ケトン体利用にはインスリンが必要
2017/10/17 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:12件
糖質制限を長く続けていて、
久しぶりに糖質を大量に摂取して調子を崩す現象があり、「糖質酔い」などと称されることがあります。
これは糖質を制限し続けることでしばらく少量のインスリン分泌で済んでいたものが、
いきなり大量のインスリン追加分泌が必要な状況に置かれるために身体が適応しきれずに血糖の乱高下をきたすことが原因と考えられています。
ちなみに私は久しぶりに糖質を大量に摂取しても糖質酔いは起こらず、血糖値の乱高下も起こりません。75gブドウ糖負荷試験で確認済みです。
これは私の場合、タンパク質でも比較的多量のインスリンが分泌される肥満体質であるため、
久しぶりの糖質摂取でもインスリンを追加分泌する働きは普段のタンパク質摂取によって錆びれていないからだと考えられます。 翻ってインスリン分泌能の低いやせ型体質の人は、「糖質酔い」が起こりやすい可能性があります。
ただでさえインスリン分泌能が低いのに糖質制限でインスリン量が極小に抑えられ、タンパク質でもさほどインスリンは出ず、
その状況でいきなり大量糖質摂取されても、すぐにインスリン追加分泌対応するのは難しいからです。
この事はやせ型の人が糖質制限でトラブルに見舞われやすい理由を一部説明していると思われ、
やせ型体質の人が糖質制限に取り組む場合はゆっくり糖質制限状態に慣らしていくいわゆる緩やかな糖質制限から始めることを私は勧めています。
これはやせ型のアトピー性皮膚炎や自己免疫疾患、線維筋痛症患者に糖質制限を応用する際にとても大事なことだと私は考えています。
ただそのように緩やかな糖質制限では糖質の中毒性を残したまま糖質量を減らさなければならず、スパッと止めることよりもむしろ難しかったりするのが難点ですが、
それでもいきなり代謝の急ハンドルを切って体調を崩し、糖質制限を諦められるよりはマシなので根気よく指導していく必要があります。
さて、この「糖質酔い」における久しぶりの急激血糖上昇のことを、
「見かけのインスリン抵抗性」としてみる考え方があるそうですが、
これは純粋なインスリン抵抗性とは違います。インスリン抵抗性は「インスリンがあるのにインスリンが効かない状態」のことです。
「糖質酔い」の場合は、「インスリンが十分に出せなくてインスリン効果が十分に出ていない状態」のことなので、両者は全く病態が異なります。
それにこれを「インスリン抵抗性」と表現すること自体、私は抵抗を感じます。
なぜならば十分量のインスリンが出ていなくとも、出ている分だけ「インスリンは効いている」からです。
糖質制限をすればインスリンが極小に抑えられ、ケトン体が上昇します。
この状況ではインスリンはあたかも働いていないように感じられるかもしれませんが、
ケトン体の利用にインスリンは必要です。より正確に言えば最低限の基礎インスリンが必要です。
それが証拠に自己インスリンがゼロとなる1型糖尿病やペットボトル症候群で見られるケトアシドーシスでは、
ケトン体が山ほどあるにも関わらずエネルギーとして利用できていません。
ケトン体がたくさんあることがインスリンを効きにくくしているのではありません。
必要最小限のインスリンがあってはじめてケトン体が存分に利用されるわけです。要するに原因と結果を逆に見ています。
そしてインスリンには血糖値を下げるというだけではなく、
身体を作る同化ホルモンとしての働きがあることを忘れてはいけません。
インスリンはエネルギーを調達して身体を作るために糖質、脂質、タンパク質代謝の全てに働きかけるホルモンです。
ボディビルで筋量が増えるのも、体内に脂肪が蓄積されるのも、結果的に血糖値が下がるのも、インスリンの「同化」という本質的な働きによるものです。
そのためにインスリンはケトン体を利用して細胞からエネルギーを得るように働きかけます。
決してケトン体のせいで細胞でのインスリンの効きが悪くさせられているわけではないのです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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同化と異化
糖質制限、糖質選択、ちょっと混乱してきました。
血糖値を下げるホルモンはインスリンのみなのは分かるのですが、ブドウ糖は筋肉?末梢?でも消化できますよね。時に運動選手が直前にブドウ糖をチャージするのはその為だと思います。
ブドウ糖の処理には、インスリンが主ですが、私は基礎インスリンの10倍以上出ていても血糖値を下げることができません。ですから、糖質制限中に糖質を一気に摂っても、糖質酔いもないし低血糖も起こしません。当然高血糖に見舞われますが、その場合、4、5時間かけて元に戻ります。
この時、私の体内ではなにが起こっているのでしょうか?
私の素人見解は、
⚫︎糖尿傾向の人は、健康体の方なら食事中は収まる糖新生が、食事中も止まないので←だとしたら、そうなったら理由も知りたいです、その分更に血糖値が上がりやすい。これは糖質制限で更に亢進している様に思う。
⚫︎そこへドバッと大量のインスリンが出れば良いのだけれど、そこまでも出ない。
⚫︎筋肉量も相対的に少ないので(でも、細身筋肉質で、内蔵脂肪は10段階の1)、末梢でのブドウ糖処理も追いつかない、若しくは、なんらかの理由で筋肉?末梢?での処理能力が落ちている。
それと、先生の血糖値とケトン体ですが、厳格な糖質制限をされている先生にしては、空腹時のケトン体の値が糖質摂取している人並みに少なく(1以下)、相当な絶食をしてから上がってくる理由も知りたいです。何故なら、私は厳格な糖質制限下では、早朝ケトン体は2~3、運動後更に上がり、一食抜けば5~6にもなるからです。
この辺り、かつての私の様に、少ないインスリンでなんとかなる人がいる様に、ケトン体も多ければ多いほど良いのではなく、その人に見合ったケトン体量があるという事なのでしょうか?
病気セラピーでは、血糖値、ケトン体が、1:1 とか、1:3必要と聞きますが、痩せ型(異化亢進型?)の病気未満の人が、転ばぬ先の杖?で、この値を堅持、若しくは目標にする事の是非もお聞かせ下さい。
Re: 同化と異化
御質問頂き有難うございます。
高血糖に慣れている人は高血糖になっても糖質酔いは起こらない可能性があります。
糖新生は基本的に血糖が低い時に発動されるシステムですが、グルカゴンが一つのキー物質です。
なぜかは分かりませんが糖尿病の方ではインスリン機能低下とともにグルカゴン機能亢進が見られることが多いです。グルカゴン分泌のオーバーヒート状態とでも申しましょうか。そのため糖尿病の方では糖新生が本来の役割を超えて過剰駆動されてしまっている状況があると思います。
高脂質、高タンパク質で糖新生の材料を提供する糖質制限でその働きが助長されても不思議ではないと思います。
でも実は、そんなグルカゴンは一体何のためにあるのかというのは私の中の疑問でもあります。
私のケトン体が低い理由は単純に前日のドカ食いが原因だと思います。
一方で御指摘のようにケトン体が高ければ高いほど良いというものではないと思います。3日以上断食を経験した時にケトン体が高すぎて一時的に軽いアシドーシスとなり倦怠感が生じた経験が私にはあります。要は産生されたケトンを自分の代謝能力で使いこなせるかどうかが大事であり、ケトン食治療でのケトン比はあくまでも目安だと私は考えています。
末梢のインスリン抵抗は?
糖質酔いが無いのは、それに見合うインスリンが出ていないか、効かが悪いので、急激な血糖値の乱高下も起こせないからだと思っていました。
では、末梢てのブドウ糖処理能力の低下についてはどう思われますか。ここが1番知りたいところです。血糖を処理するのに、4、5時間かかる理由が未だ疑問です。また、糖質酔いというよりも、タンパク質を摂取した時の体のダルさの方が気になりますし、タンパク質摂取でケトン体が急落する事もあり、糖質制限食でもグルカゴンと共に相当なインスリンも出ている様です。勿論、ダイレクトに血糖値に上げる糖質を頻繁に摂取するのはどうかともおもいますが、糖質摂取するよりはマシでも、身体への負担は余り変わらない様に思います。更にココでタンパク質摂取を控えれば、カロリー不足を招きかねませんか?病気セラピーでない限り、ケトン食が人類の当たり前の食事とも思えません。
Re: 末梢のインスリン抵抗は?
糖新生が過剰駆動されている状況だとタンパク質摂取で糖新生が助長される側面はあると思います。
マロンさんの4〜5時間血糖が下がらない理由がそれかどうかはわかりませんが、一つの可能性の話です。
もしそのような状況なら、まるで焚き火に薪をくべるごとくなので、オーバーヒートが収まるようにタンパク質を抑えたケトン食を一時的に取り入れるか間欠的断食するかが一つの選択肢になると思います。断食中も余剰脂肪があればエネルギー不足になりませんし、ない場合はタンパク質の代わりに脂質を十分確保することで理論的には対応可能と思います。それが人類本来の食事でなくとも、オーバーヒートした身体を冷ます一時的な方法だと割り切る考え方はあってよいと私は思います。
私の血糖値が長時間にわたって下がらない理由は、過剰な糖新生が理由ということですが、糖質制限を続けている限り、異化亢進状態は避けられないのではないでしょうか。
その解決策が、ケトン食、若しくは断食であるなら、更にオーバーヒートに拍車がかかりませんか?糖質制限の究極はケトン食?断食?という認識でしたが、間違いでしたでしょうか?
Re: タイトルなし
> 糖質制限を続けている限り、異化亢進状態は避けられないのではないでしょうか。
糖質制限が異化亢進状態というのは誤解だと思います。
糖質過剰摂取が同化亢進状態で、断食が異化亢進状態、糖質制限はその中間で基本的状態です。
ただし今までの高糖質刺激の負の遺産や頻回の高蛋白食などで糖新生が過剰亢進している場合は、一旦薪をくべるのを止めるがごとく高蛋白食負荷のないケトン食や断食を行うことが治療の選択肢の一つになるのではないかと私は考えます。
>糖質過剰摂取が同化亢進状態で、断食が異化亢進状態、糖質制限はその中間で基本的状態です。
断食は異化亢進状態なのに、敢えて断食をしないといけないのですか?入ってくるものが入ってこないとなると、糖新生は更に亢進するように思うのですが。すみません、混乱しています。
私の高血糖の理由を、過剰な糖新生だけではなく、これは痩せ型の私自身の感覚ですが、今の高血糖が中々解消されない理由として、ブドウ糖が末梢でしっかり処理出来なくなってきたことも原因の1つと思われるのですが、この件に関しての先生のご意見をお聞かせください。
Re: タイトルなし
「糖新生=異化」と解釈なさっているのでしょうか。
「異化」は「複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する流れ」のことですが、
「糖新生」が起こっている状態は必ずしも異化亢進状態とは限りません。糖新生が起こっていてちょうど均衡が保たれている状態もあるわけで、糖質制限で体調不良を感じずに過ごせている状態がそれです。
しかしそこに糖新生の材料となる糖原性アミノ酸を含むタンパク質をせっせと摂取すれば糖新生の過剰亢進という状態は起こり得るわけで、それが血糖値がなかなか下がらない要因という事になっていればタンパク質を制限する意義はあるわけです。
マロンさんの末梢でのブドウ糖処理能の低下があるのかどうかは私にはわかりません。前述のように糖新生の過剰亢進がマロンさんの血糖がなかなか下がらない原因なのかどうかも断定はできません。繰り返しますがあくまでも可能性の話です。
ブログという場で、限られた情報の中で私が他人の病態を推測するにはどうしても限界があります。これ以上はどうかお察し下さい。
度重なる御返答ありがとうございました。
No title
とても興味深く、参考になりました。
半年前位からケトン体を意識して、ココナツオイルを工夫しながら摂るようにしています。インスリン分泌量が少ないのに、分泌量に見合った以上の量を摂っているかもしれないと思いました。
いい気づきができました。見直してみます。
ありがとうございます。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
理論はあくまでも理論、参考に留めて実際には体調をベースに取り組む方法が一番間違いが少ないと私は思います。
理論的に正しくても体調が悪ければ理論を見直すし、理論的に間違っていても体調がよければ理論が説明できていない現象が隠れている可能性を考えるスタンスです。花鳥風月さんも是非とも体調ベースに試行錯誤なさってみて下さい。
No title
実は少し前から首回りに湿疹が出ています。外的か内的か理由は掴めていません。が、体にとって快くないことを、不本意ながらしてしまっているのは事実で、ココナツオイルの過剰摂取も検討の余地があるのかもと思いました。
前向きな試行錯誤の日々は続きそうです。
ありがとうございました。
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