エビデンスは思考力を奪う
2017/10/15 04:20:01 |
よくないと思うこと |
コメント:5件
漢方に加えてホメオパシーを勉強し始めた私ですが、
こうした補完代替療法と呼ばれる治療法を広めようとする際に立ちはだかるのがエビデンスの壁です。
「その治療法にはエビデンスがない」との理由で、どんな治療法かも詳しく知らない段階で却下されてしまうことがほとんどです。
そのエビデンスだってそんなに信頼に足るものでもないということは当ブログでも何度か紹介して参りましたが、
科学という名の統計学が医療界を席巻してしまっているからでしょうか。
何の疑いもなくエビデンス中心主義を取り入れてしまっている医師が大多数です。 これは医学部教育の影響も大きいかもしれません。
例えば医学部教育の中で漢方が正式なカリキュラムとして取り入れられたのは2007年とつい最近の話です。
私が医学生の頃は漢方の講義などありませんでした。私が漢方を勉強し始めたのは医者になってからです。
親が漢方医だとか大学に漢方サークルがあるとかの特殊環境にいない限りは多くの漢方医の先生は医者になってから漢方を学び始めたのではないかと思われます。
では2007年以降に医学部に入った人は大学で漢方をしっかり勉強できるのかと言われたら決してそんなことはありません。
カリキュラムで定められた漢方講義の必要コマ数は8コマ以上です。
医学部の講義は1日に4〜5コマ行われることが一般的ですから、
8コマなんてのは詰め込めば2日で終わる短さです。
これは医学部教育の中でいかに漢方が軽くあしらわれているかということがよくわかります。
「エビデンス中心の医療界だけれど、エビデンスは少ないけれど漢方って世界もあるから一応知っておいてね」ってなものだと思います。
ホメオパシーに至ってはその名前すら出てきません。国が変われば正式な医学部カリキュラムに取り入れられているにも関わらず、です。
しかもホメオパシーにはエビデンスがあります。あるにも関わらず「科学的でない」との理由で排除されてしまっているのです。
何かおかしいと感じられないでしょうか。
前置きが長くなってしまいましたが、今回私が言いたいのは、
その医療界における狭義のエビデンス中心主義というものが、目の前の患者について考える思考力をいかに奪ってしまっているかということです。
漢方を飲んで今まで苦しめられていたこむら返りが数分で治まる、
ホメオパシーでレメディを飲んで喉の痛みが即座に取れる、
これらの治療効果はエビデンスがないと認められないでしょうか。
勿論漢方もホメオパシーも効果に個人差が大きく、きちんと薬を選べていないと効きません。
だからこそエビデンスという形で集団に当てはめて平均化してしまうと結果が出なかったりしてしまうわけですが、
その薬の恩恵を受けた人にしてみれば、エビデンスの有無などどうでもいいことではないでしょうか。
「違う。個人だけでなくできるだけ多くの患者を救うために集団のエビデンスを創出する必要があるのだ」という反論が聞こえてきそうですが、
集団の健康に資するはずのエビデンスが個人の健康を阻害してしまっている例も少なからずあります。
代表的なものがコレステロール低下薬のスタチンにまつわる副作用トラブルです。
スタチンには製薬会社の後押しもあって信頼度は低いけれどスタチンが心血管疾患リスクを下げるという大規模臨床試験がゴロゴロとあります。
一方でスタチンはコエンザイムQ10の産生阻害を介して言わばミトコンドリア機能を低下させる薬ですから、実に多種多様な副作用が出現しえます。
有名な副作用である横紋筋融解症などが出現すれば、いかに鈍感な医師といえどもスタチンの中止を考慮すると思いますが、
副作用が軽いめまいや脱力、倦怠感などであれば、
「スタチンは将来の心筋梗塞を予防するのに役立つから飲んでいた方がいいですよ」とたしなめる医者がおそらくほとんどでしょう。
これはある意味目の前の患者さんへの冒瀆ではないでしょうか。
事実を重視して考えるならば、
エビデンスがあるとかないとかいうことはどうでもよくて、
目の前で起こった現象がどうしてそうなるのか、どうすれば改善することができるのかについて、
理論的に明らかにすることの方がよほど大切なことではないでしょうか。
そしてそれが分からなかったとしても、謎は保留のまま考えることは決してやめない、
エビデンスとは、目の前にあるはずの謎があたかも解けたかのような錯覚を与えることによって、
医者から思考力を奪う潜在能力を持つものだと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
なるほど加茂医師のおっしゃることは全面的に正しく、今の腰痛治療なんてのは全部嘘っぱちでヘルニア手術なんぞは医療費と時間を浪費する愚の骨頂だなと。
ちなみにじゃあなぜヘルニア手術が腰痛にある程度効果があるのかという問いには、入院で仕事から解放される上に全身麻酔が体をリセットしてくれる、という説もあるそうですね。なるほど去年鎖骨を折った直後痛みで寝れなかったのに手術してからは物凄く快適だった自分には納得がいきます。
正直自分はホメオパシーはまったく支持しませんが、それと同じような治療が大手を振って罷り通ってるのも事実なようですね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
確かに画像と症状が乖離する事などザラにあります。
画像は機能まで説明しきれないという事をしっかりと認識しておく必要があると思っています。
認知症診療においても同様の誤解が見られるので注意が必要です。
> 正直自分はホメオパシーはまったく支持しませんが、
SLEEPさんに支持を求めるわけではありませんが、
SLEEPさんがホメオパシーを支持しない理由は何でしょうか。科学的ではないことでしょうか。
私は科学的ではないと言われている事でも可能な限り自分の目で確かめるスタンスです。
No title
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
そう思われても無理もない世界だと思います。私自身現時点でうまく理屈を説明できません。
ただプラセボとは思えない効き方でホメオパシーによって救われている人がいるというのはどうも事実のようです。
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