売る側より使う側の問題
2017/09/23 00:00:01 |
よくないと思うこと |
コメント:4件
2017年9月8日発売の週刊新潮に、
「ツムラが国民を欺いた!!漢方の大嘘」という記事が掲載されました。
株式会社ツムラは漢方業界の8割のシェアを占める会社ですが、
そのツムラが自身の製剤を売るために、本来の漢方を選ぶ方法とは違った「風邪に葛根湯」などの安直なマニュアル漢方を推奨しておりけしからんという趣旨の記事です。
ちょうど昨日、マスコミによる一面的な情報提供の危うさについて考えたばかりのところですが、
この記事などはまさにそのことを象徴しているように思います。 何も考えない人はこの記事を読んで、ただ「ツムラという会社は悪徳だ」と感じてしまうのでしょうか。
医学部教育で漢方の理論や証という独自の診断、処方選択の方法などろくに学ぶ機会がないのが実情なので、
医師が漢方を学ぼうとするなら自ら積極的に勉強の場を求めていく必要があります。
その際、漢方を勉強する場を多く提供しているのがツムラという会社です。
それは漢方薬を扱う会社だから当然のことです。漢方について知りたい医師と漢方を売りたい会社のニーズは一致しています。
私は漢方を学ぶためにこれまでツムラの勉強会に何度も参加しました。
だからこそ言えますが、ツムラは決してマニュアル漢方だけを教えているわけではありません。
講演会を聞いてみても、他の製薬会社の講演会と異なり、自社製品の宣伝に終始するような内容ではなく、
他社製品でしか出せない漢方薬の話題が出ることもしばしばですし、そもそも漢方の講演をされる先生が特定のメーカーに入れ込んでいることがまずありません。
薬の話に限らず、医学部で学べない漢方の基礎理論、脈診や腹診、舌診の方法や解釈、古典から現代に通じる教訓など様々な事を症例を通じて教わることができます。
そんなツムラが与えてくれるたくさんの情報提供の中の一つに、漢方を取っつきづらく感じている医師向けに西洋医学的病名から漢方薬を選ぶ「病名処方」と呼ばれる方法があります。
それが週刊新潮が言う所の「マニュアル漢方」なのだと思いますが、そのことだけをとってはたしてツムラの行いが責められますでしょうか?
百歩譲って「マニュアル漢方」を伝えるのがよくないとしても、それを盲目的に信じる医師に責任はないのでしょうか。
マニュアル漢方の限界を把握せず、漢方の正しい出し方を勉強する努力を怠っている医師の問題の方が大きいのではないでしょうか。
この記事を読んで私は、「自分が太ったのはマクドナルドのハンバーガーのせいだ」と肥満したアメリカ人がマクドナルドを相手に訴訟を起こしたという昔の事件のことを思い出しました。
どんな道具も使う人次第で良くも悪くもなりえます。
危険となりうる道具があったとしても使い方次第でその危険は避けられるはずです。
その知識を得る努力を怠る自分の怠けを棚に上げ、道具が悪いと批判するのは筋違いも甚だしいと私は思います。
そもそも薬というのは毒と紙一重で、ある程度のリスクを身体に取り込むことは避けられません。
何も副作用は漢方薬だけに起こっているわけではありません。
もしマニュアル漢方が批判されるというなら、西洋医学ベースのガイドラインなどマニュアルの最たるものです。
日本動脈硬化学会のガイドライン通りにスタチンが処方され横紋筋融解を引き起こすことと何ら変わりはありません。
スタチンの方は副作用があっても仕方がないとされ、マニュアル漢方で起こった副作用だけが糾弾されるのはどう考えてもおかしいでしょう。
しかし何も考えない人達はこの記事に書かれていることを鵜呑みにしてしまうのだろうと思います。
漢方のことがわかっている人は、この記事を読んだところで何も心を揺さぶられることはありませんが、
漢方のことをあまり知らない人達が、このような一面的な情報で漢方を遠ざけてしまうであろうことが私は悔しいです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
西洋薬のキレの良さがなんだか怖くて、漢方薬を好んで飲んでいますが、漢方に詳しい医師が少ないので自分で調べてこちらからツムラの何番を出してくださいとお願いして出してもらってます。
ほとんどの医師は気軽に処方してくれます。
飲み合わせについてはツムラの相談室に電話すると、とても丁寧に教えてくれます。
ちゃんと舌を診たりおなかを触ったりして処方してくれる医師っていないですね~
Re: No title
> ちゃんと舌を診たりおなかを触ったりして処方してくれる医師っていないですね~
それは西洋医学ベースの医学教育の弊害だと思います。
漢方薬を西洋薬の延長戦上で理解しようとすると、どうしても誤解してしまうのです。
結果的に西洋医学的発想で漢方薬を処方する医師が多いから、お腹や舌を診ようとしないのだと思います。
情報を見極めるための努力
「かんぽう医師が漢方を学ぼうとするなら
自ら積極的に勉強の場を求めていく必要があります。」
「どんな道具も使う人次第で良くも悪くもなりえます」
患者の立場からすると、
「漢方専門の医師免許」でもなければ、
漢方薬という最高のツールを上手く使える医師か、見極めるのは困難です。
患者自身が漢方に精通するほど学んでいれば、
薬局で自ら薬を選択できるため、お医者さんは必要ないでしょうが。
そうなると本末転倒かもしれません。
しかし、患者も医師に丸投げではなく、学ぶ努力も必要だと思います。
「視力を失わない生き方 日本の眼科医療は間違いだらけ」
という著書を、先日読みました。
間違った情報、古い情報に洗脳されていた自分を思い知りました。
医師によって医療の質の違いがあることを知り、
患者は医師を選ぶ努力を怠ってはいけないと思いました。
正しい情報と、誤った情報が混在する、情報過多だからこそ、
正しい情報を見極めるのが難しくなりました。
「マスコミによる一面的な情報提供の危うさ」により、
更に困難です。
太った理由をマックのハンバーガーに責任転嫁する訴訟を起こすのではなく、
正しい情報を見極め、事故を未然に防ぐ、自らの努力も必要ですね。
自己責任の時代です。
Re: 情報を見極めるための努力
コメント頂き有難うございます。
> 正しい情報を見極め、事故を未然に防ぐ、自らの努力も必要ですね。
> 自己責任の時代です。
まさにその通りです。
特に玉石混交の医療界においては、その認識が主流になってくれることを願うばかりです。
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