もはや医者には任せられない
2013/12/09 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:12件
私はおそらくまだ「若手」に入る部類の医師です。
医師としての経験が豊富とはまだまだ到底言えません。
しかし皆さんは経験豊富な医師であればあるほど良い医師であるとお思いですか。
あるいは専門医であればあるほど、一般の医師よりも優れた診療をしてくれるとお思いですか。
本日はそんな事を根本から考え直させられる二つのケースをご紹介します。
1例目は長年糖尿病を患っていて内科で薬が処方され、軽い脳梗塞もされたため半年に1回神経内科にも通院されている70代女性の患者さんです。
糖尿病に対して飲んでいる薬というのはアマリール1mg、アクトス15mg、ジャヌビア50mgです。
そしてこの方のHbA1cは6.5%(NGSP)です。
この方がある日、半年振りに私の外来を受診したときに「朝方ふらふらするけど脳に異常はないか」と相談がありました。
私は神経系の診察を行いましたが、特別いつもと変わりません。
しかし私はここで低血糖の可能性を考えました。
というのは、ここで使われているアマリールという薬、「SU剤」というタイプの薬で、1日1回飲むだけで24時間持続的に下げる効果がある薬です。
血糖値の変動グラフがあれば、それを丸ごと下に下げるようなイメージですね。
このアマリールを使っていてHbA1cが良い値を取っている時には常に低血糖の可能性を意識しておかなければなりません。
この患者さんの朝方のふらつきの原因は薬剤性低血糖の可能性もあると考えた私は、
薬を処方している内科の担当医へ紹介状を書いて、薬を減らしてもらえないか相談してみることにしました。
担当医は50歳代のベテラン医師で総合診療科のトップの肩書きのある先生です。
結果的にアマリールを半分に減量してもらうことはできましたが、
その先生の返事はこうでした。
「症状から低血糖は考えにくいですが、念のためアマリールを減量しました。HbA1cも悪化しているためメトグルコ追加しました。」
なぜ症状から低血糖は考えにくいと言えるのでしょうか。ふらつきは立派な低血糖症状です。
それはHbA1c6.5%だけを見て判断しているからだと思います。
ただこの先生が特殊なわけではなく、おそらくほとんどの医師がHbA1c6.5%で低血糖はないと判断すると思います。
それくらい多くの医師は糖尿病の診療に際してHbA1cに依存しています。
もう1例は嘔気・嘔吐で救急受診された80代女性の患者さんです。
初期対応したのは私ではなく、かかりつけという関係から糖尿病の専門医でしたが、脳梗塞の可能性はないかということでコンサルトを受けました。
一通り診察して脳神経の方は問題ないことを確認し返事をしましたが、
一方でこの方は糖尿病でインスリン自己注射をされている方でしたが、
普段の血糖値は240-260程度、HbA1c9.2%でしたが、来院時の血糖は100となっていました。
糖尿病専門医はその事に関してカルテではノータッチでしたが、私は急激にインスリンによって血糖が下げられたことによって生じた相対的低血糖の可能性もあるのではないかと思いました。
私が気にしすぎているのでしょうか。それとも糖尿病専門医が気にしなさ過ぎているのでしょうか。
そして極めつけはこの糖尿病専門医が過去に患者さんに説明していた内容です。
「主食を食べないと筋肉が分解されてリハビリが進みません」
私の身の回りにはこんな現状が確実に存在しています。
専門医とか、ベテランとか、所詮そんなことは些末なことです。
良い医師を求めることも大事かもしれませんが、現状でそれを探すのは難しいことです。
自分でしっかり知識を得て、自分が自分の主治医になるのがよいのではないかと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
共感
専門医に負けない知識を身に付ける為
臨床は自分の身体です。
知識は勉強すればいくらでも 身に付き 不安が少なくなり 気持が 軽くなり 安心感につながります。
自分の身体は出来る限り自分で
先生のブログ凄く共感し元気がでる。
これからもよろしくです。
権威に負けない
先日の江部先生のハンナ・アーレントを引用されたブログで「医師という責任ある職業の方々は、自分の頭で考えることを放棄して、支配的勢力の意見に盲目的に従う事自体が罪であると私は思います。」とあります。
我々患者側も白衣の権威に自分のかけがえの無い命をただ盲目的に委ねてしまっていることがいかに多いことか。私たちは知らず知らずのうちに権威主義に陥ってしまっているのでしょう。
たがしゅうさんは、プロフィール欄で「自分で考える力が強く求められている」とかかれているように、ブログの中でも、自分で考えることの大切さをよく訴えられています。「今日も自分が主治医に」とおっしゃっていますね。私たち一人一人が、自分で考え、悪しき権力をみやぶる力を身につけなければならない事を改めて考えるきっかけになりました。糖質制限と巡り会い、たがしゅうさん、江部先生、夏井先生の著書やブログ等で触発され、そのことに気づいた仲間や共感する仲間がたくさん生まれている事は間違いのない事実です。
自分で考え、悪しき権威を見破り、権威に負けない、主体性のある自己を確立したいものです。
PS.土曜日のオフ会、とても有意義で楽しい一日でした。有り難うございました。
関西でもオフ・ネットを誕生させたいとの思いが強くなりました。今後ともご指導の程宜しくお願い致します。
Re: 共感
コメントと共感を頂き誠に有難うございます.
医者の私が言うのもなんですが,現代医療には確実に闇の部分が存在します.
しがらみにとらわれず自分の身体を守れるのは自分しかいないと思います.
Re: 権威に負けない
コメント有難うございます.また先日は大変お疲れ様でした.
> 私たち一人一人が、自分で考え、悪しき権力をみやぶる力を身につけなければならない事を改めて考えるきっかけになりました。糖質制限と巡り会い、たがしゅうさん、江部先生、夏井先生の著書やブログ等で触発され、そのことに気づいた仲間や共感する仲間がたくさん生まれている事は間違いのない事実です。
> 自分で考え、悪しき権威を見破り、権威に負けない、主体性のある自己を確立したいものです。
そう言って頂けて何よりです.
これからも微力ではありますが,糖質制限を通じて感じた世界をできる範囲で語り続けていきたいと思います.今後とも宜しくお願い申し上げます.
SU剤は、この世からなくなるもの
私が昨年5月に、HbA1c14.5で、糖尿病が発覚したときに、糖質制限をまだ知らないときに見つけた、大阪・千里山病院のHPです。
http://www.senriyama-hp.or.jp/think/think8
内服薬の組み合わせ
インスリン産生指数が0.1~0.4のときは食事療法・運動量療法に加えて、いろいろな内服薬が活躍します。
食事療法・運動療法で糖尿病のコントロールが不十分な場合に、内服薬を用いた薬物療法を開始します。当院では、糖負荷試験やHOMA法の結果から、個人個人の病態にあわせた適切な薬剤を選択しています。(薬物療法の適応は2型糖尿病です)。また、妊娠中や妊娠する可能性の高い場合、および授乳中には内服薬は使用しません。
内服薬を単独で用いた場合の長所と短所についてまとめておきます。
食後血糖値が180mg/dl以上のときは
α-GI(アルファーグルコシダーゼ阻害薬)を併用します。
アルファーグルコシダーゼ阻害薬は、小腸で糖質の消化・吸収を遅延し、食後高血糖を改善する薬です。
食事の直前に服用しなければ十分な効果が得られません。
また、腹部の膨満感や放屁といった腹部症状がしばしば見られます。
例)
ベイスン(0.2mg)3錠 毎食直前
セイブル(50mg) 3錠 毎食直前
追加)
グルコバイは副作用が強いので、当院では使用していません。
インスリン産生指数が0.2ぐらいに低下しているときは
グリニド系薬剤である速効型インスリン分泌促進薬を併用します。
速効型インスリン分泌促進薬は、すい臓β細胞のSU受容体に結合して、インスリンの分泌を促進します。
作用の発現が速く、持続時間も短いのですが、SU薬よりも低血糖が起こりにくい特徴を持っています。
例)
ファスティック(90mg)3錠 毎食直前
グルファスト(10mg)3錠 毎食直前
インスリン抵抗性(HOMA-R)が大きいとき(1.73以上)はチアリジン(TZD:インスリン抵抗改善薬)を使用します。
インスリン抵抗性を改善する薬で、骨格筋や肝臓でのインスリンへの感受性を改善します。
定期的な肝機能検査が必要であり、むくんだり、心不全の誘発、体重増加などの副作用に注意して使用します。
例)
アクトス(30mg)1錠 毎食後
またはビグアナイド薬(BG)を使用することもあります。
メトグルコ(250mg)3錠 食後
注)
メトグルコは2010年から増量可能となり、1日2250mgまでを使用可能となります。
従来の3倍量です。
全ての場合に使用可能な新薬が2009年12月に発売されました。
DPP‐4阻害薬と呼ばれています。
この薬は、小腸から分泌されるホルモンであるインクレチンを増加させる薬剤です。
インクレチンは血糖値を上げるグルカゴンの放出を抑え、インスリンの分泌を促進させて血糖を下げますが、血糖値が高いときだけ作用するので、原則的に低血糖を起こしません。詳しくは次の章で説明します。
例)
ジャヌビア(50mg) 1錠 朝食後
● ● ● ● ●
使用してはならない内服薬としてSU薬があります。
この薬は、すい臓β細胞に直接作用して、インスリン基礎分泌のみを24時間にわたり刺激します。
したがって空腹時血糖値は低下しますが、食後血糖低下作用は弱く、動脈硬化症を防ぐことはできません。さらに、長時間(8年以上)使用し続けると膵β細胞の疲弊をきたし、一生インスリンを打ち続けなければならなくなります。
当院ではこの薬は使用していません。ただし、残念なことに世間一般には最も使用されている薬剤です。
例)
ダオニール(2.5mg)1錠 朝食後
グリミクロン(40mg)1錠 朝食後
アマリール(1mg)1錠 朝食後
****************************
この病院は、糖質制限食について触れていませんが、SU剤については、明確に否定しています。
Haruさん 12/7 は、交流できて楽しかったです。
また、お会いしましょうね。
長谷川
Re: SU剤は、この世からなくなるもの
情報を頂き有難うございます。
私もSU剤は使うべきではないと思います。有害事象があまりにも多いからです。
血糖値も大事ですが、それ以上に体調がよくなるかどうかが重要です。
SU剤は前者はできても、後者を成し遂げることはできません。
糖質制限なら、前者も後者も可能です。
管理人のみ閲覧できます
Re: No title
病気の本当の苦しみは他人には理解しがたいものです。
そしてそれは医師とて例外ではないのです。医師がどれだけ知識を持っていようと患者の痛みや苦しみは患者本人にしかわかりません。
だからたとえ理解できなくとも、理解しようとしてくれる信頼できる仲間と出会うことが大事だと私は思います。
経験はコワイですね
ある程度経験を積み重ねると似たような状況に何度か遭遇することがありますし問題解決にはその経験は役にたちますが全く同じ状況というのは稀でありすこしずつ違う状況が積み重なり結果として解決策は大きく自分が経験したものと変わるということはよくあります。
医療だけではなく経験のある人は過去の経験にしばられて以前はこうだったという愚にもつかないいいわけをいって間違いつづけるという人は少なくないと考えます。
>私は急激にインスリンによって血糖が下げられた
>ことによって生じた相対的低血糖の可能性もある
>のではないかと思いました。
これはあり得ると思います。私が入院していたときに別の患者が低血糖と騒いでいたことがありますが
この時の血糖値は90台でした。90というと良い数値ですがこれでも低血糖の症状を感じるというのは糖尿病はコワイと思ったことがあります。
自分の命に関わることなので他人任せは良くないですね~
Re: 経験はコワイですね
いつもコメント頂き有難うございます。
常時高血糖にさらされている人の場合、正常範囲の血糖値であっても低血糖症状を呈することがある、というのは我々非専門家でも知っている事実です。
問題はそれを糖尿病専門医がスルーしている事実です。専門医なら間違いないと盲信している人はこういう医師の治療を受けるリスクを伴います。
もっと言えば検査結果ばかりみている医師も怖いと言えますね。そういう医師は正常血糖値、正常HbA1cで低血糖の可能性があるとは決して考えません。
管理人のみ閲覧できます
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