ラップ療法でうまくいかない例への御意見

2017/10/29 00:00:01 | 読者の方からの御投稿 | コメント:0件

先日、褥創のラップ療法でうまくいかない例を提示し、

読者の方々からそれに対する様々な御意見を頂きました。誠に有難うございます。

本日は頂いた御意見を一部御紹介させて頂きます。

それが集合知として、私自身の治療方針の見直しにつながればと思いますし、

同じような悩みを抱えている方への参考に少しでもなれば幸いです。 さて、とあるラップ療法に習熟された形成外科の先生によりますと、

褥瘡ケアの信念は
一に除圧
二に背抜き
三、四がなくて、
五に手当て
、とのことです。

除圧のためには高機能体圧分散マットが必要で、
一般的なエアマットでは十分な除圧ができないこともままあるそうです。

具体的にはマット自体の高さが10センチ~15cmあって、
最低限、空気の入れ替えが自動でされているもので、
例えばモルテン、ケープ、パラマウント社などが出している製品がよいそうです。
(モルテン社では、トライセル、プライムレボ、アドバン、オスカーなど)

エアマットでなくて、ウレタン系でも、除圧機能が高いものもあるそうです。
多少、自動運動ある患者さんなら、エアマットは、気持ちが悪いので、
厚手(8~13㎝)くらいのウレタンマットがいい、とのことです。

一に食事
二に運動
三、四がなくて、
五に薬

、という言葉と対応して考えれば、
この除圧は糖質制限と同じくらい前提として大事なことになると思います。


次に「背抜き」です。

正直私は「背抜き」については聞いた事がなかったのですが、

背抜きとは「電動ベッドを背上げした後、または背下げした後に身体をマットレスから一旦離して戻す介助のこと」です。
参考サイト

大腿の下に枕を入れて、ずれ落ちないようにしても、 時間がたつと、お尻はずっていきます。
その感覚を、実際患者のつもりになって、 ギャッジアップを体験すると、背中のずれ力は、かなり、苦しいということがわかります。

背抜きを定期的に行うだけで褥創部にかかる圧はだいぶ変わってくるようです。
同様の発想で、尻抜き、かかと抜きという手技もあります。

これはやろうと思えば誰でもできますし、やってみる価値はおおいにあるのではないでしょうか。


それから多くの方から頂いた御意見としては、

慢性炎症、重度低栄養状態にある患者さんの場合は、

褥創部への循環障害があり、皮膚の毛細血管への還流圧も減り、

あるいは誤嚥性肺炎など別組織の炎症があればそちらへの血流が優先されて代償的に褥創部への血流はさらに悪化するという悪循環が起こりえます。

そのような状況では栄養、炎症の改善が図れない限り、たとえラップ療法を行っていても褥創が悪化していくというケースはラップ療法実践者の間でも観察される現象のようです。

その一方で栄養摂取が十分可能な方であれば、100歳でも褥創、熱傷を治療できたという体験談もうかがえました。

胃瘻を拒否し、経鼻胃管で栄養を投与せざるを得ない状況においては、

嚥下機能の低下した患者さんではどうしても微小誤嚥が避けられず消耗性に栄養が悪化していくケースは見受けられますが、

それでもチューブの径を細くしたり、一時的に点滴での栄養に切り替えたり、炎症・低栄養をコントロールするための方策は可能な限りとっていきたいものです。


CRPが高度に上昇するようなケースについてですが、

傷をオープンにして排膿できていれば、黒色壊死組織が残っていても、そんなにCRPが上がることはないようです。

黒色壊死組織に関しては積極的にデブリドマンするのではなく、

そのままにして湿潤環境を強める(例:穴あきポリエチレン袋+紙おむつ→穴あきポリエチレン袋の直当て)ことで、

黒色壊死組織が白色化して自己融解してくることもあるという御意見も伺うことができました。

また炎症と感染はイコールではなく、炎症は組織修復反応なので

炎症の4徴が観察されたからといって必ずしも感染とは限らないとの御意見も伺いました。

その意味で痛みについては炎症の4徴ですが、痛みがあっても感染しているとは限りません。

ただその状況では基本に立ち返り、十分な除圧を行うことが必要だということでしょう。


さらに別の先生からは、有効なドレナージを図るために

穴あきポリ袋を短冊状に切って、断端に添って滲出液が出るようにする工夫も教えて頂きました。

短冊ドレナージ

褥創にポケットが有る場合は、この短冊をポケットに入れる方法も有効だそうです。


最後に褥瘡の細菌培養については意味がないという見解が多かったです。

というのも褥瘡感染が疑われる場合は抗菌薬よりもドレナージが優先されるのであって、

前述のように循環不全に陥っている褥創では、血流に乗って抗生剤が効くとは到底思えないからです。

ちなみに我が師匠、夏井睦先生は同様の見解を述べておられます。


以上をまとめますと、

重度の栄養不良患者、微小誤嚥など慢性炎症が起こり続けている患者においては

いかにラップ療法と言えど褥創をコントロールするのは難しい場面は確かにあるようです。

しかし、だからといって最後の最後まであきらめるべきではなく、

今までできていなかった事で改善の余地があるのであれば、おおいに改善をしていくべきだと私は思います。

これらの御意見が読者の方々のお役に少しでも立てれば幸いです。


たがしゅう
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