過剰適応の仕方は個人差が大きい
2017/11/10 00:00:01 |
医療ニュース |
コメント:8件
世の中にあるすべての病気を細胞機能の過剰適応か消耗疲弊の2種類に分けて考える見方を紹介しましたが、
いつも見ているケアネットニュースに次のような内容の記事が書かれていました。
てんかん脳組織の病理組織学的所見/NEJM
提供元:ケアネット公開日:2017/11/08
海馬硬化症、限局性皮質異形成というのは、(以下、引用)
手術を要する薬剤抵抗性の焦点性てんかん患者の病理組織学的診断において、
成人では海馬硬化症、小児では限局性皮質異形成の頻度が最も高く、次いで成人・小児とも腫瘍が多いことが、ドイツ・エアランゲン大学病院のIngmar Blumcke氏らの調査で明らかとなった。
てんかん発作の基底をなす、構造的な脳病変の詳細な神経病理学的情報は、薬剤抵抗性焦点性てんかんの理解に有益とされる。
(引用、ここまで)
MRIなどの詳細がわかる頭部画像で見た時に明らかな異常構造物が認められる場合につく病名です。
その構造物の見た目だけでは画像読影の専門医でも判別が難しい場合も多いので、
この研究ではその組織を病理学的に解析して上述の病名に至ったという話です。
これらはいずれにしても脳細胞の過剰適応状態とみることもできると思います。
つまり、脳細胞がインスリンに反応しすぎるのか、他の細胞成長因子に反応しすぎるのかはわかりませんが、
細胞増殖する必要がないのに歯止めが効かずに成長してしまった結果、起こってくる現象が病理組織の見た目によって硬化症であったり異形成であったりと呼び名が変わっているのではないかと思うのです。
次に多いとされている脳腫瘍も同じように細胞の過増殖であり、脳細胞の過剰適応状態とまとめることができると思います。
もっと言えば、画像上で検出できずとも、てんかんをきたしている患者の脳では実は、
見えないレベルで細胞の過剰適応、過剰応答が起こっていると考えるのが妥当であるように思います。
過剰応答具合が画像で見えないレベルであればまだ抗てんかん薬などの鎮静系薬剤で抑えられる事も多いですが、
もう画像化できるくらい過剰応答の程度が著しい場合は、薬では抑え込めない、いわゆる難治性てんかんとなり病巣の外科手術などの適応が考えられるわけです。
そう言えばてんかんと天才、片頭痛にも共通病態があることを以前学びました。
天才のひらめきはある種糖質摂取に伴うドーパミン刺激の前頭連合野への過剰応答ともとることができます。
片頭痛に関しても血糖上昇に対する各種内分泌物質への過剰応答です。いずれも過剰適応の範疇でまとめられます。
そしてここでわかる事は、例えば一定の糖質摂取に対して、
誰がどのくらいの過剰適応を示すかについてはかなり個人差が大きいということです。
人によってはこどもの時点で限局性皮質異形成をきたすほど著しく過剰応答が誘発される人もいるわけです。こういった人は予備能が低いのかもしれません。
一方で同じ糖質摂取刺激を受けても、大人になるまで細胞の異常増殖が画像上確認できないという人もいます。前者よりこちらの方が予備能が大きいという事になるかもしれません。
そして予備能の違いが何によってもたらされているか、はっきりとした事はわかりません。親から引き継いだ遺伝子の並びだったりきっと理由はあるのでしょうけれど、
それが解明されず、その根本原因に対する治療手段がない以上、
私達にできることは、何はなくとも過剰適応の要因をできる限り取り除くこと、
そしてそれでも過剰適応が治まらない場合に、必要最小限の鎮静薬を使用することです。
今、一般的にてんかん診療で行われている治療は、過剰適応の要因は取り除かずに、ただひたすら鎮静薬を投与し続ける方法で、
鎮静されなければ過剰適応を起こした箇所をごっそり欠損させてしまうという方法です。
まるで火事の火元を確認せずに、ただ消火器をかけ続け、火が治まらなければ建物ごと破壊してしまうようなやり方です。
こう考えれば何はなくとも過剰適応病態に糖質制限を基本におくべき理由がよくわかると思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
あとj自分は凡人ですが地理系の知識だけは異常なほどでなぜ日本の47都道府県および県庁所在地すら覚えられないのか不思議でならない、更に面白いことにそのくせ方向オンチです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
興味深い御指摘と思います。
というのも「多夢」は中医学的に「痰熱内擾(たんねつないじょう)」と呼ばれる病態の一症状であって、
「痰熱内擾」とは飲食の不摂生や消化管の機能低下などにより体内に水分の停滞が生じ、溜まりすぎる事によって炎症反応とともに精神症状をきたすタイプと考えられているからです。糖質摂取により夢を見る現象と連動します。
また多夢、悪夢の延長線上に「幻覚」があると考えれば、レヴィ小体型認知症という病気では「幻覚」がよく認められるのですが、この病気は薬剤過敏性があることが特徴とされています。同じ量の糖質を摂取してもそれに過剰適応してしまうために幻覚症状が出てしまうのだと考えれば話のつじつまが合うような気も致します。
身の回りは糖質だらけです。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
No title
あるいは肩こりや膝腰などの慢性痛なども睡眠中、筋肉のダメージが充分に回復し切れていないことに関係しているんでしょうか。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
睡眠中の問題だけが要因ではないでしょうけれど、
良質な睡眠がとれていなければ、覚醒時の症状にも影響しうることは確かだと思います。
熱は上昇して脳へ向かう
今回紹介いただいた痰熱は更年期障害等にみられる、のぼせや顔のほてりの隠れた原因かもしれません。熱の上昇に対する処方としては熱を降ろすという視点がありますが、そもそもの痰湿の発生原因を追求せず、熱を降ろすことだけを考えていてはいけないということですね。
Re: 熱は上昇して脳へ向かう
コメント頂き有難うございます。
> 心の火が旺じて熱が上昇することで、脳へ悪影響を及ぼすのが原因
そういうケースもあると思います。
西洋医学的には交感神経過緊張状態、私的な表現では自律神経のオーバーヒート状態、過剰適応状態です。ストレス熱の知識とも繋がってきます。
2017年6月1日(木)の本ブログ記事
「ストレス熱について学ぶ」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-983.html
も御参照下さい。
> 熱の上昇に対する処方としては熱を降ろすという視点がありますが、そもそもの痰湿の発生原因を追求せず、熱を降ろすことだけを考えていてはいけないということですね。
その通りだと思います。
熱を降ろすだけだとあくまでも対症療法であり、根治するかどうかは身体の予備力任せです。身体の予備力の発動を邪魔しないだけでなくサポートできる治療を行うべきだと私は考えます
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