専門科別医療が生み出すポリファーマシー
2017/11/17 00:00:01 |
普段の診療より |
コメント:4件
てんかんという脳の病気があります。
何らかの原因で脳の神経細胞が過剰興奮を起こし、痙攣や意識障害といった形で症状を呈する疾患のことです。
画像上何も異常がない場合に起こすてんかんの事を「特発性てんかん」と呼ぶのに対し、
画像で異常が確認され、その異常部位を発作の焦点として発症するてんかんの事を「症候性てんかん」と呼びます。
高齢者で初発の痙攣発作を起こす時に多いのは脳梗塞の既往があったり、知らないうちに隠れ脳梗塞を起こしたりしている場合が多いです。
脳梗塞を起こしている部位で脳波が乱れやすくなるからだと考えられています。
しかし一方であまり知られていないかもしれませんが、血糖値が高くなり過ぎることによっても痙攣発作は起こります。 痙攣発作が脳の過剰適応状態だと捉えれば、高血糖で痙攣が起こることは比較的理解しやすいのではないかと思います。
問題はそういう場合に一般的に現代医療の中でどのような対処がとられるか、ということです。
普通、痙攣の患者が救急搬送されれば、対応する専門科は神経内科です。
例えば重症の糖尿病患者で血糖が600mg/dLを超えるような状況があれば、
糖尿病性ケトアシドーシスとか高浸透圧高血糖症候群といった病名がつきますが、
その際痙攣があればたいていの場合は神経内科医が呼び出されることになると思います。
そして病院によって対応は異なりますが、基本的には頭部MRI検査や脳波検査でてんかんの有無を確認されることになると思います。
頭部MRIは主として前述の「特発性てんかん」か「症候性てんかん」かを鑑別する為に行われるわけですが、
脳波検査がてんかん診療のキモです。この検査でてんかん波と称される異常所見が検出されれば、てんかんの確定診断がつくことになります。
ところが多くの場合は脳波の異常所見は拾うことができません。
病院によっては夜間緊急で脳波検査を行う事ができなかった場合は、とりあえず入院して翌日脳波検査に回されるというケースも少なくありません。
では明らかな痙攣発作を示した患者さんなのに、脳波検査で異常が検出されなかった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、「今回はたまたま脳波異常は検出されなかったけれど、痙攣の状態から言っててんかんと言って間違いないでしょう」と見込み診断がなされることが多いです。
その結果どうなるかと言えば、抗てんかん薬が処方されることになるわけです。
しかしここで考えてみましょう。もしもこの患者さんの痙攣の本当の原因が高血糖にあったとした場合です。
痙攣で搬送された患者をまずは主治医の糖尿病内科医が呼ばれて診察します。
激しい痙攣を起こしているので当座の鎮静剤を投与し痙攣を抑え、その糖尿病内科医は神経内科を呼び出し相談します。
神経内科医は高血糖があれば高血糖による痙攣の可能性も考えるわけですが、
脳波、頭部MRI、あるいは髄液検査まで行ってもこれといった異常所見が出ません。原因が高血糖だからです。
神経内科医は糖尿病内科医へ高血糖を是正する必要性を説明するでしょう。しかし相手は600mg/dLまで血糖上昇している患者さんです。
そう簡単に血糖値を下げられないだろうと踏めば、念のために抗てんかん薬を出すのでそれを継続処方するようにと糖尿病内科医へ指示します。
指示を承った糖尿病内科医はその先ずっと抗てんかん薬を処方し続けることになります。
その先糖尿病内科医が抗てんかん薬を減量しようかと思う場面はまず訪れないでしょう。なぜならば専門の神経内科の先生の指示だからです。
こうして念のために処方された抗てんかん薬は患者さんの人生の中でずっと処方され続けることになります。
それに何のトラブルもなければ問題はないです。しかし傾眠、ふらつき、肝障害、気付かない所で微細な副作用は蓄積されていきます。
一方で根本原因の高血糖に対して相変わらずカロリー制限指導が続けられていれば、抗てんかん薬を飲んでいても抑えきれずに痙攣発作が再発してしまえばどうでしょう。
また振り出しに戻って神経内科医が呼ばれ、やっぱり検査では異常はなく、それではもう一つ抗てんかん薬を加えましょう、という話へとつながっていきます。
こうやって誰も歯止めをきかせることはなく、ポリファーマシーと呼ばれる多剤内服状態は静かに進行していっているのです。
これは糖尿病内科医が痙攣を神経内科医へ丸投げせず、高血糖の可能性を疑って糖質制限指導を行えば断ち切る事ができる悪循環、いわば防ぎうるポリファーマシーです。
これは一例ですが、これだけ見ても専門分化し過ぎた医療の問題点が浮き彫りになっているのではないでしょうか。
糖質制限の観点を持つ総合診療医の存在が今、確実に求められていると思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
高血糖で痙攣発作が起こるんですね。
初めて知りました。
もし脳に異常が見つからなければ、
可能性としては、高血糖を疑わなければいけないんですね。
糖質制限を勧める病院があればいいなぁって思いました。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
すべての病院に糖質制限が広まるのはまだまだ先の話になりそうですが、
自分が変わるのは今この瞬間からできます。誰かが変わるのを待つより自分が変わる事を私はお勧めします。
Re: タイトルなし
御質問頂き有難うございます。
> 一旦脂肪細胞が無くなっても太れば脂肪細胞が増えて、また元に戻ってしまうという事でしょうか?
体質にもよりますが、糖質摂取によるインスリン分泌で残った脂肪細胞が分裂増殖すれば、元に戻ることはありうると思います。
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