなったので、病院に行ったけれど手遅れ、体調悪化を自覚してわずか2ヶ月で亡くなってしまわれました。たぶん体の感受性が鈍くなっていて、自覚できなかったと思うのです。こういうことがあると普通の人は体調だけ信じていて良いのだろうかと不安になってしまうのです。
「体調は最良のバロメータ」が私の考えですが、御指摘のように確かに落とし穴はあります。
2014年2月6日(木)の本ブログ記事
「『身体が欲するものを食べる』の落とし穴」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-174.html
2017年11月1日(水)の本ブログ記事
「快感が良いとは限らない」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1143.html
も御参照下さい。
しかしきちんと自分の体調と向き合う事をしていれば、体調が悪い時にすでに手遅れという事態にはそうそうならないと思います。もっと前の段階から体調の悪さを感じる時期はきっとあったはずです。そうでないと生物としてのアラートとして全く機能していないことになります。そんな理不尽なシステムが自然に受け継がれているはずもありません。
自分の生活習慣の悪さ、ストレス、不安などの本質に目を向ける事を怠り、一時的な享楽にふけることを繰り返したり、仕事の忙しさにかまけて無理をし続ける行為を許していたりすると、せっかく身体が与えてくれている体調という名の警告にも気付かなくなる、という事の裏返しであるように私は思います。
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