快に従い、不快に抗う
2018/01/17 00:00:01 |
お勉強 |
コメント:4件
同じことをやっていても、それを本人がどう捉えているかは大事なポイントです。
先日、九州大学名誉教授の藤野武彦先生の「脳疲労」仮説について学ぶ機会がありました。
藤野先生はストレス過多(情報過多)により大脳新皮質と大脳旧皮質の関係性が破綻し、正常な機能を果たせなくなった状態のことを「脳疲労」と定義され、
「脳疲労」状態こそがメタボリック症候群や認知症へとつながる元となる病的状態であり、
「脳疲労」を治すための方法として、「BOOCS(Brain Oriented Oneself Control System:脳指向型自己制御システム)法」という方法を提唱されました。
このBOOCS法による指導を15年間行い、2万人規模の集団へのメタボリック症候群の改善効果、および死亡率低下の結果を藤野先生らのグループは2015年に発表されているそうです(J Occup Environ Med. 2015 Mar;57(3):246-50.)。 そのBOOCS法というのは何かと言いますと、以下の3原則を順守するという方法です。
第一原則:
例え健康に良いこと(運動など)や、良い食べ物でも、嫌であれば決してしない(食べない)。
第二原則:
例え健康に悪いこと(食べ物)でも、好きでたまらないか、やめられないこと(食べ物)は、
とりあえずそのまま続ける(決して禁止しない)。
第三原則:
健康に良くて、しかも自分がとても好きなこと(食べ物)をひとつでもよいからはじめる(食べはじめる)。
一言で言えば「自分が心地よいと思うモノ・コトを大事にする」ということになるのでしょうか。
例えばタバコが好きなら止めなくていいし、ジョギングが嫌なら決して走らなくていい、といった指導ということになります。
この3原則、ぱっと聞いた感じだと到底信じられないと感じられる方もおそらく多いのではないかと思います。
タバコもお酒も甘いものも好きなら何でもやりたい放題、そんなことをしていてメタボが解消するわけがないという気持ちになっても無理はありません。
しかし、たとえ有害な行為でも心地よいと感じる気持ちに基づいて行動すれば、もしそれが本当に不必要な行為であれば自然とその欲求は治まるというのが藤野先生の主張です。
糖質制限に当てはめて考えれば、糖質が大好きだという人であればそれはそのまま続けてもらったら、自然と糖質への欲求が治まるのでしょうか。
それがもし本当なら見渡せば糖質だらけの現代社会において、
これだけ糖尿病や肥満の人が増え、がんや認知症、神経難病の数も一向に制御できない現状は理屈に合わないのではないかという気がしますが、
ここで大切なことは糖質に対して本人がどう思っているかということです。
つまり美味しい糖質を食べて本人が一点の曇りもなく「心から必要な物質だ」と心地よさを感じているのか、
それとも美味しい糖質を食べた後に「本当は健康によくないから食べ過ぎてはいけないけど誘惑に負けて食べてしまった」と罪悪感を感じているのかでは、
身体に起こってくる反応が全く変わってくるというのがBOOCS法における重要なポイントではないかと思います。
そしてそれは外から見た分では全くわからず、自分にしかわからないということも大事です。
もし美味しい糖質を心から食べたいと思っている人が少数派で、
社会の中で学んできた「甘いものの食べ過ぎは良くない」などの常識によって、糖質を摂り過ぎる事に引け目を感じている人が多数派であれば、
多くの人は心地よいという感覚に従っていることにはならず、現代病が蔓延している現実にも矛盾しないのかもしれません。
そう言われてみれば、糖質摂取に対する罪悪感の究極型は摂食障害という形で表れている気がします。
摂食障害、拒食症でも過食症でも当てはまると思いますが、根本に存在しているのは自分に対しての否定感です。
悪いと思いながら過食してしまう、そんな自分が憎くて情けなくてしようがないという感情です。
心地よいことが正しいとは限らないという事を私は以前述べましたが、
BOOCS法を踏まえれば、心地よさに罪悪感を感じながら振り回されるのはよくないという風に捉えることもできそうです。
本当に自分が欲する気持ちを大事にするという心持ちにすれば身体への反応が変わってくるということを教えてくれているのかもしれません。
第一原則についても私は思うところがありまして、
私は約5年強の糖質制限指導経験において、「糖質制限を無理矢理やらせてろくなことはない」という境地に達しています。
たとえどれだけきっちりと糖質制限を守っていても解決できない問題に遭遇している患者さんを私は少なからず見ています。
その時に考えられる可能性に自己申告の誤り、糖質制限の限界など様々ありますが、
その中の可能性の一つに、「実は本人がストレスを抱えながら糖質制限を行っている」というものがあると思っています。
つまりやりたくてやっているというより、ネットの情報などを見て自分が悩んでいる症状に良いなどと書かれているから、あまり深く考えずにとりあえず始めてみた、と。
しかしやってみて自分の思うほどの効果が出なかったり、別のネットでは糖質制限が危険だなどと書かれている記事を読んで不安を感じながらも糖質制限を続けている、というようなケースです。
それは本人が心地よいという感覚に従っているわけでは決してないと思うのです。
疑念や引け目や罪悪感などの負の感情が頭の中を支配している状況だと、たとえ理論的に健康に良い糖質制限であっても、
ストレスの悪影響が健康効果を打ち消すことがあるということを教えてくれているように思います。
BOOCS法を学んでいて、私が一番はっとさせられたのは、
たとえ健康によいことであっても「命令」や「禁止」をしてはいけない」ということです。
なぜならば、糖質制限はその名前から単純に考えれば「糖質を食べてはいけない」という指導です。
そういう捉え方もできますが、糖質制限の真意は「身体に必要なものを効率的に摂取して、代謝を正常化する」というところにあると私は思っています。
その真意を伝え損ねて、安易に糖質制限を伝えて相手に我慢を強いてしまえば、それがストレスを与えて脳疲労をきたし指導が逆効果ということになりかねません。
ストレスマネジメントの在り方を考え直させられました。
私のモットーである「体調が最良のバロメータ」にも通じるBOOCS法の考え方であったように思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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自分の落としどころ
最近はその言葉の鋭い響きを和らげるため「まごわやさしい」食事へシフトして、自分の落としどころとしています。
ご存知だと思ますが・・・
「まごわやさしい」とは、「まめ」「ごま」「わかめ」「さかな」「シイタケキノコ類」「いも」を日々食すると体に良いとされ、それら食材を覚えるための先人が思いついた覚え方です。
このワードを元に日々の食事をとると、結果「糖質制限」を行うことになります。
「いも」が高糖質食材ではありますが、先生の仰る「構造を保ったまま摂取すれば、体への負担が少ない」を参考にして、良しとしてます。
こうすれば、一家団欒の食事の会話で「今日はまごわやさしいの「ま」がないね」とか「今日は完璧だね」といったように「ポジティブに糖質制限ができる」我が家です。
参考までに。
Re: 自分の落としどころ
コメント頂き有難うございます。
> 「まごわやさしい」とは、「まめ」「ごま」「わかめ」「さかな」「シイタケキノコ類」「いも」を日々食すると体に良いとされ、それら食材を覚えるための先人が思いついた覚え方です。
> このワードを元に日々の食事をとると、結果「糖質制限」を行うことになります。
そういう発想はとても良いと思います。
要は自分の中で何の引け目も感じずに実行できる考え方に持っていけるかどうかです。
口で言うのは簡単ですが、なかなか今までに培われてきた固定観念が根深いとそういう心持ちに持っていくのが難しいという場合も多々あると思いますが、理想はそういう所にあるのだろうと思います。
No title
「糖質制限」という言葉が浸透してきました。
「糖質制限心地よい派」の私としては嬉しいです。
しかし、
今までの食事から「糖質」を制限する。
だから、私は「糖質制限」をしています。
表面的な理解だけの人も多いです。
「糖質制限」について、
正しく理解、安全な糖質制限、体調良好、糖質制限を支持。
理解不十分、間違った糖質制限、体調を壊し、糖質制限批判。
「ケトン体」の存在を理解しなければ、
「糖質制限」の理解は成立しないと思います。
ブドウ糖無い、ケトン体無いでは、不具合必至です。
糖質制限と同時に、タンパク質、脂質は増やす。
ここまでの理解が広まって欲しいです。
つい最近見た、知識人の方の記事で驚きました。
糖質制限をし「糖新生機能」が追い付かず、低血糖。
ケトン体の存在を無視した考え方だと思いました。
他に、ケトン食を続けると危険だという記事も見ましたが、
ヒトの赤ちゃんはケトン体を利用している事実に矛盾しています。
色々な知識人が、様々な情報を発信していますが、
自分の頭で考えて、自分が心地よいと感じるものを、
選択していきたいと思いました。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> ケトン食を続けると危険だという記事も見ましたが、
> ヒトの赤ちゃんはケトン体を利用している事実に矛盾しています。
その通りです。
「ケトン体=悪」と仮定して考えたら、
胎児期に高ケトン血症にさらされている事実がどうしてもうまく説明できなくなってしまいます。
ということは「ケトン体が悪ではない」と最初の仮定を改めるというのが妥当な考え方だと思います。
>糖質制限をし「糖新生機能」が追い付かず、低血糖。
これも糖質制限をしたことが悪いのではなく、
それまで散々糖質摂取してきてケトン体代謝を鈍らせてきた状況で、いきなり糖質制限をさせてケトン体代謝が駆動できなかったために起こる現象と思います。
それはまるで運動不足の人に準備運動なしでいきなり全力ダッシュさせるようなものです。この状況だけで「ダッシュ=悪」だと結論づけることができるでしょうか。それと同じことです。
物事は一つの面からだけではなく、様々な面から眺めてみなければ本質は見えてきません。
私はこのブログで様々な角度から糖質制限について考え続けてきました。その思考の蓄積の結果、糖質制限が健康の基本となるという考えは今も変わりません。様々な情報に振り回されず自分の中で考える地頭力が私の中では構築されてきたように思います。
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