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自然の甘味は使いよう

category - 漢方のこと
2017/ 10/ 03
                 
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という漢方薬があります。

小麦(しょうばく)20g、大棗6g、甘草5gの割合で構成される漢方薬で、子供の夜泣きや引きつけに使用される漢方薬です。

構成生薬からもわかるようにすごく甘い薬でだからこそ子供に使われる側面があるのですが、

小麦(しょうばく)はいわゆるコムギとほぼ同義です。糖質制限的には一見してあまり使用したくない薬と思われるかもしれません。
しかし実際には上記の3つの生薬を乾燥エキス化し、全体量にして3.25gだけを調剤されるので、その中に含まれる小麦の量は1日量で2.1gなのでさしたる糖質量ではありませんし、

糖質が入っていながらこの薬には夜泣きを落ち着ける以外にも意義深い使い方があります。
            

それは、大きく見れば自律神経がオーバーヒートした状態の是正するのに甘麦大棗湯は有効です。

もっと具体的に言えば、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の常用により交感神経過緊張状態になって逆に不眠をきたしているような患者さんに一度使ってみる価値があります。

これは高糖質のものでも使いようによっては人体に恩恵をもたらす可能性を示しているように思います。

そして、この時のポイントは「自然の構造を保ったまま糖質を利用しているかどうか」という事ではないかと思います。


東洋医学では食べ物の味に関して「五味」と呼ばれる概念があります。

これは西洋医学的にも基本味とされる「甘味」「うま味」「塩味」「酸味」「苦味」の五種類と大体一緒なのですが、少し違いがあります。

中国の五行説では「五味」は、「酸(さん)」「苦(く)」「甘(かん)」「辛(しん)」「鹹(かん=塩味)」の5つだとされており、

それぞれの味によって身体にもたらされる効能が異なるという事が言われています。

酸味:筋肉を引き締め、汗や尿などが出過ぎるのを止める作用
苦味:余分なものを排出し、乾燥させる作用
甘味:滋養強壮や止痛、毒消しの作用
辛味:滞っているものを発散させ、気血の流れをよくする作用
鹹(塩)味:固まりをやわらかくし、便通をよくする作用


糖質制限を勉強している人だと、甘味に滋養強壮作用や鎮痛作用があって、ましてや毒消しになるだなんて到底理解し難いかもしれませんが、

糖質摂取によってドーパミン分泌が刺激されるという点に注目すれば、

一見活力をもたらすような働きが現象として現れることは理解できないわけではありませんし、

ドーパミンは下行性抑制系を賦活することで鎮痛作用をもたらすというメカニズムもあって、甘味で痛みが治まるのはあながち嘘でもありません。

ただしそれを漫然と繰り返していると次第に同じ刺激ではドーパミンが反応しなくなっていきます。

従って長期的に糖質摂取を必要以上に繰り返していると、鎮痛作用をもたらすはずの甘味を摂取してもドーパミンが足りなくて痛むという逆転現象が起こり得ることには注意が必要です。

それでは甘味を摂取して毒消しになるとはいかなる現象のことを指しているのでしょうか。

これがまさに甘麦大棗湯が成し遂げている作用のことではないかと私は思います。

すなわち交感神経過緊張状態の是正です。オーバーヒートさせられた自律神経機能を甘味を摂取することでクールダウンするのです。別の表現では「安神(あんじん)作用」と呼んだりもします。

しかし甘ければなんでもよいかと言えば、そういうわけではないように私は思います。

きっと同じような効果や白砂糖や精白米などの精製糖質では起こりえないはずです。

自然の構造を保った糖質を構造が崩れていないままに利用することで、

東洋医学で経験的に観察された甘味によってもたらされる効能の数々が初めて再現されるのではないかと私は考えます。

そう思うもう一つの根拠として、例えば米ぬかにはフェルラ酸という認知症サプリメントでも応用される抗酸化物質が含まれていますし、

果物の皮の部分にも抗酸化物質が多く含まれているとされています。

そうしたもともとの構造を崩すから良い面が削げてしまうのであって、

自然の構造を保った甘味を適量用いれば糖質も捨てたものではないのではないかと考えたりする今日この頃です。


たがしゅう

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コメント

非公開コメント
        

交感神経の過剰緊張は
五行配当でいうと、木の大過。肝系が働きすぎているということ。
比喩的には木に火がついて、燃え上がるイメージ。
大過した気は火へ流れてくれるといいのですが、火に直接大過した気を
流しこめば全体のバランスが崩れてしまうので、甘が配当される土の作用を
以って、木の大過を収める。てな感じの説明になるのでしょうか。
ちなみに、五行では土が大過すると水を剋しますので、水が配当される
腎系に障害が出てくるという説明がされます。
糖質制限して土の大過が収まれば、髪が黒くなるとか、尿の出が良くなる
等の治癒例と一致するところが面白いと感じます。
Re: 交感神経の過剰緊張は
やまたつ さん

 コメント頂き有難うございます。
 流石、東洋医学にお詳しいやまたつさんですね。

(Wikipedie「五味」より引用)
1.甘味 - 木
2.辛味 - 火
3.苦味 - 土
4.塩味(鹹) - 金
5.酸味 - 水


 五行で甘味を主る「木」は五臓の「肝」とも対応しており、これは解剖学で言う「肝臓(Liver)」の意味ではなく「精神状態」とか「自律神経機能」を包含する概念と考えるのが適切です。
 
 精神興奮とか交感神経過緊張状態を抑えるのに甘味の補充が一定の役割を果たすというのはある程度筋が通っているように思います。そして肝の働きが整うことで他の五臓へも好影響をもたらしていくという流れも五行説はうまく説明できているように思えます。
 しかしこうした経験則が成立しているのは、あくまでも自然の構造物を利用した時に限ると私は思っています。従って完全なる人工物である西洋薬が蔓延する現代においてはその解釈や応用に当たっては慎重にならなければなりません。
甘草・・
オーガニックやヘルシーをうたったハーブティーにもよく使われていますよね
身体にも良い自然な甘みなので、美味しく頂ければ有り難いのですけれど・・

物凄〜くクセがありますよね^^:
これが入っていると、どんなブレンドにしてあっても
残念ながら苦手です^^:
Re: 甘草・・
みい さん

 コメント頂き有難うございます。

 甘草の主成分、グリチルリチン酸はショ糖の約200倍の甘さがあるとされています。確かにクセのある甘さだと思います。
訓詁学からの脱出
中国医学の基礎が確定した漢代には、現代日本のように精白した
米や小麦を毎日大量に食べるという食習慣がないので、糖質の
ネガティブな側面について症例と治療の経験が中医・漢方には
蓄積されていないと思います。
今回、田頭先生の中医学界での発表はそのような伝統を糖質
制限の視点から見直す意図と理解しております。
木本先生のご紹介を読んだ限りでは、訓詁学的な姿勢よりも
現代に中医の知識を再生されようと努力されているようで
お会いして、お話出来る機会を楽しみにしております。
Re: Re: 交感神経の過剰緊張は
ブログ読者の方より御指摘を受けました。

たがしゅうブログで引用されたwikipedia の五味は記述に誤りが
あるように思います。
↓小太郎漢方の理解が正しいと思うのでが。
https://www.kotaro.co.jp/kampo/kiso/kampo_sikitai.html


これで行けば木に対応する五味は「酸味」ということで、「肝」即ち「精神機能」「自律神経機能」が弱っている時補充すべきは「酸味」ということになります。どちらが正しいのでしょうか。どちらでも一応のつじつまが合ってしまうところに経験則で立ち上げた理論の限界がある、ということなのかもしれません。

追記)
中医学の古典『黄帝内経・素問』には、「酸は肝に入り、苦は心に入り、甘は脾に入り、辛は肺に入り、鹹は腎に入る」とあります。
Wikipediaの記載が誤りで小太郎製薬の情報が正しいようです。
Re: 訓詁学からの脱出
やまたつ さん

コメント頂き有難うございます。

> 中国医学の基礎が確定した漢代には、現代日本のように精白した
> 米や小麦を毎日大量に食べるという食習慣がないので、糖質の
> ネガティブな側面について症例と治療の経験が中医・漢方には
> 蓄積されていないと思います。


御指摘の通りだと思います。
従って新規病態を見抜く診断力の方がより重要になってきます。
その意味で日本漢方より中医学の方が相手の病気が何であろうと病態を見抜くシステムとしての方法論が確立しているので、新規病態に対してもオーダーメイドなさじ加減がより行いやすいというメリットがあります。そのさじ加減が達人の領域で難しいのですが。