主体的治療と受動的治療
2013/12/19 00:01:00 |
主体的医療 |
コメント:12件
教育学の中で「コーチング」という技術があります.
コーチングとは「対話によって相手の自己実現や目標達成を図る技術」です.相手の話をよく聴き(傾聴)、感じたことを伝えて承認し、質問することで、自発的な行動を促すことができます.
このコーチングについて極めてわかりやすく説明してあるマンガがあります.
「ドラゴン桜」という漫画です.
偏差値の低いとある高校が倒産の危機となり,債権整理のためにやってきた主人公桜木が,突然「ここから東大生を一人出して超進学校として有名にする」という型破りな発想で学校再建をめざし,不良学生とともに東大合格を目指すというストーリーです.
その中で,ある優れた国語教師が次のような質問をします. 『目の前に…飢えていて疲れている人がいます.あなたは(教育者として)魚を釣ってあげますか?それとも釣り方を教えてあげますか?』
さて,どうでしょうか.
一見,魚を釣ってあげる方が教師として親切なように見えるかもしれませんが,
魚を釣ってあげるということは「相手を全く信頼していない」ということです.
その場はしのぐことができても,生徒が教師の元を離れた時に,応用が全く効かず自立できなくなります.
一方魚の釣り方を教えてあげるというのは,「相手の自立心を育む」ことです.
釣り方を教えるのは,その場では大変であっても,将来的には未知の魚を釣れる程に成長していけるかもしれません.
教師の元を離れて以後も厳しい現実社会でもやっていけるようにする,これがコーチングという技術です.
私は医師と患者の関係もこうあるべきだと思います.
薬を出して見た目の数値や症状をよくして,当座の問題をしのぐというのは「魚を釣ってあげる」ことに等しい行為です.
患者は永遠に医者にかかり続けなければなりませんし,病気について自分で考えることもなく「あのお医者さんにかかっているから私は大丈夫」と自立心が全くない状況になります.これは「受動的治療」です.
一方,糖質制限に基づく食事指導は,まさにコーチング技術を利用した「主体的治療」を目指します.
なぜ今体調が悪いのか,なぜ血圧・脂質・血糖は乱れているのか,どうすれば改善するのかを糖質制限の理論を教えることによって自立心を促します.いわば「魚の釣り方を教えてあげる」のです.
医師は時々サポートをするだけで十分で,基本的には医師にずっとかかり続けなくても自分でやっていける事を知ってもらうわけです.
そうすることで医療から自立できるだけではなく,時にはサポート者が予想もしないような結果をもたらす事も起こりえます.これがコーチングのすごいところです.
実際私の患者さんでも,ごく数名ではありますが,免許皆伝レベルに糖質制限を理解してくださっている方はいます.
そういう方がまた周りに糖質制限を広めていって下されば,
世の中は少しずつ変わっていけるのではないかと思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
- 2023/03 (6)
- 2023/02 (5)
- 2023/01 (7)
- 2022/12 (5)
- 2022/11 (4)
- 2022/10 (11)
- 2022/09 (6)
- 2022/08 (6)
- 2022/07 (5)
- 2022/06 (6)
- 2022/05 (4)
- 2022/04 (5)
- 2022/03 (5)
- 2022/02 (4)
- 2022/01 (7)
- 2021/12 (14)
- 2021/11 (4)
- 2021/10 (10)
- 2021/09 (10)
- 2021/08 (8)
- 2021/07 (14)
- 2021/06 (11)
- 2021/05 (17)
- 2021/04 (9)
- 2021/03 (8)
- 2021/02 (9)
- 2021/01 (14)
- 2020/12 (9)
- 2020/11 (7)
- 2020/10 (6)
- 2020/09 (9)
- 2020/08 (11)
- 2020/07 (20)
- 2020/06 (22)
- 2020/05 (18)
- 2020/04 (22)
- 2020/03 (10)
- 2020/02 (7)
- 2020/01 (5)
- 2019/12 (9)
- 2019/11 (19)
- 2019/10 (31)
- 2019/09 (6)
- 2019/08 (7)
- 2019/07 (7)
- 2019/06 (13)
- 2019/05 (21)
- 2019/04 (9)
- 2019/03 (13)
- 2019/02 (15)
- 2019/01 (28)
- 2018/12 (9)
- 2018/11 (2)
- 2018/10 (11)
- 2018/09 (30)
- 2018/08 (31)
- 2018/07 (31)
- 2018/06 (31)
- 2018/05 (31)
- 2018/04 (30)
- 2018/03 (31)
- 2018/02 (29)
- 2018/01 (31)
- 2017/12 (31)
- 2017/11 (30)
- 2017/10 (32)
- 2017/09 (31)
- 2017/08 (31)
- 2017/07 (32)
- 2017/06 (31)
- 2017/05 (31)
- 2017/04 (31)
- 2017/03 (31)
- 2017/02 (29)
- 2017/01 (32)
- 2016/12 (31)
- 2016/11 (30)
- 2016/10 (31)
- 2016/09 (15)
- 2016/08 (11)
- 2016/07 (5)
- 2016/06 (10)
- 2016/05 (8)
- 2016/04 (5)
- 2016/03 (5)
- 2016/02 (10)
- 2016/01 (10)
- 2015/12 (7)
- 2015/11 (8)
- 2015/10 (7)
- 2015/09 (6)
- 2015/08 (6)
- 2015/07 (5)
- 2015/06 (5)
- 2015/05 (5)
- 2015/04 (3)
- 2015/03 (10)
- 2015/02 (28)
- 2015/01 (31)
- 2014/12 (31)
- 2014/11 (31)
- 2014/10 (31)
- 2014/09 (29)
- 2014/08 (53)
- 2014/07 (31)
- 2014/06 (30)
- 2014/05 (31)
- 2014/04 (30)
- 2014/03 (31)
- 2014/02 (28)
- 2014/01 (31)
- 2013/12 (32)
- 2013/11 (30)
- 2013/10 (33)
- 2013/09 (39)
カテゴリ
メールフォーム
スポンサードリンク
検索フォーム
ステップメール
リンク
QRコード

コメント
おもしろそう
買ってみます。年をとった人ほど脳が硬くなります。
余計な知恵がたくさんあり、なかなか整理できません。
体も脳も少し余裕がないといけないと思います。
最近特に思うようになりました。
会社でも若い社員をどう育てるのか・・・
自分でやれば早い・・ついついこの行動にはしります。
余裕を持って人と会話をするとその人の別の面も見えてきますね。
ありがとうございます。
Re: おもしろそう
いつもコメントを頂き有難うございます.
> 会社でも若い社員をどう育てるのか・・・
> 自分でやれば早い・・ついついこの行動にはしります。
医療現場でも同じことがあります.
私も研修医の指導に当たることが時々あるのですが,難しい処置や検査をするのに自分がやった方が明らかに速いし楽です.でもそれではいつまでたっても研修医の先生が一人立ちできなくなります.
医師と患者の関係もこの事を意識していなければいけないと思っています.
私のインパクト
私の最も印象に残っている名言は、
「社会のルールってのはすべて頭の良い奴が作っている。
つまりそれがどういうことか・・・
そのルールは頭の良い奴に都合のいいように作られてるんだ。
逆に都合の悪いところは分からないように隠してある。
それでも頭を働かせるやつはそこを見抜いてルールを上手に利用する。
例えば携帯電話・・・給与システム、年金、税金、保険・・・
みんな頭の良い奴がわざと分かりにくくして、
ロクに調べもしないやつから多く取ろうという仕組みにしている。
つまりお前らみたいに頭使わずに面倒くさがっていると、
一生だまされて高い金払わされるんだ。」
です。
患者も納税者も弱者なのだから、調べなくては。学ばなくては思います。
Re: 私のインパクト
いつもコメントを頂き有難うございます。
私もそのセリフ、印象に残っています。
> 患者も納税者も弱者なのだから、調べなくては。学ばなくては思います。
ですね。無知は罪なり、無知は損なりです。
No title
コーチングというのは日本人が軽視しがちな部分です、スポーツの分野でOBが即コーチになるのがその証左で、暴力事件が頻発するのもなにせコーチングを習っていない人がコーチをするのですから無免許医療や無免許運転を考えれば当然です。
そう考えると医師が患者との接し方を習わない或いは軽視するというのは高齢化社会の現在許されないことでしょう。その面でも日本糖尿病学会は落第ですね、なにせ一向に効果がないカロリー理論にしがみついて糖質制限は邪道呼ばわりですから。ダイエット業者は商売ですから仕方ありませんが、公的医療保険のわが国では医療資源を食い潰す背信行為です。
Re: No title
いつもコメントを頂き有難うございます。
コーチングは大切な技術ですが、そのような事は大学生活までを通じて不思議と私はまともに教わってこなかったように思います。それを一番わかりやすく教えてもらったのがこの「ドラゴン桜」という漫画でした。
> 医師が患者との接し方を習わない或いは軽視するというのは高齢化社会の現在許されないことでしょう。
患者との対話技法は実は医学教育の中で習っているのですが、医師として働いていく中でいつの間にかプライドの塊になっていく怖さがあります。パターナリズムや組織化をはじめとした医師を取り巻く社会環境に根深い問題が隠れているように思います。
鬼に金棒!
医師と患者さんとの間にもコーチング技術が生きてくるのですね。自立支援を目標としている私達、介護屋稼業も同じだなと感じます。
しかし、いくらコーチング技術が優れていても、日本糖尿病学会のおしきせ標準治療?を施されては、効果が上がらないばかりか、悪化すれば当然、意欲もあがらず、結果的に依存的になり受動的治療に陥っていくのでしょうね。
その点、糖質制限は当然のごとく目に見えて効果が出るので、主体的治療が成立するのだと思います。糖質制限と、コーチング技術による主体的治療がプラスされれば鬼に金棒ですね!
Re: 鬼に金棒!
いつもコメントを頂き有難うございます。
>糖質制限と、コーチング技術による主体的治療がプラスされれば鬼に金棒ですね!
そう思います。
本格的にコーチング技術を学べばあるいは活路も見出せるのかもしれません。勉強を続けたいと思います。
野茂
コーチングの概念無かったですもんね。
野球の野茂英雄が、アメリカのメジャーに渡った時のインタビューに、メジャーのコーチの仕事に関するものがありました。
野茂がコーチと投手1人1人とコミュニケーションをとり、練習やコンディショニング、起用 方法を決めるとははなしていました。
インタビュアーはそんな事をするとコーチが大変ではないかと問うと、野茂は「それがコーチの仕事でしょう」と即答していました。
つまり職業的プロコーチすらコーチングしないのが常識だったようです。
Re: 野茂
コメントを頂き有難うございます。
野茂選手、いろいろと先進的ですね。メジャー進出のパイオニアだけでなく、コーチング技術にも精通しておられたのですね。すごいです。勉強になります。
No title
ドラゴン桜ですか、、、。私も大学受験の頃に読んだことがあるので懐かしいですね。
その場しのぎ的な生き方(浪費や娯楽)よりも
長期的な見通しで生きる生き方(独学や事業の効率化)が正しいのは今の私なら強く同感です。
同時に、この考えは資産形成法(ネットビジネスや不動産)に限らず、医学でも全く同じという事にも気づかされました。
糖質制限食と資産形成、従来型と浪費、
これらでこんな共通点が見つかるとは、、、。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
従来型と革新型をめぐる様々な議論は、これまで歴史的に何度も繰り返されてきましたが、
最後には正しいものが評価されると私は信じています。
コメントの投稿