自ら病気を呼び込む心の在り方
2017/12/26 00:00:01 |
普段の診療より |
コメント:4件
自分の弱さを露呈した後に書くのも恐縮なのですが、
本日は他人の弱さも気になってしまうというお話です。
私の病院では私が担当する入院患者さんには基本的に半糖質制限食と名付けた主食半量、副食増量の食事をお勧めし、
糖尿病などさらに厳格な糖質制限を行うメリットが明らかにある場合は、本格的な糖質制限食を強くお勧めするというスタンスを勧めています。
先日皮膚癌の術前でその待機期間中に落ちている体力を戻すために当院へ入院された高齢の患者さんがおられました。
本当は癌に対しては厳格な糖質制限を行うメリットが大きいと私は考えているのですが、
院内スタッフの混乱や周囲医療機関との衝突を避けるため、この状況では私は半糖質制限食をまず勧めるようにしています。 本当にやりたい医療を行うのは難しいという事をこういう所からも感じるわけですが、
何もせずに常食を与えるよりはマシという所で、私は心の折り合いをつけるようにしています。
しかししばらく半糖質制限食を提供し続けていたある日、
看護師から、「患者さんが主食が少なく腹が空いて力が出ない。漢方薬ばっかりで病気になるなどと言う」との報告を受けました。
また腹が空いているという割に副食には全く手をつけず食べようとしないのです。
これでは力が出ないのは当たり前の話ですが、それでも主食が少ないから力が出ないと思いこんでしまっているのです。
私からすれば半糖質制限食ですら大分妥協して歩み寄っているというのに、これすらストレスに感じてしまっているというのではお手上げです。
私は歯がゆい思いを感じながら、ストレスマネジメントの観点から患者さんの食事を半糖質制限食から常食へと戻すことにしました。
また漢方薬は便秘や疼痛に対して処方してそれらの症状は良くなっていたのですが、
漢方薬への思い込みが患者さんの中で歪んで大きくなり、なんと症状が良くなっている状況であるにも関わらず、
その改善には全く目が向かずに力が出ないという悪くなっている状況と、
漢方薬という普段使い慣れない薬がきっと悪さをしているに違いないという思い込みとを関連づけてしまっているのだと思います。
こういう患者さんを診ていると軌道修正は極めて困難だと思わざるを得ません。
そのような思い込みや決めつけはストレスマネジメント的には極めて問題のある行為で、自分自身で病気を呼び込んでしまっていると言っても過言ではないと私は思います。
何より重症なのは自分の改善に全く気付いていないという点です。身体からの声を聞こうにもこれでは不可能です。
誤解を恐れずに言えば、そのような考え方だからこそ癌ができる温床となったとも言えるような気がします。
その考え方が糖質制限を避け、漢方薬を避けさせている以上、
癌を治療するためにもっとも根本的なレベルは心理的なアプローチという事になるはずです。
しかしそれがこの患者さんのような心の在り方だとアプローチが極めて難しいということが皆様にも伝わるのではないでしょうか。
心の在り方は自分が気付いて自分で軌道修正してもらうより有効な方法はまずないのです。
逆に言えば、癌を手術で取り除くという治療選択は、そのような心の在り方、糖質制限、漢方薬も何もかも遵守しなくても、
目の前の癌という問題をとりあえず離れることができます。何とも向き合わなくて済むからそれは楽だろうと思います。とにかく腕のいい医師に任せ横になっていればいいわけですから。
しかし根本的な原因には全く対処していないので、再発するのは時間の問題ですし、
再発しなかったとしても臓器欠損症状によって確実に体力は奪われます。
自分の心を在り方を変えずに問題を先送りにしたことによる代償は大きいと私は思います。
どうしたら患者さんにそれを気づいてもらえるのか、
あるいはどうしても気付けない患者さんはもはや諦めるしかないのか、
頭を悩ませる日々が続いています。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
薄紙を剥ぐように
病状が回復する際の比喩表現で用いられる言葉ですが、この感覚が現代人にはピンとこないのでしょうね。
現に私も病気に罹る前はそうでしたが、その後身をもって体験したからこそ、この言葉の意味を心底から受け入れられています。
成果主義や競争社会の悪影響ではないでしょうか。
「結果が即座に出なければ成功とはいえない」という思想が邪魔をしているように見えます。
長年かけて負担を強いられた体を健全な状態に戻すには、長年かけて戻す。
冷静に考えれば当然の原理だと思うのですが、体を治すのにも急を要する社会となって、要の部分を見逃しているのではないでしょうか。
一番は、心の在り方をゆったりと見つめ考えられるゆとりある社会の実現ではないでしょうか。
Re: 薄紙を剥ぐように
コメント頂き有難うございます。
御指摘のように社会構造が病気を生み出している側面も大きいと思います。
近年増加傾向にある種々のストレス関連疾患の台頭はその象徴であるように思えます。
目の前の学業や仕事にがむしゃらに取り組み続けた結果、受け続けてきた身体への負担を振り返り、心も身体もゆっくりと見つめ直す時間が取れる社会作りが必要だと私も感じている所です。
No title
「古い常識(糖質主義)からの脱却」と
「新しい常識をベースにした治療」との
同時進行の難しさが伝わります。
既に新しい常識(糖質制限)を受け入れている方だったら、
先生の治療もスムーズに進むのでしょう。
糖質制限のメリットを分かりやすく記載した資料などを配布すれば、
患者さんが治療を理解し、受け入れる助けになると思います。
(既に作成されているかもしれませんが。)
多くの先生方が書かれた糖質制限に関する本を読めるコーナーがあれば、
資料を読み興味を持った患者さんが、読んでくれるかもしれません。
糖質制限が多くの先生に支持されていると知る事もできます。
糖質制限に関心を持つ「きっかけ」が生まれます。
治療は、患者さんと先生の二人三脚が上手くいってはじめて、
良い結果につながると思いますので、患者さんにも学んでもらいたいものです。
世の中が、すでに糖質制限ベースであれば、問題も少ないのでしょうが。
先生は「先駆け」でいらっっしゃるので、ご苦労が多いと思います。
しかし「先駆け」の先生がいらっしゃるお蔭で、
治療がより良く変わっていくので、感謝しています。
応援しています。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
パンフレットや書籍はすでに活用しておりますが、改善の余地はありそうです。
きっかけ作りとして適宜見直していきたいと思います。有難うございます。
> 先生は「先駆け」でいらっっしゃるので、ご苦労が多いと思います。
有難い御言葉ですが、
私が先駆けというのはおこがましく思います。
江部先生や夏井先生といった本当の先駆けの先生方がおられたおかげで今の私があると思っています。
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