相手に選んでもらうスタンス
2018/01/24 00:00:01 |
素朴な疑問 |
コメント:9件
小学生とかの時代にゲームをしている時に母親から、
「ゲームばっかりやってないで早く勉強しなさい!」
「うるさいな。今やろうと思ってたところなんだから!」
反抗期の年頃の子がいる家族でのあるある場面なのではないかと思います。
その「今やろうと思ってたところ」が本当であったかどうかはさておき、
やろうと思っていないタイミングで他者に何かを強制されることには苦痛を伴うと思います。 かたや何か必要に迫られて、自分がやりたいと思う勉強を自分のタイミングで行うのは、
同じ勉強をするという行為であっても本人が感じる苦痛は強制される場合と比べてかなり軽いのではないかと思います。
ある行為や出来事が本人に苦痛を与えるかどうかは、その内容だけでなく、
本人の意向に沿っているかどうかで大きく変わってくるということが分かります。
これは先日来考え続けている相手の快に基づく医療の考えにも大きく関係してくる話です。
例えば、何かしらの勉強会が開かれていて、血糖値無料測定の機会があるとします。
その場合、血糖を測定してもらうことを快と考える人は測定に参加するでしょうし、快だと思わない人は測定に参加しないという構造が出来上がります。
この場合は候補者に参加するかどうかを決める選択権があるので問題は起こりません。
ところが同じ勉強会でも参加者全員に血糖値測定が強制されるとなればどうでしょうか。
快と感じる人にとっては別に良いですが、そうでなければ強制されることによるストレスを感じる人が出てきます。
さらにはその血糖値測定が有料ということになれば、加えてその金額が高額ということになればなるほど、
快と感じない人へかかるストレスはますます大きなものになってきてしまいます。
しかし、いくら強制測定でも、有料でも高額でも、
参加者がそれを求めていれば問題は生じません。
問題が生じるのは相手の意向に沿わない行為を強制された時なのです。
今は血糖値の測定を例に挙げましたが、
医療現場では日々そういう決断を迫られる場面に遭遇します。
抗生物質を処方することは相手にとって快なのか否か、
漢方薬を処方することは相手にとって快なのか否か、
点滴を行うことは相手にとって快なのか否か、同じ点滴でも中心静脈カテーテルの留置は相手にとって快なのか否か、
経鼻胃管を留置することは快なのか否か、などです。
インフォームドコンセントをとって同意書をもらっていれば、相手の意向に沿った気持ちになったと思ったら大間違いです。
それは相手の意向に沿ったのではなく、自分の意向に相手の意向を矯正しただけです。
本当に相手の意向に沿っていたかどうかは、本人に聞いてみない限りは知る由もありません。
だから、対話なくして快に沿った医療を提供するのは不可能に近いことだと私は思います。
対話して相手の快の可能性を探り、こちらが提示できる選択肢を提示し、相手に選んでもらうこと。
すなわち、インフォームドコンセントではなく、インフォームドチョイスこそが、
相手の快に基づく医療を展開するための秘訣ではないかと思います。
冒頭の反抗期家族あるあるも、家族の対話が不足している現れなのかもしれません。
あの場面で母親がすべきことは頭ごなしにこどもを叱ることではなく、
ゲームを続ける、ごはんを食べる、お風呂に入る、勉強をする、といった選択肢の中から好きなものを選んでもらうことなのかもしれません。
そうすれば反抗期はうまく切り抜けられるという考えは甘いでしょうか。
普段の医療でもできる限り選択肢を適切に提示し、選んでもらうスタイルを心がけたいです。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
相手に選択するスタンスいいとおもいます。
どっちがいいか迷うときもありますが(笑)
No title
どんぴしゃ、反抗期の母として、
息子に選択肢を与えている余裕がない。
というのが、本音です。
それは、息子の時間管理ができてないこともあるし
(テスト前なのに、とか)
家族みんなの生活パターンに従ってくれないと困るというのもあるし。
(先に風呂に入ってくれないと後が詰まるとか)
今日の記事は、医療の現場ではほんとに必要だなあと、感じます。
経験的に、絶対、縫ったほうがいいと思うキズでも、
本人や、家族が「テープでとめるだけでいい」と言えば、仕方ありません。
縫合するには、局麻も痛いし、医療費も高くなるし・・・
テープだけの場合の困る点を、説明した上で、
再診の予約を入れます。
でも、それで多少のトラブルは起こっても、
患者さんに不満の気持ちは起きずらいってことです。
そして、もっと重要な決断を要するときにも
(在宅で看取るとか)
そのスタンスを忘れないようにしたいものです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 息子に選択肢を与えている余裕がない。
> というのが、本音です。
そうなのでしょうね。
現実問題として選択肢を与えるというだけで解決する程甘くはないという実情もきっとあるのだろうと思います。
私は親の立場になったことはないので想像するより他にありませんが、
選択肢を与えるとともに大事なことは、それぞれの選択肢をとるとどうなるかを当事者に考えてもらうという事だと思います。
ゲームをこのままやり続けるとどうなるのか、
お風呂に早く入らないと何が起こるのか、
今勉強をしておけばどのような未来が予想されるのか、
そうした事を本人がゆっくりと考える時間を設けるために、親子の対話の時間が不可欠だと私は思います。
そしてその事は医師と患者との関係にも通じてくる話なのだと思います。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
脳卒中後や認知症でまともな意思疎通が困難になった場合は、
確かに本人の意向よりも家族や介護スタッフの意向が重視されている傾向があると思います。
それはある意味致し方ない側面がありますが、
あえて誤解を恐れず理想を言うならば、「言葉ではない所でも本人の意向を知ろうとする」事が大切なのかもしれません。
例えば表情、自発的な身体の動き、汗や皮膚の感じ、血圧や脈拍などのバイタルサイン…
様々な所で本人が快と感じているか不快と感じているかのサインはよく見れば現れているのではないかと思います。
それでもわからなければ、「相手の気持ちを察する」ということです。
近しい方ほど本人の気持ちに寄り添えるだろうと私は思いますが、必ずしもそれができるとは限らない社会構造がまた大きな問題として立ちはだかると私は思います。
反抗期
『本人が納得しているかどうか(=相手に選んでもらうスタンス)』
と言う点は大切なポイントですね。
“●家庭内に限定すれば、反抗期が全く無い家庭も普通に存在するし、全員が酷い反抗を示す場合もある。当然である。所謂、反抗期ってのは、理論的な思考が可能になる時期(抽象思考が可能になり、幼稚ながら自分で理論的に考えて自分なりの結論を出せるようになる時期)に、現状やそれまでに受けてきた理不尽な(自分の考え・理論では許せない)仕打ちに対して異を唱えるという現象だからだ。家庭内では保護者が、理由にならない理由(子供には納得できない理由)を理由にして何かを強要させ続けることが反抗期の原因である。それは、「しつけだから」「宿題だから」「先生が言ったから」「決まりだから」「みんなしてるから」~と本人は全く納得できない理由による行動をさせられていると必ず出てくるのは当然だが、逆に、子供自身が納得しながら過ごしていれば絶対に出てこない。その時期は反抗期ではなく相談期になる。「私はこう思うんだけど...」である。
従って、物心ついてからの幼児・児童期に、少なくとも家庭内では子供がキチンと納得できる言動で接していれば、反抗期なんてのはあり得ない。つまり、普段から「何か、それって違うんじゃないの?」と感じていたことを強要され続けてきて「それは、こうこうだから違う!」と確信することができるようになった(思考形態が変化した)ので、それを表明しているに過ぎない。”
https://plaza.rakuten.co.jp/donguriclub/diary/200911080000/
CLP
私は反抗期がなかったので、そういう時期を経験する人達の気持ちはわからないのですが、友達のそれは、いつも「仲いいんだなぁ」という気持ちで見ていました、ときどき本気でヤバい人もいましたけど・・・大概はじゃれあっているだけなんじゃないかと思っていた私は浅はかなんでしょうか。ともあれ、喧嘩している当人たちは実は親睦を深め合っていても、見ているこちらはストレス受けまくりということもありましたから、怒鳴り合うのだけは本当にやめて欲しいです。
Re: 反抗期
情報を頂き有難うございます。
大変参考になります。
大人と子供という上下関係ではなく、人間どうしの平等な付き合いができていれば反抗期などなくて済むのかもしれませんね。
そう言えば私にも大きな反抗期がありました。
過度な子供扱いに無性に腹が立っていたような記憶があります。
Re: CLP
コメント頂き有難うございます。
過分な御評価を頂き恐縮です。
是非とも患者さん達には私のような医師を利用してもらいたいと思います。
なんとなく薬を減らしたいと思っているが、その行為は今の自分にとってどうなのか、そういう事を一緒に考えていく事については私は力になれるのではないかと思っています。やみくもに薬を減らすことがよくない結果をもたらすこともありますので。
2017年1月29日(日)の本ブログ記事
「ゼロに向かって減薬できない医師達」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-856.html
2017年2月20日(月)の本ブログ記事
「慎重に減薬sていかねばならない」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-880.html
も御参照下さい。
反抗期がないというのは素晴らしいですね。
ですが反抗期真っ只中の当人にとっては、制御困難な感情があふれるので、お気持ちはわかりますが正直言って周りに気を遣っている余裕はないかもしれません。
アドラー心理学的には他人の課題と自分の課題は分離すべきなので、ストレスフルな状況をこちら側がどう受け止めるかで身を守るしかないように私は思います。
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