冷えが取り返しがつかなくなる前に
2017/11/25 00:00:01 |
漢方のこと |
コメント:2件
寒い時期、シャワーを浴びたりするのが意外と至福のひと時だったりします。
特に首の後ろから熱いお湯をかけると気持ちよくて、あまりの気持ち良さにシャワーから上がるのが億劫になる事がよくあります。
そう言えば先日、漢方の勉強会で「冷え症」と「冷え」は明確に区別すべきという話を聞きました。
なぜならば「冷え症」なのか、「冷え」なのかで使うべき漢方薬が大きく変わってくるからです。読者の皆様はこの違いわかりますでしょうか。
「冷え症」とは冷えを感じやすい体質のことで、「冷え」とは局所組織の破綻(血流や水分代謝など)が起こり実際に冷えている状態のことです。
そしてポイントは冷えを感じる中枢は自律神経の中枢である視床(下部)に存在するということです。 視床に終着する自律神経系は交感神経は破裂孔、副交感神経は迷走神経という形で頸静脈孔、というそれぞれ頭蓋骨の底部に空いた穴を通って後頚部を中心に走行しています。


そうすると、首の後ろを温めるという行為は、冷えを感じる大元に近い部分に対して直接的に温熱刺激を与えることができるという点で、
冷え症の改善に有用だというお話をその漢方講演会で知りました。
講師の先生は患者さんに首を温めて冷えが改善するかどうかを聞いてどの漢方薬を使うかの参考にされているともおっしゃっていました。
そう考えると私がシャワーで気持ちよかった首の後ろに熱い湯をかける行為は、
冷え症を改善させるための自律神経の中枢に対する温熱療法だという見方もできるかもしれません。
もう一つその講演で面白かったのは、
冷え症をこじらせていくと冷えとなり、冷えは高齢者に多く見られるという事実です。
冷え症というの冷えに敏感なので、少々の冷感も大きく感じてしまう節があります。
極端に言えば冷え症というのは、自律神経機能がオーバーヒートし正しく機能せず自律神経が誤って冷えと感じれば「冷え症」となります。
だから「冷え症」の漢方薬には自律神経を整える作用のある生薬がよく含まれます。
例えば交感神経の興奮によって収縮した血管を緩めるために芍薬が配合されていたり、
末梢動脈血流を改善させるために当帰、川芎、桂皮といった生薬が配合されているといった具合です。
それに対して冷えは自律神経がどうであろうと物理的に冷えている状態のことを指します。
この場合、交感神経を緩めるだけでは対応できず、副交感神経機能を高めるような戦略が必要になってきます。
具体的には人参、乾姜、呉茱萸、生姜といった生薬の含まれた処方を用いるという戦略です。
それでも無理なら附子というトリカブトの毒を弱めた生薬を用いて神経を賦活し、全身のポンプ機能を高める必要性も出てきます。
そう考えると、病気のステージとしては「冷え症」が進行して、「冷え」になるという流れが見えてくると思います。
もちろん交通事故や外傷など局所の組織破壊が突然起こって、冷え症を通り越していきなり冷えになるケースもあるでしょうが、頻度としては少なくて然るべきです。
先日取り扱った「見えない異常がこじれると見える異常となる」という流れはここにも当てはまるように思います。
つまりシビアな冷えとなって対処困難になる前に、「冷え症」の段階で手を打っておくことは予防医学として大きな価値があるというのが、
今回の講演を通じて私が得た大きな教訓です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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風門 風池 風府
風池 風府 が並んでいるのが興味深い点ですね。
風呂上がりに首筋、髪の生え際の水気をよく拭き取らないと首筋に邪気が侵入するという、昔からの養生の知恵も東洋医学だけでなく、西洋医学から視点を変えて説明されると、神経の問題としてアプローチすればよいことがわかりました。
ちなみに風邪をひいてしまった後、治療法としての腰湯・足湯が「足首」に対する温熱刺激であることを考えると、大きな流れが狭まっている場所が人体では何らかのポイントであるという共通の構造が見えてきたりします。
話題がそれますが、迷走神経を刺激して副交感神経を安定させるために口パク運動というのがありまして、仙頭先生が本を監修されています。糖質制限の視点を欠いて、単純な運動だけで神経系統が整うかは疑問ですが、首回りとしての顎の動きも非常に大事だと思っております。
Re: 風門 風池 風府
コメント頂き有難うございます。
東洋医学で言うところの「気の異常」は自律神経の異常と考えれば割と理解しやすいように思います。
私流に言えば、気逆は自律神経の過剰適応、気虚は自律神経の消耗疲弊、そして気鬱は自律神経の過剰適応と消耗疲弊の混在で局所に異常が顕在化している状態です。
> 迷走神経を刺激して副交感神経を安定させるために口パク運動というのがありまして、仙頭先生が本を監修されています。
まだ詳しくは学べておりませんが、歯ぎしりが交感神経過緊張状態の一つであることを思えば、人為的な副交感神経刺激法として一考の価値ありと思います。
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