他人には決して気付けないこと

2017/11/04 00:00:01 | 普段の診療より | コメント:0件

先日私が入院で診ていた90代の女性から思わぬ事を言われました。

私、自分の体調が悪い原因がわかったわ

何ですかと尋ねると、「パジャマのゴム紐が私にはきつすぎたようなの。緩めてもらったらスッキリしたわ。

何だそんなことかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、

これはなかなか素晴らしい着眼点だと私は感じました。

パジャマのゴム紐の締め付けがきつければ、その部分の血流が悪化します。

血流の悪さは万病につながりうる要素であるからです。 目に見える血管圧迫は勿論、東洋医学で「お血」と表現される微小循環障害まで含めれば、

ゴム紐での圧迫も決してないがしろにできない病態修飾因子です。

何が素晴らしいって、この患者さんは誰に言われたわけではなく、自分でその事に気付いたということ、

そしてその気づきは、医師からすればなかなか気が付きにくいポイントであるというところです。



患者さんの多くは名医たる人に病気を診てもらえば、

自分の病気の原因を隈なく調べて、自分が気付いていない病気の原因を探し出して解決してくれるに違いないと思っていることでしょう。

しかし私は医師になり、医師の仕事の在り方を知り、それは幻想であるということがよくわかっています。

医師はいかに優秀であっても他人の視点で病気を診ようとするのであって、

自分の視点でしか気付けないことに対しては医師は無力です。今回の話はその良い例です。

先端的検査機器に頼り問診を疎かにする西洋医学にどっぷり浸かった医師は論外ですが、

比較的問診を重要視する総合診療医や漢方医、ホメオパシー医であっても、

パジャマのゴム紐がきつくないですか?」と問診する医師はそうは多くないのではないかと推察します。

つまり「お医者にお任せ」と考えている患者さんは、

その時点で病気を治すチャンスを半分くらい棒に振っていることになるのではないかと私は思います。

「治っている」と思い込まされたまま薬を飲み続けなければならない状態、

そこから脱却するためには患者中心の医療を取り戻す必要があります。

冒頭の患者さんはもしかしたら感覚的にその事がわかっているからこそ、

長寿を成し得ることができているのかもしれません。


たがしゅう
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