コーヒーは良いのか、悪いのか
2013/12/16 00:01:00 |
素朴な疑問 |
コメント:10件
先日本屋に立ち寄って、面白そうな本を見つけました。
「コーヒーの医学」という本です。
コーヒーの医学 (からだの科学primary選書1) (日本語) 単行本 – 2010/4/20
野田 光彦 (著)
私自身はコーヒーを飲む習慣のない人間ですが、
コーヒーを習慣的に飲む人って、すごく多いような気がします。
このコーヒー、実に奥深い飲料です。
かたや健康によいと言われていたり、かたや悪いと言われていたりします。
また医学教育の中でもコーヒーを真正面から勉強する機会はないにも関わらず、
日常診療の中ではコーヒーの事は結構聞かれたりします。
今回この本を参考に、少しコーヒーに対する医学的な知識を整理してみたいと思います。 コーヒーに含まれる成分ですが、
「炭水化物」「カフェイン(窒素化合物)」「ポリフェノール(クロロゲン酸)」「その他の物質」とまとめることができます。
五訂日本食品標準成分表によると
コーヒー・抽出液100g中にエネルギー4.0kcal, たんぱく質0.2g, 脂質0.0g, 炭水化物0.7g, 食物繊維0.0g, カフェイン40mg, が含まれているそうです。
コーヒーに食物繊維は含まれていないので、コーヒー中の炭水化物=糖質ということになりますが、100g中に0.7gですからさほど多い量ではないですね。
一方、コーヒーに糖尿病発症を抑制する効果があるという疫学研究は多数存在しています。一番有名なのはオランダの研究者によって報告されたコホート研究です(van Dam RM, Feskens EJ: Coffee consumption and risk of type 2 diabetes mellitus. Lancet 360: 1477-1478. 2002)。
これによると17111人のオランダ人男女を平均7年間追跡した結果、1日に7杯以上コーヒーを摂取する人では。2型糖尿病の発症に対する相対危険度が1日2杯以下のヒトの約2分の1になるという結論でした。
そしてなぜコーヒーで糖尿病発症が予防できるかというメカニズムについて考える上で、「カフェイン」「ポリフェノール(クロロゲン酸)が重要な位置を占めます。
まずカフェインですが、主な働きは①覚醒作用、②利尿作用の二つです。
簡単に言えばカフェインにより交感神経機能が高まり覚醒し、基礎代謝が亢進することで血糖を下げるのに良い効果をもたらすというわけです。
ただカフェインには中毒性があります。過去記事でも触れたように、中毒性がある物質は摂取頻度が増えれば増えるほど改善効果を得るまでの要求量が増えていくため、いつもの量では物足りなくなってくる危険性を秘めています。
一方、ポリフェノール、特にクロロゲン酸はα-グルコシダーゼ阻害作用、すなわち腸管での糖の吸収を遅らせる効果があります。糖尿病薬のベイスンやグルコバイなどと同じ作用ですね。
それにポリフェノールには抗酸化物質としての働きもあります。
こう考えると、コーヒーをたくさん飲むと糖尿病発症予防に役立つという疫学研究結果はさもありなんと思えてしまいそうですが、
しかしよく考えてみてください。
コーヒーの多い少ない以外の要素をきっちりそろえようと思ったら相当難しいことになると思いませんか?
このように調べる対象以外の因子で、病気の発生に影響を与えるものを「交絡因子」と言います。
例えば、日本でのコーヒーと糖尿病発症との関連を検討したJACCスタディという研究では、年齢、性別、BMI, 糖尿病の家族歴、歩行習慣、運動習慣、マグネシウム摂取量といった交絡因子を調整したとあるのですが、
それでは全然調整が足りないように思えます。例えば、コーヒー以外の飲料について全く検討がなされていませんし、そもそもコーヒー以外の食生活が同じとする設定には無理があります。
それに、実はコーヒーを飲むと良いことばかりが起こるわけではありません。
最も有名なネガティブデータは膀胱がんが増えるというものです。これはカフェインがアポトーシスや細胞周期を乱すというメカニズムを介して起こしているのではないかといわれています。
それならば他のがんが増えてもよさそうなものなのですが、一方で肝臓がんに対してはコーヒー摂取が罹患リスクを下げる可能性が示唆されていたり、一定しません。
このようになかなかすっきりと理解できないところも多いですが、以上を踏まえて私なりに「コーヒーの医学」をまとめてみます。
①コーヒーの短期的な作用としては覚醒作用、利尿作用がある。
②コーヒーの長期的な作用としては抗酸化作用、基礎代謝亢進、慢性炎症抑制などにより糖尿病、心血管疾患などに対して良い効果を与える一方で、カフェインに中毒性があるため摂取量が増えすぎていくと、カフェイン中毒症状(興奮、不眠、嘔気・嘔吐、動悸など)やがんリスク、血圧上昇などのデメリットが目立ってくる場合がある。
③コーヒーに関しての疫学調査報告は解釈に注意を要する。
以上を踏まえて、私が考えるコーヒーに対するスタンスは、
「ほどほど飲むくらいならオーケー」です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
完全コーヒー依存の自分からしてもこの結論は支持できます。江部医師のブログにも赤ワインの記事が掲載されましたがこういう商売(よりによってフランス人発)の臭いがする情報は眉につばを付けすぎるぐらいでちょうどいいと思います。まあワインと違ってコーヒーは南米やアフリカ諸国の経済に重大な影響を及ぼしますから騙されるのもそう悪くもないかもしれませんが。
気になるのは風邪を引くとコーヒーを飲みたくなくなることです。一方喫煙者は風邪を引いても咳き込みながらでも煙草を吸いますよね。アルコールはすぐ酔うけど飲めなくはない印象です。他の薬物はどうなのかとか興味深いですね。
Re: No title
いつもコメントを頂き有難うございます.
食事調査というのはもともとある程度の不正確性が生じる調査です.
正確な食事調査は栄養士による直接調査などが必要ですが,マンパワーの問題である程度少数までの人数しか実施できませんし,大規模な調査になるとアンケートを用いるしかなくそこには自己申告に伴う不正確性をどうしてもはらむことになります.
通常の食事組成だけについて語る際でさえその問題が残るのに,こと飲料だけについて差異を語るというのはかなり無理がある話ではないかと私は思っています.
> 気になるのは風邪を引くとコーヒーを飲みたくなくなることです。一方喫煙者は風邪を引いても咳き込みながらでも煙草を吸いますよね。アルコールはすぐ酔うけど飲めなくはない印象です。他の薬物はどうなのかとか興味深いですね。
確かに,それはどうなのでしょうね.
依存性の強さと程度によっても変わってくるかもしれません.
No title
効能など詳しいことはわかりませんが、「コーヒーを飲むシチュエーション」がリラックスタイムであったり、本をゆっくり読むぜいたくな時間であったり、音楽を聴いたりする時なので、私の日々のストレスを大いに解消してくれています。
好きで飲んでるコーヒーがさらに体に良い効果があるとしたら得した気分だあ~くらいのスタンスです。
過ぎたるは及ばざるが如しで、適度に幸せを感じながら飲むことにします~。
今年も もう残り少なくなってきましたねぇ・・。
来年も こちらのブログを楽しみにしてます。
たがしゅうさん よろしゅう~! えへっ。
Re: No title
コメントを頂き有難うございます。コーヒー好きの方多いですね。
糖質制限的にはOKだし、部分的に身体に良い効果があるというのもわかるのですが、カフェインの中毒性には少し引っかかります。数あるコーヒーに関する研究結果もそのまま鵜呑みにはできません。
コーヒーも嗜好品の一つと認識して、中毒性があることを知った上で、中毒が強固にならない程度のほどよい付き合い方をしていきたいと個人的には思います。
コーヒーへの依存性
コーヒーのカフェイン濃度は他のお茶に比べて2倍以上であると前に読んだことがあります。
実際母乳を飲んでいる赤ちゃんのご機嫌の悪さが、朝にお母さんが飲む1杯のコーヒーだったことがあり、カフェインの威力を思い知らされました。
ヒトがもっとも依存しているのはカフェインであり、それはお茶がもっとも飲まれているものだから、という話も読みました。
お茶は問題視されないのに、コーヒーはやり玉にあがるのは、やはり、お酒同様、毒物である意識が根底にあるのではないでしょうか?
ここはたがしゅう先生がおっしゃるように、ほどほどにという選択肢がよいと思います。
ちなみにこのごろの若い人はコーヒーをあまり飲みませんよね。(甘くしては飲むけど)
手間暇かけてコーヒーをいれる、なんていうことは、そろそろ絶滅危惧の範疇なのかしら?
No title
Re: コーヒーへの依存性
いつもコメントを頂き有難うございます。
確かに、日常に最も自然に溶け込んだ中毒性物質とでも申しましょうか。コーヒーやお茶が毒物だと認識している人はまずいないでしょう。
たかがコーヒー、されどコーヒー、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしです。気をつけてたしなみたいですね。
Re: No title
いつもコメントを頂き有難うございます。
> 私もコーヒーは大好きで食後には必ずという程飲んでいます しかし うすいめで砂糖なしで もう10年以上になりますが 特に困ったことはありません。
ほどほどの量なら、コーヒーもお酒もたしなむ程度は大丈夫だと思います。
参考までに・・・
コーヒーを飲むことで死亡リスクや発がんリスクが低下するといった研究結果が/.Jでもたびたび紹介されているが( /.J記事1、 /.J記事2、 /.J記事3)、最近発表された研究によると、コーヒーをたくさん飲む55歳以下の人はすべての死因における死亡率が高かったそうだ(論文アブストラクト、 Forbesの記事、 本家/.)。
研究はAerobics Center Longitudinal Studyの43,727名分のデータに基づく。初期データは面接によって収集され、1971年から2002年まで中央値で17年間の追跡調査が行われたそうだ。その結果、週28杯以上のコーヒーを飲む人のすべての死因における死亡率は、男性全体で21%高く、55歳以下に絞ると男性で56%、女性で2倍以上高かったという。ただし、コーヒーをたくさん飲む人の死亡率が高くなった原因は、現在のところ不明なようだ。
Re: 参考までに・・・
情報を有難うございます。
コーヒー関連の論文は解釈が難しいですね。不確かだから教科書にあまり乗らないのかなとも思います。
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